時空神の青年は世界を回す   作:nite

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神を落とす物

どうもどうも。毎週お馴染みのミキさんです。果たして何人がリアルタイムでこれを読んでいるのでしょうか。

今日は今までと打って変わって自室にいる。というのも春落が顕現してくっついてくるので出かけられなかったのだ。今週は記録できそうなことがほとんどなくて、明日には投稿しないといけないという現状で仕方なく今記録している。

 

「旦那様、もっとくっつきましょうよー」

「寒いと言いたいのは分かるが、ならもうちょい暖かい恰好しろよ」

 

因みに俺の部屋はめちゃめちゃに適温だ。寒いでも暑いでもない適切な温度に常に保たれているので例え一日中裸でも風邪をひくことはない。

しかしながら外は寒い。読者の君らとほとんど同じようにこちらも季節が流れているのでこちらも現在冬だ。こっちにはミカンがないし炬燵もないから買わないとなぁ…

 

「旦那様、私のこの恰好はアイデンティティであり誇りでありあなたへの想いです。変えれません!」

「いや、パターンが色々あるだろ…」

 

春落は基本的に常にウェディングドレスみたな恰好をしている。流石にロングスカートとケープではないのだけど、何がモチーフかと問われると誰もがウェディングドレスだと即答できるくらいには基調となっている。あと前にも言ったと思うけど、春落は妻ではない。

尚こちらの世界にはウェディングドレスはない。結婚は国によって形式が違うし、自由なので決まった格好がないのだ。ドレスのような服を作れるほど一般市民は収入が多くないので仕方ないな。

この街ルクスでも結婚形式は自由ってことにしている。ただ結婚への資金補助はあるので比較的一般市民でもドレスとかを着れる人が多いのが特徴だな。これでも街の代表なので統治はしてるんですよ?

 

「…神の力を感じますね。何かしてるんですか?」

「ん?明日投稿する小説の記録をしてる」

「でしたら!私のことを書きましょう!旦那様との愛の物語です!」

 

いや、どちらかと言えば復讐と憎悪の物語だろう…とは口には出さない。春落にとっても過去のことはデリケートなので記録するだけにしよう。

もしかしたら今日は文字数がすごいことになるかもなぁ…え、話数を分けないのかって?この小説では一貫した物語は分けないことにしているのでね。長らくお付き合いください。

 


 

俺が春落、いや神殺しに会ったのは数年前のことだ。俺が神になって街ができ始めた頃だな。

当時から俺は暴走した神とか邪神とかを討伐して回っていたのだが、ちとばかし火力不足でな。一応色んな時空の神殺しを成した人物の戦い方を見て回ったんだが…あれって世界に顕現してる下位の神たちだから時空軸を管理するような神には効果がないんだよね。

それで俺は神の間でも伝承としてしか残っていない神殺しなる武器を探し始めたんだ。形状についても刀だとか鎌だとかナイフだとか色々言われてたけど、見れば分かるだろうって適当に探してた。因みに正解はナイフだったぞ。

神殺しはとある時空の青年が持っていた。その青年は既に死んでいたが、その胸元には神殺しが置かれていた。刺されていたわけじゃなくて、青年が持っていただけだから死因に神殺しは関係ない。

見るだけで嫌悪感が湧いてくる武器なんて初めてで、見た瞬間にこれだなって思った記憶がある。持つのも怖かったくらいだ。

でも俺は勇気を出して手を伸ばした。で俺が武器に触れた瞬間…右腕が全部吹き飛んだ。

やべえって思った。神殺しの力が事実だったってことよりも、触るだけで吹き飛ばす溜め込まれた力に恐れをなした。でも俺は諦めん。そんなことで諦めていたら武器コレクターを名乗れないのでね。

再生魔法で腕を戻してから俺は神殺しを無理やり宝物庫の中にいれた。一瞬でも触ることができれば無機物であれば自由に宝物庫にいれることができるのだ。

 

『…』

「神殺しだよな」

『…』

 

