やあ、今日も元気なミキさんだよ。
今週も特にイベントらしいイベントがなかったので放浪旅でもしたろうかと思っていたんだが、現在俺はサナに絡まれている。
「先週のやつ見たよ!なんで私との出会いより先に春落ちゃんのやつするの!?順番おかしくない!?」
「あー、まあそうかもな」
「私たちも春落ちゃんは愛人ポジなのを認めてるからいいけど、やっぱり順番ってものがあると思うんだよね」
サナはどうやら先週の話に不満があるそうだ。妻たちに順番はつけていないのだが、一応サナが正妻なので多分その点で怒っているのだと思う。まあ確かにな。
あと春落は別に愛人ではない。
「今日は私!いいね?!」
「へいへい」
「なんでそんな嫌そうかなぁ…」
嫌というわけではないけど、内容に関して他の人に指示されたくないというのがあるのでね。それにサナとの出会いはあまり公にしたくない的な気持ちがあるんだよなぁ…
「私との思い出が大切なのは嬉しいけどちゃんと見せて」
「あいよ」
まあサナの言い分も非常によく分かるので過去視といきましょうか。春落と同じ感じで進めるぞい。というわけではい回想~
サナと出会ったのは俺が村を出てから二か月後くらいのこと。狩りのために貰っていた俺の剣は破損し、今では光桜剣となった剣を手に入れた頃。
人間の中では珍しかった多い魔力を使って魔法の練習をしていた時のこと。遠くから女性の叫び声が聞こえたので俺は走り出していた。狩りをしていたからか五感が結構鋭いんだよな俺。それに俺が知らない間に村の人が全滅してたっていう過去があるからどうしても見逃せないんだよね。
「グラアアア!」
「ぴゃああ!」
そこにいたのは大きな狼から逃げている一人の女性。四足歩行じゃなくて、人狼みたいな感じで二足歩行している狼な。でも人狼みたいな見た目というだけでちゃんと魔物。
「助けはいるかー?!」
「助けてー!」
なんだかんだ逃げるだけなら大丈夫そうな様子だったので一応声はかけたけど、ちゃんと助けは必要としていた。
というわけで俺は走って女性と魔物の間に入り込む。
「ブラスト!」
初級魔法でありながら結構大きく爆発する魔法を腹にぶち込む。まだまだ俺の魔法制御が未熟だからかあまり衝撃を与えることはできなかったが注意をこちらに引き付けることには成功した。
爪による斬撃を回避、回避、隙を突いて狼の股下を潜り抜けながら斬りつける。体が大きい魔物だと股下が死角となりやすい。
背中に回ったらそのまま剣を振り上げて切り裂く。魔物は声をあげるがこちらを向く前にまたもや背中を切り裂いて、ついでにファイアをぶち込む。焼けた皮膚に剣を思いっきり突き刺したら…
「ブラスト!」
体内爆発。如何に強靭な肉体であっても臓器に直接攻撃を加えれば無傷では済まない。
何度か魔法を剣伝いに打ち込んだら魔物は倒れた。俺の勝ち。
「ううぅ…助かりました、ありがとうございますぅ…うう…」
「それはいいんだが…武器はどうした?」
「私魔法使いなので…」
この世界では魔法の才能が予め決まっている。俺の場合は光属性と初級の火属性しか使えなかった。そんな世界だから魔法だけで戦うというのは不利な状況になりやすい。俺の場合は岩石のような魔物相手だと魔法では傷を与えることができないだろう。
なので例え魔法主体の戦い方をしている人でも剣の一つくらいは持っているのが一般的だ。弓やムチなどを使う人もいつでも使える短刀の一本くらい持っていなければ危険だと思う。
「その…私、剣使えなくて」
「振るくらいはできるだろ?」
「力が弱くて…」
確かに冒険者をするには少しばかり頼りない細腕だ。一度だけある街で魔法使いを見たことがありその人は女性だったが、もう少し腕は太かったはずである。武器が何にせよ筋肉がないと危険な世界なのだ。
「そんなに魔法に自信があるのか?」
「…私は、全属性適正です」
「全属性!?」
この世界に基本属性というものは定まっていないが、パッと思いつくだけでも何種類もある属性のすべてに適正があるなど破格も良いところだ。
確かに全属性の魔法を使えるのであればどんな敵が出てきてもそれに合わせて属性を変化させることで対処できるだろう。ただ…
「ということは、魔力が切れたな?」
「ううぅ…」
魔力が切れれば全属性の魔法使いだとしても、それはただの人になる。魔法以外の武器を持っていないならそれは冒険初心者にも劣る。
…
「今じゃある程度剣は使えるようになったよな」
「うん。まあそもそも今の私は魔力切れなんてそうそう起こさないけどね」
「俺よりも魔力総量多いもんな…」
…
俺は魔力回復の薬を渡すことにした。折角助けたと言うのに身を守る術がないと普通に次の街までの途中で死ぬからだ。
「名前は?」
「サタ…いや、サナだよ。姓は、秘密」
「ミキだ」
