【本編完結】お菓子作りが得意なトレーナーと、無慈悲するマヤノトップガン 作:出遅れ系トレーナー
「トレーナーちゃん!」
「ん~?どしたのマヤノ」
「文化祭のハロウィンパーティで、出店やってくれってやよいちゃんからお手紙が来てるよ!」
「ハロウィンで出店ですか…。もうこの時点で今後の展開がだいたい予想できますね…」
10月の終わり、ジャパンカップがもうすぐ開催される時期。フラワーの手を借りてチーム部屋でカボチャのパイを焼いていると、マヤノがハロウィンに関する封筒を持ってきた。注目!の文字で封蝋されているが…。
「えっと…やよいちゃんって…誰?」
「な、何言ってるんですかトレーナーさん!?秋川やよい、理事長さんですよ!まさか忘れちゃったんですか!?」
「ああ!理事長か。普段理事長としか呼んでないし、連絡はたづなさんとしかとってないからなあ」
「ああ!じゃないですよ、もう…」
フラワーからの好感度がガクッと下がったような気がした。なんてこったい。
「で、どうするの?トレーナーちゃんが面倒に感じるんだったら、マヤがテキトーに断っちゃうけど」
「う~ん…。別に面倒ではないし、出すのは構わないんだけど。どうしたものかな」
「いつも通りお菓子じゃダメなんですか?」
「出すのはお菓子でいいと思うよ。でも売り子がいないのよね」
そう、問題は売り子。私はたぶん片付けに追われてキッチンに籠りきりになるので、レジや商品の補充をしてもらう知り合いを用意しないといけないのだ。時間ギリギリまで作業してる自分が容易に想像できてしまうし、終わった後の片付けは絶対にやってない自信がある。
「え~?売り子をやってくれそうな、こ~んなにかわいいウマ娘が目の前に2人もいるのに?本気で言ってるの~?」
どうやらマヤノは手伝ってくれるそうだ。しかしだね。それは最終手段なんだよ。
「それこそ何言ってるのさ。2人が売り子になってくれるって言うのなら、それはすごく助かるし嬉しいけど、それじゃあ2人がせっかくのパーティなのに遊びに出かけられないじゃない。配膳だけで終わってしまってイベントを楽しめないとか、そんなのは嫌だよ私」
「トレーナーちゃん…マヤたちのことそこまで考えてくれてたんだね…!嬉しい!マヤ、キュン☆としちゃったよ~」
「(こういうところだけカッコいいんですから。ズルいですよほんと…)」
当然のことを言っただけなのに喜ばれた。彼女たちはまだまだ遊びたい盛りの年齢だし、わざわざ大人の都合に合わせさせる趣味はないよ。
「ところでこれって返事ってすぐじゃなくてもいいんだよね?」
「当日ギリギリでも良いんだって。飛び込み参加を許可したいからとかなんとか」
「よし。なら当日にパーティ参加しないでもいいって子が見つかるようであれば開店、そうじゃないならやめるって感じにしようかな。とりあえずやってくれる子を募集する貼り紙でも作るかね」
画像編集ソフトとか普段使わないからなあ。あれってどうすりゃいいんだ?めんどくさいから手書きでいいかな…。
「…ところでデジタルちゃんは?最近見ないけど」
「デジタルならマヤノのグッズの整理が終わらないから、しばらく寮の自室に籠るって連絡あったよ」
「あ~…それなら仕方ないか」
「3連単の的中報酬、11564万。大差圧勝でしたからね…」
あの後、ハズレだと思っていた投票券が実は超高配当投票券だったということを知って、デジタルは30回ぐらいずつ尊死と蘇生を繰り返してから景品を交換しに行った。圧倒的大差で今回の秋天のマヤノグッズをほぼ全て搔っ攫ったそうだが、運搬に4トントラックは流石に引いてしまったな。そんなに大きいのか、マヤノぬいぐるみ…。
「というかさ。マヤのグッズに関してだけだけど、デジタルちゃん、マヤとチームメイトなんだし?わざわざ投票券買わなくてもここで欲しいって言えばよくない?マヤ、それぐらいの融通は効かせられるよ?」
「やめるんだそういうの!?」「やめましょうそういうのは!?」
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「ハロウィンパーティでの出店の売り子募集ぅ~?なんだこれ、同じく出店を開くアタシへの宣戦布告かぁ~?」
