白野ちゃんの多難な日々   作:永平

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エリザマスター (前編)

「エリザさん、貴女は今日から、カラオケ会場の使用を禁止します」

タシッと指揮棒を手に打ち付け、BBはエリザに向かって冷たく言い放つ。

話はこれで終わりです、反論は許しませんと、きびすをかえすBB。

「な、な、なんですってぇーーーーー!」

絶対納得いかないと叫ぶエリザの声が、家中に響き渡った。

 

エリザの高周波を受けて耳を手で押さえて、相変わらず馬鹿みたいに響く声だと、

BBは顔を顰める。

「そんなの納得いかない、横暴よ、横暴、官憲の暴力的圧制には断固抗議するわ」

貴女もその権力者側だったでしょうがと、自分を棚にあげるエリザの発言にBBは呆れる。

事の起こりはエリザが、カラオケ会場に設置してあるオーディオ機器のボリュームを全開にし、

恋のドラクルフルファイヤーッと、のたまい、全力で歌った事だ。

一応、声が必要以上に周囲に拡散しないよう、フィールドを張ってあったのだが、

爆音の奔流の前には戸板一枚ぐらいの効果しかなく、易々突破され、

空を飛んでる鳥は落ちるは、カエルはひっくり返るは、白野達が住むマイルーム邸のゴキブリは

一斉に飛び出て次々と昇天するわと、大変事になった。

無論、白野達も無事ではいられず、桜はお茶を零し、新たな人形を縫製していたキャスターは針で指を刺し、丁度ワインを飲もうとしていたギルガメッシュは鼻からワインを飲む羽目になり、

ゴキブリの一斉行動に驚いたアーチャーは、変事が起きた、大丈夫かマスターと白野の部屋へと

飛び込み、隠れて激辛マーボーを食べていた白野を見つけてしまい。

白野はナマハゲ化したアーチャーから、逃げる事になってしまった。

唯一耐性?があるセイバーだけは午睡を貪ったまま、目覚めなかったが、他の面々は変事の発生源のカラオケ会場へと向かい、そこで絶好調と興が乗ったエリザが、嬉々として宝具を開帳する

場面に遭遇、超絶音波攻撃をまともに受けてしまう。

 

この死屍累々の惨状を見かねたBBは、まずは満足とやりきった顔をしているエリザの首根っこを摑まえて、マイルーム邸の一室に放り込み、カラオケ会場の使用禁止をエリザに言い渡したのだが。

なんで禁止されるか理解できないエリザは不満たらたらである。

「言った筈です、反論は許さないと、歌を歌いたければ、私が別に用意してあるベルベット空間を使いなさい、そこなら思いっきり歌っても構いません」

 

BBはエリザに指揮棒を付きつける。

「えー、あそこって仔リスを閉じ込めた犬空間じゃない、どんなに広くたって独りで

閉じ込められるのは絶対嫌っ」

生前のトラウマもあり、エリザはBBの提案をにべなく拒否した。

「なら仕方が無いですね、せいぜい野原にでも行って、宝具は使わないで歌って下さい」

「そんな地味なとこ、やだー」

エリザは手足をバタつかせる。

「歌うなら、設備が整ってるカラオケ会場じゃないと歌った気がしないの、なんで私の

邪魔をするのよ、ちょっとぐらい燥いでも良いじゃない」

「貴女のどこがちょっとですか、あれだけの事を引き起こした癖に」

反省の念をかけらも見せないエリザに、もういっその事白野に黙って一週間程、特設の牢獄に監禁してやろうかと思ったBBだが、出て来たエリザが白野に泣きつくのも面白くないので考え直す。

「分かりました、じゃあ、条件をつけます、貴女が騒音レベルで無い歌を歌えるようになったら、カラオケ会場の使用を許可しましょう」

「騒音って何よ、私の歌はみんな最高なの!」

いきり立つエリザをBBは冷たく見る。

「これが最大の譲歩です、別にプロ並みになれとは言いません、けど、少なくても普通の

一般人レベルまでなってから出直してください」

そう言うと、後は取りつく島も無くBBは自分の部屋へと戻って行った。

取り残されたエリザは、なによなによと、暫く地団駄踏んで憤懣やるかたなしという態度を見せていたが、やがてそんな事をしていても状況は一向に変わらないと思い直し。

カラオケ会場の使用許可を取るべく行動を開始した。

 

え? 禁を解くのを協力しろ?

