白野ちゃんの多難な日々   作:永平

11 / 12
エリザマスター (後編)

はっちゃけ過ぎて、BBにカラオケ会場の使用禁止を言い渡されたエリザ。

なんとか禁を解除しようと、エリザは白野に協力を求める。

しかし白野に音楽知識は無い、どうしたものかと考えているうちに、ギルガメッシュが

やって来て、エリザのプロデュースをする事を申し出た。

 

そうしてエリザのレッスンが始まったのだが、ギルガメッシュがエリザのレッスンの為に

選んだ場所は、BBがピクニック用にと、わざわざ作り上げたキャンプ場。

普段人がおらず、少々大声を上げても周りには迷惑を掛けないという事で選んだのだが、

「うー、なんかしょぼいわね、ちゃんとしたスタジオとか無いの?」

ちゃんとした場所でのレッスンを期待していたエリザは不満の声を上げる。

「いきなりは用意できん、とりあえずここで我慢しろ」

いずれ用意すると言うギルガメッシュに、エリザも今は仕方がないと承知した。

「ではまずは基本的なことから始めるか、現在夜逃げしている音程をどうにかせねばなるまい」

でも帰って来る気配無いよね。

白野の呟きにギルガメッシュも頷く。

「うむ、だがそれを戻さぬことには話にならん」

まあ、確かに、そうだよね。

ギルガメッシュの言葉に白野も納得する。

音程を外したままでは、道からランナウェイして目的地に着こうとするものだ、

辿り着けるわけが無い。

「そういうわけだ、エリザ、お前の作った歌、歌詞について今は何も言うまい、

だが付けられた曲の方を見直す必要がある、五線紙を見せて見ろ」

ギルガメッシュが差し出した手を、エリザは不思議そうに見る。

「五線紙?なにそれ」

「まさか五線譜の事を知らぬのか?」

音符マークを色々書き込む作業だよと、白野は補足説明するが、尚もエリザは首を傾げた。

「いや、だから全然知らないって」

「きさま、五線譜も知らないで作曲したとかよく言えたな、それだから音程さんが身投げして、帰ってこなくなるのだ」

いや、身投げじゃもともと帰ってこれないから、そこは匙を投げたとか

マイルドな表現にしたほうが良いと思う。

全然マイルドじゃない表現で白野はフォローする。

勿論エリザがそんなもので納得する筈も無く、苛立たしげに頭を両手でわしわし掻く。

「あー、もう訳の分からない事をごちゃごちゃ言って、頭が痛くなるじゃない、

いいのよそんなの知らなくても、歌なんてフィーリングよ、勘よ、思い付きよ、その場のノリよ、

私ぐらいになれば音楽の神様が降りてくるのっ」

どう考えても、それで降りてくるのは死神です、本当にありがとうございました。

白野が心の中でツッコみを入れる。

「まあ良い、楽譜を書けなくても作曲自体は出来るからな、知らぬでもなんとかなる」

作るだけならね。

疲れたように言う白野。

「だがそれでは、所詮独りよがりの土管リサイタル、他人を納得させるには、正しい音程と、

聴く者の耳を気にして歌を歌わねばならぬ」

そう言いながらギルガメッシュは一枚の紙をエリザに渡した。

「なによ、これ」

「練習用の歌だ、音痴なのは一つ一つの音の正確なピッチを把握せず、ただ好きなように

闇雲に歌っているからだ、まずは単音できちんとキーを取り、音を覚えてから、

フレーズに繋げるべきだな」

なんかマトモな事を言ってると驚く白野の前で、渡された紙に視線を走らせていたエリザが

顔を上げた。

その顔にはありありと不満の色が見て取れた。

「ちょっと、なによこれ、ラララーとしか書いてなくて、歌詞も何もないじゃない」

「だからまずは単音の音を確認、その後ピッチを変えて、音を覚えると言っているだろうが」

