やはり甘味こそが正義である。   作:so365

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第一羽 可愛い子(?)には旅をさせろ。

 ある暑い夏の朝の事だ。

 

 テレビを付ければ「今年最大の猛暑日‼︎」なんてテンプレートの様な事を述べている。

 

 いいよ、そういうの。どうせこの後二、三日は同じ事言うんでしょ?あんたら。

 

 俺は番組表を確認して、そのまま電源を切る。特に目新しい番組なんか無かったし、そんな事ならゲームでもしていた方が、俺に合った自堕落ライフを送れると言う訳だ。

 

 我ながら流石と言わざるを得ない。

 今日で夏休みが始まってから4日経つ。

八幡「はぁ〜夏休みまじで最高」

 宿題は2日前に全部終わらしたので残りは遊び放題だ。と言っても、精々薄っぺらい参考書をノートに解く程度だったが。ふ、解答さえあればこっちのもんよ……。

 

 まぁ遊び放題とは言ったものの、生憎この夏休みに家から出る予定が無いんですけどね。エアコン効いた部屋じゃ無いと八幡腐っちゃう。腐敗が進むって小町のお墨付きだぞ?

 あ?手遅れだって?良いんだよ、俺はこれで。


 とまぁ、脳内で一人ボケツッコミをする位には暇である。人間やらねばならない事が無くなった時、一気に堕落する。つまりは今の俺の様に。まぁ、俺の場合は最初からだが……。

 まぁ、当初の予定通りしばらくはゲームでもしておくか。


 そう思い至るや否や、ソファーに寝転び、唯一のお友達であるPSPに手を伸ばした。枕代わりのクッションの位置を微調整し、遂に最高のポジションを確保する。

 

 よし、俺はもうここを動かんぞ!!

 そうして時間経過にして一時間程が過ぎ去った頃、俺の耳が微かな足音を拾い上げた。それから数秒、リビングの扉が勢い良く開く。


 

八幡「どうしたんだ、小町?宿題おわっ……って親父かよ……。今日は仕事じゃ無かったんだな」

 珍しい事もある物だ、あのブラック企業で働く社畜……じゃなかった。奴隷!……でもない、親父が休みを貰ってるだなんて。

親父 「あぁ、今日はお前に話しがあったからな」

 

 親父は、落ち着いた表情で俺の隣に座る。

 自然と俺も、ゲームから手を離し座り直す。

 いかんせん普段そう言った真面目そうな話をしないので、その内容とやらが少し気になったのだ。

 

親父「今日から、お前には俺の親友の家で暮らしてもらう」

 ……絶句した。

 何を言っているんだコイツは?と、本気で思った。

え、俺追い出されるの?俺まだ高二ですけど?せめて高校卒業してからじゃない?

 

 そ、それに俺が出ていったら……俺は愛しの小町に会えなくなるじゃ無いか!!ふざけるな。

親父「今から住所とかそう言うのとか経緯とか色々言ってくから聞いとけよ」

 

 ……まあ、そんな事言っても無駄なんだよな。知ってる、知ってますよ。結局俺は、学校でも部活でも家だって、ヒエラルキー最下位ですから……。

 

 かまくらより低いですからね……俺。


 

親父「というわけで、今からで良い。行ってくれ。大きい荷物は後で適当に送っとくから」


 

 おい、今「適当に」つったか?


八幡「……こ、小町はなんて言ってるんだ?」

 小町なら!きっと愛しの兄と離れることを小町なら寂しがってくれるはずだ!!許容しない筈だ‼︎

 そんな事を思っていると、タッタッタッとリビングに足音が近づいてきた。そしてまたもリビングの扉は開かれ、そこから顔を覗かせたのは今度こそ小町だ。nice timing‼︎ my angel 小町‼︎

 

小町「あ、お兄ちゃん。取り敢えず色々頑張ってね!状況はちゃんと小町に報告するんだよ!」

 

 サラッと……サラッと言われてしまった。

 

 どうやら我が愛しの天使(妹)は、俺の知らぬ内に堕天してしまったらしい……。なんと悲しきかな。


 そうして、俺の最後の抵抗も虚しく、無事強制的に送り出される事が確定した。


 

八幡「こ、こま、小町〜」

 

 なんとも情けない声が出るものだ。これこそが八幡クオリティ……。

 でも仕方無いだろ?だって、だって小町が……うぅぅ。

小町「ほらほらこれ持って、じゃあ行ってらっしゃ〜い!」

 最後の余韻を味わう時間もなく、俺は外へと放り出された。持たされたのは少し大きめのバッグのみ。

 

 あぁ小町、お前は本当に小町なの?悪魔が化けてるんじゃ無いの?いや、小町は確かに小悪魔だけれども。

 

 小町……お前お兄ちゃんっ子じゃ無かったの?お兄ちゃん悲しいよ……。

 

 悲壮感に打ちのめされつつも、ボーッとなった頭を振り切って足を動かした。


 

 ふと、持たされたバッグのファスナーを開く。 

 開け!ジッパー!