そっちが秘密にするならこっちも姓は秘密だ。まあ俺のクレイル家は俺しか残っていないので隠したところで何かあると言うわけではないが。
対してサナは明らかに何かある。そもそも全属性の魔法使いだ。どこかの国で宮廷魔法使いをしていてもおかしくはない。きっと家で何かしらいざこざがあったのだろう。風貌もきれいだしかわいいのでどっかの令嬢かもしれない。
「んじゃ俺はもう行くから…」
「あ、ちょっと待ってください!」
「ん?」
俺が移動を開始したらサナもついてきた。
「なんだ?」
「次の街までついて行ってもいいですよね?」
サナの突然の申し出に少しばかり嫌悪感を抱きながら答える。
「は?構いはせんがお前の分の色々は準備しないぞ」
「分かってますよー」
サナが持っている鞄はそこまで大きくはない。剣を振れないというくらいだからあまり大きなものは持てなかったのだろう。
ただ食料は俺一人分しかないので分けてあげることはできない。自分で肉でも狩ってきてくれ。
…
「でも結局分けてくれたよね」
「だってお前食べられるのが分からないって乾パンモソモソ食ってたんだもん。見ていて寂しくなるわ」
「ふふっ、でもそれってミキが優しいからでしょ。助けてくれたことも合わせてあの時既に若干ミキのこと意識してたよ」
尚俺は全く意識していない。
…
その後次の街に着くまでサナは旅に同行した。俺が前衛でサナが後衛という戦い方は非常に効率が良かった。俺一人だと実力不足な相手であっても二人なら余裕で倒すことができたくらいだ。
また、旅の間はそれぞれに魔法・剣を教え合った。サナはそもそも剣を使うための体を作るための運動から始めたが、俺は魔法は使えていたのでサナに光属性の魔法を教えてもらった。そのため俺は光属性なら上級まで使えるようになったのだ。まあ魔力が足りなくなるので使う機会はほぼないだろうけど。
そして次の街に到着したとき、サナが言った。
「ここでミキとはお別れだね」
「ああ、そうか。そうだな」
次の街までという条件で始まった旅だ。
旅の途中で邂逅したときは敬語だったサナも今では自然な口調で話してくれるようになった。ずっと一人旅をしてきた俺にとっては初めての仲間だったのだ。物寂しさを感じるのは当然だと言えよう。
「えへへぇ、またね、ミキ!」
「ああ、またな」
まあ旅をしていればどこかで会うことになるだろう。そう思って俺はサナと別れたのだった。
「うーん、やっぱりこのころのミキはドライだねぇ。優しいけど、淡泊っていうか」
「そりゃそうだろなんせ当時八歳だぞ」
日本で言うと小学二年生くらいだ。村での狩りなどを通して精神的にも肉体的にも歳不相応な成長をしていたにせよ、八歳の子供が一人で旅を始めたのだ。知らない人に対して警戒するのは当然だと言えよう。
まあ当時のサナは七歳だったのでどっこいどっこいだけど。
「この時本当に一回別れたんだよね」
「ああ。再会するのは随分あとだな。カイトとシオンが仲間に加わってからか」
「そだねー」
サナはなぜか俺のことをたまに話していたらしく行った街で俺の噂が広まっているなんてこともあったけど、まあそれもいい思い出だ。当時は本人が近くにいなかったので怒れなかったしな。
「えへへ、本当に懐かしいなぁ。別れたあと私ちょっと泣いちゃったんだよね」
「そうなのか?」
「うん、子供ながらに好きって気持ちがあったからね。実家で色んな人に会わされたけど、好きな人はミキが初めてだったから。泣いちゃったときは自分が何で泣いてるのか分からなかったけどね」
多分それ吊り橋効果。いやまあ妻にしている俺が言うことではないけど。
サナはどうも七歳ながらに少女漫画みたいな感情の動き方をしていたらしい。対して俺は寂しさはあれど普通に割り切って旅を続けたので対照的すぎる。村が焼かれたこともあって精神的に余裕がなかったんだよなぁ。
「そんな私がもう二十一歳かぁ」
「俺は二十二歳だ。そんでもって肉体年齢はこれからも変わらず二十二歳」
「永遠の十八歳の方がよかったかな」
サナとなんだか晩年みたいな会話をする。
「…ミキ、今って何時?」
「朝の十時だ」
「この時間に愛し合うってのはどう?」
「魅力的だが流石にどうだろうか」
目の前のサナが突然色気を出し始めた。どうやら色々と思い返していたら気持ちが募ってしまったらしい。
「はい、扉のカギ閉め~」
「アロホモーラ」
「嫌なの?」
…よし、愛し合うか。
ゼロ「霊力や魔力や神力などの合計総量はミキの方が多いけど、魔力だけを見るとサナちゃんの方が総量が多いよ」
作者「個々の物語をしているときにミキは最終的に欲情しがちですが、それはミキが弱いのではなく妻たちの努力の結果です。鈍感なミキにも分かりやすいような求め方を身に着けた結果なのです。元より積極的な性格ではないサナやメレは内心恥ずかしがっています。なのでミキが弱いわけではないのです(重要)」