夏やアキでも雪は降る   作:tokoya

16 / 19
自分とは?

 

 

千束が走り去り、訓練場には沈黙の時間が流れる。

 

「HAHAHA。先輩あいつら逃げやがりましたよ。とんだ負け犬根性ですね~」

 

1人空気を読まない奴がいたが・・・。

フキは溜息を吐くと、サクラに向き合う。

 

「お前ちょっとは静かにしろ」

「だって先輩~。電波塔の英雄様が尻尾まいて逃げるなんて~」

「別に逃げた訳じゃねぇよ」

 

フキは再び千束が走り去った方を見る。

するとサクラは意外そうにフキの首に手を回す。

 

「え?先輩はアイツの肩を持つんすか?意外っすね」

「そういう訳じゃねぇよ。ただヤル気が有るっていうのが分かるだけだ」

「って・・・お前は馴れ馴れしくするな!」

 

サクラは慌てて手を自分の後ろに回す。

 

「すいません~先輩。ついうっかり」

「お前はまったく・・・で?お前は何の用だ?」

「・・・お前?」

 

サクラは背後に人の気配を感じる。振り返るといつの間にか菜月が居た。

慌ててフキの後ろへと逃げる。

 

菜月はサクラに目もくれず、フキに話しかける。

 

「リ~ダ~。模擬戦やりましょうよ~」

「あん?1人でやるのか?勝てる訳ねぇだろ」

 

サクラは震えた声でフキに話しかける。

 

「なに言ってんすか先輩!アイツは・・・」

「お前は黙ってろ」

 

フキ自身、自分がこんな声を出せることに驚いた。

サクラは黙り込む事しかできなかった。

 

「なに言ってんすかリ~ダ~。もちろん3対2に決まってますよねぇ」

 

菜月は当たり前かのように笑う。

フキは一瞬黙りこむがすぐに表情を変え口元に笑みを浮かべる。

 

「本当に3対2になると思ってるのか?」

「もしかしてわたしに怖気づきました?」

「お前じゃねぇよ」

「もしかしてたきなですか?リーダーは何を見てたんですか?相棒だったのに」

 

菜月は鼻で笑う。

フキはサクラを引っ張り訓練場から出ていく。

捨てセリフを吐きながら。

 

「お前ごとき1人増えただけでなにも変わんねぇよ!」

 

菜月はフキに続いて訓練場を出て行く。

しかし何か用事が有るのか戻って来る

楠木に近づくとと足を止める。

 

「私が勝ったらたきなを戻してもらいます」

 

菜月は楠木に吐き捨てるように言葉を投げる。

楠木は突然のことに唖然する。

菜月は満足したのか、楠木を無視して再び訓練場から出ていく

 

何も喋らずただ立ち止まるだけの楠木。

助手が楠木の様子を伺う。

 

「司令?どうかされましたか?」

 

楠木は何も答えない。

もう一度助手は声を掛ける。するとようやく反応があった。

 

「あぁ・・・すまない。ぼーっとしてしまった」

 

表情が悪い。助手は楠木の調子が悪いと思った。

 

「大丈夫ですか?休まれたほうがいいのでは?」

「そうだな・・・。模擬戦が終わったらさせてもらう」

 

楠木と助手はキルハウスブースに向かい歩きだす。

なにか気になる事が有るのか、助手は楠木に疑問を投げかける。

 

 

「でもよろしかったのですか?」

「なんの事だ?」

「菜月の話です。願いを聞くつもりですか?」

「あぁ・・・そうか。まぁ勝ったら考えてやってもいいな!」

「ルールを守るならな」

 

楠木は考える表情をした後、一瞬笑顔を浮かべ普段の表情に戻る。

表情がコロコロ変わる楠木は恐ろしい。

助手はそう思った。

 

 

 

 

▽

 

 

水の流れる音が聞こえる。

私は吸い寄せらせるように音の方へと向かう。

噴水があった。誰が見てもただの噴水。

だがリコリスにとってこの噴水は憧れの存在だった。

私はついこの前までこの噴水の近くにいられた。

しかし今は違う。

この噴水を遠く感じてしまう自分が嫌いだ。

もういっそ噴水に入ってしまえば楽になるのに。

私はそんな気持ちを抱きながら噴水を眺めていた。

 

「ここだと思った」

 

後ろから人の声が聞こえる。

きれいな声。

なぜか初めて会ったときと同じ感想が思いだった。

私は後ろを振り返る。やはりそこに居たのは千束だった。

 

「リコリスはみんな好きだもんね。噴水」

 

千束が語りかけてくれている。

私の口は勝手に動き出す。

 

「・・・この寮で暮らすことはDAに拾われた私達みんなの憧れ」

「この制服に袖を通した時も・・・」

 

