「・・“アキ”聞こえるか?・・」
無線が人を呼んでいる。
残念ながら呼ぶ人物は此処にはいない。
「先生!聞こえますよ!」
「・・“菜月”か?・・」
「そうですよ?」
「・・そうか、どうやら仕事をしてくれたみたいだが。覚えているか?・・」
「当たり前ですよぉ。自分でやったんですからぁ」
「・・記憶は有るんだな。・・」
「“私”ですからねぇ」
ミカは質問するか迷っている様子。
しかし魅惑には贖えないようで・・・
「・・じゃあどっちが“本物”なんだ?・・」
思わずため息をする。菜月はあきれたようにミカに問う。
「楠木さんはそこら辺、詳しく教えてくれなかったんですかぁ?」
「・・あぁ人格が変わるということくらいしか・・」
しばらくの時間、沈黙が流れた。
菜月は自分に言い聞かせるように呟くと、軽い雑談のように説明を始める。
「まぁそこまで知らないのかな・・・」
「じゃあ少しだけ教えてあげます。どっちかといえば“わたし”が偽物ですかねぇ」
「・・“菜月”は偽物の人格だと?・・」
「全部偽物と言うわけじゃないですよ?“わたし”で何年も生きてますし」
「・・じゃあ何故、人格を変える必要がある?・・」
再びため息をする菜月。すると慣れた手つきで邪魔な眼鏡を外しだす。
今度は自分で説明するのが億劫になったようだ。
「“菜月”は“私”の命です」
「・・お前は“アキ”か?・・」
「はい」
「・・すまん。意味が良く分からないのだが?・・」
「ミカ。これくらいにしましょう。いずれ分かると思います」
「・・分かる時がくるのか?・・」
「生きていれば時が流れます。こない時は無いのです」
「・・わかった、今回はこれくらいにしておこう。2人が待っている・・」
「早く行ってあげてください。特に千束がショックを受けているみたいですから」
「・・それは不味いな、早く教えてあげないと。また連絡する・・」
ミカが無線を切る。ミカの声が消えると、その場に聞こえるのは鳥のさえずりだけ。
アキは飛んでいる2匹の鳥を見て、思わず呟く。
「“生きていれば”か・・・」
▽
車外から聞こえる救急車のサイレン音。
もっともそれは近くに救急車が走っているから聞こえるのではない。
乗っているのは救急車。後ろの席で座っているのは、暗い顔をした2人の少女。
暗い顔をしている理由は他でもない、目の前に横たわっている1つの着ぐるみである。
2人の間には沈黙が保たれていたが、1人の少女には耐えられないことだったようで。
「すいません」
「たきなのせいじゃない」
たきなのお陰で一時は沈黙が消えたと思えた。
しかしそこまで。2人の間にはこれ以上の会話が生まれなった
再び沈黙する2人。
する急に停止する救急車。周囲を警戒する2人、するといきなり後部ドアが開く。
身構える2人が見たのはこの場では、思いがけない人物であった。
「菜月!あんた・・・何してんの!?」
「何って迎えでしょ。待ちくたびれたよぉ」
突然乗ってくる菜月に驚く千束とたきな。
しかし菜月は2人に気にすることなく、目の前の着ぐるみに興味を示す。
「これがウォールナットかぁ。うわぁなかなかグロイなぁ」
言葉を失っている千束の代わりに、たきなが菜月に質問する。
「菜月・・・状況は知っているのですか?」
状況が掴めて菜月。思わず首を傾げながら返答する。
「状況って・・・これ撃った“私”じゃん」
「撃った!?」
驚愕の表情を浮かべる2人。
2人の顔を見てようやく状況を掴めたようだ。
菜月は運転席に向かって叫びだす。
「先生!まだ教えてあげてなかったの!千束かわいそうって言ったじゃん!」
すると運転席から救命士の恰好をしたミカがこっちを向く。
「すまん。今から言うところだったんだ」
「ダメだよ先生!ほらミズキ早く起きて!」
目の前の着ぐるみを叩きだす菜月。