宝物庫に俺も入って神殺しに話しかける。でも何の返答もなかった。最初から神力を全部なくして普通の人間の状態で話しかければよかったと後悔したもんだが…どのみち神の気配を感じて反応しなかっただろう。

 

「俺はお前を使いたい。一体お前に何があったのかを知りたい」

『…』

 

こうやって武器と対話すること初めてではなかった。他にも憎しみを持つ武器っていうのは存在し、そういうやつらは大抵返事をしてくれないのでね。

ただ神殺しはその中でも厄介なやつだった。二か月は何も話してくれなかったのは神殺しが初めてだった。

 

 

「旦那様は色々と自己紹介してましたけど、私は神のことを全く信用してなかったので」

「まあそうだろうな。でも黙っているのも疲れないか?」

「私にとっては神と対話することの方が疲れますので。そもそもで触れない武器に神々は次第に私を放置するようになるので…それを待っていたんですけど…」

「はっ。何年でも諦めねえよ」

 

 

二か月後、やっと神殺しが声を出した。とてつもなく不快そうな声で。

 

『なんなんだお前は。ずっと話しかけてきて』

「理由なら再三言っただろ?お前の力が必要だから使わせてくれ。今のままじゃ持つことすらできない」

 

神が行使する力すべてを弾いてしまうようで、俺が魔法をかけて浮かせようとしても拒絶されてしまう。なので神殺し自身に意思を持たせないと俺は神殺しの力を使えないのだ。

 

『うるさい!神は嫌いだ!お前も消えろ!』

「消えねえ!お前がどうして神嫌いなのか知らないけど、絶対に俺の武器になってもらうからな」

 

今思うと当時の俺は強情だったな。まだタイムリープとか限定転生とかをしてなかったから精神年齢が実年齢だったからなぁ…現在は肉体と精神年齢がかけ離れてしまってすごいことになっている。

ともかく、俺は神殺しに毎日話しかけた。時には触ろうとして、そのたびに腕を吹き飛ばされた。こりゃ本当に無理かと思い始めたとき気が付いたことがあった。

触って吹き飛ばされる範囲が段々小さくなっていったのだ。初めて触った時は腕全体が吹き飛ばされたが、数か月後には手首までの範囲になっていた。力が弱まっている気配はないのでもしかしたらと思って俺はある魔法を使った。

 

『何をする気…』

「精霊召喚!」

 

俺の宝物庫の中では力が満ちているおかげで武器霊が自由に活動できるって話はしたと思うんだが、神殺しは一度も顕現せずに武器の中に閉じこもっていた。だがもし少しでも俺のことを認めてくれているのなら召喚に応じてくれないかと期待したんだ。

 

『…まだ、だめ』

「だめかぁ」

 

結果はだめでした。

ただこの日から態度が軟化して、喋り方も高圧的というよりも女の子らしくなっていった。武器霊の声って顕現してないときって性別が分かりづらいから、その時初めて神殺しが女性の霊だということを知った。

 

『諦めなさいよ。いい加減』

「いいだろ別に。なんだかんだ話しかけたら応えてくれるようになって俺は嬉しいぞ」

『それは…だってあなたがずっと話しかけてくるから…』

 

初めての精霊召喚から一ヶ月後。俺はまた挑戦してみることにした。

 

「できればでいいんだがな」

『神力が一切混じっていない霊力をいっぱいくれるなら考えてあげる』

「よし来た…精霊召喚!」

 

俺が精霊召喚を行使した。すると神殺しが光って…

目の前には黒と白が混ざった服を着た女の子が立っていた。

 

 

「当時はまじで暗殺者みたいな服だったよな。あれはあれで似合ってたけど」

「今でも着ようと思えば着れますよ?武器霊の服は本人の意思で自由に変わりますから」

「性格も今より断然怖かったしな」

「それは…そもそもここまで旦那様に惚れ込んだのは春落になってからですし…ううっ…」

 

 

「…どう?」

「ほう…」

 

俺は神殺しの姿を見る。神に対して潜在的な恐怖を与える効果でもあるのだろうか、見るだけでなんとなく腰が引ける感覚があるのだが、それをなんとか理性で押し込んで神殺しに近付いた。