エリザが向かったのは白野の元、カラオケ会場の使用許可の為の協力を求められ、白野は困惑した表情を見せる。

なにしろ、白野もエリザの爆音事件の被害者である。

折角、脅威が封印されたと思ったら、すぐさまその封印の解除の協力を要請されれば当惑もする。

「そう、あんな無理解信じられない、私の歌が歌わられないなんて世界的損失よ」

むしろ復活する事が、世界の危機に繋がる気がするんだけど。

協力をしぶる白野。

「な、なによ、仔リスまでそんなこと言うの・・・」

非協力的な態度を見せる白野に、エリザは目を潤ませる。

信じてたのにと、無垢な信頼を傷つけられショックを受けた様子を見せられると、

白野は絆されてしまう。

頭ごなしの否定はよくないよね、うん

何度も、自分だって酷い能力の持ち主だった、それをみんなが見捨て無いでくれたから、

ここまでこれたと、心の中で反芻して自分を納得させた白野は、心理的葛藤を乗り越え、

エリザへの協力を承諾した。

嬉しそうな顔を見せるエリザに、白野は自分の判断が間違ってないと思う、

思いたい、思えると良いなぁと、自分に言い聞かせた。

正直エリザの歌は、白野がここまで悩むほど酷い。

しかし酷いからと言って、誰も手をつけずに放置したままでは、上手くなりようが無い。

そもそも何事も初めから上手く出来る者はいない、まあ、なんでも出来る天才も居るがそれは稀・・・・ではなく、白野の周りには結構居るような気もするが、普通は居ない。

自分も凡庸のたぐいである白野はこれを機にエリザの歌が少しでも良くなればと考えたのだが、

ふと疑問が頭に湧いた。

ところでなんで私を選んだの?

白野は別に歌の専門家では無い、寧ろど素人。

歌の練習方法など知らない。

なのに何故と尋ねた白野にエリザは眉を顰める。

「なに言ってるのよ、仔リスは私のファンクラブの会長でしょ?協力は当然じゃない」

えっ!?いつからそんな事になったの?

驚く白野の顔の前で、エリザは指を振り子のように振り、

「出会って、目と目が合った瞬間からよ」

きっぱり言い切る。

えー。

納得いかないとの声を上げる白野。

「そうなのっ!」

そうなんだ・・・・はぁ・・・。

しかしエリザに畳み掛けるように言われて、渋々認めてしまう。

「あ、そうだ」

エリザは唐突に、パンと手を打つ。

「そういえば、仔リスにファンクラブのメンバーズカードを渡すの忘れてたわね、

私としたことがうっかりしてたわ」

そんなものまで用意したんだ。

無駄に用意が良いんだねと思う白野へ、エリザはどこからかカードを取り出して渡す。

「はい、これ、栄光の会員番号00000000000001番よ、誇りに思いなさいよね」

・・・・・あの、これ桁が軽く人類の総数超えているんだけど

カードに印字されている会員数の桁を見て、白野が恐る恐る尋ねると、

「勿論、なんていっても、私は銀河に跨るアルティメットアイドルなんだから」

ふんすっと鼻息荒く、エリザは自慢げに胸を反らす。

多分何を言っても無駄だと悟った白野は、話を先に進める事にした。

 

それで、BBにカラオケ会場の使用を認めさせるっていう事だけど、

具体的に私は何をすれば良いの?

