時空神の青年は世界を回す   作:nite

21 / 38
初詣

やあ皆。新年あけましておめでとう、ミキさんです。

今日は日本に来ているぞ。折角の和服を着れるタイミングを逃す理由はない。

 

「ミキ、どう?」

「ミキさん、いかがですか?」

「ミキ、これはどうでしょう」

 

妻の三人が和服を見せてくれる。うーん、かわいい。

マイは身長が低くて、中学生みたいだけど、それはそれで似合っている。七五三などと言ってはいけない。

初詣にはこの三人と一緒に来ている。カイトたちには日本の文化がそこまで浸透していないので、日本によく来る俺たちじゃないと楽しめないのだ。

尚俺も含めて四人が着ている和服は俺が作ったものだ。

参道を歩きながらサナが呟いた。

 

「毎年言うけどさ、神様が神様に参拝するのっておかしくない?」

「まあ、そこらへんは気持ちの問題だからな」

 

俺とマイが苦笑する。

やろうと思えば神に直接殴り込みをすることだってできるが、まあ日本の神にとってはこの時期は大切だから邪魔をしてはいけない。

敬虔な教徒が多い宗教なら日々の信仰だけでなんとかなるのだが…日本は無宗派が多いうえ、神道はほとんど日本にしか伝わっていないものなので、日本の神は結構皆瀕死なのだ。

学問系の神たちは、年の初めと受験シーズンがチャンスだって言ってた。合格するかどうかは本人の積み重ね次第だからどうしようもないけど、試験中のケアレスミスに気が付きやすくするくらいの加護はくれるらしいぞ。

 

「私の分社もどこかに作ったら日本人が参拝してくれるでしょうか」

「してくれるぞ。日本人は、神社であればそれが何の神なのかあまり気にしないし」

 

喜神であるマイがそんなことを言う。本人は気が付いていないみたいだけど、日本には既にマイの分社がある。日本にはマイが祭られている神社はそこだけなので、分社とは言わないのかもしれないけど。

時空神である俺だって同じ場所に分社を建てている。信仰が神力になるのは俺も同じだからな。ちょっと広めの敷地に、俺の神社を含めて何社か並んで立っている。管理しているのは、俺のことを知っている巫女さんと神主さんだ。今も僅かながらそこから力が流れてきている。微量すぎてマイも気が付かないのだろう。

そこの看板には、俺のことを旅の神ということにしておいた。ギリシャ神話のヘルメスみたいな内容にしてある。あと、有識者に見られたときに詮索されないように宇迦の御霊の神社も立っている。お稲荷さんのことだ。木を隠すなら森の中ってな。

 

「人が多いねぇ」

「何しろ出雲大社だからな」

 

俺たちは現在出雲大社にいる。ぶっちゃけどこでも良いと言えば良いのだけど、せっかくならということで毎年ここに来ているのだ。お邪魔してるよって気持ちを込めて、出雲大社に祭られている大国主には神力をプレゼントしている。

大国主は神話の時代に、日本を作ったことで知られている。確かめた限り、強ち間違いでもないらしい。俺の魂にいる天照の繋がりで、俺も大国主とはそれなりの知り合いなのだけど、思ったより気さくだった。

 

「えっと、ミキさん、手を繋ぎませんか?」

「ミキ、私も手を繋ぎたいです」

 

メレとマイが甘えてきた。

二人と手を繋ぐことは吝かではないのだけど、そうなるとサナが一人になってしまうのだけど…と思ってサナを方をちらっと見ると、俺を見て微笑みながら

 

「私は大丈夫だよ。はぐれないようにね」

 

と、正妻の余裕らしきものを見せるのだ。家に帰ったら存分に甘えてくるので、気持ちが冷めているわけではない。

 

「やっぱり参拝するところは人が多いね」

「だな。サナ、手を繋がないとはいえくっついとけ」

 

美女三人に囲まれる俺。

俺の顔立ちは日本とアメリカのハーフみたいなものなので、多分他の人からは外人に見えているだろう。一夫多妻の国もあるから、そこまで変じゃないはず。少なくともハーレム主人公みたいなことにはなっていないはずだ。

しばらく並んで、やっと出番が来た。ご縁は今のところ求めていないので、面白いことが起きるように六百六十六円をいれておいた。まあ大国主ごときの神では俺の運命をどうこうすることはできないけど、ゼロよりも上の俺たちが認知できていない存在もいるかもしれないし、何が起きるか分からんのでね。希望することは悪いことじゃあない。

 

「ミキ、変な額入れたでしょ」

「バレた?」

「分かるよ。お金の自由落下に追いつけないと思ってる?」

 

動体視力の話だ。戦闘が多い俺の世界じゃ一般人でも百メートル先の板に書かれている普通の大きさの文字くらいは読める。

歩きながら折角なのでとくじを引く。御神籤と漢字では書くのだけど、選んでるのは神様じゃない。

 

「ふむ、中吉」

「大吉だー!やったー!」

「小吉でした」

「…中吉」

 

どうやらメレが一番今年の運勢が悪いらしい。逆にサナは絶好調…サナってこういうときの運が強いんだよな。運の神ってのも存在するんだが、別に誰かを贔屓しているわけではないので、幸運な人って結構神からしても不思議な存在だったりする。

紙に書かれている個別の内容を読んでみると…旅は良好、引っ越しはするな、失せ物は見つからない…え、見つからないってはっきり言われたんだけど。こういうのって遠回しな表現するもんじゃないのか?

