自室にダンジョンが出来た。   作:邪骨

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 翌朝。

 何やら騒がしい音で私はたたき起こされた

 

 それはまるで獣の唸り声のようであり、悲鳴のようでもある。

 気のせいか、それは私の部屋から聞こえるようであった。

 

 ドン、ドンドン

 

 ギャッギャッ

 

 間違いなく、何かしらが暴れている音。思い当たるのは昨日のオカルトじみた穴だろうか。……やはりあの穴が昨日のゴブリンを連れてきたのだ。間違いない。きっとあの穴の先は地獄にでも繋がっているのだろう。いや、冗談とかじゃなくて。

 

 私は天を仰ぎ、ため息をつき、頭を掻きながらリビングを何周か歩き回った後、意を決してその音の発生源へと向かうことにした。

 

 護身用にフライパンを握り締め、息を殺し、足音を立てぬよう気を殺しながら歩く。

 

 ギャゴッゴッ

 

 鳴き声はだんだんと大きくなり、私の部屋の前で最大となった。

 

 ……ああ、やはり、そうなのか。

 

 現実を認めたくない私は近くの部屋を行き来し、どこが音の発生源なのかを諦め悪く探した。ただそれは鳴き声の主が私の部屋で騒いでいることの補強にしかならなかったのだが。

 

 いやだなぁ、とても嫌だ。これを対処しなきゃいけないのか?私が?やりたくねぇ……。しかし貴重品とかは全部あの部屋に置いてあるんだなこれが。回収くらいはしないと困ってしまうわけでね。

 

 仕方ないので作戦を考える。

 扉の向こうにいる者の正体は何だろうか。おそらくは昨日のゴブリンと似たような奴らだろう。軽く私が踏みつけた程度で死んだ貧弱な生き物だ(決して私が重いわけではない)。しかも未だにドアノブの一つも回して部屋の外に出ることもできていないから、知能はおそらく低い。だからそこまで恐れる必要はない。奴らは少し強いだけのゴキブリだ。そう思え。

 

 やるか、やるのか。クソッ。

 

 私はドアをノックする。

 

「ギェッ!?」

 

 部屋の中が静かになったのがわかる。そうだ、来い、来い!

 

 ドンッ

 

 何かが扉に衝撃を与える。

 

 ドンッ、ドンッ

 

 居る。

 扉一枚隔てた、30cmにも満たない距離に。

 

 ドンッ

 

 私はドアノブに手をかけ、そのまま勢いよく扉を押し開いた。

 

「ギャッ」

 

 ぐちゃりという音が聞こえた。

 きっと扉の先に居た何かを、壁と扉でサンドしたのだろう。

 

 昨日と併せて二度目だ。慣れよう。

 生き物を潰した薄気味悪い感触に身震いした私は、恐る恐る部屋の中を覗き見る。

 

 部屋の惨状は予想通りというか、あの騒ぎ具合ではそうなるだろうという荒れっぷりであった。部屋の壁紙は引っ搔いたのかボロボロで、机上の物は全てなぎ倒され、もう滅茶苦茶である。これを片付けねばならないのかと辟易としつつ、私は件の穴の方へ視線を向けた。

 

 穴は昨日と変わらずそこにあった。

 黒々とした闇を内に湛えて、何かを待ち望むかのようにぽっかりと開いている。

 

 そう、昨日その上に置いたハズのマットレスを貫通して、そこに開いていたのだ。

 

 ……マジかよ。

 

 近寄ってみると異常さはより際立って見える。

 何といったって私のマットレスはスプリング入りなんだぞ。解体するにも一苦労な強度を持っているんだ。それが何だ、これは。床に開いた穴にピッタリなサイズにくり貫かれている。しかも断面は何の抵抗もなかったかのように滑らかだ。

 控えめに言って異常である。この穴は塞ぐことすら叶わないというのか。

 

 