普通に考えれば第三者に頼む事と言えば、批評かコーチ役ではあるが、

白野は歌のコーチなど出来ない。

しかしだからといって、もしここで、今から歌うから、悪い所があったら指摘して頂戴などと

言われでもしたら、白野としては、まるっと全部としか答えようが無い。

そうなったら、多分エリザはその認識から改めさせてあげると言って、白野を縛り上げ、

延々と歌を聴かすという無間地獄を発現させるだろう。

そ、それだけは避けねばと内心冷や汗を掻く白野に言われ、当初の目的を思い出したエリザは、

そうそう、それなのよと話を戻す。

「いい、先進的なものに対する世間の評価は常に冷たい物なのよ」

(先進的というより前衛的だよね、金星水準で)

などと白野が思っているのを知らず、エリザは話を続ける。

「そんな頭こちこちの教条主義な審査員の認識を粉砕するには、なにが必要だと思う?」

(粉砕する破壊力だけは十分あり過ぎるんだけどなー、物理的な意味でも)

「仔リスちゃんと聞いてる?」

なんか、白野の様子がおかしいと、エリザは怪訝な顔付きをした。

疑われた白野は、心の声はおくびにも出さず、勿論と頷く。

「答えは簡単、ファンの熱い声援、これよ」

えーと、もしかして私がBBの前でエリザを応援するの?

え?まさか、あんな事しでかしても、まだ自分の実力は疑ってないの?と、

エリザとの認識のズレに内心慄きながら、自分の役割を確認する白野。

「そう、仔リスがあのわからず屋の前で私を褒め称えるの」

上手くいくんだろうか、いや、むしろ上手く要素が全く見当たらないと白野は悩む。

「なに、自信無いの?」

こくりと白野は頷いた。

「仕方ないわねー、じゃあ、私がやり方を教えてあげる、その通りにやれば良いわ」

あの、それって要するに八百長だよね、実力を認めさせるとかそういうレベルの問題で

なくなっている気が・・・。

自分の決意はなんだったんだろうかと、虚しくなりながら、白野が指摘するが、

エリザは癇癪をおこしたように、床を足で踏み鳴らす。

「いいのっ、まず私が歌えるようにならなきゃいけないんだから、じゃないと何時までたっても

スターダムに昇り詰められないじゃない、ほら言うでしょ、嘘も流し素麺って」

(それだと評価も評判も、ただ下がりって事になるよね)

ヘンテコ知識を聞かされ、二の句が継げない白野を見て、エリザは肩を竦める

「このコトワザ知らないの?ほんと仔リスは無知ね、嘘だって流れるようにつけばみんな信じて

本当の事になるって意味よ」

白野は生唾をごくりと飲み込んだ。

(そんなむちゃくちゃ教えたの、キャスターなんだろうか?いやあの神父あたりも怪しい)

「とにかく、そういう事だから、私の言うと通りにする、反論は許さないから、何があろうとも

私の教えた事だけを言えば良いの、分かったわね!」

びしっと指さされた白野は素直に頷いた。

 

「いい、勝負を賭ける曲は、新曲【恋のドラクルドリーム】よ

この曲でBBをメロメロにするの」

(その認識だけがドリームな歌な気がする)

エリザは尻尾を揺らし、得意げだが、白野はどこまで行っても悲観的な考えが拭い去れない。

「歌う前に、私がまずはこう言うわ

『BB、私の歌の真価を知りなさい、貴女は今日、本当の感動を知るのよ』

そしたら、すかざす仔リスが

『その通りエリザ、君の実力は本物だ、世界のみんなはメロメロさ!』

って、言うの」

うん・・・

なんとも言えない微妙な顔をした白野が頷く。

「次は、私が軽くさわりを歌うから、そしたら

『やったねエリザ、その調子』

とはやし立てる、爽やかにね。

その後、私がサビの部分を歌って、決めポーズを取るから、

仔リスも、こう感極まったっていう様子を見せてね、熱烈に褒めちぎるの、

『キャー、エリちゃん素敵ーっ、誰にも出来ない事をしてのける、

そこに痺れる、憧れるー。

もう、その存在全てが罪っ、だっ!』

ってね。」

あの、感極まった様子って、もしかして私が、そのいかにも媚び媚びってますポーズをするの?

エリザがお手本と称してやって見せたポーズは、なんか甘ったるい擬音が付きそうな、

少なくても自然界では生じ得ないポーズ。

したくない、やりたくない。

そう思った白野は、

まさか、人には見せられない代物なのに、人前でやらなきゃいけないの?

