【本編完結】お菓子作りが得意なトレーナーと、無慈悲するマヤノトップガン 作:出遅れ系トレーナー
「おかしいですわね。私の目には懐かしきスイーツ☆トラップが仕掛けられているように見えますわ?」
「奇遇ですねマックイーンさん。私の目にも見えます」
月末に有馬記念を控えた12月上旬、チームスピカの面々は各々のトレーニングを終えて夕食を摂りに食堂までやってきた。しかし、その食堂の入り口横には『ご自由にお持ち帰りください』と書かれた貼り紙。そしてその張り紙の下に、無駄に光り輝くみかんのタルトがドライアイスを添えられて山積みにされていたのだった。
「またあの頭がお菓子なトレーナーの仕業ですわね……。毎度毎度やることが同じですけど、いい加減飽きないんですの?」
「いや引っかかるマックイーンもマックイーンでしょ」
「ちょっとテイオーさん!?あなたどちらの味方なんですの!?」
「あ、あはは……」
スイーツを前にして早くも正気を失いかけてまくし立てるメジロマックイーンに対し、痛烈なツッコミを入れるトウカイテイオー。そんな2人を横目にスペシャルウィークは苦笑を浮かべるしかない。
「あむっ……。けどこれ普通に美味いぜ?なあ、スカーレットも食ってみろよ」
「アンタねえ……。レースに勝つにはコンディションが大事なの。余計なカロリーは厳禁よ」
「はっ!そんなこと言ってるからオレに負け越すんだよ。今日はオレの圧勝だったしな」
「は?誰がアンタに負け越したですって?アタシが勝ち越してるに決まってるでしょ」
「はぁ!?」「何よ!?」
「まあまあ2人とも。というか、私が見てた限り6勝6敗で引き分けでしたよ」
「「ぐぬぬ……」」
つまみ食いするウオッカと呆れるダイワスカーレット。彼女たちはようやく本格的にトレーニングに合流し、今日も仲良く(?)喧嘩していた。チームをまとめるスペシャルウィークとしては、喧嘩はほどほどにして欲しいところである。
「それよりですけど、今回も有馬記念に出走する私たちへのトラップなんでしょうか」
「わかりませんわ。ですが、こんな簡単な罠に引っかかるほど私たちは甘くありませんのよ」
「なるほどー!お菓子だけに甘くn……うぎゃああッー!目がああああッー!」
ゴールドシップが後ろからメジロマックイーンを煽ると、煽られた彼女はティーカップに入った紅茶を何処かから取り出し、後ろも見ずにひっくり返す。そしてそれは見事ゴールドシップの目に直撃し、ゴールドシップは熱さやら痛さやらで転げ回ってしまった。
「何をやってるんですかゴールドシップさん……」
「ゴルシがこうなるのなんていつも通りでしょ。さ、早くご飯食べようよ、ボクもうお腹ペコペコ〜」
しかし、いつも通りだと放置されるゴールドシップなのであった。
「ちょ、お前ら酷くね!?お、お~い!あたしを放置していくなよ〜っ!」
若干涙目の彼女は、慌ててチームメイトを追って食堂へ入っていく。今年はスイーツ☆トラップに引っかかることは無さそうだ。
さて問題のみかんタルトだが、ここに並べられたのは今から1時間ほど前のことである。
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「むふふ~。みかんが美味しいですねえ。やはり炬燵にみかん。至福の時ですよ」
時は戻って当日の朝、アグネスデジタルはチーム部屋に持ち込んだ炬燵でみかんの皮を剥いていた。トレーナーはキッチンで有馬記念用のケーキを作っているので、炬燵は独り占め。寝そべってゴロゴロタイムだ。
「……デジタルって今は授業中じゃないの?マヤノやフラワーは授業中で居ないじゃないか」
「テストで満点取れば8割ぐらい出席しておけば問題ないんですよ。ただフラワーさんは優等生さんなので皆勤賞ですし、マヤノさんは……まあ色々あって出席日数がギリギリなので、仕方なく出てるわけですね」
本来なら授業中なのに、授業に出ずに炬燵でぬくぬくしているデジタルを見て心配するトレーナーだが、デジタルはあっけらかんとして答えた。
「マヤノは何やってるんだ……」
