自室にダンジョンが出来た。   作:邪骨

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始まりのダンジョン


 ダンジョンが出来た。

 

 ベッドの下に。

 

 何を言うかと思われるかもしれないが、これが事実なのだから仕方ない。文字通りダンジョンが出来たのである。

 

 我が家の、自室の、ベッドの下に。

 

 

 私は自室のベッドに転がり、くつろいでいた。いつもと変わらぬ日曜日の暮れの話である。私はそのとき、左わきにポテチの袋を抱え、右手にスマホを持ってくだらぬ動画に時間を費やしていた。時間を浪費することの心地よさから抜け出すことが出来ず、ここ数年は毎日暇さえあればこのように過ごしている。

 

 ふと、尿意を催した。

 

 致し方がないので便所へ向かうべく上体を起こし、足を地面に下したその時である。

 

「グエッ」

 

 何やら柔らかいものを踏み潰したのと同時に、そんなヒキガエルじみた鳴き声が聞こえた。

 私は足裏に伝わる生温かな感触に、恐る恐る視線を向ける。

 嫌な予感が止まらない。

 

 視線の先にあった私の足は赤黒く染まり、その下には小人が内臓を見せて死んでいた。

 

 何だこれは。

 

 あまりの光景に悲鳴を上げることもできず、硬直。

 

 新手のドッキリ?いやいや、そんな馬鹿な。最近の作り物ってこんなにリアルに出来ているものなの?たまらぬ血の匂いが立ち昇ってくるではないか……。

 

 数分間その小人の恨めし気な瞳を見つめた後に、私は嘔吐した。それと同時に体の硬直は解け、小人の死体を部屋の隅に蹴飛ばした。

 

 心臓の音が脳を殴りつけるようだ。

 

 何だあれは。

 何だあれは。

 何だあれは。

 

 人ではない。人型をしているが、そうではない。かといって猿なのかといえばそうも見えない。霊長類にあんな緑色の肌をした生き物なんて存在しないのだから。

 

 それは体長50センチ程度の、背の丸まった老人のような姿をした生き物だった。鼻は高く、大きく、口は耳まで裂けている。眼球はメガネザルのように大きく、白目がない。そして耳は異様に長く、尖っていた。

 加えて体表は深い緑色である。

 

 控えめに言って化け物である。尋常ではなく、超常的だ。とてもこの世の生き物とは思えない。

 

 小人の正体を考えているちに、この生物を現す丁度良い名前があることに、私は気が付いた。

 それはよくファンタジーRPGで見かける、雑魚モンスター。或いは女性を嬲って苗床にする醜悪な化け物。

 

 そう、それは『ゴブリン』と呼ばれる、架空の生物によく似ていたのだ。

 

 

 仮称ゴブリンの死骸をビニール袋に詰め、玄関に放置してきた。あんなものゴミに出せるわけもないから、明日の朝にでも庭に埋めようと思う。

 ゴブリンの残した血痕を雑巾で拭きながら、私はゴブリンがどこから来たのかを考える。部屋にあんなものが入ってこれる隙間などあっただろうか。窓を閉め忘れていたとか……いや、そんなことはない。基本的に私は自室の窓以外そう頻繁に開けないし、さらに自室は二階にある。どうやって入ってこようというのか。

 そう思考を巡らせながらベッドの下に雑巾を差し入れた瞬間。

 

 雑巾が落ちた。

 

 どういうことだ。

 雑巾が私の手から消えたぞ。こうも立て続けにおかしなことが起きるとなると、気が違ってしまいそうだ。

 

 私はベッドの下を覗き見る。

 雑巾はない。

 

 私は確かに雑巾で床を拭いていた。

 そう、『床』をだ。

 部屋の中で一番下にあるのが床だ。そこからさらに下に物が落ちる状況とは、いったいどんなものなのか。

 

 ……まさか、床に穴でも開いているのか?

 

 振って湧いたその考えを、有り得ないと切り捨てることは今の私には出来そうもなかった。何故なら今さっきゴブリンじみた怪生物が現れたばかりだったし、それに比べれば床に穴が開いている可能性の方が現実的であった。床が抜けたということもあるわけだから……。

 

 ベッドを引きずり退かし、その下に何を隠しているのか暴き立ててやる。

 

 そう気を奮わせてベッドに手をかける。私は小心者故、このようなことは本当はしたくないのだが、場所が場所だ。寝床の真下に得体の知れぬ何かがあると思っては、眠るに眠れん。ここは安心を取るべく、事実を確認するべきなのだ。 

 

 結果、ベッドの下から現れたのは予想通りに穴であった。予想通りに穴は開いていたが……これも先のゴブリンと同じく、非現実的であった。

 

 丁度直径が50㎝ほどの、円形の穴である。

 不気味なほどに滑らかに、そこに開いているのが自然とばかりに、その穴はあった。

 

 床が抜けたとか、そういう穴ではないな、これは。

 

 穴は見るに向こう側を映さない。穴の向こうに何があるのかを、こちらに見せない。スマホの懐中電灯機能を用いて向こう側を照らし出そうとしてみても、何も照らさない。一見すれば黒い塗料が塗られているだけにも見えるが、試しにハサミを差し込んでみたところ、何の抵抗もなく飲み込んだので、認めがたいがやはりこれは穴と見て間違いないのだろう。

 

 私は頭を抱えながら、どうしたものかと思う。

 

 何か板で塞ごうも、手ごろなサイズの物は今ここに無い。仮にあったとしても、あんな得体の知れない穴のある場所では寝られない。

 

 一先ずベッドのフレームからマットレスを下し、穴の上に被せて塞ぐことにした。もしかしたらあのゴブリンも、この穴から這い出てきたものだったのかもしれないからだ。

 あんなものがまた出てきては堪らない。二度は勘弁願いたいのだ。

 

 明日は学校を休んで頑丈な板を買ってこよう。

 そう心に決めて、私はリビングのソファで就寝した。

 

 自室から何か叩く音が聞こえた気もするが、それは気のせいだと思いたい。




2022/9/16
穴のサイズを1mから50㎝に変更しました。
ベッドの下にあるにしてはサイズが巨大すぎたので。
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