そこまでしなくて良いよねと、淡い期待を胸に抱き尋ねるが、

「するのっ」

ドンっと、手にした槍で床を叩き、エリザは一喝。

はい。

白野はすぐさま頷いた。

「後はえーと、あ、そうそう、私が歌い終わったらなんだけど、

こう言うのを忘れないでよ

『もうエリちゃん最高ぉー、アンコールアンコール』

そして、最後の締めね、

『流石だね、エリザ、私ほんとビックリだよ、いやほんと

なんでこれが知られないんだろ、全く世界の損失だよ』

これで完璧よ」

御花畑全開の予想図を頭に思い浮かべ、舞い上がったエリザは両手を組み合わせ、

その場でくるくると回る。

一方で白野は不安げな様子を見せる。

「もう、悩まない、考えない、録音データーの再生の如く場の空気を詠まないで

言いなさい!それで何もかも上手くいくんだから、余分な事を仔リスはしない、分かった?」

う、うん

それだけ強く言われても、やはり白野の心にはしこりが残るのか、やや歯切れ悪く頷く。

「じゃあ、これを持って行こうかしら」

そう言いながら、エリザがドスンと置いたのは黒くて四角い箱。

なにこれと、白野が尋ねると

「これはカラオケセットよ、購買部から買ったの」

エリザは、ぱしぱし、四角い箱を叩く。

半額の大特価でお買い得だったのよと、エリザは得意げに言うが、

それ、定価いくらなの?

「え、知らないわよ、そんなの」

あっさりとエリザは言った。

・・・・・ぼられてないか?

適正な定価が分からない以上五割引きと言っても、どの価格に対しての五割引か分からない、

極端な話、購買部の店員が他の店の二倍以上の定価を定めていたら、

何にも割引していない事になる。

まさかそんなアコギな事はしていないだろと白野は思うが、一応エリザに確認してみた。

その購買部の店員って・・・・。

「勿論、元監督役の神父よ。」

ドッと白野の額に汗の粒が浮かぶ。

監督役、その名称を聞き、嫌な予感が胸中に湧き上がる。

「どうしたの仔リス?」

顔を覗き込んでくるエリザに、白野は曖昧な笑い顔を顔に浮かべ、

その店員、売る時になにか怪しい態度とか、変な事とか言ってなかった?

「ん?別に言ってなかったけど、これはお客様、ご奉仕価格だとか、出血覚悟、

心して買うが良いとか」

エリザは顎に指をあて、天上を見上げながら、カラオケセットを買った時の事を思い出しながら

言う。

お客様、が、ご奉仕価格とか、お前が出血覚悟、散財する事を心して買うが良いとか

言ってないよね?

何度もやらかされて、流石に神父の事を良く知ってる白野が恐る恐る確認すると、

「そんな事・・・言ってないわね、うーん、でも思い出してみれば、途中やけに言葉を飲み込んでいたとか、そんな感じはしたけど」

白野は手で顔を覆う。

もはや、ぼられているのは間違いが無い。

クーリングオフは効くだろうか、いや無理だよね、クレームをつけて商品交換、駄目だ

商品自体の機能に問題なければ何も言えないなどと、つらつらと考える白野の肩を

エリザは気楽にぱたぱたと叩く。

「なに暗くなってるのよ、仔リス、そんなにしょぼんでないでBBの所へ行くわよ」

あ、うん。

エリザに笑いかけられ、もう白野は考えるのはやめた。

 

 

「さあ、BBやって来たわよ、覚悟しなさい」

呼び出したBBに、エリザは指さし、昂然と言ってのける。

何を覚悟すれば良いのやらと呆れ顔をしたBBは、エリザの隣に居る白野を見て、眉をひそめた。

「なんで、センパイまで一緒に来てるんですか?」

「それはもうあれよ、私の熱烈のファンとして貴女の無道行為に、どーしても抗議したいって

聞かなくて」

え? そんなことは、

 

ぎゅむっ

 

無いと言いかけた白野は、黙れと、エリザに足を踏まれる。

「そうなんてすか?」

怪訝な顔つきのBBに、

はい、一応。

白野が頷く。

「・・・・・ついにあの変態的なマーボーの汁が、頭の中に混じりましたか?」

マーボーは関係ないでしょ、マーボーは。

BBの偏見?に白野が憤慨した様を見せる。

やめてよ、さりげなくマーボーをdisするのは、あの子はちょっとやんちゃな味付けなだけで、何にも罪は無いの。

別の抗議をする白野の頭を、エリザは槍でコツンと叩く。

「そんな事はどうでも良いのよ、さあBB、私の歌を聴いてひれ伏しなさい」

気合を込めて言うエリザに対し、

はいはい分かりました、ちゃっちゃっとやって下さいと、BBはやる気なさそうに答えた。

 

