ドアが開き、「カツカツ」と足音を立ててが人が近づいてくる。
フキは時計で日付を確認した。
31日。間違いなくライセンス更新最終日だった。
フキは「フン」と息を吐いた後、着替えを再開する。
リコリスの任務は不定期なことが多い。
しかし比較的にライセンス更新の時期は暇になることが多かった。
他のリコリスもそれは同じ。
最終日にライセンス更新を行うということ、それは相当忙しい又は
相当なズボラと言うこと。フキは後者だと思った。
ズボラは更衣室入口のカーテンを開ける。フキは気にせずに着替えを続けた。
ズボラの方からフキに声を掛ける。
その声はフキにとって最も馴染みのある声であった。フキは驚いて後ろを振り向く。
「あら!フキさん?」
「千束!」
「しっかり者のフキさんがライセンス更新が最終日なんて、どうしちゃったの?」
「忙しかったんだよ。お前のズボラと一緒にすんな!」
入ってきた人物は千束。フキにとってズボラの代表格であった。
会話は途切れ、静かになる更衣室。この空間に心地良さを感じるフキ。
しかしフキはいつまでも黙っているわけにはいかなかった。
「先生はお元気か?」
「元気だよ。たまには遊びにおいでよ?」
「だから・・・」
「はいはい「任務外の勝手な外出はできない」って言うんでしょ?」
「不満はねぇよ」
「会いたい人に会えないのに?」
「あ~うっせ!終わり終わり!」
フキは自分の顔を背け、ロッカーの扉を強く閉める。
質問をしておきながらも、千束がなんと返答するのかフキは大体予想がついていた。
なぜ分かるのか?それはフキと千束が長年相棒であったからであろう。
しかし次にする質問は、なんと返答するのかフキにも分からなかった。
「2人とはうまくやれてんのかよ?」
「もっちろん。あたしは殴ったりしませんからねぇ」
「チッ。しつけえなお前は」
言葉上ではイラついていることにするフキ。
千束はもちろんたきなも短いながら相棒であった。
“千束とたきなの関係がどうなっているか?”それが心配だった。
心の中で安心するフキ。
千束はそれが分かっていたかのように、笑いながら会話を続ける。
「フキはすぐに手が出るんだから」
「お前は当たったことねぇだろ」
言い合いしながらも何故か一緒に更衣室から出ていく。
2人の仲は相棒時代からなにも変わっていなかった。
▽
あたしは今走っている。もちろん意味がある。体力測定の項目に持久力テストあるからだ。
フキも一緒に隣で頑張っている。昔はあたしについてこれなかったのにねぇ・・・
あたしがフキの成長を実感していると、フキから質問が飛んで来る。
「なんで2人を連れてきた?」
「ん~?」
「どうせ戻りたがってるんだろ?」
「そうなの。何でここがいいんだろうねぇ?」
「お前が変なんだよ。私たち孤児はDAに救われて、ここで育てられた」
「親に対しての感謝はねぇのかよ?」
「いやあたしはありますよ?でも「親離れ」みたいな?」
「先生持っていて親離れもねぇわ。ていうか「あたしは?」ってどういう意味だよ?」
「いや~菜月は此処嫌いじゃん」
「なんの事だ?菜月が嫌いだなんて初めて知ったぞ」
「そうなの?此処へ来る途中もすごく嫌々だったよ?」
「じゃあ戻りたくねぇのか?」
「そうかもね~。リコリコに居ると楽しそうだし」
「じゃあなんで来た?」
「なんか再検査だって。何のだろうね?本人も知らないみたい」
「再検査か・・・」
フキは目線を下に下げる。その目線は影ができたかの様に暗い。
「なに?なんか心あたりある?」
「・・・いや特に無いな。健康診断にミスが有ったんじゃないか?」
目線が元に戻る。だけどあたしを見ようとはしなかった。
“なんで?”と一瞬思った。だけど聞かなかった。
一瞬見えたその目線はなぜか悲しそうに見えたから。
あたしは話を元に戻す。
「なんで此処嫌いなんだろう?それに楠木さんの事、嘘つきってずっと言ってるんだけど」
「嘘つきか・・・まだ言っているのかアイツ。そんな事言うのはアイツくらいだ」
「ハァ」とため息をつくフキ。
まぁそうだよね。楠木さんから嘘なんて聞いたことないし。
「まぁアイツは司令が連れてきたからな。昔になんかあったんだろうな」
「楠木さんが?知らなかった」
「お前が移った後の事だよ」
楠木さんが人を連れてくることなんて有るのかなぁ?
