【本編完結】お菓子作りが得意なトレーナーと、無慈悲するマヤノトップガン 作:出遅れ系トレーナー
落ちこぼれ新人トレーナー
『マヤノトップガン、見事3冠達成!今ここに、最強のウマ娘が誕生しました!』
コネも実績もない私が、ここトレセン学園に採用されたのは奇跡だったといっていい。たまたま採用担当の職員が流行り風邪で体調不良を理由に欠勤、たまたま理事長である秋川やよいが直接採用面接をすることになった。そして、たまたま彼女のお眼鏡にかなったがために、こうしてトレセン学園のトレーナーとして勤めることが出来ているのだから。
「トレーナーちゃん、やっほ~!あれ~?何見てるの~?って。また菊花賞のレース映像見てたの?」
自室でレース映像を見ていると、担当ウマ娘であるマヤノがノックもせずに入ってきた。そして私の膝の上に乗り、私の腕を彼女の体を抱きしめるように絡ませた。傍から見たら少女を抱きしめている犯罪者だが、腕をほどこうとするとマヤノは機嫌が悪くなってコンディションが下がるので仕方ない。そもそも私はマヤノのことをすごく好きなので、問題ないけどね!
「トレーナーちゃん、何度もそれ見てるけど、そんなに面白いかな?」
「マヤノにはわからないかもだけど、私にとってはすごく大切なんだよ」
「ふ~ん?やっぱりマヤにはわかんないや。そんなことよりトレーナーちゃん!今日はケーキないの?ケーキ!」
「ケーキか。ケーキはないなあ」
「え~!?ぶーぶー!!!」
「なんでそんなにぶーたれてるんだ…そもそもダメになりやすいケーキを常備してるほうが変でしょ。女性トレーナーやたづなさんとかならともかく、私は男だし。まあそれはそれとしてプリンなら作り置きしてあるのが冷蔵庫に入ってるよ」
「プリン!?やったー!」
よいしょと私の膝から降りて、マヤノはプリンを探しに行った。思えばマヤノとの出会いも、たまたまだったなあ。
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『トレーナーさん。スカウト、うまくいってないみたいですね』
『あ、たづなさん』
トレセン学園に就職して半年、私は絶不調のさなかにいた。理事長の一声で採用されたようなもので、普通に面接試験受けるトレーナーなら持っているであろうコネ、つまり親戚の実績というものがまるで無いからだ。誰だって実績も信頼もなく、今までに担当したウマ娘がひとりもいないトレーナーなんかについていきたいとは思わないだろう。
『私としては、理事長が直接会って採用した方ですので、是非とも頑張っていただきたいのですが…さすがに半年間成果なしとなると』
『本当に申し訳ありません…』
たづなさんにサポートしてもらって、事務作業の傍ら模擬レースが終わった後などでスカウトはかけているのだが、現実はそう甘くなかった。サブトレーナーとして経験を積めるようなコネもなく、毎日スカウトを試みては断れる日々。心がすり減っていくのは当然だった。
『ああ、責めているわけではないんです。トレーナーさんが常日頃から努力しているのは知ってますので。…そうですね、たまには気分転換でもしてみたらいかがでしょう』
『気分転換、ですか?』
『ここにチームで使える部屋の鍵があります。今は空き部屋なんですが、これをお貸しします。トレーナーさんはまだ入ったことなかったですよね?雰囲気を知ってみてはいかがでしょうか』
そう言われ、たづなさんに渡されたのはオレンジ色の装飾のついた鍵だった。これがあればチーム部屋の空いている部屋に入れるという。
『もちろん、無理にとは言いません。ですが、チーム部屋の雰囲気を知ることで何か得られればいいなと』
『…そうですね。ありがとうございます、たづなさん。早速行ってみます』
『あ、鍵は103号室のものですので!』
『はい、わかりました』
103号室なら1階か、階段を上がらなくて済むのは助かるな。なんだこいつって目で見られなくて済むし。
『あれ、鍵が開いてる』
部屋に着いてドアノブをひねると、ドアはそのまま開いた。前回誰かが借りたときにかけ忘れたのだろうか。チーム部屋は小さな机と椅子が1つずつとロッカーが5つ並べてあるだけの簡素な部屋だった。ミーティングルームとしても使うからだろうか、そこそこ広さはあるが。
『いつかはここでトレーナーとしてやっていきたかったけど…悔しいけど私じゃ無理か。最後にいい記念になった。たづなさんには感謝しないと』
この光景を忘れないように目に焼き付けつつ、部屋を出ようとした時だった。
『ぐあっ』
『すくらんぶる~☆』
『いたたた。いったい何が…』
『やっと会えたねトレーナーちゃん』
ドアに弾き飛ばされた私がなんとか顔をあげると、オレンジ髪のちいさなウマ娘が。おかしい、今は授業中だった気がするんだが。
『というかトレーナーちゃん、やっぱり今回もスカウトうまくいってないみたいだね。でもだいじょーぶ!マヤがいっしょにいてあげるからね!』
『え?いきなり何を…というか君は?』
『まあまあ。細かいことを機にしたら負けだよトレーナーちゃん!専属契約には書類がいるんだよね?ほら、早くたづなさんのところに行こう?それとも、もしかしてマヤが担当ウマ娘じゃ嫌だった?』
『お、押しが強いうえに、話が急すぎる…でも君みたいにかわいいウマ娘が私の担当になってくれるって言ってもらえるのはすごく嬉しいな』
『かわいいだなんて~えへへ~』
めっちゃ照れてるぞこの子。本当にかわいい。まだ名前知らないけど。
『…でもいいのかい?こういっちゃあれだけど、私には実績も何にもないよ?』
『ん~?それに何か問題あるのかな。マヤはトレーナーちゃんだから、マヤのトレーナーちゃんになってほしいんだ。ダメ、かな?』
『うっ!!!!』
オレンジ髪ウマ娘の上目遣い!きゅうしょにあたった!こうかはばつぐんだ!いちげきひっさつ!私の遠慮はたおれた。
そして、彼女に連れられてたづなさんのところに行き、あれよあれよという間に彼女、マヤノトップガンとの専属契約が決まったのだった。