他人事のように言うトレーナーに、お前のせいだよ!と思いつつもそれを口にせずデジタルは生暖かい目で見る。マヤノがトレーナーのことを本気で好いていることはチーム内では周知の事実だが、肝心のトレーナーがヘタレで朴念仁のため、マヤノが結婚できる年齢になり、彼女の方が我慢出来ずに手を出すまで進展はないだろうとデジタルは確信している。そしてマヤノとトレーナーがくっつくその時まで、のんびりと経過観察を楽しむつもりだ。
「ところでデジたんは来週朝日杯FSなんですよ」
「どうした急に。というか来週デジタルは朝日杯に出走なのか。……えっ!?来週出走!?」
「だいぶ前に出走予定とは言いましたけど、優先出走権で通ったのは言ってませんでしたか」
フラワーがエリザベス女王杯を制した少し前、デジタルはデイリー杯ジュニアステークスを勝利し、朝日杯への出走を確実なものとしていた。本来であれば優勝賞金の1割がトレーナーの口座に振り込まれるのですぐに気づけるはずだったのだが、トレーナーの浪費が激しいことを問題視しているフラワーによってキャッシュカードが没収されてしまっているため、それに気づけずにいたのだ。
そもそもの段階でレース出走にはトレーナーの許可が必要なのだが、これまたマヤノによって印鑑が持ち出されているため、そこでも知ることができずにいた。
「参ったな。出走用の勝負スイーツ作ってないし、作る時間もほとんど無いんだけど」
「同世代のウマ娘ちゃんは相手にならないから問題ないですよ。まあ、シニア級の先輩方とレースするとなると厳しいですけどね」
「……うちのメンバーの自信がどこから来ているのか全く理解できない。けど、実績見てしまうと反論できないのが困るんだよなあ。何かコツとかあるの?」
「ふっふっふ、それは秘密です。まあ勝負スイーツ云々はトレーナーさんにお任せしますので、あるもので作っていただければ」
「う~ん……」
トレーナーが頭を悩ませているのを眺めながら、デジタルはみかん美味しいですね~と炬燵で丸くなってしまった。そう、お菓子狂いのトレーナーを放置して寝てしまったのである。
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「は〜しんどい〜。レース出るならトレーニングそこそこ真面目にやらないとだからトレーナーちゃんとの時間取りづらいし、かといってレース出ないなら授業受けないとだから面倒くさすぎるよ〜!」
お昼休み、マヤノとフラワーは教室で一緒に昼食を摂っていた。マヤノも自炊は出来るが、フラワーの方が圧倒的に上手に作るので、そのご相伴に預かる形だ。おかずを箸でつつきながら愚痴をこぼすマヤノに、フラワーは苦笑気味ではあるが。
「マヤノさんはブレませんね」
「ふっふっふ〜。当然だよ!マヤは大人な恋に生きてるんだもん!あっ、この卵焼き美味しい」
前後の会話が若干繋がっていないが、話しながらもマヤノが美味しそうにご飯を食べるのを見て、フラワーは嬉しく思っていた。
「……ところでいつも疑問に思ってたんですけど、授業中は先生に言われた問題にすぐ答えられるのに、どうしてテストの点は赤点ギリギリなんですか?」
フラワーは前々から思っていた疑問をマヤノに投げかける。マヤノがトレーナーのことを考えてぼーっとしていて、それを見咎めた教師から突然問題を投げられたときでも、彼女は即答かつ正解している。フラワーからしてみれば、そこまで勉強ができるのにテストの時だけダメになるとは考えられないからだ。
「だって途中式が無いのは減点減点だーって。答えは合ってるんだけど、減点パパのせいでいっつも半分ぐらいしか点貰えないんだもん。答えだけ書けばいい問題ばっかりなら、もっと点取れるんだけどね?」
「いつものマヤわかっちゃった!ですか」
「そゆこと〜。まあマヤたちウマ娘はテストの点なんかよりレースの結果が大事だからね〜。いざとなったらトレーナーちゃん攫って既成事実作って結婚しちゃえばいいし?学歴なんてただの飾りだよ!」
