【本編完結】お菓子作りが得意なトレーナーと、無慈悲するマヤノトップガン 作:出遅れ系トレーナー
「トレーナーちゃん!あけましておめでとう!」
「トレーナーさん。新年あけましておめでとうございます」
「2人とも速いね。あけましておめでとう」
日付が変わってすぐの私の自室に、マヤノとフラワーが訪ねてきた。本来なら深夜の外出は固く禁じられているが、そこは理事長。特別に許可を出してくれたそうだ。去年は日の出前に行ったのに混んでたからね。マヤノぷんすこ事件から日も経ってないから、悪質なパパラッチを警戒しての判断とのこと。話がわかりすぎる。
「あれ?デジタルは?一緒に来るって聞いてたけど」
「デジタルちゃんならひょええええ!だの、ほわああああ!だの言ってたからちょっと遅れるよ」
「つまりいつものです。私たちも着物でビシッ!とキメるのはお正月だけですからね。よきみ!尊み!マイ女神ぃ〜!!!も今日だけは仕方ないかなって」
なるほどいつものだった。アレはもう死んでも治らないだろうね。だってあの子何度尊死しても自力で蘇生するのに、一向に治る気配がないし。
「というかさ、マヤたちはデジタルちゃんの性癖を知ってるから良いけど、本来は人の着物姿見て発狂した挙句気絶ってものすごく失礼だよね」
「…確かに女の子がせっかく着飾ったのに、奇声を上げて倒れられたら腹立ちそうだなあ」
デジタルが特殊すぎるっちゃ特殊すぎるけど。乙名史記者も似たようなことしてたりして。…流石にそれは無いか。
「で?トレーナーちゃんは何か言うこと無いの?」
「着物のこと?去年とは微妙に意匠が違ってて、マヤノのは胸元の向日葵が大きくなって、フラワーのは腰回りの雛菊の色が濃くなった、とかそういうやつ?2人ともよく似合っててかわいいよ」
「……はわわわわっ!?」
「…よく見てますね。正解です。気づかないかと思ってました」
これでもトレーナーだからね。細かい事には目を向けているのさ、はっはっは!…さっきからマヤノから反応が無くなってしまったが、どうしたんだろう。手をつないで歩き始めたらちゃんとついてくるので、一応大丈夫なのかな?
「ま、待ってくださ〜い。デジたんをお忘れですかぁ〜?」
「お。ようやくデジタルも来たな。あけましておめでとう」
「あけましておめでとうございますトレーナーさん」
遅れているデジタルをトレセン学園の校門前で待っていたら、無事合流できたので、4人で連れ立って神社へと向かった。神社での話は、今年は特に何か起きたわけでもないので割愛。なお引いたおみくじはマヤノとフラワーが大吉、デジタルが吉、私だけ凶だった。なしてや!
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「トレーナーちゃ〜ん!たすけてぇ〜!」
「どうした急に」
翌日のこと。今月のおやつのメニューを何にするかを考えていたところに、慌てたマヤノが私の自室に飛び込んできた。やけに大きな袋を抱えているが、何だそれは。
「ねえねえトレーナーちゃん!お餅をいっぱい消費することって出来ない?」
「餅?」
「そう!ほらこれ!パパがいっぱい送ってくれたんだけど、どう考えても送りすぎ!でも、送り返すのも悪いかな〜って思ってさ」
「なるほど。それでここに来たと」
マヤノが抱えていた袋には大量の切り餅が入っていた。確かにこれは学生1人で消化しようとすると大変だろう。こんなに大量に送るマヤノのお父さんも何を考えていたんだろう。娘の喜ぶ顔を想像して嬉しくなっちゃったとかそういう?でもその気持ちはすごくわかる。
「うん!だからトレーナーちゃん、何か作ってくれない?」
「そうだなあ…」
餅は定番の餡子やきな粉をまぶしてもいいし、お雑煮にしてもおいしく食べられるが…。
「やっぱり大福かね。レンジで温めると柔らかくなって形が変えられるし。ちょっと季節外れだけど、いちごを乗せるとさらにおいしいよ」
「いちご大福!?おいしそう!…でもあれ?トレーナーちゃんって和菓子得意じゃなかったよね」
「…ふっふっふ。甘い、甘いよマヤノくん」
「ま、マヤノくん…?」
いつまでも洋菓子しか作れないトレーナーちゃんではないのだ!
