【本編完結】お菓子作りが得意なトレーナーと、無慈悲するマヤノトップガン 作:出遅れ系トレーナー
「わが世の春が来たああああああああああああ!!!!!」
「秋だよ?トレーナーちゃん」
「そうだった!!!!!」
「すみませんトレーナーさん。うるさいので静かにしてもらえませんか。そろそろ中間テストなので勉強に集中したいんですけど」
「ごめんなさい…」
テンションが上がり切って叫んでいたらフラワーに怒られてしまった。まあ至極当然である。どう考えてもうるさかっただろうしね。しかしなんでこんな場所で勉強しようとしてるんだろう。エアコンか?
「まあ叫びたくなる気持ちはわかりますよ。猛暑の主張が激しい夏が終わって、ようやく涼しくなりますし、これから秋の味覚シーズンですから。栗、桃、葡萄に蜜柑…と、スイーツには欠かせない食材が新鮮な状態で手に入りますものね」
教科書から目を逸らさずフラワーはそう言った。そう。1年中果物自体は手に入るけど、ハウスで育てたやつはどうしても風味が3段階くらい下がってる。やっぱり季節のものを使うのが1番おいしいよ。
「あっそうだ!トレーナーちゃん!秋の天皇賞がそろそろあるんだけど、もうリクエストは出していいのかな?トレーナーちゃん、忘れっぽいから時期が来るまで待ってくれって言ってたけど」
「おっとそうだった。今からならちょうど良いね。なんでもどうぞ?」
「やったー!えっとね、今回のリクエストはモンブランにしようと思うの!この時期って確か栗が1番おいしいし、香りが強いんでしょ?」
「そうだよ。熟してて甘みや香りが引き立ってるのだ」
しかしモンブランか、秋の最高級の栗の代用は厳しいかもしれんな。小さめのやつを用意しよう。
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『紅葉深まる東京に、1帖の盾を求めて優駿たちが集う秋の天皇賞。天気は晴れ、前日の雨からかバ場状態は稍重となっております』
『1番人気は10番スペシャルウィーク。ここ、東京レース場での戦績はなんと6戦全勝、秋の天皇賞を連覇中のウマ娘です。最終直線での鋭い末脚が今日も炸裂するのでしょうか』
『2番人気は今年の春の3冠を達成している5番マヤノトップガンです。1番人気こそ譲りましたが、気合は負けていませんよ』
『3番人気は16番メジロマックイーン。秋の天皇賞は2年連続で2着、惜しくも秋の盾を逃していますが、今日の彼女は何かが違うように見えます。好走を期待しましょう』
「マヤノ2番人気かー。いつもスペシャルウィークに負けてるな」
「人気が全てではないですけどね。私たちは人気で争ってるわけではなく、ターフで争っていますので」
「フラワーがめっちゃ良い事言ってる…」
「茶化さないでください。正直な話、マヤノさんに投票しても倍率が高すぎてグッズが入手できないのが原因かと思いますよ」
「……推し事にお金をかけないとは如何ともし難い。ファンの風上にも置けない所業ですぞ!」
「ど、どうした急に」
鉢巻に団扇に
「見てください、貯めに貯めたお小遣いで買ったこの3連単投票券を!これぐらいやる気がないとファン戦争は勝ち抜けませんよ!」
デジタルに見せられたのは3連単で5-6-4の1点賭け投票券だった。そういえば最初のころはサイリウム持って突撃してたのに、ここ最近静かだったのは貯金してたからだったのか。
「5-6-4だとマヤノ、マチカネタンホイザ、ナイスネイチャの3連単か。えっと…倍率1156.4倍って。大穴狙いすぎでしょ。流石にそれは当たらないんじゃない?」
「しかもマヤノさんはともかく上位人気のスペさんやマックイーンさんが入ってな……っ!?ちょ、ちょっとデジタルさん!なんですかその投票券!?」
「んー?……は!?」
デジタルが持っていたのはただの3連単じゃなかった。その点数1000。マヤノ-マチカネタンホイザ-ナイスネイチャに10万って…。
「ふっふっふ。これに間違いはありません。何故なら!あたしのウマ娘ちゃんセンサーがそう囁いているからです!!!!!」
「いやそれ言っちゃうと当たらないやつ」
「まあ見ててください。あたしのウマ娘ちゃんパワーを!」
「「センサーじゃなかったの?(ですか?)」」
『各ウマ娘ゲートイン完了…スタートしました!』
『最高のスタートを切ったのはメジロマックイーン!後続を突き放して一気に先頭へ!やはりメジロマックイーン!今日の彼女は何かが違うぞ!?』
『マヤノトップガンは前へ出ようとしていましたが、塞がれてしまいました。スルスルと後退していきます』
「あっ…」
「うわっ、めっちゃバランス崩してる!マヤノは大丈夫かな…」
「んあー!マヤノさん!もっと!もっと右に出て!いつもみたいに華麗に避けて前に出てくださいよ!位置取り最悪じゃないですか!あたしのお小遣い10万がかかってるんですよ!!!!!」
「こっちはこっちでデジタルが荒ぶってる…」
「…10万だとプリファイのお菓子何個分でしょうか」
「え、プリファイ?」
「っ!なんでもないですっ!」
『レースは向正面へ。各ウマ娘「坂を登るッ!」…失礼、ノイズが入りました。坂を登っていきます。スペシャルウィークは中団から3位まで上がりました』
