今日の俺はどこか知らない平原にいる。前回の街からはそれなりに離れたところなので面倒ごとに巻き込まれることはない…と信じたい。
あ、申し遅れましたミキでございます。
ここには鳥の魔物が大量発生している。近くに街がないから誰にも被害は出ていないようだが、大量発生が原因で生態系が崩壊してしまうとこちらとしても困るのである程度間引いている最中だ。
「トゥマーン・ボンバ!」
広範囲戦略級魔法をぶっ放す。鳥の魔物は防御力が低いのでこの魔法によって発生するガス爆発で簡単に撃滅が可能だ。この世界での魔法はあまり広範囲高威力というのが存在しないので別の時空の魔法を借りることになってしまったのは癪ではあるが、まあ有用なものを放置する必要もないだろう。
はい、終わり。数えるのも面倒なほどにいた鳥の魔物が十匹くらいまで減っていた。数が少なくなってから調べたところ、大量発生の原因は気候変動らしい。本来は何回かに分けて生まれる魔物が一気に生まれてしまったらしい。そう、この魔物は鳥らしく卵生なのである。
魔力によって自由に生まれる魔物と、生殖により生まれる魔物があり、大量発生する魔物は専ら後者である。前者は相当な魔力溜まりでもできない限りは起こらない。
『ミキ様、誰にも見られていませんか?戦略級魔法は大抵遠くからでも見えますけど…』
『大丈夫だろ』
一応トゥマーン・ボンバの魔法式は低空に展開したのでこの平原にいない限りは森が邪魔して見えないはずだ。もし誰か見ていたとしても、数人だろうから世迷言として処理されることだろう。
目撃者を全員洗脳だとか記憶処理していたら面倒なのでね。尚ルクスの周囲でやるときは自重せずとも「またか」って住人は流してくれるので問題ない。
「…俺どっちから来たっけ?」
飛びながら魔法を撃っていたので方角が分からなくなってしまった。この平原は結構円に近い形であり、森に囲まれているため一度方向を見失うとどちらから来たのか分からなくなってしまうのだ。
「…こっちでいいや」
武器霊や魂の意見を聞く前に自分で決めて移動を始める。もし戻り道だったなら…まあまた気付いたときに方向を変えればいいだろう。
しばらく歩けば平原は途切れて森になる。この世界は国はあるものの未開拓な土地というのは大量にあるので自然が色濃く残っていることが多い。この国の国王は特に開拓を進めようとはしていないのか街も少ないようである。
鳥の魔物以外にも色々な種類の魔物が襲ってくるけど基本的にノールックで魔法による撃滅をする。メタルスライムみたいな魔物がいればいいのだが、そういうレアな魔物はこういう森ではまず出現しないので仕方ない。
俺はあまり街道を歩かないのでこうしてたくさん魔物に襲われることになる。別にわざと歩かないようにしているわけではないのだけど、気になるものがあればすぐに道から逸れるし元の道を戻ることもしないので結局関係ないところを歩くことになるのだ。拠点には時空魔法でいつでも帰れるしね。
「おや、あれは…」
しばらく歩いていたら前方にて旅人の姿を見かけた。男女二人っきり…ってことはカップルだな。間違いない。
この世界には冒険者がいる。そんでもって冒険者ギルドみたいなのもある。ただしよくある等級とかは存在せず、基本的に魔物の討伐と素材の採取の二つを生業とする。ついでに言うと冒険者ギルドに登録することもない。旅人が旅の途中で手に入れたら自由にギルドで換金できる。
そもそも魔法の素質というのが限られた人物にのみ現れるのでパーティを組もうにも難しいことが多いのでソロの冒険者も多く、男女のペアの場合は限りなく百パーセントに近い確率でカップルだ。そうでもないとわざわざ旅に女性を連れて行かない。
「ぐああっ!」
「あなたっ!」
