【本編完結】お菓子作りが得意なトレーナーと、無慈悲するマヤノトップガン 作:出遅れ系トレーナー
「今日の勝利のお菓子は~……栗です!」
「マヤもびっくり!…なんちゃって☆」
「……なんだかものすごく寒いんですけど、9月って冬でしたっけ?夏合宿の疲れからか、3か月ぐらい寝過ごしちゃってて、実は今12月ってことはありません?」
「まだ夏が終わったばかりですよデジタルさん」
ついに食欲の秋到来。栗のおいしい季節である。放課後にいつものメンバーがチーム部屋に集まったので、今回のお菓子をお披露目するぞ。昨年はモンブランで勝負したが、今年はまた別のお菓子を用意したのだ。
「秋と言えば栗。ということで栗クリームのロールケーキを作ってみました」
「なるほど。私を含めて全員に対してキッチンを出禁にして何を作っているのかと思ってましたけど。モンブランじゃなくロールケーキにしたんですね」
「一応モンブランも作ってあるよ?ロールケーキよりそちらがいいならそっちを食べてもらって大丈夫。当然味は保証するし」
「ほうほう。でもあたしはロールケーキにしましょうかね。トレーナーさんの自信作、見せていただきましょうか?」
「私もロールケーキにします。切り分ければ食べたい量に調整できますし」
どうやら2人はロールケーキにするようだ。モンブランは冷凍保存か寄付か…どうしようかね。しかしさっきからマヤノからの反応が無いな。どうしたんだろう。
「トレーナーちゃん!タルトは!?」
「えっ!?た、タルト…!?」
「うん!マヤ、タルトがいい!」
ほうほう、栗のタルトか。…やばい作ってないぞ!?新作のロールケーキに気を取られすぎてて、マヤノがタルトをリクエストしそうなこと忘れてた…!ふんふんふ~ん☆とマヤノが冷蔵庫を探しているけど、無いものは無い…ッ!
「あれえ~!?なんでタルト無いの~!?」
「…あ、明日でよければ作っておくよ」
「が~ん。きょ、今日はもう帰るね……」
タルトが無くてしょんぼりなマヤノ。ロールケーキをちゃっかり手に持って、さっさと帰ってしまった。
「あっ…これはやっちゃいましたね。久しぶりにやる気の下がったマヤノさんを見ましたよ私」
「うん、完全にやらかしたよ。材料は買ってあったのに作るの忘れるとかほんとダメなやつ」
「あーあー。トレーナーさんがマヤノさんを泣かせた~~~」
「泣かせてないですけど!?」
「というかマヤノさんが普段からタルトタルト言ってたのに忘れるとか、トレーナーの風上にも置けないですねぇ!」
「うぐぐ…!デジタルさん今日は煽るねえ…!」
ぐうの音も出ない正論で叩くのはやめてくださいよ!
「甲斐性無しのトレーナーさんにはいい薬だと思いますよ。フラワーさんもそう思いません?」
「えっ!?…ま、まあ…そういうこともあるんじゃないでしょうか……?」
フラワーが目を逸らしながら必死に擁護しようとしてくれてるけど、擁護しきれてない!
