【本編完結】お菓子作りが得意なトレーナーと、無慈悲するマヤノトップガン 作:出遅れ系トレーナー
『春の3冠を締め括る夢のグランプリ宝塚記念。あなたの夢、私の夢は叶うのか!阪神芝2200m、天気は晴れ、良バ場の発表です』
『今回のレースには、今年全レースを出走回避と意思表示していたマヤノトップガンが電撃参戦していますね。そのおかげか、大阪杯、春の天皇賞とは盛り上がり方が違うようにも感じますね』
『昨年のグランドスラム覇者が居るだけでやはり雰囲気が違うのでしょう。それでは出走するウマ娘たちを見ていきます。3番人気はこの子、ライスシャワー。今レース唯一のクラシック級ウマ娘です。皐月賞、そして日本ダービーを2着に入着したウマ娘が、シニア級ウマ娘の胸を借りにやってまいりました』
『珍しいですね。クラシック級のウマ娘は基本的に出走回避が相次ぐので、あまり票が入らないのが通例でありますが…。現に今年のクラシック2冠のミホノブルボン、ティアラ2冠のニシノフラワーは得票数は稼いでいたものの宝塚記念を回避しています。しかしライスシャワーはファン投票を勝ち残れたようですね』
『ええ。だってあの子小柄でかわいいですし』
『えっ』
『えっ』
『…発言に多少…かなり不適切な部分がありましたが…つ、次に参りましょう』
「へえ~。やっぱりミホノブルボンが日本ダービーを勝ってたのか。マヤノ以来2年ぶりに3冠ウマ娘の誕生かね」
「えぇ…。トレーナーさん、日本ダービーのレース映像見なかったんですか?」
「それがさ~。空き巣泥棒騒ぎがあったでしょ?そのせいで忙しくて見れてないんだよ。こっちが被害者なのに何故か始末書書かされるし…まあ今年のダービーはあまり興味なかったのもある」
「に、日本ダービーに興味が薄いって…毎度のことですけど、トレーナーさんは本当にトレーナーなんですか…?」
「何言ってるんですかフラワーさん」
フラワーに呆れられた目を向けられてしまったが…仕方ないじゃない、忙しかったんだから。でもデジタルが援護してくれるようだ。頼むぞデジタル!
「パティシエさんですよ」
「それはそうですけど…」
「ズコー」
援護じゃないんかい!というか君たちさあ…。とか思ってたら出走ウマ娘の紹介が終わってた。マヤノの分聞き逃しちゃったんだけど!?
『私の夢はスペシャルウィークです』
「「「つまりスペシャルウィーク(さん)は掲示板にすら載れないと」」」
そしてこれから宝塚記念が始まろうという時に実況から盛大なネタバレを食らった。が、フラワーもデジタルもそうなのだから、観客全員がそうなんだろう。パドックのスペシャルウィークの顔が一瞬だがものすごく歪んだぞ…。
「しかしマヤノが自分からレースに出るっていうとはなあ。今年はレースに出ないでトレーナーちゃんと遊ぶの~~~って散々言ってたのに」
「すごく久しぶりにあんなに真剣にトレーニングしてるマヤノさんを見ました。並走にも気合が入りすぎてて…。正直ちょっと怖かったです…」
「そうだよねぇ」
マヤノがオーラを纏いながらフラワーと並走してたのは記憶に新しい。お菓子の差し入れの時にトレーニングをちょっとだけ見学させてもらったが、始まって1分でフラワーがスタミナ切れに追い込まれていた。その時はトレーニング中に同じチームメンバーに向かってプレッシャー投げまくってどうするのさ?と思ったものだ。
「おやおや~?トレーナーさん、もしかしてちょっと寂しがってます?」
そんなことを考えていたからか、デジタルに煽られてしまった。もちろんそれも多少はあるけど、それよりも大事なことがあるんだよね。
「いいや?むしろ久しぶりに全力でマヤノへの勝負スイーツ作れてすごく楽しかったよ。ここ最近はフラワーへのスイーツしか作れてなかったからね。もちろんそちらも手を抜くなんてことはしなかったけどさ、やっぱりマヤノへのスイーツは別格なんだよね」
「うっ、ラブコメの波動に当てられて意識ががが。やっぱりダメだこのトレーナー、マヤノさんのこと好きすぎ…ってあれ!?そういえばデジたんのメイクデビューのお話はどこに行ってしまわれたのでしょうか!?」
「え?前から言ってた通り萌えパワーなんちゃら言って最後方から全員ぶち抜いたあれのこと?」
「そうですよ!デジたんがかっこよかったとかそういうのは!?」
「そんなものはない」
「しょ、しょんな……よよよ~」
「ちょっと2人とも静かにしてください。もうレースが始まりますよ」
『ゲートイン完了……スタートしました!』
『先行はスペシャルウィーク、メジロマックイーン、トウカイテイオー。なんとスペシャルウィーク、先頭に立つのか』
『1番人気のマヤノトップガンは少し後方に位置取りましたね』
、
今日もマヤノは逃げずに中団後方に控えるようだ。ライスシャワーはその後ろ、ぴったりマヤノをマークしている。スペシャルウィークは逃げ…か?