 

「改めて…ミキ・クレイル。時空神だ」

「神殺し…神の前に姿を見せるなんて初めて」

「そりゃ光栄だ」

 

この日から神殺しは宝物庫の中を自由に歩き回るようになった。そうなると他の武器との交流も生まれ、そこから変わるのは早かった。

一週間で時は訪れた。

 

「…あなたに使われても、いい」

「え?」

「だから、あなたなら私を使ってもいいって言ってる」

 

一瞬聞き逃してしまいそうになったが、もう一度言葉を聞いたときはガッツポーズをしたものだ。神殺しの力はすべての神に対して特攻持ちであり、きっと俺と相性が良いだろうなと思っていたからだ。

なぜ神殺しがそんな結論になったのか聞いてみると、どうやら他の武器霊から俺の武器への扱いの良さとか武器への労りを教えてもらい、ついでに今まで俺がしてきたことも聞いたらしい。多分俺も神を殺す側だってことが琴線に触れたんだろうな。

 

『持って』

「おう」

 

武器霊が消えて神殺しだけが残る。そして俺はそれを掴み取った。一瞬だけ反発する感覚がしたがすぐに消え、神殺しを手にすることができたのだ。

その日から俺は神討伐の時は神殺しを持っていくことにした。どこ神も神殺しを見るだけでそれが己を殺すことができる武器であることを悟って逃げようとするのだが、一撃でも当たればそれだけで体の大部分が吹き飛ぶ武器と、転移能力持ちの俺から逃げることなどできず、俺の神討伐の進度が上がっていった。

神を殺している間の神殺しは本当に楽しそうだった。狂ったように笑っていることもあったし…怖いねぇ。

 

「いっぱい神を殺せて楽しい」

「そりゃよかったよ。さて、そろそろお前がなんで神を殺したがっているのか聞いてもいいか?」

 

それなりにコミュニケーションも取るようになっていたある日、俺はそんなことを聞いた。武器のことを知るのは使いこなすには必要な過程だからな。

 

「…私は元々普通のナイフだった。普通の青年が私の持ち主だった。その人には大切な彼女がいた。でもその子は愉快犯の神に殺された。その子を守ろうとした青年もまた殺された。その時私は青年に持たれてて、青年が死ぬ間際までずっと彼女のことと神が憎いということを考えていた。だから私も神が憎い」

 

人間が死ぬ間際というのは一番周囲への影響力が強くなる。もし死ぬ間際に持っていた何かに対して思いや願いを込めるとそれだけで強い力を持つアイテムになる。神殺しはその方法で生み出された武器だったのだ。まあそれだけで神を殺す権能を生み出したのは相当レアケースだけどな。

 

「俺はどうだ?」

「あなたは…あなたは憎いってほどじゃない。好きじゃないけど、信用はしてる」

「ありがたいこって」

 

その日から更に態度は軟化した。神殺しは、神のことを知らなかっただけなのだ。

 

「ミキ様、私はただの食わず嫌いだったと思う?」

「そういうわけじゃねえよ。神なんて自分勝手なやつが多いからな」

 

ゼロみたいな中央の神はそうでもないのだけど、末端の神は自分勝手なことが多い。会社として考えると珍しく、中央がまともで末端が腐っている形だったんだ。

だから神を憎むのも無理はない。なんせ人々の前に現れる神なんてそんな腐った末端の神ばかりだからな。末端の神でも腐らずにまともな奴はいるんだが、そういうやつは姿を見せずに裏から見守ることが多いので、結局姿を見せる神は腐ったやつばかりだ。

 

「でも、どうだ色んな神を見て。やばいだけじゃない神を見て」

 

俺は中央の神を見せに行ったことがあった。本来は神器ではない武器は神界には入れないのだが、どうも神殺しはそこらへんの神のルールは全無視できるみたいなので普通に持ち込めた。

 

「…ミキ様ほどじゃない。信頼できる神はあなただけ」

「おお、お前からそんな意見を聞いたのは初めてだ。ありがとよ」

 

 

