老いた龍虎は新時代の夢をみるか   作:松ノ木ほまれ

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第4話

 

 

~ 海軍本部・船着き場にて ~

 

 

「「 何故誰もアイツを止めなかったぁ!! 」」

 

 二人の人物が、周囲の高級将校、並びに兵卒達に声を張り上げて怒りを露わにしていた。

 現大目付:センゴクと、中将:おつる。どちらもガープの同期であり、時代の生き証人と言って差し支えない重鎮だった。方や既に一線を退いている隠居の身であり、方や未だ現役の海軍中将。その老人二人が何故怒髪天を衝く事態となっているのか。

 理由は至極簡単で、ほんの数刻前の出来事によるものだ。

 1隻の軍艦が出港した。日常業務の中で見られる至って普通の光景だ。そこは何も珍しい事は無い。問題だったのは、その船がガープの乗艦である事。出港許可を得ずの独断であった事。

 ―― 英雄:ガープにはよくある事

 大問題である筈が、過去の功績と本人の人格も相まって、この人ならと押し切られてしまう将兵が後を絶たなかった。しかし、今回の二人の怒りようは常軌を逸している。

 

 出港するガープの様子を話したとたん、着火したと言うべきか。

 

 ワノ国周辺の諜報活動から帰還した情報将校と、なにやらやり取りをしていた事。その者との会話が終わるかというタイミングで、あの『英雄』が顔色を変えた事。そしてまるで引っ立てるようにして共に乗艦して出港した事。一連の流れを見ていた者がいたのだ。

 そしてそれが、運悪く二人の耳に入ったという訳だ。

 

「し、しかし閣下、ガープ中将のこのような行動は今に始まった事では」

「過去は過去、今回は今回だたわけ!」

 

 青筋を浮かべながら、センゴクはおつるの方へ顔を向けた。

 彼女もまた、こめかみを指で押さえながらしきりに考え込んでいる。知恵者と知られるおつるのその様子も、将兵に衝撃を与えるには十二分の威力があった。今度は本当に"やらかした"のかあの人は? と。

 その場を何とか収集したセンゴクとおつるであったが、問題は残っている。ガープと二人は数十年という付き合いであり、今回の奇行の動機には何かしら、アイツにとってのっぴきならぬ一報が入ったであろう事が想像に難くなく、個人的な意味で言えば止めるべきでは無いとも僅かながら考えてしまう。

 ただ自分達は"海兵"なのだ。

 秩序の守護者。民衆の最後の盾。海の平和を維持する者でなければならない。ガープとて、人一倍それを心の中に飲み込んで生きてきた男だ。そんな男が、自制が出来ずに船を出した。

 それだけで異常事態である。

 あの男は"英雄"たる自分の行動が周囲にどれ程の影響を与えるか、いまいち解っていない所がある。昔からそういう所が好きなのだが、頭を抱えさせられる所でもあった。

 

「おつるちゃん、俺も船に乗せてくれ」

「大目付がまた本部を離れるのかい?」

「今眼が必要なのは、間違い無くガープだろう」

 

 老体にむち打つような仕打ちだとは思っている。だがもし、脳裏によぎる嫌な予感が当たっているのだとしたら。そう考えるだけで怖気がする。()()()()()()()()()()としたら、今となってはそれしか無いとすら思えたから。

  あってはならない事だ。

   記憶の中で、風化させていく事が最善の解決方法

    もし風化してく事が望み薄となったなら、それは……

 

「俺達の不安が当たっているなら、きっとアイツは一人で止めに行ってる」

 

 こういう時ほど、ある意味でガープの奔放さが羨ましくさえ思う。

 元・元帥。中将。人間には社会生活の上で立場というものがある。それが軍ともなれば、多くの命を預かり、時と場合ではその数は大幅な増減を見せるものへと変貌する。自分達が積み重ねてきたものを思えば、軽々しく動くという選択をがし辛いのも事実。

 周囲から聞こえる声が、今の彼らの立ち位置を端的に表している。

 

「おい、大目付とおつる中将が出撃?」

「四皇が動いたのか? なら何故出撃要請が出ていないんだ!?」

 