「マヤノは今年は逃げないのね」
「逃げだとプレッシャーをぶつけられないそうですので」
「最初から最後まで速度を落とさず全力で逃げ切るのと、後方からプレッシャーかけまくって終盤でバテたところを直線一気するのは、どちらがより酷いんでしょうかねぇ」
「領域使うなら後方から、使わないなら逃げとか?」
「まるで逃げが舐めプみたいな発言は控えてくださいよ」
『スペシャルウィーク逃げる!やはりスペシャルウィーク!今日のスペシャルウィークはターボエンジン全開だ!』
『マヤノトップガンはまだ後方5番目、ライスシャワーはそのすぐ後ろ!向こう正面を回って3コーナーへ』
『しかしここで上がってくるマヤノトップガン!ロングスパートはお手の物か!ライスシャワーも負けじとすぐ後ろにぴったりと張り付いて、こちらも上がってくる!』
『さあ最終コーナーだ。マヤノトップガンがぐんぐんぐんぐん伸びてくる!ライスシャワー追走!だが先頭のスペシャルウィークはすでに最終直線に入ろうとしている!メジロマックイーンとトウカイテイオーがその後ろを追走!』
「おいおいこれ間に合うのか?」
「余裕で間に合うと思いますよ。確かにスペシャルウィークさんは差を開いて先頭にはいますけど、全然伸びていませんし、他のスピカのメンバーもなんだか末脚が鈍ってますね」
「というかデジたん的にはマヤノさんが領域を展開していないのが気になります。普段なら最終コーナー追い抜きで展開させていましたのに」
「「あ」」
デジタルに言われて気付いたが、確かに今日のマヤノは領域を展開しなかった。勝負服は相変わらずのウェディングドレスなのに。そう思っていたら、ライスシャワーが最終直線に入った瞬間、青い薔薇の領域が展開された。
「…はは~ん。なるほど、これの対策ですか」
「こ、この領域は」
「フラワーの領域のパクリ?」
「違いますよ!?確かにお花をモチーフにしてますけど、これはもっと別の…」
『あなたの幸せと私の幸せを願って。この幸せの青い薔薇のように…ライスだって、咲いてみせる!』
薔薇の領域を展開したライスシャワーが急加速して前を走るマヤノに並んだ。並んだが、マヤノが譲らず粘っている。そうやって2人して競り合ってどんどん速度を上げていく。
『ライスシャワーだライスシャワーだ!マヤノトップガンと競りながらライスシャワーが伸びてくる!』
『チームスピカのメンバーは伸びが非常に苦しい!外からマヤノトップガンとライスシャワーが悠々と追い抜いてさあ残り200m!阪神名物の急坂が待っているぞ!』
『ライスシャワー抜け出した!このままゴールまで行ってしまうのか!クラシック級での宝塚記念制覇となるのか!』
「ああ、ライスさん惜しかったですね。領域を展開するのがちょっと速すぎでしたか。まあ距離的にも超長距離を得意とするライスさんと合ってないのはありますけども」
「…どゆこと?」
「マヤノさんの領域は最終コーナー追い抜きの他にもう1つあります。展開条件は最終コーナー以降での競り合いです。気になるようでしたら、後で直接マヤノさんから聞いてくださいね」
『マヤ、わかっちゃったの。負けたら全部終わりだって。だから…負けない。あんな思いは…もう2度としたくないから!』
デジタルの言うように、普段展開する青空の領域とは別の…夕陽の領域を展開したマヤノが、最後の急坂でグッと伸びた。
『残り100mでマヤノトップガンが差し返した!シニア級の意地を見せてマヤノトップガンが先頭に立ったぞ!ライスシャワーが懸命に追いすがるがこれは届かないか!マヤノトップガンが宝塚記念を制しました!』
『2着はライスシャワー!3着に入ったのは4番!』
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「ただいま~。えへへ~。マヤのだいしょ~り☆」
「お疲れマヤノ。おめでとう」
「ありがとうトレーナーちゃん!」
レースを終えたマヤノが控え室に戻ってきた。今日はだいぶ余裕があるみたいだ。最終直線でかなり競り合ったから、疲れているように思っていたけど…元気なのはいいことだね。
「しかし本当にスピカのメンバーが掲示板どころかブービーのワンツースリーか」
「最終直線で急失速するの恐ろしいですよね…」
「というか今日のアレは何があったんです?デジたん的には、あのメンバーがあそこまで急激に失速するようには思えないんですけども」
「ああ、アレはね~」
マヤノが言うには、ライスシャワーがマヤノをぴったりマークしてプレッシャーを掛けてきたので、それをそっくり上乗せしてチームスピカにぶつけたらしい。えげつねえ…。
「そんなことよく思いつきましたね。私との並走の時に何か掴んでたんです?」
「違うよ?ライスさんが出てくるのは想定外で、本来はマヤだけで叩き潰す予定だったの。だって…あの3人はマヤのケーキを食べちゃった犯人たちだったんだもん。素直に返してくれるなら許してあげたのにね。名前まで書いてあったのに食べちゃうんだもん、そりゃ容赦しないよねって」
えぇ…ケーキに名前書いてたのか。え?チョコで?そういえばトッピング用のチョコが1本なくなってたような…。ちょっとマヤノ、顔を逸らさないでくれる?うるうる目で私のこと見つめたって許さな…許します!
「まあ痕跡も綺麗に消して、証拠を1つも残してなかったからバレないと思ってたんだろうけど…ネイチャちゃん経由の情報でマヤわかっちゃったし。で、せっかく間近にグランプリレースがあるから、そこでボコボコにしようかなって。実はもう1人…というか主犯がいるんだけど、その人には別の方法が用意してあるんだよ。いつもうまく逃げてるみたいだけど、マヤからは逃げられないよ☆」
「な、なるほど…」
「食い物の恨みは恐ろしいってことですねえ…くわばらくわばら」
「ふふん☆」
「…でもですよ、マヤノさん。今度からは並走の時に私に八つ当たりするのはやめてくださいね。体力がすぐに尽きちゃってトレーニングにならないので」
「…ごめんなさい」
後日、縄に縛られて吊るされながら気絶しているゴールドシップが体育館裏の倉庫で発見された。その前日にデジタルが妙にツヤツヤしていたが…きっと関係ないだろうな。