老いた龍虎は新時代の夢をみるか   作:松ノ木ほまれ

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第14話

 

 

~ テイワ=ラグ島・廃墟にて ~

 

 

「「 最初から島にいた? 」」

 

 ゾロとロビンは、遭遇した金属生命体の言葉に、耳を疑った。ゾロにとっては、サンジから聞いた話との違いに驚き、ロビンは他ならぬ本人から聞いた話との食い違い、その答え合わせに苦心している様子である。

 

「そ、そ、そうだ。僕や船長、せ、船医達を"自分の仲間"だってあの人は()()したんだ。ぼ、僕等はも、勿論戸惑った、け、けれど。ほ、放ってお、おけなかった、んだ」

「貴方達もボロボロだったから」

「う、うん。ひ、1人でもいい、から、人は多い方が、さ、寂しく無いからさ」

 

 その時、彼らのいる噴水広場からは少し距離がある、道の向こうから物音がする。鳥人間は、ハッとなって立ち上がると、2人に手招きした。

 

「い、いけない、()()が来た。こ、こっち、こっちに来て」

 

 そう言って、損傷が少ない建物……協会だったであろう建物へ入っていく。2人は罠では無いかと一瞬疑うが、それならこれまででいくらでもタイミングはあった筈だと、納得して鳥人間についていく。

 入り口の扉を閉めて、メインホールの脇へ消えて行く鳥人間を追う。上階へと続く階段を上っていき、テラスの柱に隠れている鳥人間の近くへ歩み寄った。その時、さっきまで自分達がいた広場に、何者かが数体入って着たようだった。音は、恐らく足音であろうが、金属と石畳がこすれる非道く耳障りな音が聞こえた。

 

「あ、あ、アレだ。ぼ、僕はもう狙われ無い、け、けど、君達は、た、たぶん襲われる」

「「 ……あれは 」」

 

 ゾロは目を疑った。ロビンは、心当たりがあった。

 ジブの医院で見せられた、かつての"感染者"とされる人達の無惨な写真の一枚。それに写っていた個体に極めてよく似ている。フランキーが此処にいなくてよかった、と2人はつい思ってしまった。金属製の三つ脚で身体を支えており、それが腰を中心に回転しながら前方へ進む奇妙な造りであった。

 腰は分断されている。回転式テーブルのように上下に接続され、上半身は回転する下半身の上で安定していた。腰からやや上の部分と、背中に2対"腕部"が増設されていて合計6本の腕を持つ。背中の腕には銃を持ち、本来の腕には金属板を切り出したであろう歪な盾と、これまた道路標識をただねじ曲げて研いだだけの不格好な剣を持っていた。

 

「ありゃ何だ? とても人間と思えねぇ見た目だが」

「せ、せ、船長だよ」

「っ!? 貴方、それって」

「ぼ、僕らの船長、だ、()()()人。今は()()()()()()()()()()

 

 絶句した。もう一度、2人は広場をガサガサと動き回る物体へ眼を戻す。

 ロビンは写真で既に見ていたが、やはり信じたくない。人間だったというのだ、あれが。人間の名残は、前方の腕部と、顔だったであろう部分しか残っていない。その顔も、もう上半分がセンサー部分のカバー程度の残骸であったが。

 コレが、人が変異した結果だと?

 明らかに人造の部分が見えているのはどういう事なのだろう。

 

「も、もう、入って来た人の、お、音に反応して、つ、捕まえに来る『憤怒鬼』さ。

 り、理性はもう、の、残って無い」

 

 怒ったように猛り狂って、生者を捕らえにやって来る。故に『憤怒鬼』と鳥人間は読んでいるらしい。確かに、"鬼"とは言い得て妙だ。人が墜ちた結果と呼ぶにはあまりにおぞましい言葉ではないか。

 

「は、8年前。ま、街を広げて、あの門を見つけた時、僕らが調査隊にし、志願した」

「あら、だんだん滑舌が良くなった?」

「あ、あぁ。話す、のはすっごくひ、久しぶりだったから。やっと、普通に、話せそう」

「調査隊は、お前とあのバ……船長だった奴の2人か?」

「ううん。最初にこ、この島にたどり着いた海賊団の面子、だ。僕も含めて34人。

 最初に街を開拓した面々だから、先陣を切ろうって事に、なってね」

 

 調査隊に参加した34人と、残ったのは12人。そして後からやって来た住人達は彼らを待つ事になったのだという。

 

「そのジブ先生とやらは来なかったのか?」

「先生も、立候補したんだ。何かあったらとい、言ってね。

 だけど船長は、まだ医者が島には不足だから、な、何かあったら大変だからと言って、残したんだ」

 

 そして、調査は始まった。元海賊であったから荒事には慣れていたが、あの骨達の間を進むのには苦労したらしい。荒くれとは言え、あれ程の惨い惨状に慣れきっている猛者はそういない。

 気分が悪くなって休憩する者も出始めたので、5人のグループを6つ造り、分散して調査する事にして、残る4人を最初の広場近辺で待機させ連絡役にする事が決まった。これが初日の事だった。

 

「おかしくなり始めたのは、み、3日目からだった。

 2日目は、各グループから報告担当が1人ずつ戻って来て、よ、様子を聞いた。

 どこも破壊されていて、死体ばかりだって気が滅入る話だけど。

 3日目は、2つのグループから連絡が来なかった。4日目には、途絶えたのと同時に、残ったグループの1人がおかしくなった」

 

