【本編完結】お菓子作りが得意なトレーナーと、無慈悲するマヤノトップガン   作:出遅れ系トレーナー

49 / 56
飛び立つマヤノトップガン

「サトノ家から新作VRウマレーターねえ?」

 

 

新聞に挟まっていた広告には、VRゴーグルを持ったサトノダイヤモンドの写真がでかでかと掲載されていた。しかし、何故か水着姿。そしてどう考えても真下から見上げるアングルで撮られていて、太ももがむちむちである。この会社では毎度のことではあるが、こんなアングルで撮られた写真を掲載されたサトノダイヤモンドは、はたして恥ずかしくないのだろうか?

 

 

「ええっと、なんでしたっけ?確か、3女神様をVR空間にAIで再現して、その空間内でトレーニングをすることによって、現実でのトレーニング効率を高める……でしたか」

「そう書いてあるね」

 

 

新世代の技術、ここに爆誕!とは強く出た広告だと思う。値段は……なるほど。重賞勝ってる子がいるチームなら導入出来る設定か。

 

 

「確かにサトノ家のVR技術はすごいけどさ~?いくら仮想空間でトレーニングしたところで、現実の身体はそれについていかないから意味ないんだもん。それってめんどくさくない?」

「右に同じく、デジたんもVRには興味ないですね。やはり、観察するならリアルなウマ娘ちゃんがイイんですよねぐふふ」

「誰もそんなこと聞いてないよデジタルちゃん……」

 

 

マヤノもデジタルもサトノ家の技術はすごいが、それには意味がないってバッサリ。

 

 

「あはは……。確かにマヤノさんたちの言う通りです。今のところ、これを利用するのであれば、勉強ぐらいしか思いつかないですね」

「勉強か~。マヤ、テストで満点しか取ったことないし?全科目評価SS間違いなしだから安心なんだよね☆」

「えっと……マヤノさんは出席日数が足りていませんので、それは無理かと……。この前も脱走したとかで怒られてませんでしたか?」

「テストで満点ならいいと思うけどな~?」

「いやダメだろ」

「ぶーぶー!」

「まあそもそもゲームで遊んでトレーニングが出来たら苦労しないんですけどね~」

「おっしゃる通りで」

 

 

こうして最新VR技術は大した話題にもならず終わってしまったのだった。

 

 

「あ、そうだトレーナーちゃん」

「どしたのさマヤノ」

「マヤ、ちょっとフランス行って凱旋門賞取ってくるからね」

「は?」「えっ?」「なんですと!?」

 

 

と思ったらマヤノがとんでもないことを言い出した。凱旋門賞といえば、日本のウマ娘たちが幾度となく挑み、そして返り討ちに遭っている曰く付きのレースである。マヤノも出走の打診を受けたことはあるらしいが、遠征が面倒だからパスと断ってきたそうで。というか日付は……今週末!?

 

 

「ま、マヤノさん?正気ですか?洋芝やフォルスストレート問題はともかく、時差ボケだとか、食事だとか、長距離移動だとか……それはもう問題が色々山積みかと思うんですけど」

「正気かとは失礼な。マヤはちゃ~んと考えてるよ。時差ボケは飛行機の中でトレーナーちゃんに膝枕してもらいながら寝れば良いし、食べ物はトレーナーちゃんにお弁当作ってもらうもん」

「全部トレーナーさん任せじゃないですか!?」

 

 

マヤノさん、まさかの全部私任せ!というかお弁当はともかく膝枕って……。と思っていたらマヤノがこっちに来た。

 

 

「いいよね、トレーナーちゃん?お願い!」

「任せておきなさい」

 

 

可愛く上目遣いでおねだりされて、断る術は無かった。にんげんだもの。

 

 

「あ、あはは……トレーナーさん大忙しですね。でも一朝一夕で時差ボケは治らないと思いますけど」

「そもそも出走登録が……してあるんですね」

「そゆこと~。トゥインクルシリーズは今年で引退するし、貰えるものは貰いに行かないとね」

 