「じゃあ、いくわよっ!」

マイクを構えたエリザが合図し、白野は頷く。

しかしその前にBBが溜息をつき。

「全く、なんて無駄な事を、貴女の歌なんて、あのジナコ・カリギリが、ぎぉおーーっす、

なんて叫ぶ程の超音波兵器じゃないですか」

 

その通りエリザ、君の実力は本物だ、世界のみんなはメロメロさ! 

 

白野は親指を立て、爽やかに言いきった。

沈黙が流れる。

「・・・・知ってるなら、どうして止めないんですか、センパイ?」

ジト目のBBにエリザが慌てる。

「ちょっ、ちょっと割り込まないでよBB、段取りが狂うでしょ」

「は?段取りって」

追及されそうになって、拙いと思ったエリザは誤魔化すように先に進める

「と、とにかくミュージックスタートよ」

ポチッとなと、ボタンを押して、マイクを傾けるが、

 

キィィィィィィィィィィンンッッ

 

焦って操作してしまった為に何か調整を間違えてしまったのが、耳をつんざくハウリング音が

鳴り響き、BBは耳を押さえた。

 

やったねエリザ、その調子。

 

爽やかに言う白野。

「・・・・先輩?」

BBは怪訝な顔で、白野を見た。

なにかおかしい、その顔が如実に物語る。

雲行きが怪しくなって、エリザは更に焦り、

「ちょっと何よこれ、不良品じゃない! 折角、仔リスのお財布からお金抜き取って買ったのに! あの店員憶えておきなさいよ」

なっ!?

さり気無く暴露された笑撃の事実に白野は絶句、しかしエリザはそんな白野には気付かず、

機械を蹴り上げる。

すると、蹴りどころが良かったのか、正常に音楽が流れ出した。

口をパクパクさせる白野を余所に、やったね、これからが本番よと、気を取り直したエリザは

歌い出す。

が、あいかわらず酷い、

BBは顔をしかめ、懐の軽くなった白野は胃を押さえた。

しかしエリザはそんな事は気にせず、ノリノリで歌い続け、やがてサビの部分となる。

いよいよだから、仔リス、タイミングを外さないでねとエリザは白野に目配せをし。

白野もやけくそ気味に、媚び媚びの応援ポーズをとり。

エリザはくるりと回って決めポーズ。

そして、

 

ドンガラガッシャーン

 

思いっきり振り回した尻尾が激突、カラオケセットはふっ飛んで逝った。

 

キャー、エリちゃん素敵ーっ、誰にも出来ない事をしてのける、

そこに痺れる、憧れるー。

もう、その存在全てが罪っ、だっ!

 

白野が上げる嬌声が、辺りに虚しく響いた。

「なによなによ、なんなのよ、こんなの有り得ない、こんなの嘘よ、

もうこうなったらアカペラよ、私の美声で酔いしれなさい」

エリザはマイクを高く掲げ、いざ歌わんと気合を入れて、

 

ガリリッ

 

空回り、もつれた舌を思いっきり噛み、涙目でしゃがみこんでしまった。

 

もうエリちゃん最高ぉー、アンコールアンコール。

 

そして曲が終わる。色々終わる。

最後に白野がしみじみと

 

流石だね、エリザ、私ほんとビックリだよ、いやほんと。

なんでこれが知られないんだろ、全く世界の損失だよ。

 

嘆息した。

 

重い沈黙が流れる。

エリザは地面に膝をつき、ガックリと項垂れ、BBはそんなエリザを醒めた目で見降ろす。

白野はと言えば、もうどうしたら良いのこれ?と、手で顔を覆っていた。

「・・・・・エリザさん」

重い重い沈黙をBBが破る。

「悪い事は言いません、貴女アイドルなんて似合わないことはやめて、素直にコメディアンに

なったらどうですか?そのほうが良いですよ、絶対」

「ちょ、なによそれ、わたしのどこにそんな要素があるっていうの!?」

「何処も何も、もう全部としか言いようが無いんですけど」

エリザに死刑宣告並みの事を言った後、BBは白野を見る。

「あと、センパイ」

え、なに? 私?