「ぐぬぬ…。仕方ない、今から作るか。1個作るだけならそんなに時間かからないし」
「い、今からですか!?もうすぐ5時ですよ!?」
「まあ6時ぐらいには終わるんじゃない?栗東寮の門限ギリギリだけど、そこはまあ…うまくやるさ」
寮長のフジキセキとは面識あるし、マヤノへの差し入れぐらい許してくれるだろう。私が寮内に入らないなら大丈夫なはず。
「あー、もしもしポリスメン?栗東寮に不審な男性が」
「デジタルさん!?警察案件はやばいって!女子中学生の部屋に大の大人が不法侵入とかそんなことはないから!?」
「ふふふ、冗談ですよ。ほら、繋がってません」
ドヤ顔でスマホを見せつけてくるデジタル。お、驚かせやがって…!もう許さないからね。
「……デジタルのお菓子、1か月抜きだから」
「えっ?」
「デジタルは、お菓子1か月、抜きです」
「ええっ???」
何度聞き直しても同じです。それじゃ…マヤノご所望の栗のタルト、急いで作りましょうか。
「ちょっとトレーナーさん!?八つ当たりは卑怯じゃないでしょうか!デジたん、そういうのには断固として反対する所存ですぞ!」
「ふんふんふ~ん」
「か、完全無視…ッ!」
「(五十歩百歩ってこういうのを言うんでしょうね…)ほらデジタルさん、暗くなる前に帰りますよ」
「待ってくださいフラワーさん!このままではデジたんのスイーツが!ちょ、フラワーさん!?フラワーさ~ん!!!」
こうしてフラワーに引きずられるようにしてデジタルは退場させられたのだった。集中したいから助かる。あとでフラワーにはお礼を用意しないと。ちなみにお菓子抜きは冗談だけどね。
「よーし、完成だ。時間は…ギリギリ6時前!」
そして1時間後、なんとか栗のタルトを完成させた私は、栗東寮を訪れていた。インターホンを押すと、寮長であるフジキセキがやってきた。
「やあやあポニーちゃんのトレーナーさん。今日は何の御用かな?」
「こんばんはフジキセキ。突然で悪いんだけど、これをマヤノに届けてくれないか?」
「どれどれ…。なるほど、栗のタルトか。よくできている。これはどうしたんだい?」
「私がマヤノのために作ったんだよ。先ほど私のミスが原因で悲しませちゃってね…」
「ほうほう、それは大変だ。でも残念、それは無理な相談ということだね」
せっかく完成させたタルトはフジキセキによって不許可にされてしまった。
「な、なんでだい?」
「はっはっは。そりゃもちろん決まっているさ。そういう贈り物は、作った本人が直接渡さないと意味が無いからだよ」
「…はい?」
「私の権限で寮への立ち入りを許可してあげよう。だから、ポニーちゃんに直接渡すように」
「そ、そんな…。マヤノをここに呼んでもらうのは…?」
「キミはお詫びの品を渡すのに、相手を呼びつけるのかい?」
正論すぎて反論できない。もしかしなくともこのまま女子寮に入れってこと…!?
「うそでしょ…」
「スズカみたいなこと言ってもダメだよ。ポニーちゃんを元気にするのはキミの役目さ。ほらほら、早く届けないと他のポニーちゃんに通報とかされちゃうかもしれないよ」
「くっ…!」
フジキセキに煽られるようにして私は教えられた部屋を訪ねた。部屋をノックすると、マヤノの声が聞こえてきた。
「はーい、どちら様…ってトレーナーちゃん!?ど、どしたの!?」
「いやあ、それはだね…」
「と、とにかく中に入って!他の子に見つかっちゃう!テイオーちゃん、しばらく出かけてて帰ってこないから中に入ってもだいじょぶだし!」
そうしてマヤノに引き込まれるようにして中へ。女の子の部屋に入るのって初めてなんだけど…。そうやって辺りをキョロキョロしていたからか、マヤノに怒られてしまった。
「……トレーナーちゃん。女の子の部屋をじろじろ見るのはルール違反だよ?」
「ご、ごめん!」
「まったく…。それで?こんな時間にどしたの?部屋はフジ先輩が教えてくれたんだろうけど」
仕方ないなあという顔でマヤノが要件を尋ねてきたので、私は用意していたタルトを取り出してマヤノに渡した。
「はいこれ。マヤノご所望のタルトだよ」
「えっ、タルト?トレーナーちゃん、わざわざ作ってくれたの?」