 

デジタルが凱旋門賞のニュース画面を出したウマホを見せてきた。本当に出走登録してある……。これもしかしなくとも追加登録料払った上で学園にも黙って勝手に出走登録したのかな。

 

 

「あ、フラワーちゃんの応援したいから、凱旋門勝ったら日本にすぐにとんぼ返りするからね、トレーナーちゃん。ということでフラワーちゃんは安心して待っててね」

「……私も調整はしたいですし、仕方ないですね。マヤノさん、日本から応援していますっ!頑張ってきてくださいっ!」

 

 

こうして急遽マヤノの凱旋門賞の出走のためにフランスへと飛ぶことになった。

 

 

 

──────────

 

 

 

「うーん……。久々にフランスに来たけど、洋芝は無駄に重いから好きになれないな~」

「もっと短く刈り込むべきですよねぇ」

「ふああ……あれ、マヤノって海外で走ったことあるんだ。海外には興味無さそうだったのに意外だね?」

 

 

あくびを噛み殺して2人についていく。まさか本当に飛行機内でずっと頭なでながらの膝枕を強要されるとは思わなかったよ。デジタルは横でニヤニヤしながら熟睡してたし。おかげさまでマヤノはツヤツヤ元気溌剌、こっちはゲッソリ寝不足……。

 

 

「ふっふっふ。まあ、そういうこともあるんだよ☆」

「そういうことです」

「どういうことなの……?」

 

 

結局最終調整をするフラワーを日本に残し、デジタルと一緒にマヤノの凱旋門賞へと前々日にフランスに入り。出発前に学園内でたまたま会った理事長に、

 

 

『驚愕ッ!?まだ日本に居るのかッ!?凱旋門賞は過酷なレースッ!調整もせずにフランスに飛んで、マヤノくんの調子が悪くなったらどうするのかねッ!?』

 

 

と散々な言われよう。がしかし、

 

 

『マヤがまだ日本に居たいって言ってるのに何が悪いの!?トレーナーちゃんをいぢめるなら、相手がやよいちゃんでも怒るよ!!』

『す、すまない……(既にカンカンではないか!?)』『ひょえええええっ!?』

 

 

と撃沈させられていた。そしてよく聞く奇声が窓の外から聞こえた。何やってたんだよデジタル……。

 

 

「まあ見ててよトレーナーちゃん。マヤ、カッコイイ……?かはわからないけど、トロフィー持って帰ってくるからね」

「最高の栄誉の扱いが雑すぎる……」

 

 

そうしていつものように過ごして迎えた凱旋門賞当日。ロンシャンレース場では、マヤノを含めた20人のウマ娘たちが、次々とゲート入りしていく。理事長からは日本のウマ娘はフランスに飛ぶと調子を崩しがちって聞いていたけど、パドックでもマヤノは絶好調だったし、安心していられるな。

 

 

「1番人気が前年度覇者のモンジューさん。2番人気がヴェニュスパークさん。3番人気がリガントーナさん。そして我らがマヤノさんは4番人気ですか」

「その順位は高いの?低いの?」

 

 

マヤノが1番人気じゃないのってスピカの面々が出走するレースで多かったから、人気薄でもそれが普通になってるんだよね。日本だと人気と勝率は比例しないからなあ。かなり前の話だけど、負け続けてた時のハルウララが、何故かいつも3番人気以上だったし。

 

 

「海外初挑戦で4番人気は高い方ですよ。ま、あたしはマヤノさんの単勝に今回のお小遣い全ツッパしましたが。当たり前ですよねえ?」

「え!?もしマヤノが事故ったら帰りどうするのさ?私のカード、フラワーに取り上げられたまま返してもらってないから、帰りの飛行機代立て替えて出せないんだけど!?」

「ふっふっふ。そんなことは地球が逆回転するレベルでありえないので、大丈夫ですよ。いやぁ、日本と違って海外では直接グッズ購入資金を増やせますので助かります。もう何も怖くありません!」

