クソボケ指揮官を逆わからせするだけの話   作:マロニー

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ベルファストの場合

 

 

 

 

…ある母港。ある指揮官と、とあるKANSENが勉強をしている。

教えられるは、指揮官の方。

そして教えるは、ロイヤルのメイド長としての任を与えられた女傑、ベルファストだった。

 

 

「─では、婦人は何故この場面で怒ったのでしょうか。

5分以内にお書きください」

 

 

「応。了解した」

 

 

眉根に皺を寄せながらぐわりと、鬼気迫るように紙にかかる、強面の男。

その姿だけならばまた、駆逐艦のKANSENに恐れられるようなものだろう。

 

実際にやっていることが、シチュエーションに合わせ、女心を汲む訓練などで無ければ。

 

 

『時にご主人様。ご主人様には少し、女性の心について教育の必要があるようです』

 

 

『何?』

 

 

 

ほんの少し前の事。

どうにも、いつもより引き締まった顔でそうベルファストに言われた事が契機で、この関係は始まる事となった。

 

主人と女給。

それでいて、生徒と教師。

どこか倒錯的でおかしなその関係は、気付けば意外と長引き、早2ヶ月程経とうとしている。

 

 

 

「良し解けたぞ。この場面、レディが怒った理由は、何でもないという言葉を男が真に受けて無関心を貫いたからだな」

 

 

「はい。補足は如何いたしましょう」

 

 

「嫌、解る。

ならば何故レディはそう言ったかと云うと、そうすることにより、果たして相手の関心が自らに向いているのか試したかった…からだ」

 

 

「…」

 

 

「…違うか?」

 

 

「お見事に御座います、ご主人様」

 

 

「良し…ッ!」

 

 

 

教師であり、メイドである絶世の美女が恭しく礼をする。指揮官は未だにそれに慣れず、どこかこそばゆいような気恥ずかしさを感じる。

咄嗟に目を上に逸らしながら話す。

 

 

「君のおかげだベルファスト。初め君が己に女心の教育だのを言い出した時は正直眉根を顰めたが。いや、この数週間、自らの無知を恥いるばかりだった」

 

 

「それは…良く御座いました。ご主人様のお役に立つ事がこの卑しきメイドには最上の喜びです」

 

 

「卑下するなベル。君ほど完璧なメイドは居ない。少なくとも、俺にはもう君以上のメイドはない」

 

 

気が抜け、つい出た愛称に、礼をしたままのベルファストが一瞬目を見開いた気がした。

やはり失礼だったかと、しまったと口をつぐむ指揮官を前に、メイド長がそっと身を起こして身を寄せる。

 

 

「…コホン。何はともあれ、ご主人様は今や女心マスターと言っても良いでしょう。

これならば、今までのようにいたずらに婦女子を脅かしたり、もしくは…」

 

 

「?もしくは…なんだ」

 

 

「……いいえ。なんでもありません。

ところで何か質問などは御座いませんか?」

 

 

急な、話題の転換に怪訝に思いながら、まあ誤魔化すならば大した事は無いのだろうと、その転換に乗る。

指揮官には一つ、質問したい事があった。

 

 

 

 

「では一つ。どうしても聞きたい事があった」

 

 

「はい、なんでしょう」

 

 

「何故、ここまでしてくれるのだ。

…初めはあまりにも不甲斐ない己に最低限のマナーを叩き込むという事かと思った」

 

「だが貴重な任務の隙間時間を全て用い、丁寧に、懇切に。毎回テストの問題も変え、映像媒体も用意し…その周到と丁寧さはただの上司、主人に教えるとという関係であるにはあまりにも過剰すぎる」

 

 

「…ええ、そうですね。

どう思われますか、ご主人様」

 

 

「ああ、己が思うに…」

 

「もしや己は、君に、したくもない講座を、無意識に、強制してしまってるのではないだろうか。権力で無理くりに!」

 

 

「……」

 

 

「ああ、その沈黙!やはりそうだろう。

やはり、そう云う事かベルファスト。済まなかった、己の為に。済まなかった気付けてやれなくて。上司に向けてもうやめたいなど言えるはずも無……」

 

 

「少し、予定を変えましょう」

 

 

 

食い気味に。

ベルファストが口を挟む。

いつも皆の意見を全て聞いて後に発言をする彼女には珍しい、積極性のある態度だった。

また、とても珍しく。

どうにも眉を顰めている姿が見れた。

否、どちらかというと頬がむくれているような。

 

 

 

「予定?何だ」

 

 

「先程、女心マスターと言いましたが…このベルファスト、とんでもない見込み違いをしていたようです。ですので最後に、一つ卒業試験を致しましょう」

 

 

 

失敬な、俺はもう完璧に理解したぞ。

とか。

卒業試験?何をやるんだ?

だとか。

指揮官の、そういう脳裏によぎった思考は、喉元で全て止まる事となる。ベルファストのその行動に依って。

 

 

 

ベルファストは、そっと指揮官の手を取ったかと思うと。その手を静かに自らの胸に手を置いたのだ。

 

 

(温ッ 細ッ 柔ッ 巨ッ…

何が、起きて─)

 

 

 

指が沈んでいくような柔らかさと、あまりにも女性的すぎる細さ。じっとりと人肌の温かさとその確かな主張をする乳房と共に、ドキドキと早鐘を撃つ鼓動をその掌で感じた。

 

 

「…私は、やはり卑しいメイドです。このような状況に、とてもとても、高揚してしまっているのですから」

 

 

顔を真っ赤に固まる指揮官のもう片方の腕を取ると、ベルファストは自らの腰にそれを絡ませる。銀色の髪に照らされ、その紅潮した顔が紅葉のように映える。

 

 

 

 

「─それでは、最終問題です」

 

 

「今、なぜ私は高揚しているのでしょうか…

…答えをお聞かせくださいませ、ご主人様?」

 

 

 

…試験の結果は、誰も知らない。

 

 

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