すると着ぐるみが起き上がり顔を外す。
「痛いって菜月!ただでさえ格好きついんだから叩くなよ」
「きついんだったら早く脱げばいいのに」
「だってミカが何も言わないんだもん。それより菜月!ビール頂戴!」
「はいよ~」
鞄からビールを取り出す菜月。
状況の読めない千束とたきな。2人は恐る恐る質問する。
「あの・・・ウォールナットさん本人は?」
「そうだよ!どこいった?」
「ここだ」
「うわぁ!」「うわぁ!」
着ぐるみの生首が突然喋りだす。
驚く2人。すると隣の席に置いてあるスーツケースの中から女の子が
登場する。
「追っ手から逃げ一番の手段は死んだと思わせること」
「そうすればそれ以上、捜索されない」
混乱している千束に対し、たきなは落ち着いて質問する。
「では・・・わざと撃たれたんですか?」
「彼のアイデアだ。まぁいろいろイレギュラーもあったみたいだが・・・?」
ウォールナットは運転席で手を挙げるミカを見たあと、後ろでドヤ顔をしている菜月に
質問する。
「感謝してください!爆発オチになる所だったんですから!」
どヤル菜月にビールを飲んでいたミズキが思わず吹き出す。
「本当に爆発オチになるところだったの!あの時フラグつぶして置いてよかった~!」
爆笑する菜月とミズキ。
ウォールナットはリコリコの仕事ぶりを称賛する
「想定外の事態にきちんと対処して。見事だった」
千束とたきな以外の全員がこの言葉を聞き、お開きモードに入ろうとするなか、
混乱から立ち上がれないとする千束が質問する。
「ちょちょ・・・ちょっと待っていろいろ聞きたいことあるけど」
「つまりその・・・予定通りで・・・誰も死んでいないってこと?」
質問をするミズキは軽く返答する。
「そうよ~」
「おぉよかった~みんな無事でぇ」
「この子めっちゃ金払い良いから、命懸けちゃったよ」
「もう~死なせちゃったと思ったし・・・」
「ああ~もうよかった~」
ウォールナットに抱き着く千束。
一方菜月はそれ以上に横で難しい顔をしているたきなが気になったようで。
菜月はたきなの横に座り、語り掛ける。
「たきな、怒ってる?」
たきなは質問を返さずに菜月の顔を見る。
たきなは逆に菜月に対し、質問する。
「最後の銃弾。あなたが撃ったんですよね?」
「そうだよ。本当は敵に撃たせようとしてたんだけど」
「あいつらがロケラン持っててさぁ~。さすがに爆発は耐えられないから」
「私が撃つことにしたんだよぉ」
笑いの持っていこうとする菜月。しかしたきなはさらに顔を難しくする。
「あなた射撃の腕、下手だったですよね。隠していたんですか?」
「あぁ・・・でもそんなことないよ?結構的大きかったし」
菜月は誤魔化そうとする。しかしたきなは納得いかないようで・・・
「あのドローンを撃ったのもあなたですよね?」
「下手な人があんなに小さい的を撃ち落とせません」
「あぁ・・・うんそうだね・・・」
沈黙する2人。しばらくするとたきなが口を開く。
それは菜月のとって以外な事だった。
「ドローン。わたしが狙ったのにどうして撃ったんですか?」
「えぇ~!そこ!?」
「あたりまえです!わたしの事、信用してくれって言ったじゃないですか!」
「ごめん!たきなが撃つとはおもわなくて・・・」
「ていうか・・・銃の腕、隠していた事については怒らないの?」
恐る恐る質問をする菜月。その様子を見た、たきなは微笑んで返答する。
「菜月にも事情があるのでしょう。隠して事については悲しいですが」
「隠し事を話してくれる存在なりたいと思いました」
たきなに突然抱き着き突く菜月。
その目元固く締められていた。
「ありがとうぉ~たきな! 今は喋れないけど・・・いずれ絶対話すね!」
戸惑うたきな。
その様子を微笑ましそうに見るミカなのであった。