「はいこれ。さっき試しに作ってみたんだけどさ」
「ん〜?…あっ、これこし餡だ!」
「せいか〜い」
「前の餡子よりおいしくなってる!すご〜い!」
「はっはっは!もっと褒めていいんだよ?どうやら粒あんにしたのが悪かったみたいでね。皮の変な味が全体に広がってたみたいなんだ。だから、全部の皮を取り除いてから餡にしたってわけ」
「なるほどー!でもマヤにはわかんない!」
「ズコー」
丁寧に皮取ったり、ムラが出ないように潰したりするのすごく大変だったのに…。
「まあいいや。とりあえず、いちご大福に必要なこし餡と餅はここにあるんで、残るはアクセントのいちごだけ。後で買いに行こう」
「お~!」
「ただし全部食べたら食べすぎだから、フラワーたちと相談してうちで食べる分だけ残して、残りは食堂の入り口にでも置いておこうかね」
きっと葦毛班が腐る前に何とかしてくれるだろ。困ったときの食堂ポイーである。
「えぇ…、またそのパターン?前に食堂ポイーはダメだって言わなかった?」
「寄付しようにも幼稚園児に餅はダメでしょ。万が一喉にでも詰まらせたら大問題だし」
「あ~…それもそうだね。なら仕方ないか」
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「こ、このやけにかぐわしい香りを放ちながら光輝いている大福…ものすごく既視感がありますわ!?」
「ま、またなんですか!?有馬記念出れなかったの、トレーナーさんにきつく叱られたばかりなんですけど!?」
食堂に設置されてしまった大量に山積みにされた大福トラップに、もはや当たり前のように引っかかる食いしん坊ズである。厳しい減量明けにまたしても仕掛けられた無慈悲なるデブ活トラップに、もはや正気を失う5秒前。
「今年はマヤノさんがレースに出走しないってことですので、この類の罠は置かれないだろうと安心しておりましたのにっ!…まさか別人!?こんな無慈悲なことをする人が他にも居るというんですの!?」
「いやー、居ないんじゃないの?この仕上がり方はあそこのトレーナーしか有り得ないでしょ。というかマックイーンのマヤノに対する偏見がすごい」
「だってそうでしょう!?春の天皇賞に始まり、宝塚記念、有馬記念…まともに走れたのジャパンカップしかないじゃありませんの!」
「全部自業自得じゃんか~(秋天を入れてないの地味にウケる)」
「おうマックイーン。食堂では静かにな。このゴルシちゃんがガムテープで口を塞がないといけなくなっちまうぜ」
「ぐぬぬ…!普段うるさいあなたに言われるなんて…屈辱ですわ…!!!」
「うう…私も大福食べたいですぅ…」
「くっ…耐えるのですメジロマックイーン。あなたはやればできる子です。それに今ここで大福を食べたら大阪杯はどうなってしまいますの?我慢の心はまだ残ってます。ここを耐えれば、レースに出られますのよ!」
減量明けなので必死に大福トラップに抵抗する食いしん坊ズ。メジロマックイーンに至っては自己暗示まで始める始末。しかしそんな横で、普通に大福に手を伸ばす影が。
「ねえねえライスちゃん!この大福、すごくおいし~よ!」
「そうだねウララちゃん」
ハルウララとライスシャワーである。ハロウィンパーティの後ぐらいから、ハルウララがライスシャワーの自主トレについて行けるようになったため、ここ最近の2人はずっと一緒に行動しているのだ。
「これきっとマヤちゃんのトレーナーさんのお手製だよね!きっと毎日こういうおいしいお菓子が食べられるんだろうな~。いいな~」
「ふふ、そうだね。でも、こうやって結構な頻度でおすそ分けが並ぶし…。ライスたちもおいしいお菓子が食べられて、すごく嬉しいね」
「うん!」
そうやってハルウララとライスシャワーは幸せそうに大福を食べていた。そして、そんなすこぶる幸せそうな光景を見せつけられた食いしん坊ズは……ついに発狂した。
「あああああああああ!!!なんなんですのこの仕打ち!?許されませんわ!?どうして私ばかりこんな目に遭わないといけないんですのおおおおお!!!???」
「こんな理不尽おかしいですっ!!!私だっておいしいお菓子食べたいですううううう!!!」
「(2人がパクパク食べ過ぎるのが悪いんじゃん…)」
「(お前らが際限なく食うからじゃないか…)」
メジロマックイーンとスペシャルウィークに鬼宿る日は近い…かもしれない。