『マヤノトップガンは後方から4番目、ナイスネイチャのすぐ後ろにつけています。先頭のメジロマックイーンからは7バ身ほどありますが、ここからどう出るのか』
「これは厳しいな。前が壁すぎる。周りの子たちの、秋の冠は絶対にやらんっていう気迫がすごい。スペシャルウィークは前には出たけど、その前と外を塞がれて出れないなこれは」
「あああああ!!!!!マヤノさん!そこです!今です!下がってからの…やった!外に出れました!そこから一気にスパートですっ!!!!!」
「…もっとすごいのが真横にいたわ」
「本物の限界オタクさんってこんな感じなんでしょうか。流石に圧倒されちゃいますね…」
レースは最終コーナーから直線へ。マヤノが青空の領域を展開して、急加速から大外をぶち抜いているが、メジロマックイーンとの差が開き過ぎている。これは勝てないか。マヤノが負けるの初めてだな…。
『マヤノトップガンが追い縋っているがこれは届かない!やった!勝ったのはメジロマックイーン!強いウマ娘はやっぱり強い!マヤノトップガンも強かったが、勝ったのはメジロマックイーンだ!』
『3着に入ったのはマチカネタンホイザ!』
「うーん…(見抜けてないんですかね、あれを)」
「ま、マヤノさんが…ひょわああああ!!!!!…パタリ」
「ちょ、デジタル!?」
10万を消し飛ばしたデジタルはショックで倒れてしまった。風に流されて握っていた投票券が空へ…。
「あっ…いけません!」
「ちょっとフラワー!?どこ行くのさ!デジタルをここには放っておけないでしょ!?」
そして飛んで行った投票券をフラワーは追いかけて行ってしまった。えっと…もしかしなくとも私だけでデジタルを運ぶの?
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「トレーナーちゃん…ごめんね。マヤ、負けちゃった…」
「ま、マヤノ!?大丈夫!?」
気絶したデジタルをなんとか控室へ運んで寝かせているとマヤノが帰ってきた。レースに負けたからなのか、顔面蒼白のマヤノ。なんか今にも倒れそうなんだけど!なんで!?そのままマヤノは私に抱き着いて静かに泣き出した。かける言葉が見つからない。これはしばらくそっとしておいてあげないとダメか…。
「…はあ、はあ。危なかったです。なんとか確保できました」
その後泣き疲れて寝てしまったマヤノを膝の上にのせて頭をなでていると、息を切らしたフラワーが帰ってきた。手にはデジタルの握っていた投票券が。
「どしたのフラワー、そんなに息を切らして。それってデジタルの投票券だよね。もう要らないんじゃないの?」
「いいえ?むしろこれ、すごく大事なものなんですよ」
「え、なんで?」
ゴミと化した投票券を見せながら、あっけらかんとしてフラワーは言うのだ。
「何故ならこれは"あたり投票券"ですので」
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「どういう…ことだ…?」
寝かせたままのマヤノをおんぶしてレース場に戻ると、電光掲示板には[メジロマックイーン、斜行による進路妨害で降着]の文字が。こちらからは見えなかったが、上方からのパトロールカメラによって撮影されていた映像に、スタート直後に一気に内ラチへ切り込んでマヤノの進路を妨害しているのがはっきりと示されていた。したがってメジロマックイーンが降着で18着、繰り上がって1着がマヤノ、2着がマチカネタンホイザ、3着がナイスネイチャ…。
「マジか…デジタルの1点賭け投票券、見事に的中してたのね」
「ですから先ほど言ったじゃないですか。これはあたり投票券だって」
「ウマ娘ちゃんセンサーとやらの感度すごすぎるわ。というか、もしかしてフラワーはこうなるのがわかってたの?レース終了直後もすごく落ち着いてたし、飛んでった投票券を確保しにすぐ動けてたし」
「ええ。最初の実況の『マヤノさんが前を塞がれて~』の時点で。秋の天皇賞で誰かの前を塞いだって時点で、斜行降着は当たり前になってしまっているんです。そして東京芝2000mはスタート位置が特殊なので、外枠がものすごい不利なんですよ。以前から東京2000mの外枠不利は言われ続けていたのですが、未だに修正されていませんね」
「なるほどねぇ」
普段から勉強を頑張っているフラワーだからこそ、降着に気づけたってことか。何はともあれ、マヤノは秋の盾を入手出来たってことだ。おめでとうマヤノ。
マックイーンの降着は史実から、1番人気のスぺちゃんが沈んだのは秋天1番人気の呪いから、外枠が仕様的にもガン不利なのは、私の昨年のチャンミの秋天からです(つまり珍しく実話がモチーフ)。
ここから下は作者の愚痴なので、そういうのが苦手な方はブラウザバック。読了ありがとうございました。
昨年の秋天チャンミは、逃げ3人で東京左逃、所謂地固めセットを揃えていて予選は勝率8割超え。そして本戦でも実際に発動したのですが、789番の大外3枠を引かされていたために内に入れず、コーナーで後退させられて負けました。勝った1番の逃げファル子は地固め先手両方なしだったのに追い抜けないという。そして中盤固有からの逃げ切り…あまりにも酷すぎる不利。負けたのではなく、負けさせられたと感じて本当に不愉快でした。サイゲ許せねえ。秋天は数あるレースの中でも最低最悪だと思います。