どうやら二人が歩いていたのは街道のようだ。しかし運が悪く森から出てきた大きい狼に腕を噛まれて血が出ている。確かあの狼は本来はさっきの平原で鳥の魔物を狩って生活していたはずだ。森の中に生活圏が移動したせいで鳥の魔物が減らなかったんだな。
さて、ここで俺は助けるべきなのだろうか。彼らとて死ぬ可能性があることを容認したうえで旅をしている。そうでないならもっと前から死んでいるはずだ。そんな彼らを絶対に助ける必要性は…ない。
申し訳ないが俺はあまり生き死にに興味がない。転生とか消滅とか終焉とかの理を知っているし、蘇生魔法くらいは色んな時空で開発されているので魔法体系を調整すればいくらでも使える。そもそも神目線がある以上目の前で旅人が死んでしまったとしてもそれは運命だったと言うほかない。
『とか言って、結局助けますよね?』
『ミキ様が助けないわけないですよね』
『ミキ様は優しいので放置しませんよね?』
『主様はいい人だから助けるはず…』
魂のやつらと武器霊のやつらから猛抗議が来たので助けることにします。元々助けるつもりだったぞ?本当だ。
「アンナ!君だけでもっ!」
「置いていくことなんかできないわよっ!」
アンナと呼ばれた女性が震えながらも剣を取り出して男性を守るように狼に相対する。やはり旅人歴は長いのだろう。
とはいえあの震え具合だとそう時間もかからないうちに狼のエサとなってしまうのは間違いない。というわけで…
「ホワッツァ!」
「えっ…?」
横から全力で狼を蹴り飛ばす。距離さえとって女性が男性を回復する時間を得ることができれば彼らも問題なく逃げることができるだろう。
俺はそのまま慣性で森の中に突っ込む。どのみち街道が危ない状態ならば誰かが討伐しに来るだろうから俺が殺してしまっても早いか遅いかの違いでしかない。
「狼野郎、用意はいいか?」
「グウウウウ」
大きな体は防御力も高いらしい。普通の魔物であれば全身の骨が砕けるくらいの威力で蹴り飛ばしたはずなのだが平然と立ってこちらを睨んでいる。とはいえ蹴りがノーダメージとはいかなかったらしく自分から飛び掛かってくるようなことはしないらしい。
知恵があるようだし、今までも街道の茂みに隠れて冒険者を襲っていたのだろう。これで人間を襲わないのなら擬人化魔法でメイドにでもしようと思うのだが、残念ながら人間を襲う魔物はNGである。
「ラスターカノン!」
光属性の上級魔法を撃つ。レーザータイプの高速型魔法なのだがそれ以上に狼は早いらしくすぐに避けられてしまい、魔法はそのまま背後の木々をボロボロにしながら数メートル先で止まった。
狼というと群れで動くことが基本で、この狼の魔物も群れでいるはずなのだが時間が経っても誰も来ないということは一匹狼なのかな?俺が知っている生態よりも能力が高いみたいなので多分変異種だろう。
「しっ!」
「グワウ!」
俺の振るった光桜剣を狼は牙で受け止めた。確かに光桜剣は何でも斬れるというわけではないのだが、それでも岩くらいは余裕で真っ二つにできる業物だ。それを受け止めるとなるとこの狼、相当な強さである。これは俺が殺してしまわないと被害が甚大になりそうだな。
「
「ギャウンッ!?」
面倒になったので俺の宝物庫の中に入っている様々な剣をまとめて連続射出することにした。回避できない面の攻撃をしてしまえば狼とてダメージが入るだろう。この技のイメージはどっかの英雄王のあれである。分からん人は調べてみてくれ。
数十秒ほどなんとか逃げようとする狼を中心にひたすら剣を射出し続けた。森は崩壊し土は捲れあがっているが、なお狼は健在だった。とはいえもう立ち上がる力も残っていないようだけど。
「はい、お疲れさん」
そのまま俺は光桜剣で首を切り落とした。これで無事お仕事完了である。
街道に戻ると二人の旅人はいなくなっていた。軽く数十メートル飛んで確認してみても見える所にいないのでちゃんと回復して歩いて行ったのだろう。
折角だからこの街道を通ってみるか。さてさて、どこに辿り着くのかな。