「う~ん…。それは違うんじゃないでしょうか。だってこの募集を出してるの、マヤさんのトレーナーさんみたいですよ?この試作品とは思えないようなお菓子の出来栄えは、他に見たことありませんし。それに、もしそういう意地の悪い人だったとしたら、勘のいいマヤさんがあれだけ好き好きオーラを出して甘えるはずないと思います」
「まあそれはそう…ってゴルシは勝手に破こうとしないでくれる?トレーナーのとこに苦情入るじゃん」
食堂に貼られた売り子募集の貼り紙。『報酬は時給5000円、または応相談』と書かれたそれは、『当日販売する商品の試作品です。限度を守ってご自由に』の文字と共に、山積みにされているクッキーの上に貼ってあった。試作品にしては手が込みすぎているため、誰が貼ったのか速攻で特定されてしまっているが。
「マヤノさんのトレーナー…。ううっ…!嫌なことを思い出してしまいましたわっ!」
「私も割と酷い目に遭ってますね。でもとんでもなくおいしかったので、私はそれはそれでいいですけど」
大阪杯や宝塚記念直前に太り気味になって出走回避したのは記憶に新しい。思い出してしまったメジロマックイーンは渋い顔をしているが、スペシャルウィークはそんなに気にしてないようだ。
「よくありませんわ!お菓子禁止の恨み…絶対にやり返して見せますわ!」
「だーっはっはっは!何言ってんだ。アレはマックイーンやスぺが調子に乗って食べまくったせいだぐええええ!!??」
「おっとすみませんわ!鉛筆の芯が折れてしまいましたわ!!!」
「(折ってぶつけたの間違いでしょ…)」
倍返しですわ!と意気込むメジロマックイーンを指さして笑い転げるゴールドシップ。しかし例によって例のごとく、目に向かって鉛筆の芯をぶつけられて撃沈。テイオーは苦笑いするしかなかった。
「にしても相変わらず憎らしいほどにおいしいですわね。パクパクですわ」
「…なんだかんだ言いながらマックイーン食べてんじゃん。トレーナーにバレたらまた怒られるよ?」
「ハッ!?」
そんなやり取りを見ていたあるウマ娘は、今までに得た賞金を使って大量にお菓子を買い込む算段を立て、またあるウマ娘はあの味には負けられないと奮起していた。そんな中、とあるウマ娘は友だちを誘ってこの募集に応募してみようと考えた。
「このカボチャのクッキーおいしい!報酬は応相談ってことは、きっとこのクッキーも食べられるはず!食堂のご飯が物足りないって言ってたし、きっと喜んでくれるよね!」
そして本人に相談もせずに、彼女は友人の分も勝手に応募してしまうのだった。
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「マヤだよ!好きなものはトレーナーちゃん!よろしくね☆」
「ニシノフラワーです。好きなものは…って、わざわざ自己紹介する必要もなかったですね」
売り子募集の面接当日。そしてハロウィンパーティの当日である。なんで当日募集にしちゃったの?とマヤノには散々つっこまれてしまったが、試作品を完成品にして、かつ量産するために出来る限り時間が欲しかったのだ。そんな状態だったからか、トレーナーちゃん(さん)を放っておけないという理由で結局マヤノとフラワーは売り子募集に来てくれた。結果的に募集で集まったのはマヤノ、フラワーを除くと2人だけだったし、申し訳ない気しかしないけど即採用案件だった。
「で、君たちもやってくれるのかな?」
「うん!あの募集マヤちゃんのトレーナーさんだったんだね!私ハルウララ!頑張りま~す!」
「えっと…ライスシャワーです。ウララちゃんと一緒にお手伝いをします…!」
「ありがとう2人とも。今日はよろしくね」
残りの2人はハルウララとライスシャワー。マヤノを見ると頷いているので性格に問題はなし。採用しても大丈夫そうだ。
「じゃあ早速で悪いけど、あれに着替えてくれるかな」
「ん~?…おおーっ!なんかかわいい服だね!」
「…ふえ?あれってメイド服…ですよね?」
通販で購入しておいたフリーサイズのメイド服。数はそれなりに揃えてあるけど、4人とも小柄だからサイズが合うかどうかが心配だ。…が、なんかハルウララを除いて私を見る視線が冷たい。マヤノですら微妙な視線を投げてくるんだが…。私、何かやらかしちゃいましたか?