「発想が危険人物のソレです!?」
こうして駄弁っているうちにお昼休みは過ぎていってしまった。
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「……あれ、寝ちゃってましたか。ふああ……。炬燵の魔力は無限大だから仕方ないですね、って何ですかこれはぁ!?」
お昼寝から目覚め、振り返ったデジタルの前には、山積みにされたみかんのタルトが。よく見ると、どれもこれも飴細工でコーティングされていて、無駄に手間が掛かっているのがわかってしまった。
「トレーナーさん!?デジたんが気持ちよくお昼寝してる間にまたやっちゃったんですか!?」
「またとは失礼な。そもそも何もやらかしてなんていな……あれ?このタルトの山は何だろう?」
「自分で作ったのでは!?」
すっとぼけるトレーナーに、流石のデジタルもただただ驚くばかりである。
「おかしいな。でも小麦とみかんと牛乳の在庫が知らない間に減ってるし……?もしかしてまた何かやっちゃった?」
「うそでしょ……」
トレーナーが本気でボケているのを理解できたデジタルは、この場をどう乗り切るかを考え始めるしかない。このままでは朝日杯出走のサプライズ告知及び監督責任放棄の件で、マヤノはともかくフラワーからお説教を受けること間違いなしだ。しかし寝起きだったためか良案は一切浮かんで来ず、その結論に達するまで無駄に時間を要してしまった。
「うーん考えたけど思いつきません!そして時間もない!こういう時こそ困った時の食堂ポイです。善は急げ、すぐに運び出して隠しましょう」
「何を隠すのかな、デジタルちゃん?」
「それはもちろんこの大量のタルt……ひょええええっ!?ま、マヤノさん!?……げえっ!フラワーさんまで!?」
「げえっ!って何ですか!?私、そんなリアクションされたの初めてですっ!」
ということで、デジタルが困った時の最終案を使おうとするも、時すでに時間切れ。マヤノとフラワーがチーム部屋に揃ってしまい、隠すことが出来ずにタルトの山を見られてしまった。当然、見られてしまえば誤魔化そうにもマヤノは事情をわかってしまうため、完全に詰みである。ニッコニコの笑顔のフラワーを見て、デジタルは己の迂闊さを嘆くしかなかった。
「トレーナーさん。デジタルさん」
「「はい」」
「正座してください♡」
「「はい……」」
そうしてフラワーのお説教は夕食の時間まで続く。その間の飛び火を恐れたマヤノは、タルトを食堂に置いたのだった。
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「へっ!どうしたスカーレット!今日は本当にオレの圧勝だな!」
「どういうことなの……!このアタシが全敗だなんて……。こんなの絶対おかしいわ!アンタまさか、アタシに勝ちたいからって変な薬でもやってるんじゃないでしょうね!?」
「オレがドーピングなんてするわけねーだろ!これがオレの実力だってことだぜ!」
翌日、トレーニングでの並走でダイワスカーレットはウオッカに全敗していた。普段からこの2人は競い合ってはいるが成績は5分5分、差はそこまで出ていなかった。そのため、休憩中のメジロマックイーンやスペシャルウィークも頭を捻るばかりである。
「でもおかしいですわね。ここまで差が出ることなんて無かったですけど」
「そうですね。2人とも競って同じトレーニングをしてましたし、食事も同じものを頼んでました。違うとすると昨日のスイーツ☆トラップのつまみ食い……ん?」
「「それだあああっ!!」」
「ひえっ!?」
なんとなくスペシャルウィークが呟いたひとことで、ライバル2人は食堂へと駆け出した。スイーツ頼みだとしてもお互いに負けるのはやはり不快で、勝負にはこだわりたいらしい。
「あーあ。ボク知〜らないっと。トレーナーにはスペちゃんが煽ったって言うからね〜?」
「ええっ!?」
「地獄のダイエット……。うっ、頭が……」
その後、デブったウマ娘が2人いたそうだが、マヤノたちは知らぬ存ぜぬで通したのだった。