「それ負けフラグだから!」

 

 

『スタートしました!』

 

 

と言っている間にゲートが開いて総勢20人のウマ娘がゲートを飛び出した。マヤノは中団でモンジューをマークしているな。ヴェニュスパークはそのやや前方、リガントーナは最後尾か。

 

 

「……今日のマヤノさん、久しぶりに本気出してますね。衣装も花嫁ドレスじゃなかったですし。流石のデジたんでも、あの様子のマヤノさんにはちょっと近づきたくないです。というか近づけないです」

「……ちょっと怖いもんね」

「……はい」

 

 

デジタルが言うように、今日のマヤノは珍しく青い炎が目に宿っていた。普段は飄々とした態度でレースに臨んでいたけど、やっぱり凱旋門賞はレベルが違うのかな。

 

 

「むむ!?マヤノさん、もう仕掛けてますよ!?」

「え?」

 

 

そろそろ半分を過ぎる頃かと思っていたら、デジタルが仕掛けに気づいたらしい。見たところ順位には変動が無いし、仕掛けているようには見えないけども。

 

 

「よく見ててくださいよトレーナーさん。ここからがマヤノさんの怖いところですよ。ああ、モンジューさんは今回沈みますね。マヤノさんが本気になったときの仕掛けは容赦ないですよホント」

「いやそんな思わせぶりな……適当なこと言ってない?」

 

 

『向こう正面中間に入りました。ロンシャンの急な上り坂を越えて、ここからは下り坂!先頭は未だ2番。先頭がやや早いのか、縦長の展開だ。1番人気モンジューは中団のやや後方。っとここで2番人気のヴェニュスパークが上がっていきました』

『下り坂はスタミナを温存させやすいですからね。ここで一気に前に出て差を広げることで、スタミナ勝負を仕掛けに行ったのでしょう』

『それにつられてか最後方から3番人気のリガントーナが上がって来ている!そして1番人気モンジューは……前が壁!?さらに横をマヤノトップガンに塞がれて外にも出られない!いつの間にかマヤノトップガンにじりじりと詰められて、進路が完全にふさがっているぞ!』

 

 

気づけば実況の言うように、モンジューはマヤノと内ラチに横を塞がれ、前を8番の子に塞がれて八方塞がりだ。デジタルが言うには、マヤノはこの状況を最初から狙っていたって言うんだから本当に……。

 

 

「……すごいな」

「ええ。こうなってしまうと、モンジューさんのスパートはマヤノさんの後をついていく形でしかできません。しかも今回マヤノさんは、リガントーナさんをさりげなくブロックすることで後方に張り付かせています。つまり、リガントーナさんを利用して追加でブロックするわけですね。そして見えている壁は避けるはずですので、そのまたさらに後方のウマ娘ちゃんはリガントーナさんの進路をそのまま使いますので……」

「最後尾の子が横を通り過ぎるまでスパートを掛けられない」

「ですです。そしておそらく8番のウマ娘ちゃんが垂れてきます。マヤノさんがプレッシャーを掛けてないはずがありませんので。前が壁だけは本当にどうしようもないんですよねぇ……」

 

 

こうしてマヤノはモンジューをブロックしたまま最終コーナーを回る。そしてフォルスストレートに入る直前で、マヤノを含めてほぼ全てのウマ娘たちがスパートを掛け始めた。が、モンジューの前に居た8番の子はデジタルの予想通りスタミナ切れでスパートを掛けれずズルズルと後退。そして前から垂れられ、横も塞がれたモンジューはスパートタイミングを完全に逃して、一気に最後尾へ追いやられてしまった。これはひどい。

 

 

『いよいよ偽りの直線、フォルスストレートに入っていく!ここで先頭に立つかヴェニュスパーク!後続をグングン突き放して、もはや独走状態!後方からマヤノトップガンとリガントーナが上がってくるも、その差は7バ身近くあるぞ!』