「そうだよ。用意するの忘れててごめんね」
タルトを渡されたマヤノはすごく嬉しそうに微笑んだ。突貫だったけど、作ってよかったな。
「…えへへ。嬉しいな~。でもトレーナーちゃんが食べさせてくれたら、マヤ、もっと嬉しいな~って」
「お望み通りに、お姫様」
お望みどおりにあ~んして食べさせてあげると、マヤノはすっかり元気を取り戻したようだ。元気になってくれてよかったよ。…しかし、私の記憶はここで途切れてしまっている。どうやって部屋に帰ったかも覚えていない。朝目が覚めたらちゃんと布団の上に寝ていたんだけど、何故か身体の節々が痛いし。ほんとなんでなんだろう…。
──────────
トレーナーちゃんがマヤにタルトを届けに来てくれた後、2人きりでしばらく雑談していたら、7時のチャイムが鳴ってしまった。あ~あ、残念だけど今日はここまでかな。ずっと2人で居たいけど、マヤもお風呂に行かなきゃいけないもん。臭う~とか言われたら2度と立ち直れないし。…お風呂に入ってる間はマヤの部屋で待たせちゃって、今夜はそのまま一緒に寝てもいいんだけども。
「あっ、もうこんな時間。そろそろトレーナーちゃんは帰らないとまずい…よね?」
「そもそもフジキセキに許可を取ってあるとはいえ女子寮に男がいること自体がまずいんだけどね。誰かに見つからないうちに今日は帰るとするよ」
「なら出口まで送ってあげるね。マヤと一緒に居れば、誰かに見つかってもフジ先輩に許可取ってあるんだ~ってわかるだろうし」
「ありがとう、助かるよ」
まあ普通に帰るよね。ということで、マヤの見送りでトレーナーちゃんは帰るとこになった。しかし、物事が上手くいくときには、大体別の場所で上手くいかない状況になるものだよね…。要するに、出口に向かっているときに問題が起きちゃったの。曲がり角でトレーナーちゃんが誰かにぶつかってしまったみたい。しかもぶつかった拍子に相手の子とトレーナーちゃんが両方とも弾き飛ばされて、倒れるトレーナーちゃんの上に何かが乗っかって…。
「ぬわっ!?」
「あうっ!?…いたた。ごめんなさい、よく見てな…く…て…」
「だいじょぶトレーナーちゃん!?」
「私は大丈夫だよマヤノ。君も…ってフラワーじゃない。ぶつかっちゃってごめんね」
トレーナーちゃんがぶつかってしまったのはフラワーちゃんだった。タオルの入ったカゴを持っているので、マヤと同じようにこれから入浴なんだね。
「…ところで何が頭の上に乗っかって……あ゛っ」
「うわっ…」
「……」
トレーナーちゃんはもちろん、マヤの顔も蒼白になっていくのが自分でもわかる。トレーナーちゃんが頭の上に乗っかったものを手に取って握っていたのは、ぶつかった拍子にカゴから吹っ飛んだであろう、フラワーちゃんの下着だったのだ。こ、これは詰んだっぽい!?
「あ、あはは…。ピンクの生地に赤いリボン付きか。すごくかわいいね」
「……」
と、トレーナーちゃんのばか!そういうのはもっと他に言い方が…!俯いていたフラワーちゃんが顔を上げたとき、それはもうものすごい笑顔だった。
「……反省してください♡」
そして笑顔のフラワーちゃんにボッコボコにされたトレーナーちゃんは、ボロ雑巾のように寮外に捨てられてしまった。
「もうっ…えっちなんですからまったく」
「あっはっは。フラワーは災難だったね。マヤノは、今後はちゃんとトレーナーさんの手綱を握ってないとダメだよ?」
「……フジ先輩、少しお話があります」
「おっとすまない、私は用事を思い出したのでこれにて失礼させてもらうよ」
一部始終を見ていたであろうフジ先輩は、フラワーちゃんの怒りの矛先が向けられるや否やさっさと逃げ出した。トレーナーちゃんにもこれぐらいの強かさがあればまだ助かったかもしれないけど。マヤも急いでトレーナーちゃんをトレーナーちゃんのお部屋に運ばなきゃ。
「マヤノさんも後でお話があります」
「…はい」
なおトレーナーちゃんが気絶していたので、その看病をすると言って一緒に寝る口実を得ていたことに気づいたのは、フラワーちゃんの説教が始まって30分経った後だった…。
なおフラワーのお説教は2時間続きました。