「うーん…。ああいうのがトレーナーちゃんの趣味なの?」
「メイド服のこと?配膳と衣装で調べたらあれが出てきたんだけど。もしかして違うの?」
「えっと…。たぶん違いはしないですけど…これはどうなんでしょう…?」
「…そういえばそういう人でしたねこの人」
「トレーナーちゃんはトレーナーちゃんだったもんね」
検索して出てきたのを適当に注文したことを伝えると、冷たかった視線がほっこりした視線に変わった。解せぬ。試着室などという便利なものは残念なことに無く、申し訳ないけど、とここで着替えてもらうことを伝えて私は部屋の外で待つことにした。しばらくすると、楽しそうな声が中から聞こえた。
「うわ~!この服かわいいけど、ぶかぶかだ~!」
「ライスにもちょっと大きすぎるかも…」
「マヤにはピッタリ☆フラワーちゃんは?」
「私にも大きすぎますね…」
だめみたいですね…。まあ何か問題起きても全ての責任は私が負うから問題ないか。
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「みんなお疲れ様。助かりました。無事完売です!」
「おつかれさま~☆」「お疲れ様でした」
「おつかれ~」「お疲れ様です…!」
結果から言ってしまうと、開始3時間で用意しておいたクッキー10万枚はすべて売り切れてしまった。20枚から30枚ぐらいで買う子が多く、そのままだとトレセン学園所属のウマ娘全員が買ったとしても余る。さすがに10万枚は用意しすぎたかと危惧していたが…。お昼時になって客足が遠のいた瞬間、残っている分を全部くれと札束で殴ってくる子が現れたのだ。
『い、いらっしゃいませ…!』
『すまない。ここで売っているクッキーの残りは、あとどのぐらいだろうか』
『はい、少々お待ちください。………えっと、8万と5000枚です』
『そうか。…ならこれで足りるだろうか』
『………ふ、ふえええええっ!?』
『どうしたのライスさん!何か問題が…ってええええええ!?帯付きな諭吉の束が10個!?』
『ふむ…足りなかったか。ならまだ持ってくるが』
『違うよ!?というかそんなに出されても困っちゃう!トレーナーちゃん、みんながいっぱい食べられるようにって値段安くしてるから。えっと、半分にして75枚抜いてっと…はい、丁度頂戴しました!…フラワーちゃん!ウララちゃん!残ってるの全部持ってきて!!!』
『わかりました』『は~~い』
ということがあったのだ。儲けをあまり考えていない材料費ギリギリの値段設定だったので、廃棄処分にならずに済んでよかった。まあぶっちゃけ赤字でも全然問題ないし、余ったら余ったでマヤノが言っていた近所の幼稚園にでも寄付しようと考えてはいたが。マヤノとフラワーに、食堂に丸投げポイーするのは禁止されてしまったので。
「それじゃあ報酬の話をするね。マヤノとフラワーの分は後で渡すとして、ウララさんとライスさん『ねえねえ!』はい?」
報酬と受け渡しを説明しようとしたら、ハルウララが話しかけてきた。どうしたんだろう。
「応相談って書いてあったけど、それってこのクッキーとかにはできないのかな?」
「え、クッキーに変えたいの?お金じゃなくて?」
「うん!私ね、ライスちゃんが食堂のご飯の量が物足りない~って言ってたのを聞いて、これに応募したの!だから、たくさんクッキー欲しいな~って」
「ウララちゃん…!」
え、ええ子や…。トレセン学園所属のトレーナーとして、こういう良い子の期待には応えないといけないぞ。
「わかった。じゃあ年末の有馬記念の週まで、毎週クッキーを包んで届けるよ」
「やったー!」
毎週クッキー200枚ずつで1か月半。出血大サービスだけど、この子たちに投資するなら問題ないよね。
そんな罠に釣られクマックイーンさん。クッキーを買い占めたのは当然ながら、あの芦毛です。某スーパーなママに食べさせてもらって、皆幸せになったようです。