 そう言って、鳥人間は頭を抱えた。辛い思い出だ、無理もあるまい。外を蠢くアレを見てしまえば、此処で何が起こって、結果どうなってしまったのかある程度の予想は付くが、それでも聞かねばならないと思った。

 

「おかしくなった、とは凶暴化したのかしら」

「近くも遠からず、だね。そいつは何時もどんくさいけど、愚直で良い奴だった。だけどそいつが急に、黙り込んじゃったんだ。考え込んだとかじゃなく、感情が抜け落ちたみたいに、む、無表情になった」

 

 広場から、憤怒鬼と呼称した生き物が去って行く。一応難は逃れたらしい。

 2人は警戒を完全に解いた訳では無い。鳥人間は床に座ったが、2人は柱や壁に背を向けてよりかかり、鳥人間の話の続きを聞く。

 

「そしたら、()()()。あいつの顔が、真ん中から縦にぱっくりとね。

 中は、頭蓋骨だった場所が殆ど全部、口になっていた。そして、仲間を1人……パクッと。ぼ、僕は無我夢中で、何が起こったのかわかる前に、石を掴んで……」

「もういい。一端休め」

 

 ゾロが、鳥人間を押しとどめた。鳥人間の声に、嗚咽が混じっていたから。周囲に漏れる危険もあったが、何より痛々しかったのだ。無理に話を続けなくても良い。それに、そこまで聞いた時点で何をしたか、聞こうと思えなくなった。

 

「……"友達"だったのか」

「うん。あいつ……【フィン】は僕の、友達だった。急に、バケモノになった」

 

 ロビンは、ジブが言っていた事と、この鳥人間の証言が明らかに違う事へ考えを巡らせている。あの女医は、ここへ入った時に出くわしたと言った。だがこの鳥人間は最初に踏み入った調査隊の一員で、あの怪物達も元は人間だとなると、話が違う。

 嗚咽も、涙も、もっともらしく見える。コレで演技だったら俳優を名乗って良い。少なくともロビンは"彼"の事そう見た。とっさの事で、きっと彼は友を殺してしまったのだろう。

 

「調査に行く前から、ちょっと体調が変だった。各グループに、1人はいたと思う……そういう奴が。船長もだ。振り分けたのは船長だった」

「帰ってこなかったグループも、恐らく変異して同士討ち、か」

「僕はここに隠れたよ。怖くて、寂しかった。

 そしたら高熱が出始めて、意識を失ったんだ。目覚めたら、こんな風になってた」

 

 そう言って、嘴のような自分の口を撫でる。

 

「ちょっと視界は広くなったのは、良い事かなぁ。それでも、街には戻れなくなったよ。

 後から入って来た人達は、僕を見て逃げ出した。ショックで隠れてたら、今度は別の人達が、変わり果てちゃったみんなに襲われて、どこかに連れてかれた」

「後は追わなかったの?」

「出来なかったよ。僕は襲われはしないって、後になってからわかったけど、フィンの頭が開いたあの光景が、忘れられなくて。怖いんだ」

 

 ぽろぽろと、涙が鳥人間の目から零れ出てくる。

 言葉が見つからない、というのはこういう事を言うのだろう。凄惨という言葉で片付けるのも難しい。

 

「この街には、地下がある。入り口はわかるけど、あの船長みたいになっちゃった……僕の仲間だったモノ達。それに連れてかれちゃったモノ達であふれかえってる。まるで何かを待ってるみたいに」

 

 そう言って鳥人間は、外の様子を窺った。物音は、聞こえてこない。

 

「そろそろ大丈夫だと思う。

 楽しかったよ、久しぶりに言葉も話せて。なによりちょっぴりだけどはき出せた」

 

 鳥人間の後に続いて、協会を出た。あの憤怒鬼という機械兵士のような生物の足音は聞こえない。ゾロの鳥人間を見る眼には、もう敵意は無かった。あるのは憐憫だ。思わぬアクシデントで、仲間を殺めたと語る鳥人間の言葉。

 信じて良いかと迷いはしたが、あの涙で嘘とは思いたくなくなった、というのが正しい。

 現に、門の所までで妙な足音が聞こえる事は無かった。

 

「じゃあ、ここでお別れだ」

「お前はいいのか、これで」

「こんな姿の奴が外に出たら、街は大騒ぎだよ。出来る訳が無い。

 あの街は僕らと先生とで作った街、第二の故郷だから」

 

 ゾロは、少しだけ身をかがめた。頭の高さを、鳥人間のある場所に合わせて、正面から見据える。ロビンも、そうした。

 

 そうした方が良いと思った。

 

「お前、名前は? 俺はロロノア・ゾロ。海賊だ」

「私はニコ・ロビン。考古学者で海賊」

 

「……?」

 

「挨拶だよ。遅くなって悪かった」

 

「……っ! あ、あぁっ!」

 

 人の形では無くなってしまっているが、鳥人間の表情が明るくなった事は、わかった。

 

「僕は……僕は、【ピアーズ】。元は海賊。こうなる前は、狙撃手だった」

 

 

 ピアーズと名乗った鳥人間に見送られながら、ゾロとロビンは門を通り、閉じた。

 

 

 

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