白野は自分を指さし、なんで呼ばれたの?と、不思議そうに首をかしげる。

「センパイは八百長の共犯者として、後でお仕置きですから」

えーーーっ、なんでぇーーっ

「当たり前です」

白野が上げる抗議の声を、BBは指揮棒を手にぴしゃりとうちつけ、遮った。

 

エリザはその後、滝に打たれて修行すると称して、シャワーを浴びに行き、

白野はお仕置きを受けることになった。

完全にとばっちりだよねと、肩を落とす白野へBBが用意したお仕置きは、

本日の夕食の準備において玉ねぎのみじん切りをする事。

涙目になったところをわざわざ写メで撮られて、みんなに送信されるという屈辱の中、

今日の夕食の当番であるキャスターが首を傾げる。

「なんで突然、ご主人様はお仕置きを受ける事になったんですか?」

台所の隅で送信されてきた映像をじっと見ている桜に、ますます涙目な白野は昼間の出来事の

説明をした。

「? どうしてご主人様が、エリザさんのお手伝いなんかするんです?

しかも、よりにもよって歌関連なんて理由がありませんよね」

まあ、そうなんだけどねと、白野はこめかみを指で押さえつつ、

えーと、一応、私はエリザのファンだから。

その衝撃の一言に、二人はてき面に動揺した。

「ごごごご、ご主人様、どうしてしまったんですか、人生に疲れてしまったんですか?」

「先輩はいろいろ頑張り過ぎなんです、もっと気楽に生きていいんですよ、

あ、私カウンセリングも出来ますから」

なんか二人がとっても優しくなる。

あ、いや別に大して事じゃないんじゃないかな?

やたらに気遣いをされて、慌てた白野が、なんでも無いと言うが、

「大した事なんです!ご主人様はただでさえ、味覚面で爆弾を抱えているのに、この上聴覚まで」

感情が高ぶって胸が詰まったのか、キャスターは着物の袖で目元を覆う。

「どうしてセンパイばかり、こんなつらい目に、私が変われれば」

何故か話が大袈裟になっていく。

このままだと、二人がエリザの元へ襲撃しかねない、何とか宥めないと白野が思ったその時、

「やっほー、仔リス、こんな所に居たの」

空気を読まずエリザがやって来た。

キャスターと桜がぎゅいんと急角度で頭を動かし、エリザを見た。

二人の身体から湧き出る剣呑な圧力に、エリザは腰を引く。

「そうですか、そうですね、こいつをコロコロすれば良いんですね」

腕まくりをして、キャスターは札を取り出し、

「この人のせいで、先輩は不幸になる・・・この人のせいで」

桜は静かにぽそりと言う、手に持っている包丁がなんか怖い。

「ちょ、ちょっと、なに二人とも、いきなりヤンでるのよーっ」

助けを求めるようにエリザは白野を見、拙いと思った白野もエリザと二人の間に割って入った。

二人とも落ち着いて、どうどう、まだ慌てる時間じゃない。

セーフと手を広げ、頭を軽く振り、なんとか白野なりに二人を宥めようとするが、

「ご主人様どいて、そいつ殺せない」

「・・・・・」

二人は臨戦態勢を解かない。

キャスター、そういうのは良いから、STOP THE ヤン。

あと桜も無言は止めて。

必死に白野がキャスターと桜に対して説得を繰り返し、なんとか二人は落ち着きを取り戻した。

 

不慮の事故が起きる事を心配した白野がエリザを逃がした後、夕食の準備が再開。

その途中で、

「先輩、エリザさんの手伝いをするのは良いんですけど、無茶だけはしないでくださいね」

桜が心配そうに白野に声をかけてきた。

うん、しないよと、白野が笑いかけると、桜はホッとした顔をする。

そんな桜を見て、桜はもう大丈夫、元に戻っていると安心した白野だが、

気になるのはキャスターがしきりに鍋をかき回している事である。

中身があるので、まだ安心だが、その表情が怪しげな薬を作ろうと鍋をかき回す、

魔女のそれになっている。

あの、キャスター、その料理って私達が食べるのだよね?