『しかしここからが長いのがロンシャンレース場の特徴です。マヤノトップガンがどんどん上がっていますよ』

『フォルスストレートを超えたらいよいよロンシャンの長い長い最終直線!世界の!そして最高峰の!ウマ娘たちの意地の張り合いだッ!!!先頭のヴェニュスパーク、このまま最後まで行ってしまうのか!残り400を切りました!先頭は未だヴェニュスパーク!だがマヤノトップガンとリガントーナが競り合ったまま突っ込んでくる!そしてあれだけ大きかった先頭との差がどんどん狭まっていく!気づけばマヤノトップガンと先頭との差はもう2バ身しかない!ヴェニュスパークが苦しみながら粘っているぞ!マヤノトップガン!日本の希望!夢の凱旋門賞の制覇が見えている!残り200!ついにマヤノトップガンが抜け出した!マヤノトップガン、突き放す!行け!勝利は目前だッ!!!』

 

 

 

─────────

 

 

 

「むふふふふ~!マヤノさんの勝利です!そしてデジたんのお小遣いがざっくり10倍に!本当に、もう何も怖くありません!」

「……どれだけ突っ込んだの?」

「ざっと諭吉5000人ですね。いやぁ、資金かき集めるのに苦労しましたよ~」

「……ウソデショ」

「本当です。デジたんが突っ込んでなかった時は6番人気の15倍でしたので。あたしが突っ込んだら、瞬間的に単勝倍率が2倍ぐらいまで落ちたので焦りました。まあ結局10倍まで持ち直したんですけど」

「おお~、デジタルちゃんやるね~!負ける気は一切無かったけど、自分のレースだと八百長を疑われるから賭けられないし。……しかしお小遣い10倍か~。勿体なかったな~?」

 

 

マヤノはウイニングライブの準備で衣装をいつもの花嫁ドレスに着替えている。私のすぐ後ろで。女の子なんだからそういうのはダメだって何度も言ってるんだけど……いくら言っても聞かないからもう諦めたよハハハ。

 

 

「背中のホックを閉めて……よ~し、準備完了!それじゃあトレーナーちゃん!眠いのに応援ありがとね!ライブはいつも通りだから、今回は別に見ててくれてなくてもだいじょ~ぶ!ゆっくり寝てていいから!じゃあ、また後でね!」

 

 

着替え終わったマヤノは、マシンガントークの後にすくらんぶる~☆と言いながらライブ会場に行ってしまった。デジタルは最前列でウイニングライブを鑑賞するらしいけど、私はもう眠気が酷いからね……。

 

 

「ではトレーナーさん。デジたんもライブ会場に行きますね」

「いってらっしゃい。私はここで少し休憩するよ。ふああ……」

「えっと……。トレーナーさん、すごく言いづらいんですけど……。帰りの飛行機、頑張ってくださいね」

「……んっ!?」

 

 

そうだった。サイリウムを両手に持って出ていくデジタルを見送りながら理解させられた。もしかしなくとも、ほとんど寝てないのにウイニングライブが終わり次第とんぼ返りだから、まともに寝る時間が……ない。

 

 

「き、気合だ気合。頑張ればなんとかなるはず……!」

 

 

しかし眠気を気合で何とかできるわけもなく……帰りの飛行機で私は速攻で寝てしまった。が、空港到着後のマヤノは何故かものすごく機嫌が良かった。後日のデジタル曰く、私が寝た後に、それに怒ったマヤノが、私とマヤノの座席の間の肘置きを除けたところ、寝たままの私がマヤノに寄り掛かったそうで……。

 

 

「やりますねえトレーナーさん。両想いとはいえ、今をときめく女子高生相手に手を出すなんてぐふふ」

 

 

誤解を招く発言!けどマヤノの機嫌が良かったので……ヨシ!

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。