「この時点で結構絆されてたよな」

「そもそも武器っていうのはずっと持たれてるとそれだけで持ち主に対して信愛を抱きやすいんです。旦那様はずっと私に寄り添ってくれていたので…あなたのことが少しずつ好きになるのは武器として当然です」

「でも武器の中にはずっと持たれていても持ち主に反発するやつもいるけどな」

「それは持ち主に対して相当嫌悪している武器です。私は…旦那様のこと、もう全く嫌っていませんでしたから」

 

 

転機が訪れたのは神殺しを俺が見つけてから一年後くらいの頃。

俺は知らなかったのだが、宝物庫の中で神殺しは他の武器霊にとある相談をしていたらしい。以下その時のやり取り。

 

「あのツクさん」

「どうしましたか神殺しさん」

「私、もっとミキ様の力に…なりたいんだけど…」

「…あのミキ様の腕を吹き飛ばしていたあなたがそんなことを言うなんて…ちょっと感動…」

「?」

「ああえっと…ならミキ様の神器になればいいんじゃないですかね。名前を貰うといいですよ。あなた自身にその気がないなら神器になることはありませんし、その気があるなら名前を貰った時点であなたの中の何かが変わるのを感じると思いますよ」

「神器に…名前…」

 

その後神殺しは俺のところに来て名前を欲しがった。当時の俺は再三名前をもらうと繋がりができてしまうって言ったんだけど、むしろそれが良いと言われて俺は神殺しに名前を付けた。

ここで言う名前っていうのは銘のことだ。別の神器で言うならばツクの方ではなく光桜剣の方だ。

 

「そうだなぁ…神殺し…新しい力もあるといいか?となると…神落とし…神落…俺の属性も加えて…春落。よし、お前は春落だ。いいな?」

『っ…はい!』

 

その瞬間神殺しの体が光って…

 

 

「神器への昇華ってどんな感じなんだ?」

「胸の奥から新しい力が湧いてくる感じで、同時に旦那様とのつながりがはっきりとするんです。あと、名前を受け入れるときにガラスが割れるような衝撃が一瞬ありますね。多分殻を破ったみたいな感覚なんでしょうけど。あと、まあこれは私の場合ですけど、旦那様への想いが溢れる感じで。多分心の奥で溜まっていた気持ちが出てきたんでしょうね」

 

 

光が収まった時、そこにはウェディングドレスを着た神殺し、春落がいた。

 

「おっとー?服が変わるのは分かるが、なぜにウェディングドレス?」

「…私の想いです。ミキ様に、旦那様にお仕えしたいという気持ちの表れです!」

 

これが春落が生まれた瞬間だ。

 


 

「ウェディングドレスを着る割には求婚はしてこないよな」

「だって私にとっては旦那様は実際の夫というよりも仕える主なので…」

「メレという前例があってもか?」

「あってもです。メイドと武器のあり方は違うんですよ」

 

俺は誰かの従者になったことがないのでそこらへんの感覚は分からないな。似た立場で価値観が違うっていう思考回路は分かるけどな。

 

「それにしても…旦那様、結構端折りましたね。私が一回折れかけたところとかなくていいんですか」

「だって折れかけたから俺が修繕したってだけじゃん。日頃の手入れと変わらんだろ」

「もうっ、日頃の手入れとは違う感覚があるんですよ…旦那様を意識したのはあの時からだったのに」

 

武器じゃない俺には分からない幸福感があるらしい。種族の差って大変だな。

さて、こんなことを書いていたら六千文字を超えてたから今日はこの辺で終わりだな。再三言うけど春落は妻ではない。

 

「でもポジション的には愛人ですよ」

「あー…まあたまに添い寝するくらいだな」

 

やめろ読者。そんな目で見るな。俺が寝ていたら春落が顕現してベッドに入ってくるんだ仕方ないだろ。拒まない俺にも悪いところはあるけどさ。

あー、はいはい終わり終わり!




ミキ「色んな時空に神殺しなる武器は存在するけど、俺の春落は唯一のもので別作品から拾ってきたわけじゃないってことを追記しておくぞ」

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