その日の朝は暖かな陽気の朝であった。しかしそれでも人肌を温めるまでには至らなく。
今日も朝からコーヒーの湯気を追い求める人がリコリコに集まる。
たとえ、それがお客でなくても
カラン
「いらっしゃ・・・おはよう」
「ミカさんおはようございます」
「今日も朝は寒かっただろう。コーヒー飲むかい?」
「ありがとうございます。頂きます」
コーヒーをゆっくり飲むたきな。その姿は歳相応のように少女に思える。
「今日の事は分かっているかい」
「分かっています。ハッカーの護衛ですよね?メールで確認しています」
しかしながら会話の内容はとても歳相応に思えない。
ミカはこの違和感を心の中にしまう。彼にはすでに慣れた事であった。
「その通りだ。今回は千束とたきなの二人でしてもらう」
「菜月はなぜ参加しないのですか?」
「今回は定期健診と重なったのでな」
「定期健診ですか・・・すいません準備してきます」
彼女は何か疑問に思うことがあったようだが・・・心に閉まったようだ。
更衣室に向かっていくたきなを見て、ミカはそう思った。
カラン
またしても店の入口が開く。入ってきた人物はミカにとって大切な人物。
吉松シンジであった。
「やぁ」
「おぉいらっしゃい」
「おはよう」
「最近よく来てくれるね」
「あぁまぁね。今日は3人。いないのかい?」
「たきなならもう来ているよ。菜月は今日病院」
「千束は?」
「千束はいつもの通り遅刻だ」
「ははははは」
シンジとの間に笑いが生まれる。ミカにとって心地よい瞬間であった。
しかしシンジは急に考えこむ。
「そうか菜月は病院か・・・」
「どうしたシンジ?」
「ミカ・・・」
「なんだい」
「2人は此処で何をしているのかな?」
ミカは質問の意味が理解できる。
しかし話すべきなのか・・・
カラン
「おまたせ。千束が来ました」
シンジは質問を忘れたように千束を見る。
おかげでミカは少し考える時間ができた。
「おぉヨシさん。いらっしゃい」
2人が会話を弾ませる中、ミカは一人で考えようとカウンターから下がる。
そこには準備を進めるたきなの姿。鏡を見つめる彼女を見てミカは思わず叫ぶ。
「千束!はやく仕度しなさい」
「えぇ教えてよぉ!」
「ははは、それはまた今度。それでは、これで失礼するよ」
「お土産ありがとうございましたー」
シンジは質問の答えを待たず店を出えていく。
ミカは思わずため息を出す。しかし再びたきなの姿を見て心を切り替える。
「千束」
「で・・・どのくらい急ぎ?」
「現在、武装集団に追われている」
「お~それは大変。たきな、仕事の話。もう聞いてる?」
「はいひととおり」
「オッケー。先生菜月は?」
「定期健診だ。今回2人」
「定期健診か。それって途中合流有ったりする?」
「その予定はない」
「なるほどねぇ~。ちなみにミズキは?」
「既に逃走ルート確保に動いている」
「張り切ってるね。めっずらし~」
「報酬が相場の3倍。一括前払いでな」
「どうりで」
「危機的状況ということなのだろう。敵は5人から10人程度。プロよりのアマだ」
「ライフルも確認した。気をつけろ」
「了解。いこ、たきな」
「はい」
素早く店を出ていく千束とたきな。
そのことに安心感を覚えつつ、ミカは電話に手を掛ける。
「もしもし。菜月?」
「先生。そっちはどぉ?」
「予定通りだ。お前は?」
「うん。終わりそう」
「そうか。しっかり頼むぞ」
「了解~」
緊張感の無い会話を終える。
しかしミカは気にすることもなく・・・
「さて、今日は“アキ”を見ることはできるかな?」
なにか別の事を考え始めたようだ。
▽
「・・あれ?高速・・乗るのでは?」
「・・・どう・・・した?」
“耳元から聞こえてくる声は何やらトラブルを予感させる。
少々不快に思いつつ “わたし” はミカに報告する。
まったく・・・いつも呼ばれるのはこんな時ばかりだ。
「ミカ?」
「車が乗っ取られたみたいだな・・・」
「はい。あのドローンが原因だと思います」
「ドローン?」
「車の後ろに張り付いています、ルーターの役割をしているのかと。どうしますか?」
「しばらく待機だ。ウォールナットの作業が完了していない」
「了解です」
さすがミカ。こんな時でも落ち着いている。
最近ミカに対する評価は上がるいっぽう。
「 ”菜月” いつもとテンション違うな?」
訂正。落ち着き過ぎなのはどうかと思う・・・
「ミカ。今はそれどころではありません」
「すまん。“はじめまして”と言った方がよかったな」
「何の事ですか?」
「楠木から聞いているよ」
まったく・・・こんな時にそんな事を聞くなんて・・・
「司令は気付いていたのですね・・・」
「考えているより、君の事を思っているよ。親みたいなものだからね」
「親ですか・・・ミカ」
「なんだい?」
「今は目の前事だけ集中したいのです」
「すまなかった。後で詳しく聞くとするよ」
「えぇ“私”が応えてくれますよ」
そう “わたし” は幽霊みたいなもの。守護霊みたいにしていればいい。
そうしていれば、きっと “私” が夢を叶えてくれる。