~ テイワ=ラグ島 ~
今、何が起こった?
身を覆う瓦礫を取り払いながら、ゾロは考える。確かに首を落とした。手に伝わる感触だってハッキリと覚えている。皮を、肉を、骨を、断ち切って切断した感触。ごとりと床に落ちた首を見た。
ウタの前でやってしまった事に関しては悔いる他無い。それは本人と、正気を取り戻した後の
(斬っても無駄な悪魔の実か? いや、違う。俺は確かに"覇気"を……)
咄嗟に庇った、身体の下で痛みに耐えているロビン、ウタ、チョッパーを見て安堵する。しかし、上空から感じるこのおぞましい波動のせいでその余韻も吹き飛ぶ。上空を見上げて、ため息をつく。
『オーン
天高く立ち上る光の柱は、美しかった。にもかかわらず、その光はまるで血や臓腑を見るかのような悪寒を伴うものだ。視線は、自分達から逸れている。興味を失ったのか、はたまたこちらに目を向けている余裕は無いのかわからない。
だが今こそ、この場を離れるまたと無いチャンスだ。
ゾロは意識を取り戻したロビンと共に、意識を失ったウタとチョッパーを抱えて逃れることにした。一度船の皆と合流すべきだと。ルフィの事も気がかりだ。先に外に出ていたであろうナミの事も心配である。
『オーン
光の柱の中で、ロックスが声を鳴らす。それは釣り鐘のように島中に響き渡る。
「何だ、コレ」「……これはっ!?」
街の様相が様変わりしている事に、ゾロとロビンは気づく。天が紅にそまり、彼方の海も血の色の如く。方々の家々から聞こえた悲鳴。屋根や尾根を動き回る、金属のようで生き物のようなバケモノ共。
「
「つまり、あの化け物を作ったのも"ジブ先生"だった、という訳ね」
「……哀れだな」
【
"人"をコケにしているとしか思えなかった。
頭に血が上り始めるゾロを制したのはロビンだった。意識を失った2人を抱えたまま戦うのはリスクが大きすぎる。そして今注意は別の所に逸れているから離れて体勢を立て直すべきだ、と。
「離れましょう。今は奴への対処を考えるのが先。闇雲に斬っても多分勝てないわ」
「確実に斬ったのに生きてる時点でな。くそっ!」
その時、別の建物裏に隠れていた人影が飛び出してくる。ナミだ。
「
冷気と暖気を使い分け、周囲の寒暖差による蜃気楼を生み出す術。彼女は互いに手を取り合って迷わないようにしつつ、上空のアイツが視線を戻したときに捲く事が出来る手を打ったのである。
「助かる」
「話は後、今は逃げるわよ」
そうは言いつつ、ナミの視線は先ほどルフィが自警団長:クリス諸共吹っ飛んでいった方角に向いていた。そちらでは今間髪いれずに土煙が立ち上がったり、瓦礫が宙を飛んだりしている。つまりそういう事だ。あのクリスという人物、肉弾戦では相当やり手のようだ。
確かに心配だ。表情が消えて、まるでマリオネットのようにこちらに牙を剥いた。
十中八九あの上空にいるロックスと名乗った奴の仕業だが、それを解除する術も考えなければならない。
意識ある3人は、気絶している2人を護りながら避難した。
※※※※※※※※※※
「"
「正式なものからはかけ離れてたけどね」
もぬけの殻になっていた民家に避難した。そこでロビンは、先ほど外で鳴り響いていた摩訶不思議な言語について、思い当たるものがあったらしい。
「本来は"真実・秘密の言葉"という意味よ。
世界の真理や秘密は人間の言葉で表す事は出来ないけれど、世間の文字や言葉を借りて世の中に表したもの、という
「古代言語の一種か」
「私が学んできたものとはまた別種よ。
今は別の形になって伝わってるものが多いわ」
『オーン』は、今は『唵』という。"オン"や"エン"と読む単語。
『スヴァーハー』は、今は『薩婆訶』という。"ソワカ"や"ソモコ"と読む単語。
『ナマハ』は、今は『南無』と言う。
そう言われれば、ゾロにも心当たりが出てくる。お祈りの時に坊さんが唱えていたお経。その中に出てくる単語にそっくりだ。
「おんべいしらまんだやそわか……」
「あら、ゾロの地元にも伝わってるのね」
「ガキの頃にちょっとな。まさかコレがそうとは思ってなかった」
ロビンはそう言いつつも、沈んだ表情をしている。
とある単語が、引っ掛かるのだという。