自分達が食べるものであれば、少なくとも毒は作るまいと思って、白野がキャスターに尋ねた。

「・・・・・きゃっ、私、分量間違えて、余分に作り過ぎちゃった、

ほんとどじっ娘タマモちゃん、でも大丈夫これは無駄にしませんから・・・・・絶対」

ブッている態度から一転、醒めきった顔をするキャスターに白野は戦慄する。

こ、怖いよキャスター、その余分は捨てて、お願いだから!

白野に縋り付かれたキャスターは、困った顔をする。

「駄目・・・ですか?ちょこっと、ほんのちょこっとでも駄目ですか?」

駄目。

きっぱり言われて、キャスターは口を尖らすが

「むぅ、仕方が無いですねー」

結局は白野の言う通りにした。

こうしてその日の夕食は無事に終わり、夜が明けて次の日。

 

 

私、思うんだけどね。

白野は朝食後にエリザの元へと赴いた。

やっぱり下手な小細工しないで実力勝負でいった方が良いと思うんだ。

現状、その方が遥かに無謀なのだが、白野はエリザに昨日のような事はしないで、

真っ向からBBにぶつかった方が良いと言った。

「だから、その実力をBBが認めないのが問題なのでしょうが」

しかしエリザは、あくまでBBが悪意を持って正当な評価をしていないと主張する。

哀しいまでの認識のズレ、生前自己愛で完結したエリザにとって他者の想いを汲み取るのは

困難な事なのだろう。

意固地になっているというより、本気で分からないのだ。

まずはそこを理解せねば、何も始まらないと、白野は首を横に振る。

「むぅ、仔リスは私が間違っているって言うの?」

白野のその行為を、自身の否定と感じたエリザは顔を歪める。

間違っていると言うより、知らないだけだと思ってる。

小さく唸り声をあげるエリザに、白野は警戒も見せずに言う。

「知らないって?」

一人より、二人、二人より三人、楽しい事は何倍にも、悲しい事は何分の一になるって事をね。

「なにそれ、訳が分からない、だいたい私以外がなんだって言うのよ、そんなの何の価値も無い」

エリザは頭痛がするのか、手で頭を押さえる。

「そうよ、そんなの居ない、人間なんていない、みんなみんな家畜なのよ」

エリザの声がタガが外れたように高くなる。

その目には狂気が宿りつつあった。

人であることは必要?

そんなエリザの手に、白野は自分の手を重ねる。

それだけで、エリザは正常に引き戻されたのか、ハッとして白野の顔を見た。

言葉をかわし、意志をまじえ、触れ合えることも出来るのなら、

想いを通じ合う事は出来ない?

温もりを知り、安らぎを知り、楽しさを知る事は、エリザとなら出来ると私は思ってる。

白野はエリザの目をまっすぐ見て、言う。

「なっ、な、なななな」

見つめられたエリザは顔を真っ赤にし、口をぱくぱくとさせる。

今のエリザは14歳前後の肉体と人間性で固定されている。

悪魔として投獄され、最後の瞬間までの悪夢の記憶も有している為、

狂気も内包しているのは確かだが、恋に夢見る少女性も有しているのだ。

夢を見れるのであれば、大丈夫。

分からないのなら、それでもいい、まずはそこから始めよう。

自分もそうだった、何も無い所から、みんなと始めた。

だからエリザも一緒にねと、白野は微笑む。

 

恋愛脳の持ち主にこの対応は無い。

自覚が無いのが本当に性質が悪い。

自分で地雷原に地雷をまいているのだから、どうしようも無い。

 

無い無い尽くしの白野。

そんな白野を

「ふははは、見事、Niceだ、マスターよ、相も変わらずブーメランを恐れぬ、その蛮勇、

良いぞ飴をやろう」

まさに愉悦との笑い声が響き、どこからともなくギルガメッシュが現れ、

エリザはバッと白野から跳んで離れた。

わざとらしくスカートの埃をパッパッと払い、ギルガメッシュを軽く睨み。

「な、なによっ、ゴージャス突然現れないで、吃驚するじゃない」

「そんな些末事はどうでも良い、しかしマスターよ、相変わらずの相変わらずぶり、

堪能させてもらった、よかろう、この我も以前の約束果たすとしよう」

ギルガメッシュの突然な我様発言が理解出来ず、白野もエリザも首を傾げる。

「この我が黄金Pとして、そこな者をプロデュースしてやると言ってるのだ」

ギルガメッシュに指差され、え?私?とキョトンとするエリザ。

そんな約束したの?