 これだ。ガープが出撃要請無しに出港という行動に出た時点で注目を集めているのに、そこへ自分達が加わればどうなるかなど分かりきっているではないか。

 本当に、人の事を悩ませるのが得意な"英雄"様である。

 しかしながら、放っておく訳にいかない事態である事も―― 恐らく事実

 

「出るのですか? 大目付殿」

 

 故に、戦力は多いほどありがたいというのも、本音。

 言葉尻は丁寧だが、トゲのあるもの言い。ただ、一本の芯が太く屹立している事がハッキリとわかる声音。悪い意味で"英雄"に似た部分を持つ男の声。

 

「ちょっと、大目付の前でしょ、十手はしまいなさい。ヒナ絶句」

「見るからに挙動がおかしいご老体が悪い」

 

 運命という言葉は軽々しく使いたくは無い。

 が、何という奇縁であろう。かつての自分達世代のような組み合わせの、若い世代がそこにいた。スモーカー中将と、ヒナ少将。同期で入隊しここまで這い上がってきたたたき上げ組。問題児と優等生という凸凹コンビ感も、どこか懐かしい。

 加えて、二人とも上に()()()()タイプの人間では無いという所も、僥倖のように思えた。

 

「本当に、奇妙な事もあるものだ」

「「 ……はぁ? 」」

「折角だ、老人の我が儘に付き合ってくれんかね」

「センゴク、アンタねぇ」

 

 おつるは、センゴクへ苦い顔をして言う。ただ、心の底からという訳では無いらしい。

 

「なんだ、昔話を聞かせてやるだけだぞ」

「大目付殿、俺ぁガキンチョじゃ無ぇ。

 お二方がこぞって港にいるって事ぁ、余程の事が起きた。そうだろ?」

「す、スモーカーさん!」

 

 スモーカーの副官、たしぎは狼狽えたっきりである。無理も無い。

 元は元帥、つまる所上官中の上官であった人物。加えて、ロジャー時代からの生き残りであるセンゴクに対しての、直属の上司がとる態度は心臓に悪かろう。

 

「そうさな、出港したら、おつるちゃんの船の艦長室までというのは?」

「センゴク、私は乗せるとは一言も……」

 

 ほんの僅かの間、すぐ近くの者達以外には解らぬ程度の時間、センゴクの表情から柔和な顔が消えた。

 

「【ロックス】の話をしようと言うんだ、他に何処があるね」

 

 スモーカーとヒナの眼が、見開かれた。たしぎはややピンときていない様子。しかし、尋常ならざる空気が流れてて来た事は察したようで、姿勢を正していた。

 

「出来る事なら、"知る者"も極力少数にしなければならない。

 大事になる前に。大事が大事と知れ渡る前に、状況を把握するべきだ」

「それは、ガープ……中将からの連絡を待つ訳にはいかぬものですか」

「いかない。断じて」

 

 口を真一文字に結び、センゴクはかぶりを振る。

 

「おとぎ話のままにしておきたい。ガープに何かあれば、それはまさしく現実として世界に波及するだろう」

 

 そう言って、センゴクは胸元から古い写真を撮りだした。

 所々が色あせた、とても古いものだ。若き日のセンゴク自身と、数名の若者が映っている。センゴク、おつる、そしてガープ。在りし日の、英雄達の姿だ。

 ただ着ているのは、晴れ着だ。センゴクとおつるは、中心に映っている男女の脇に控えている。

 

「そんなもの、まだ後生大事に持ってたのか」

「おつるちゃんだってそうじゃないか。知ってるんだぞ?」

 

 中心でタキシードを着て、緊張の面持ちで赤面している男がいた。

 

 男の左目の下には、傷が入っている。

 

 

  ※※※※※※※※※※

 

 

~ テイワ=ラグ島 ~

 

 

「ルフィが泊まり込むって言ったのか!!」

 

 ゾロの発した剣幕は、一味の皆を困惑させるには十分な効果があった。

 一足先に戻ってきたウソップに迫ったゾロの顔は、蒼白である。フランキーも、マズい事になったと頭を抱えている様子であった。ウソップとしては、この二人の狼狽えように度肝を抜かれるばかりで、

 

「仕方ないだろ!? 歌姫・ウタが島の病院で世話になってたんだから!」

「――! こんな時に!」

 

