クソボケ指揮官を逆わからせするだけの話   作:マロニー

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フッドの場合

 

 

 

「どうぞ指揮官様」

 

 

「ああ、謹んでお受けする」

 

 

「まあ。そんなに緊張をしなくともよろしいのですよ?あくまで、ただの息抜きですから」

 

 

 

ある日、平和な母港にて。

指揮官はティータイムに誘いを受け、それに二も無く頷いた。

一度、彼女から作法が分からぬからと断って以降、常に気にしていたのだ。

 

であるからこそ、その身を削り、寝る間を惜しみ、格式とマナーを学ぶ。

ただレディに恥をかかせない為。

自らがしてしまった失礼を雪ぐ為に。

 

故にフッドから、もう一度誘われた際。

喜び勇んで席に座ったものだった。

 

 

「いや、フッド。

今日は声を掛けてくれてありがとう。

実に楽しみにしていたよ」

 

 

「あら…私との茶会をそこまで楽しみにしていてくださったのですか。うふふ、嬉しい限りですわ」

 

 

 

紅茶の啜る音、食器のぶつかる微かな音。

以前とは明らかに、段違いに洗練された動作に、フッドが少しだけ眉を動かす。

 

 

「ふふ、どうだ。かなりマシに…いや良くなっているだろう。

君に今度は恥をかかせないようにと、猛烈に教えてもらった甲斐があるというものだ」

 

 

 

「ええ。ところで…誰に教わったのです?」

 

 

「ベルファストだ。ロイヤル式を学ばねば意味が無いしな」

 

 

「……そうですか……

ええ。とても優雅ですよ、指揮官様」

 

 

「やはりそうか!フッドにそう言って貰えると尚のこと自信が付くものだ」

 

 

 

急に、会話が途切れてしまう。

食器が擦れる音だけがまた響く。

 

 

「ええ、とても」

 

 

紅茶、食器。

そして、椅子がかたりと動く音。

フッドが椅子を少しだけ動かして、指揮官の隣に席を移した音だった。

 

 

 

「…?近く、ないか?」

 

 

「ええ。…淑女は常に優雅に振る舞わないといけないものの、少しだけ、大胆になったりすることもありますよ」

 

 

「…………成る程!」

 

 

何のことだか、正直に言ってさっぱりとわからなかったが聞き直すことはあまりにも失礼であると思い、指揮官はゆっくりと頷いた。

それを全て見透かすようににっこりと、慈母のような優しい微笑みをフッドが浮かべる。

 

 

 

「ええ。例えば、好きなお方の前であったりだとか。そのお方に少し、妬いてしまった時に」

 

 

その発言について検討をする前に、思案する前に矢継ぎ早にフッドは口を開く。

 

 

 

「…『君を夏の一日と比べてみようか、君のほうが素敵だし、ずっと穏やかだ』」

 

 

詩をそっと引用し、目を瞑る彼女の姿は、どこか荘厳なようにも見えるようで。

 

 

「…本当に美しい詩ですこと。指揮官様、私のために読んでくださいます?」

 

 

「!」

 

 

そう、言われ。

指揮官は会心の笑みを浮かべる。

そして得意になって、口にした。

 

 

 

「…『まして死神に君がその影の中でさまよっているなんて自慢話をさせてたまるか』

 

 

「あら…」

 

 

「『だが、君の永遠の夏は決して色褪せない。君の今の美しさが失われることもない』

…まさしく、今のフッドに送りたい詩だな」

 

 

「………その、詩は」

 

 

「以前君が、読んで欲しいと言っていたからな。格好つけようと暗記をしておいたんだ。

君のお眼鏡に叶うと嬉しいが…どうだ」

 

 

 

呆然と、口を開けるフッド。

顔を赤らめ、いつもの彼女には信じられないほどに隙を晒す姿を見て、指揮官は少し優越感のような、誇らしい気持ちとなる。

 

 

 

「…つかぬことを、お聞きします。

指揮官は、その…」

 

 

「ああ、この詩の意味だろう。

わかっている、わかっているよ」

 

 

 

これについてはメイド達からも教えては貰わなかったが、指揮官は以前、フッドに詩を読むよう要請され、それに困惑して最後まですることが出来なかった。

 

しかし、あの時の少し落ち込んだような顔は覚えていた。フッドの、消沈したようなそれ。

今ならあの顔の意味がわかる。

この歌の意味。

つまるところ、これは…

 

 

 

「…あれは、きっと上流階級にのみ伝わる、歌、返歌のような文化なのだろう!

マナーとして当然あるべきそれを己は無粋にも拒否してしまった!ああ、それはフッドも顔を顰めるだろう。自らの上に立つものが、そういった文化を知らないなど…」

 

 

「……」

 

 

「あれ」

 

 

「……はぁ…」

 

 

「…すまない、違うのか…」

 

 

「ええ。全然違いますわ、指揮官様。

残念ながら…発言の意味と責任を負わなければ、それは優雅とは言えません」

 

 

 

そう言われて、ずきりと胸に刺さるような気持ちになる。自分は、知識だけを詰め込み、それに伴う心構えが未熟なままであったのではないだろうか。そう、指揮官は自省した。

 

 

 

「…そこまで、落ち込むことはありません。

お顔を上げてください指揮官さま」

 

 

そっと、彼の背中に手を置いて、宥めるようにそう言う姿。笑顔は慈母のようでありながら、そしてまた…

 

 

 

「それならば私の部屋に参りませんか?

今の詩の意味を、教えますわ。

手取り、足取り」

 

 

「おお、そうか!

フッドが教えてくれるのなら心強い。

是非とも、そうしてくれないか」

 

 

「ええ。こちらからも、是非お願いします」

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

「…あら、いけませんわ指揮官様。あまりレディに、恥をかかせるものではありませんよ?」

 

 

「貴方が無節操に、あのようなことを言うのがいけません。それでいて、童のように無邪気な顔をするんですもの。それではいけません」

 

 

 

「…うふふ。さあ、指揮官様。レディの『エスコート』の仕方を、ここできちんとレクチャーさせていただきますね」

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

夏の一日。

その長い日が落ちる頃、指揮官はレディのエスコートの仕方を手取り、足取り。

完璧に、教わったのだった。

 

 

 

 

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