 部屋を清掃し終え、二匹のゴブリン(扉の間に挟まって絶命していた生き物も案の定ゴブリンであった)を庭に埋葬してきた私は、穴を見つめていた。

 穴を塞ぐことが物理的に不可能で、さらに化け物を送り出すこの厄介な穴をどう対処したものか。普通は役所やら警察やらに相談するのが良いのだろうけど、どうもこの件に関しては彼らに解決能力を望むことはできなさそうであるので、私で解決するほか道はない。

 

 とにかく、まずはこの穴が何処につながっているかを知ろう。まともな対処法が効かないのだから、それしかやることがないのだけれども。

 こんな得体の知れぬ穴に顔を突っ込んで中を覗く勇気などないので、こんなものを用意した。

 

「ぱんぱかぱ~ん、自撮り棒ぅ~」

 

 そう、ただの自撮り棒である。

 こいつに私のスマホを取り付けて、穴に突っ込んで映像を撮ろうというのだ。ちなみにこの自撮り棒、今回のためだけに百均へ買いに走った代物である。普段は自撮りなんてしないからね、しょうがないね。

 

「よいしょっと」

 

 穴の開いて使い物にならなくなったマットレスを壁の方に退かしたら、スマホのムービー機能をオンにする。

 

「自撮りなんて初めてするな。いえ~い」

 

 スマホに向かってアホ面晒してピースをしてみた。まあ、映っているのは根暗陰キャ女なんですけどね、初見さん。レンズを通しても現実は変わらないのね。残酷。

 

 馬鹿をやってる場合ではないなと思い直し、いよいよスマホを装着した自撮り棒を穴の中に挿入する。入れてみた感じ不自然なところはない(穴の境界面から先が真っ暗なこと以外)。何か障害物があるわけでもないようで、撮影はとても順調である。自撮り棒を回転させて周囲の景色をカメラに収めておくのも忘れない。

 こんなものでいいだろうと、スマホを穴から引き出す。これも特に異常なことはなく、スマホは状態を保ったまま現れた。

 

「穴に飲み込まれたら消えるとか、そんなことはなかったか」

 

 呟いた予想が当たらなくてよかったと安堵しつつ、スマホを自撮り棒から取り外す。

 

「さて、何が写っているのやら」

 

 再生ボタンを押してスマホの画面に映し出されたのは、驚きの光景であった。

 

「……普通、鉄筋とか写ってると思うんだけどね」

 

 穴の中にあったのは、実に特異な空間であった。

 まるでそこは洞窟の中のような……いや、実際洞窟の中に見えた。

 

 穴の所在は我が家の二階の自室である。通常そこに穴があれば一階に通じていると思うのが普通であるが、この穴に常識は通用しない。昨日寝る前に一階からその通じているべき場所を確認してみたところ、穴の一つも開いていなかったのだ。

 だから穴の中に謎めいた空間が存在しても今更驚きは……いや驚きはするが、驚き疲れて驚く気力がない。

 

 画面は360度回転し、その洞窟めいた空間を映す。

 

 それを見てわかるのは、洞窟めいた空間はどこか意図的な空間である、ということだ。

 何故ならば穴の直下の空間はやけに整えられた箱状になっているように見え、周囲には松明がいくつもかけられているのだから。どう考えてみても人の手が入っているようにしか見えない。いったい誰が、というのはわからないし、心当たりもないが。

 

 さて、その洞窟らしい空間の前方部?にはこれまた松明で照らされた通路が続いているようであった。何処に続いているのかは皆目見当もつかないが……確認しようとは思わんな。もしあのゴブリンめいたものがあの先にわんさかいたらと思うと背筋が凍るような思いである。通路がこの一本であったのは不幸中の幸いなのかもしれない。

 洞窟後方には何かよくわからない文字が書いてあった。サンスクリット文字に見えなくもないが、何処かパチモノくさい。当然、読めはしないのでこの文章が意味するところなど何も解らない。

 

「ますます謎は深まったな」

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