と、白野が聞くと、エリザは空を見上げ、少し考え込み、

「そういえば、そんな事も言われたわね」

以前ギルガメッシュが戯れ気味に言った事を思い出したエリザは、本気で言っているの?

と、訝しげにギルガメシュを見た。

「この我に二言はあるが、今は無い、なにマスターもやる気になっているのだ、

この我も手を貸すのはやぶさかでは無い」

どこまで本気で言っているのか分からないが、白野としてもギルガメッシュの提案は

渡りに船である。

エリザの力になると言ったものの、白野には相変わらず具体的な方法がさっぱり思いつかない。

ギルガメッシュは王様だから演奏を聴く機会も多かっただろうし、なんだかんだ言っても博識だ、自分よりは音楽に関して詳しいだろうと頼もしく思い、白野は頷く。

 

「待ってよ、いきなりやって来て、勝手に話を進めないでよね」

なんとなく話が纏まりそうだった雰囲気だったのだが、しかしエリザは口を尖らす。

「む、なんだ不満か?」

「ふ、不満とか、そういうのじゃなくて・・・」

一方的すぎるのが、何か気に入らないと、エリザは続けようとしたが、

白野に駄目なの?と、少し不安げに見られると、途端に言葉が喉の奥に引っ込んでしまった。

「ま、まあ、仕方が無いわ、仔リスがそこまで期待してるって言うのなら、私も少しは応えてあげようなんて思ったりもするわ、ゴージャス、貴方のプロデューサ就任を認めてあげる」

白野にじっと見られ、エリザは照れ隠しに髪を手で掻き上げながら、ギルガメッシュの提案を

承諾した。

 

「ふむ、ならば早速レッスンと行くとするか、行くぞ」

ギルガメッシュに促され、エリザは頷くが、白野は少しだけ困った顔をした。

えーと、私は歌とか全然駄目だけど、いいかな?

自信なさ気に言う白野に、ギルガメッシュはモウマンタイと手を一振りする。

「無用な心配だ、お前にはお前で大事な役割がある、と言うわけだ、行くぞ、ピヨすけ」

え!?なんでピヨ?わたし事務なんてしたことないのに。

突然変な呼ばれ方をした白野は、自分を指さし、素っ頓狂な声を出す。

「知らん、なんでも良いから、付いてこい来い」

ちょっと、手を引っ張らないで、そんなことしなくても行くから、あーっ

白野はずるずると引き摺られていった。

 

こうしてエリザ補完計画が始まる事になった。

 

 

 

おまけ

 

ぷちストラ劇場 

ある日の白野 ダンスえぼりゅーしょん。

 

本日は白野達はダンスゲームに勤しむ事になった。

いつもの制服で踊ろうとした白野に、

「そんなのありえないっす」

と、ジナコの教育的指導が入る。

その結果、ネコ耳メイド、ポニテ仕様という姿で踊らされる白野。

解せぬ・・・。

悩む白野に、

「そんなんだから、白野さんはクラスで三番目なんっすよ」

ジナコが指摘。

こんな事させられてるから三番目になるんじゃないかと、白野は渋るも、

セイバーとキャスターの猛烈プッシュにより押し切られ、

はくにゃん、せいにゃー、たまの三人でダンシング。

 

【挿絵表示】

 

「お前、頭おかしくなったの?」

なんて、のたまったシンジはセイバーとキャスターの連携技で轟沈。

白野がもうこんな羞恥プレイ勘弁してください、私の精神値は限界ですと頼み込むまで、みんなで踊り続けた。

 

【挿絵表示】

 

 

しかし皆で楽しく遊んだこの音ゲーだったが、まさか後にあのような悲劇をもたらす事になるとは、この時は誰も予想していなかった。

 

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