「廻りから【
それがどうしても気にかかる。
「確かに廻りの化け物連中が口にしてたが、聞いた事無ぇ名前だ」
「何かの伝説?」
「えぇ。そうよ、伝説の中に出てくる。
あまりに古いうえに全貌もわかってないのだけど、他人の快楽・欲望を喰らって自分のものにしてしまうという魔王の名前」
先ほどの、奴の口づけで体調が一気に悪しきほうへ一転した事にも合点がいく。
「それがきっと、あのロックスと名乗った奴の
私から一時的な分とはいえ『幸福』を奪ったんだわ」
だから、心の均衡が『残った"煩悩"だけ』に染まって崩れ、身心のバランスが崩壊したために体調が悪化したのだろう。他化自在天という単語と、他ならぬ自分に行われた行為から何とかたどり着いたと思えば、結果オーライとも言える。
「アイツが他の能力らしい力を発動しているのは恐らく……」
「……待って、聞きたく無い聞きたくな~い」
ナミの顔色が土気色になっていく。恩人が豹変して実は敵でしたという流れでも相当堪えているのに、そこにこれ以上の追い討ちは止めて欲しいものである。
「仕方ないでしょう? 先生は今や敵。情報は整理しなきゃ」
短い間だがロビンは、奴を"覚醒した能力者"と定義して話を進める事にしたようだ。
それはつまり、ドフラミンゴや、テゾーロ、バレットのような連中と同等という前提で想定しようと言うに等しい。気が重くなる。よりにもよって、ルフィが今影響下にある現状で。コレまでに何度も、仲間が捕らえられたりした事はあった。
それこそ今ここで意識を保っている3名はそれぞれ"捕らわれた側"の経験を持っている。
そういう時、必ず困難を打ち破ってきたアイツが今回、敵の手の中にいる。
「状況は"最悪"スタートか。参るな」
ゾロの一言は、皆の代弁であった。こういう時に心の支柱となる船長が今、いないのだ。
「それに相手は『ロックス』と名乗った。これがもし本当であるなら大事ね」
「それ、聞いた事あるような無いような、って名前なんだけど」
「もはや伝説だもの、ルフィの
英雄伝説の最初の章よ」
「確か、世界転覆を企んだ大海賊の目論見を……っ!!?」
「そう、その大海賊が【ロックス】。生きていたなら70後半でしょうけど」
「「 いや、それは無いと思う 」」
ゾロとナミの台詞が被る。どう見てもジブ先生だった者、ロックスと名乗ったアイツは20代でも通用しそうなルックスだ。本人の口ぶりからしてアラフォー程度の筈。窓の外を渦巻いている紅蓮の天を見ながら、ロビンはその反応を肯定もしなければ、否定もしなかった。
「ゾロ、先日"うっかり"入っちゃった門の向こう側。
あの時見つけた、天竜人の遺体の事だけど」
「あぁ、あのとき確か言葉に詰まったよな、お前」
「て、てんりゅ――っ!?」
思わぬ言葉にナミは言葉を失った。
「天竜人の遺体って、"海軍大将"が動くじゃない!」
「相当年月が経ってたんだよ、観光客が行楽地でそのまま死んだ、って感じだ」
「あのとき言葉に詰まったのは、ここがとある島なんじゃないかって……
ずっと頭をぐるぐる廻っているのよ。実際、未だに半信半疑」
それと同時に、とある人達の話題を出した。
「でも、錦えもん達【赤鞘】達の事も想いだして、線が結ばれたの。
彼らは20年前から時を超えてやって来た」
彼らの場合は、"トキトキの実"の能力によって"時間を越えた"。
「仮に、仮にその力に似た能力、ないしは現象が"この島"に起きていたとすれば」
ロビンは、窓の外。ゾロと共に進入した門の方角を見ながら言う。
「この島はきっと、伝説の島。ガープ中将の英雄伝説にしか出てこなくなった島。
存在が無くなった島。いえ、無くなったんじゃなく10余年前まで消えていた島」
小さく借りるわねと良いながら、家に残されていたメモ紙に、さららと何か文字を書く。
「まだ推測でしかないわ。でもきっとこの島はかつて【ゴッドバレー】と呼ばれていた島よ。島まるごと、奴自身か、何かがおこってこの場所に転位して来たんだわ」
原作中にも『マントラ』って単語出てきてた(別の漢字にあててましたけど)のを
すっかり忘れてましたが、仕方ないのでこのまま突っ切ります(・ω・`)