 船長の幼馴染み。それもあの島の出来事を考えれば、船長がそうしたがる理由は一味の誰よりも理解出来るからこそ、ゾロはやり場の無い焦りに支配される。

 サンジは食材の買い付けでまだ島にいる。ロビン、ナミ、チョッパー、ブルックもまだ戻ってきていない。そんな中で、また戻ってきた者が一人。

 

「今戻ったぞ」

 

 最も最近一味に加わった、操舵手:ジンベエ。"海侠のジンベエ"にて名の通った元王下七部海にして、タイヨウの海賊団元副船長。一味の中でも最も戦を重ねた魚人の闘士でもある。

 そんな彼も、浮かない顔をして戻ってきた。尋常では無い副船長:ゾロの顔を見て、何かを察したようである。

 

「その様子、そっちでも何かあったのか」

「まぁな。どれだけ早く島を出られるかと考えてた所だ」

「奇遇じゃな、わしもそう具申しようかと思っとった」

「ジンベエもかよ! 一体全体どうしたってんだ!?」

 

 ウソップも、段々と状況が飲み込めてきたようである。ゾロも、フランキーも、そしてジンベエも、一切冗談を差し挟む事を許さない顔つきで向き合っている。敵地のど真ん中に立たされているかのよう。

 それこそ、先日までいたワノ国と同じような。ウソップは一回。気持ちを切り替えるべく自分の頬をはった。脚が震える。

 

「何があった、ジンベエ」

 

 ゾロがそう言うと、ジンベエは手にさげていた袋の中から、()()()()()()()を取り出した。

 

「今日、水揚げの中に混じっていたものだそうじゃ」

 

 ウソップの胃が縮んだ。ゾロの顔が引きつる。

 魚であって、魚では無かった。魚の頭部、上半分が眼で覆い尽くされている。まるで魚卵ともいえそうな程に、小粒であったり大きくふくれあがった眼、眼、眼。奇形というにはあまりにもおかしい。

 

「ロビンが言っとった、"禁"を破った者が近海で現れた証と、島の魚人達がこぞって教えてくれた。これがあがった翌日は、漁には出ぬというならわしだそうでな」

「同じめに遭うって訳か。くそ、あの船と言い、何なんだこの島」

「フランキー、あの船とは?」

「実は……」

 

 フランキーが、ゾロと二人で見てきた光景を話す。到着した"無人"と化した2隻は、間違い無く先日自分達が見かけたあの不気味な2隻である事。そして、おぞましい状態で見つかった服の残骸。

 話を聞いているだけで、ウソップから血の気が引いていく。

 ここにいる者だけではない。一味に属している皆、相当な数の修羅場を潜ってきた。しかしながら、こうも惨たらしい現象への遭遇は、皆無に近い。

 

「【悪魔の実】の仕業――にしたって解らねぇ。

 こんな事をしでかす奴なら、表に立っていてもおかしく無ぇだろ?」

「そうだなぁ。魚人達もそうぼやいておったが、常日頃の島はいたって平和そのもので、豊かな海産、丘の実りも豊穣で、療養に適した気候が続くのだそうじゃ。話に聞く限りでは、とても暮らしやすい島としかわしも思えん。じゃが住人達も、この理由不明の"禁"にだけはずっと怯えておる」

「これだけで十分じゃねぇか。記憶指針の更新如何では、いかに幼馴染みの看病とは言え船長を引きずってくる必要があるぞ。場合によっては歌姫とその医者ごとな」

 

 歌姫・ウタは、四皇【赤髪のシャンクス】の養女。そして彼らがきっと信用してこの島の、ウソップの言う女医に治療を依頼して預けたのだとしたら、ゾロの発言は彼らとの衝突要因を作る、と言っているに等しい。

 

「島の連中には悪いが、ここは"異常"だ。

 とても快適で良い環境だってのは、俺もそう思う。ただ一点、解せねぇ」

 

 ゾロは街の方へ目をやり、何時もの日常へ戻り始める群衆を見つめる。

 

「ワノ国からは距離はあるが、そう遠く無いこの島を、カイドウが目を付けなかった筈が無ぇ。これまで出会ってきた奴等なら大概、縄張りとして囲い込んでおかしくない"良い島"だ」

 

「「「 ――あっ 」」」

 

「四皇の誰も手を着けた様子すら無ぇのが、俺には不気味に見えて仕方ねぇんだ」

 

 

 

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