クソボケ指揮官を逆わからせするだけの話 作:マロニー
今のところロイヤル陣営の子のみですが、これは別に縛りとかではなくただ単に私がロイヤルが好きなだけです。
それはまたある日の母港。
執務室の中で、時折、甲高い怒号が響く。
それは彼の秘書としての仕事をしているKANSEN、ネルソンの声。
「まったく、いつもツメが甘いんだから。
私がいないといつも─」
そう、小言を言う姿にその通りであると思いながら頷く指揮官。
何かに託けて悪口を言うなど、やっていないことを叱るなど、彼女はそういったことは絶対にしないのだ。だから甘んじて受け入れ、その上で別意見がある時は口に出す。
「何よ。口答え?」
「…ふうん。なるほどね、あんたなりに考えてたって事?ならそれで行きましょ」
負けず嫌いであっても、意固地では無い。そんなネルソンを指揮官はとても信頼していた。
支配海域を取り返し、軍階級を上げようとも、彼女の厳しさはとても変わらないように思えた。そしてそれが少し心地良かった。彼女といる時は、まだ成長できるような気がしていた。
「…その…頼りない、とは思ってたけど。…今ならアンタの事、認めてもやってもいいわよ」
一日の執務が終わった時の事。指揮官が休憩がてらにそっとソファーベッドに座った時、ネルソンがその横に座り、彼の手を弱く握ってぽつりとそう言った。
少し顔を赤らめ、顔を逸らしながら。
そう呟くように言ってくれた事実は、指揮官にはとても嬉しいものだった。
「良し。
明日からも己は頑張らなければ」
そう、引き締まるような気になりながら。その日は、何やらまだ顔が赤いまま言いたげなネルソンもそのまま部屋に戻し、何事も無く就寝した。
…
……
「……はぁ、何が『俺は女心が解るようになったぞ』よ、全く全然じゃない、あいつ…」
「…指揮官?入るわよ?」
扉の前でノックを3回。
執務室の中には指揮官が居るはずだが、今日はしかしいつもと違い、鍵が掛かっている。
「…すまない。ネルソンか」
「ええ。さっさと鍵を開け─」
「今日はもう来なくていい」
「え?」
ただ、そう言われた一言で会話は終わってしまった。扉の前に立ち尽くし、ネルソンは今の発言はどういうことかと頭を悩ませる。
まず驚き、その上でショックだった。
何か気に障ったのだろうか。その心当たりは幾つもあるが、しかし今までそのような態度は見せなかった筈だ。
そんな風に思いながら、それでもやはりムカついて。そんなに自分が嫌いならちゃんと直接言えばいいのに、と思い。
無理矢理、扉をこじ開けた。
鍵は後で修繕しなければ。
「何よその態度は!少しでも認められたら途端に調子に乗って偉くなったつもり?」
それに驚いたように、ぎょっとネルソンを見る指揮官。よほど慌てたのか、手からペンを落とし、あたふたとしている。
「来るな!入ってきたら…!」
「入ってきたら、何よ!
脅しでもするつも…」
忿懣やる方なくそう金切り声をあげようとし、そのまま止まる。
指揮官の顔を見て、すっと怒りが引いていく。代わりに、表情はしょうがない、と言いたげな顔に置換されていく。
「何よ、その顔」
「…何んでも無い」
「何よその赤さ、何その布巾!
何ふらふらしながら座ってんのよ。あんた、本当に馬鹿なんじゃない?」
「…そんな事は無い。
己はこれでも座学はそこそこ優秀で」
「その返答がもう馬鹿!」
捲し立てながら、ネルソンは指揮官の手元にある筆記用具、書類、判子等。
全てを没収して遠ざける。
彼は必死にそれを止めようとするが、力はとても弱々しく、あっけなく失敗した。
「…折角、認めてもらえたから」
「君に失望されたくなかった。
君には、頼りになる姿だけを見せたかった。
己のこんな姿を見てほしくなかったんだ…」
何故、こんな真似をしたのか。
そう問い詰めると、どんよりと背中を丸めてそう言う。いつも見ないような、初めて見る、弱気な姿に、少し変な気持ちになる。
それらを含み、はあ、とため息。
「……まったく。そんなことで、貴方を今更見損なうわけないでしょ」
「それに、何が頼りになる姿だけ見せたかった、よ。私は散々情けなくて、頼りなくって、ダメな指揮官の姿を見てるから手遅れよ」
「……」
「ほら。わかったのなら立って。
歩けないくらいじゃないんでしょ?」
そう促すネルソンに従い、クエスチョンを浮かべながらも立ち上がる指揮官。
そうして導くままに歩いていくと…
その先にあるものは、ネルソンの部屋だった。
「ネルソン。ここは…」
「私の部屋よ。
さっさと入りなさい指揮官」
高熱でぼんやりとした頭がさっと冷えていった。何やら気のせいか、まずい気がした。
何がどうまずいかは、わからずとも。
「…何故?」
「だってあんた、一人になった途端、また無理するつもりでしょ。指揮室にいたら、何がなんでも仕事しようとするだろうし』
「…そんな事はしない」
「フン。あんたの考えることくらいお見通しよ。まだまだ、ひよっこなんだから。
だから私の部屋で寝てなさい」
そう言われて、あれよあれよと部屋の中に担ぎ込まれる指揮官。
抵抗は無意味だとわかっていたので、特に何かしようとする事はなかった…
「ほら、横に来なさい。一緒に寝るわよ!」
…そんな、とんでもない発言がまた飛び込んでくるまでは。
「看病してあげるって言ってるの!
一人にしても不安だし、それなら私があんたに付き添ってあげようって…
何よ、その顔!」
「いや、なんだ。その…好き同士でない者が同衾なぞ、そんな事をしてはいけない!」
「じゃあ言っとくけど私はあんたのこと大好きだから!あんたも私の事好きでしょ!?
……好きよね?」
「…なら、問題は無いわね!ほら、さっさと来なさい!」
そう、無理くり手を引っ張られ、寝台の中に引き摺り込まれる。こんな看病があるものか。そんな風に思いながら…
…
……
気付けば、とんでもない事を言ってしまっていた気がする。
冷静になってみれば、なにやらとんでもない事ばかりしてしまった気がする。
思えば、指揮官が風邪であったとわかった瞬間から、ずっと興奮状態というか、冷静では無かった。
そう、ネルソンは後に述懐する。
顔を、リンゴより真っ赤に染めながら。