 

八幡「財布とマッ缶、衣服に俺のラノベ数冊……」

 

 小町よ、俺のラノベにブックカバーを付けてくれる気概があるんなら、どうにかして親父を止めて欲しかったなぁ……。

 再び悲壮感に打ちのめされていると、ポケットから慣れない振動を感じた。

 

八幡「メール……」

 

 送り主は比企谷小町。

 即座にスマホのスリープを解除してメールへと目を移す。

 

 するとそこには、『お兄ちゃん、新しいお家でも頑張るんだよ!あ、今の小町的にポイント高い♪』と書いてあった。

 やはり小町はあざとくも可愛い俺の妹(エンジェル)だ。   


 俺はフッと小さく笑う。

 

 気を取り直して、知らぬ間に届いていた親父からの業務連絡に目を通し始めた。


そこには、俺が行か無ければならない家の住所が乗っている。家からそんなに遠い訳では無いが、かと言って近い訳でもない。

 

 こういうマメな所がまぁ、社畜感出てるよなぁ。

 

 財布を確認すると、身に覚えの無いないお金がはいっている。小町が入れてくれたのだろう。そしてこの金はきっと親父の自費だというところまで読めてしまった。可哀想な親父。                    

 

 まぁ、これは有難くちょうだいするとして、問題はこの……「香風さん」とやらの家までどうやって行くかだ。

 

 いつもなら金をケチってチャリで行こうと思ってしまうが、今日は金もある事だし電車で行くとしよう。

 冷たいMAXコーヒーに舌鼓を打ちつつ。


 

 

 地図アプリに助けられながらも、目的地付近の駅まで着くことが出来た。

 しかしまぁ凄いな、この街は。なんと言うか、とてものどかというか、ヨーロッパ感がある。

 

 先程数人から挨拶をされたのだが、挨拶なんて知り合いの奴らとすらした事無かったもので、なんだか戸惑ってしまった。


 え?挨拶された事無かったのはその目のせい?そんな事俺が一番分かってるよ。

 


 時間は午後1時を回っている、そろそろ腹が空く頃だ。もし香風さん家が見つからなかったら何処かで腹ごしらえをしよう。


 

 

八幡「ここら辺の筈なんだけどな……ここか?」

 初めて来る場所だったので、多少手間取ってしまったがどうやら目的地に着けたらしい。視線を上に向かわせると、そこには『Rabbit House』と書かれたお店が一つ。

 

 え、何でお店?あ、もしかして親父の親友さん自営業だったの?

八幡「親父、そういう事は先に教えといてくれよ……。いや?俺が聞いてなかったのか……」

 思い返してみると、そんな事を言っていた様な、いない様な……。


 本当になんでちゃんと話し聞かなかっんだよ俺…。

 まぁうじうじ言っていても仕方が無いので、サッとお店の扉に手を伸ばす。


 

『カランカラン』


 

智乃、心愛、リゼ「「「いらっしゃいませー」」」

 元気の良い挨拶が聞こえて、思わずビクッとした。無意識にペコっと一礼することしか出来なかった。

 しかし、店内の雰囲気は中々渋く、俺の好みにマッチしたものだ。

 

八幡「ほう…….いい店だな」

 自然と心の声が漏れてしまう程、俺はこの店を一瞬で気に入った。

 心地良さで言えば、奉仕部に近い。他の要因も絡んでくればそれ以上かもしれん。


 

心愛「でしょ?私もこのお店好きなんだ〜♪」

 うぉ!びっくりした。

 何だか嬉しそうにしている少女が二人。一人は銀髪の小柄で可愛らしい美少女。もう一人は亜麻色の髪で出る所が出ているナイスバディー美少女。

 

 どっちにしろこの場には美少女しかいないらしい。

 しかし、この街の人達は俺の目を見ても通報しようともせず、しかも普通に話しかけてくれるのか?何なのこの街?俺に優しすぎじゃね?

 

リゼ「おい心愛、お客さんが困ってるだろ。すいませんうちの者が」

 と、如何すれば良いか分からない俺を助けてくれたのは、紫髪をしたこれまたナイスバディーの美少女だった。


 

八幡「あ、いえ、別に大丈夫ですよ」


 

 と言いつつも、内心若干混乱している。というのも、この子達から悪意とかそういう類の物が何も感じられない。おかしい、こんなにも世界が俺に優しい訳が無い……。


 

智乃「心愛さんが本当すいません。……その、かなりの荷物ですね。荷物置きを用意しましょうか?」

八幡「あぁ、いや、大丈夫です。その、隣の席に置かせてもらうんで」


 そう言うと、銀髪の少女は「そうですか、失礼しました」と、頭を下げた。

 

 ……何だろう、年下の子に頭下げられるのって良い気分しないな。いつ通報されてしまうんだという緊張が押し寄せてくる。

 

八幡「……あ、そうだ。ここって香風さん家で合ってますかね?」


俺がそうなげかけると銀髪の少女、もとい智乃と呼ばれていた子が口を開く。

 

智乃「はい、私がその香風です。……八幡さん、ですか?比企谷八幡さん」

 