サナたちの内容もそこまで酷い内容ではないようだ。むしろ中吉の俺よりも小吉のメレの方が良いことが書いてあった。

まあここに書いてあることはそう当たることはない。だから、安産だって書いてあるからって三人ともにじり寄ってくんな。

 

「そろそろ男の子も欲しくない?」

「私はいつでも大丈夫ですよミキさん」

「神の子供は特殊だけど…ミキのためなら頑張ります」

 

頑張らんでいい。俺たちは皆寿命がないんだからゆっくりな。

願掛けする理由がないので結んだりはせずに、引いた籤は宝物庫の中に入れておく。宝物庫の中には武器以外にも色々なこういう適当なものも入っているのだ。財布みたいなものだ。

 

「ここらへんに霊験あらたかなところってないの?」

「ここらへんか?」

「うん、観光しようよ観光」

 

サナの提案で少し周囲を観光することにした。

ふむ、神力を辿ることで本当の意味で力がある場所に行くこともできるのだけど、そういうところは大抵人が通らない山の中なので、和服を着ている俺たちには向かない。まあ俺たちなら和服を着たままでも山の中を走り抜けるくらいのことはできるのだけど、流石に日本でそんなことをすると一般人に通報されかねないので自重しておく。

となると…近くの神社かな?色々とあるけど…

 

「どんなところがいいんだ?」

「ミキが神様っぽくなれるとこ」

「どんなところだそれ…」

 

じゃあ…稲佐の浜にでも行くか。あそこは日本の神にしか関係のない場所だから、正確には俺には全く関係のないところだけど、行ってみればなんとなくサナも気を感じることができるかもしれない。サナも微妙に神の力が流れているからな。

日本国内なら大体の場所に転移できるようになっているので、人目が少ない場所に移動して人避けの魔法を使ってから転移。バスで移動してもそこまで時間はかからないのだけど、人に揉まれるのも面倒なのでね。

 

「…あれが入口ですか」

「そうだな。日本の十月にはあそこを通るらしい」

 

尚俺の魂の中にいる天照も日本の神なので、十月にはここまで来ているらしい。でもその割にずっと魂にいるよなって思ったら、どうやら御霊を分けて行かせているらしい。

 

『私は、その…ミキ様と一緒にいる方が大事なので』

『自分の仕事もちゃんとやってくれよ?』

『分かってます!』

 

まあ天照は既にほとんどの仕事を終わらせてるからこそ、俺のところにも来れるので、多分そこまで忙しくないのだろう。ただ、仮にも日本国土を統べる神のはずなので疎かにはしてほしくないんだけどな。

 

「ミキー、ミキもあれ通ったらー?」

「あぁ…俺が通ると神界に飛びそうだからやだ」

「ミキさんの時空魔法ってたまに邪魔になりますよね」

「そう言うな」

 

まあ別に飛ばないように制御することくらいはできるのだけど、そもそもとして俺って日本に限らず様々な時空の神に恐れられているのであまり掻き乱したくないのだ。地上に顕現して遊んでる神には問答無用で凸します。顕現してなくても、遊んでる神には突然に凸します。

 

「…」

「マイ、何か気になるのか?」

「あそこ…ちょっとだけ感情が流れ込んでるのが見えます」

 

どうやら喜神の何かのパワーにより、感情の流れが見えるらしい。

あそこの先には神界があるはずなので、もしかしたら入口にガン待ちして信仰を受け取っている奴がいるのかもしれない。

…見に行ってみるか。掻き乱しはしないけど、あまり神界の入口で待機する行為はよくないのでそれを注意するという理由があるので別に凸ってもいいはずだ。

 

「ミキ?」

「ちょっと行ってくる」

 

鳥居の中に集中、時空魔法を発動、権能開放、座標固定…転移。

 

「うわあっ!」

「宇迦じゃねえか」

 

いたのは俺が日本に分社を増やした宇迦の御霊だった。性別不詳だけど、まあ神には基本的にそこまではっきりした性別は存在しない。神話によっては同性同士でも子供産んでたりするのでね。

 

「急に来られるとびっくりするんだけど」

「神界の入口にガン待ちしてるやつがいるってマイが言ってたから」

「あぁ…ちょっと一部の神社が崩落しちゃったみたいで、いつもより信仰が少なかったから…」

 

どうやらお腹が空いていたらしい。神格が高いから仕方ないのかもしれないな。

取り敢えず注意だけして帰った。

 

「おかえりー」

「誰がいました?」

「狐」

 

多分日本の神で説明するときは、狐というだけで宇迦だって分かるだろう。日本人に対しては宇迦って言っても伝わらないだろうしな。

神界に突撃するのは、まあ実のところ稀なことでもない。毎年大体一度くらいは顔を出すのだ。神のナンバースリーとしての責務的な娯楽である。




ゼロ「神はあり方によって性別が変わるよ。天照ちゃんみたいな多くに知られている神は、その多くの思念によって女性となっているよ。マイちゃんはミキの隣にいるためにかわいらしくいようとしてるから女性だよ。尚僕はどっちでしょう?」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。