「うれしかったよね」

 

私は不思議思った。千束はみずから此処を出ていったはずなのに。

 

「そんな意外そうな顔しないで。あたしだってそうだよ」

 

顔に出てしまっていたみたいだ。

私は千束をよく観察する。

その表情は嘘を言っているように見えなかった。

 

「なら千束にも分かるでしょ?ここが目標だった・・・それを私は奪われた!」

「どうしてこんな・・・」

「たきなを必要としている人が町にはたくさんいるよ。ここじゃなくたって・・・」

 

千束はそのきれいな声で私を励まそうとしてくれる。

しかし今の私には棘があるようにしか聞こえなかった。

 

「あなたはDAに必要とされてるからいいですよね!」

「私には!私の居場所は・・・もうここにはない・・・」

 

不思議・・・なぜこの人達と居ると余計な事を口走ってしまうのだろう。

私は慌てて自分を隠す。

 

「ごめんなさい」

「たきな・・・」

「分かってます。全部自分のせい、それなのに菜月まで巻き込んで・・・」

 

全然隠せなかった。次々と思いがあふれ出てきた。

 

「ねぇ?菜月はあの時何をしたの?」

「エリカを助けてくれたんです。私がしたことは商人を殺して菜月の足を引っ張っただけ」

 

あの時・・・。あの時なぜ私は殺してしまったんだろう。

殺していなければ菜月までこんな思いをすることはなかったのに。

 

千束が優しく笑う。

まるで何かが分かったかのように見えた。

 

「あのとき2人は仲間を救いたかった。形はどうあれ2人の思いは同じ」

「それは命令じゃない。たきな達が決めたことでしょ?」

 

「それが一番大事」

 

千束の声が私の中に響き渡る。

なぜだろう声は変わらないのに。

 

「それに・・・2人の処遇はそれとは関係ないよ」

「あの日通信障害あったってホント?」

「ええ。数分ですが。技術的トラブルだと」

「ハッキングだよ」

「ラジアータが?」

 

私は千束が何を言っているのか最初分からなかった。

しかし・・・

 

「DAの機密性を担ってる最強AIだよ?全てのインフラの優先権をもっているのに」

「通信障害なんてありえない」

 

そう。今考えれば通信障害なんてありえないことだった。

 

「それで取引時間が!?」

「でもそんなことは報告できないから“リコリスの暴走”ってことで2人を・・・」

 

千束は私が考えはじめた事を言葉にしてくれている。

私はいても立ってもいかなかった。

 

「たきな!?どこ行くの?」

「理不尽です!司令に話して・・・」

「シラ切られるだけだってば!」

「じゃあどうしたら・・・」

 

私は何処に進めばいいか分からなくなった。

そんな私を千束は優しく包んでくれる。

 

「たきな。今は次に進むとき。失うことで得られるものもあるって」

「たきながあの時行動しなかったら。菜月も死んでいたかもしれない」

「あたしたちは出会えなかったよ。そうでしょ?」

 

「なにあれ~?」「青春?」「ウケるんですけど~」

 

後ろで水を差すような声が聞こえる。

だけど千束は気にしていないようだ。

私を急に抱きかかえたのだから。

 

「私は君と会えてうれしい!」

「ちょ・・・ちょっと」

「うれしい!うれしい!」

 

千束と一緒に回る。

新しい自分が作られるように感じた。

だけど作られることはない。

今の自分に心残りが有るから。

 

「誰かの期待に応えるために悲しくなるなんて」

「つまんないって。居場所はある。お店のみんなとの時間を試してみない?」

「それでもここがよければ戻ってきたいい」

「遅くない。まだ途中だよ。チャンスは必ず来る」

「そのときしたいことを選べばいい」

 

千束は背中を押してくれる。

私正直に心残りをどうしたらいいか千束に聞く。

 

「でも・・・私は菜月にどうお詫びしたらいいか・・・」

 

千束にっこりと笑う。

 

「謝らなくて大丈夫!私と同じで菜月もやりたいこと“最優先”だよ?」

「それにさぁ・・・」

 

突然管内アナウンスが流れ、千束の言葉をかき消す。・

 

「1400(ヒトヨンマルマル)より状況演習を開始。リコリス各員は当該時間までに」

「キルハウスブースに集合してください」

 

千束はアナウンスを聞くと再び笑う。

 

「ほら!私と同じで菜月もあいつらをブチのめしたいみたい!」

「此処に未練はないみたいよ。菜月の目標は何処なんだろうね?」

 

千束は走って行く。

 

 

私は噴水の淵に座り込む。

 

新たな自分を理解するのには

 

 

時間が必要だった。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。