そんな疑問を持ちつつもあたしはフキの話を聞き続ける。
フキが楽しそうに人の事を話すなんて、珍しいことだからね。
「アイツ。最初は物静かでな、必要な事以外は喋らないし。よく分からない奴だったよ」
「へぇ~それは意外」
「そうだろ。だけど急に性格がお前みたいになってな。驚いたよ」
「別人に入れ変わったのかと思った」
「そんな事あるわけない無いでしょ~。緊張してたんじゃない?」
「お前みたいな性格だぞ。緊張なんかするか?」
・・・あまりないかも。
「お前に似てないとこもあるけどな。戦闘のセンスとか」
「戦闘のセンス?どういうこと?」
「知らないのか?アイツ銃は当たらない、動きは鈍い、よく敵に笑われる」
「それってリコリスとしてどうよ?サードで要られるマシってもんだ」
「え!?そうなの?たしかに菜月の腕は良く知らないけど・・・」
「そうだよ。良く首にならないよな?まぁなぜか運動神経は良いみたいだからな」
「それが評価されてるのかも。それにあの取引の時は・・・」
フキは急に口を押さえる。
「何?なんかあったの?」
「あ・・・なんでもない。忘れろ」
フキはこっちに目線を合わせなくなった。
もしかして失言?楠木さんに止めれられてる?
「ねぇ?どうしたの?取引の時がなに~?」
「うるせぇな集中しろ」
これは話してくれそうにないなぁ・・・。仕方ない。
あたしは黙って体力測定を続けた。反射神経テスト・反復横跳び・垂直跳び。
フキは何も言わずについて来た。相変わらず負けず嫌いだなぁ。
一通り測定も終わりラウンジのソファーに座る。
フキも荒い呼吸をしながら横に座ってきた。
これはチャンスかも!
「ねぇ、さっきの失言忘れてあげるからさぁ。たきなだけでもいいから復帰に協力してよ?」
「なんでだよ関係ないだろ!それに上層部が決めた事だ。私の出番じゃない」
「そんな事言わないでさぁ~。楠木さん言っちゃうよ~?」
フキはあたしを睨み何も喋らない。これは失敗したかなぁ。
しかしそんなに評価が大事かねぇ?もっと大切なことがあると思うんだけど。
そんな事を考えていると、噂の人物が声を掛けてきた。
「ひさしぶりだな千束」
「ど~も」
フキが立ち上がった。だけど目線はこちらを睨んだまま。
楠木さんはそれを気にせずに会話を続ける。
「リコリスの義務は果たさないくせに、ライセンスの特権は欲しいんだな」
「DAの仕事もたまにはやってるじゃないですか」
まぁライセンス捨てろって言われたら、簡単に捨てられるけどね。
そんな事はどうでもいい。本題に入ろう。
「2人・・・なんで追い出したんですか?」
「命令違犯だ。聞いているだろ?」
だけど・・・だけど!そんなの大事?もっと大切なことは・・・
「仲間を救った!」
「その結果1000丁の銃の行方は依然不明だ。商人は殺してはいけなかった」
あたしはスマホを取り出す。もちろん見せるものは決まっている。
証拠写真を楠木さんに見せる。
「これ見たでしょ!取引時間を間違えてた司令部のせいです~」
「楠木さんにも責任あるでしょ!?」
「おい千束!」
フキがあたしを止める。
ムカつく。この際聞いちゃえ!
「っていうか菜月は何したんです?殺して無いですよね?なんで異動なんかさせたんですか!?」
楠木さんは質問に答えない。それどころか目線すらあたしに合わせなかった。
「他人の事を気にする前にもっと働いてほしいもんだがな」
「遊びでお前にライセンスを出しているわけじゃないんだぞ」
「あ~ごまかしたぁ!」
「やめろ。千束!」
あたしはフキを睨む。思わずフキに向かって叫んでいた。
「大体状況判断のできなかった現場リーダーにも責任あるんじゃないですかねえ!?」
あたしはこれを言うか最初は迷っていた。フキを責めることになるからだ。
でも・・・言わずにはいれなかった。
「仕方ないだろ!通信障害で司令部と連絡が・・・」
「フキ?」
楠木さんはフキが言おうとした事を止める。
“通信障害”その言葉は予想にもしてなかった。
あたしは楠木さんに問いつめる。
「楠木さん?ラジアータでモニターされてる作戦中に通信障害なんて」
「普通じゃないですよね!?」
「ただの技術トラブルだ」
「ラジアータをクラックされるなんてヤバすぎでしょ!」
「何を言っているのかさっぱりだな」
楠木さんは目線を合わせないまま去っていく。
あたしが間違っていた。菜月の言う通り楠木さんは嘘つきだった。
あたしは我を忘れて叫んでいた。
「楠木さん!」
「やめろ千束!独断専行するリコリスなんか使い物にならねぇ。それだけだ」
フキに説得される。それであたしは我に返えることができた。
「フキ~!」
それでも言わずにはいれなかった。
もう遠くに行ってしまった楠木さんに向かって叫ぶ。
「たきなだけでもDAに戻してくださいよぉ~!」