 少女が俺の名を口にした事に少し驚いた。俺の名前を正しく覚えている奴なんてこの世に片手で数える程だぞ。こりゃ逸材だな。

 

八幡「あぁ、その……よく分かったな」

智乃「はい、父からお話は聞いていたので。その、これからよろしくお願いします」

 ペコっとお辞儀をする智乃に対し、俺も慌てて頭を下げる。知らず知らずのうちに進行しているもの。それが社畜化現象だ‼︎

 

八幡「あぁ、そのよろしくお願いします」


 

心愛「例の八幡君?タカヒロさんから話は聞いてるよ、私は保登心愛!心愛って呼んでね♪」

八幡「え、あぁ。その、よろしく保登さ『心愛だよ!』……心愛。あ〜、改めまして俺は比企谷八幡だ」


 

心愛「そうか、じゃあ八幡君って呼ぶね!ん〜、やっぱり『八幡』の方が良いかな?うん!八幡、よろしく!」

 そう言って、心愛はギュッと俺の手を握ってブンブンと振り回す。


八幡「ハッ!なッ‼︎」


 

 な、ななんだ……この可愛さの暴力は!戸塚と同等ののパワーだと……‼︎


 

心愛「えっ、ど、どうしたの⁉︎大丈夫?」


 

智乃「大丈夫ですか?」


 

リゼ「おい、大丈夫か?」


 

 フラッとして倒れそうになったのを、3人が何とか立て直させてくれた。危なかった〜色んな意味で。


 

八幡「あ、あぁ大丈夫だ。何ともない。……その、ありがとうな」

 

心愛「もう、ビックリしちゃったよ。でも、何とも無くて良かった」

智乃「本当ですか?だったら良いんですけど……」

リゼ「まぁ、無理はするなよ」

 なんだこの店、天使しかいないのか?」

 

心愛、智乃、リゼ「「「て、天使!?/////」」」


 

八幡「あ、あ〜いや、何でもない。わ、忘れてくれ」

 やばいな、皆顔真っ赤じゃん。……怒らせて無いよね?これは雪ノ下並みの罵詈雑言が飛んできても可笑しくないレベル……。

 

智乃「……改めまして香風智乃です。みんな私の事は『智乃』って読んでます」

 

 これは『智乃』って呼べと言う事ですよね……。怒られない為にも此処はそう呼んでしまうのが懸命だろう……。

八幡「よろしく、ち、智乃////」


 

 おいおい、なんだこれ?こんなにもドキドキするような事があるのか?あと、なんか危ない気がするのは俺だけだろうか?

 

 ダメだ比企谷八幡、落ち着け〜。お前は勘違いするようなアホじゃ無い。

 

リゼ「私はリゼだ。短く『リゼ』と呼んでもらって構わない。それはそうと智乃、これってまたここに下宿する人が増えたって事か?」

 

 俺の脳内で大論争が巻き起こっている中、紫髪の子、もといリゼが突然そんな事を言い出した。

智乃「はい、そうなりますね」

リゼ「そんな……Rabbithouseはドンドン賑やかになるのに……私の家は」ボソボソ


 

 ……なんか言ってるけどあまり聞き取れなかった。いや、今はそんな事より。

八幡「あの、またってどう言う意味でせう?」

 言うと智乃がハッとした様に、


 

智乃「えっとですね、少し前に心愛さんが家に来て住み始めたんですよ」

 と言うのだ。

心愛「私の学校の方針なんだ!」


 ほう?つまり俺はこの二人の美少女と同じ屋根の下で暮らす事になる訳か……マジカヨ。

 

 つ、つまり俺は、こんな可愛い子達と暮らすのか?ちょっ、ラブコメの神様急に頑張りすぎじゃね?もうちょっとゆっくりでもいいんだぜ。な?
あんまり急ぐと過労死するぜ?

 

八幡「…ちなみにこの家ってその、心愛…//と智乃…//の、二人以外に誰が住んでるんだ?」


 

 質問に答えたのは、意外にも智乃では無く心愛だった。


 

心愛「私と智乃ちゃんと智乃ちゃんのお父さんのタカヒロさんだよ♪ それと、この兎のティッピーだよ!」


 

 ババーンと効果音が鳴った気がした。心愛の向けた手の先は、チノの頭の上だ。

 

 いやまぁ、確かに気になってはいたが、これは何だ?白いモフモフ?綿飴?

 まるで綿菓子の様なそれは、目をパチパチさせてこちらを見ている。

 何?仲間にする的なあれなのか?

 

八幡「え、あぁこのモフモフしたの兎だったのか。……でも何か、俺が知ってる兎とかけ離れてる気が……」


 

リゼ「無理もないだろ。これはアンゴラ兎って言う、珍しい兎なんだ」

八幡「あ、そんなんすか。知らなかった……」




この作品を見てくださった皆様方、初めましてso365と申します。
この作品は、以前pixivの方で投稿していた物を一部改稿した物です。一応100羽くらいまでは出したいなと考えておりますので、こんな私にお付き合いして頂ける方はお楽しみに〜♪

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