ギルガメッシュが言うと、エリザはふくれっ面をする。

「こんなのつまんない、私、やらないから」

ぽいっとエリザは紙を放り投げた。

そんな態度をされても、驚く事にギルガメッシュは怒る事はなかった。

なに、わがままなアイドルを軽くいなすのもプロデューサーのスキルの一つよ

との事であり、愉しむ事については真面目だよねと白野は素直に感心する。

「ふむ、貴様は面白くないと駄目か」

「あたりまえでしょ」

顎に手をあて、考え込んでいたギルガメッシュは顔を上げ、エリザに別の歌詞カードを渡す。

「ならばこれでどうだ、ラが駄目なら、ドでいくぞ、歌詞も付けた、ほら歌ってみろ」

「仕方ないわねー」

とエリザは歌詞カードを手に取り

「ドッ、ドッ、ドッ、ドリフの大爆~♪」

と歌い出して、直ぐに、

「って、なによ、これ!」

バシッと歌詞カードを床に叩きつけた。

「何と言われてもな、貴様のお望みの通りに単音と歌詞を組み合わせたものだが」

「こんなもの歌わせないでよ、もっとなにか別な方法は無いの!?」

「こんなものとは随分な物言いだな、これはかつて有名アイドルも出演していた

サタイディナイト大集合のものだぞ」

「局が違うでしょ、局が!」

(な、なんでそんな事、知ってるんだろう、この二人は)

ギルガメッシュとエリザのやりとりを聞いて、白野の額に汗がにじむ。

いつもながらだが、英霊なんて身の上の癖に、みんな酷く俗っぽい事まで知っている。

サーヴァントは現界する時に現代の知識は与えられるとは聞いていたが、

なにもここまで教えないでもと白野は思う。

しかし、星の営みの始まりから観測し続けた観測機としては、どんな些細な情報でも

与えられずにはいられないのだろう。

恐るべきジオ・・・じゃなくて、ムーンセル。

「しかし、これが不満となれば、さて・・・・・」

一人おののく白野を背にし、ギルガメッシュは再び顎に手をあて、考え込む、

やがて何か思いついたのか、片手を上げる。

ジャラリと鎖の音が何故か聞こえたかと思うと、

「そもそもの話だが、貴様は基本、歌う時に力が入り過ぎている、コントロールすべきだ、

その第一歩として、まずは人がどの程度で卒倒するかを知れ」

そう言い、ギルガメッシュは身体を半身ずらす。

すると、ギルガメッシュの後ろ、

ふごふごふごーっ

何時の間にか、天の鎖で縛られ、猿ぐつわまで噛まされていた白野が暴れていた。

「カナリア役はじたばたするな」

ギルガメッシュが一喝すると、

ぶこぶこふごごーー!

(カナリア!? それってつまり、私が限界を測るバロメーター!?そんなの嫌ぁーーっ)

白野の抗議が強くなる。

「なんかぴちぴちって、釣り上げられた鮎みたいね」

白野を見ていたエリザはクスリと笑い。

「はっはっは、全くだな」

ギルガメッシユも屈託なく笑った。

人にこんな事しておいて、なに穏やか空間を作ってやがりますか、あなた達はーー!

蹴ろうとするが、悲しいかな足も縛られているので、ぴちぴちする以外、何も出来ない。

「ふむ、何時まで眺めていても仕方が無いな」

ギルガメッシュは暴れる白野を担ぎ上げ、王の財宝の蔵から出した豪奢な椅子に座らせた。

「さて、これでこいつはこの通り、身体の自由を奪われ、完全に聴く体勢だ」

ギルガメッシュは椅子の後ろから白野の両肩に手を置き、ニヤリと笑う。

どうせなら耳の自由を奪ってぇぇぇ!

自由になる部分を必死で動かし、止めてよしてとアピールするが、この二人にそれは通用しない。

「ふふふ、仔リス、心配しなくても大丈夫よ、たっぷり虐め・・・じゃないわ、そんな事になる訳ないし、楽しませて、あ・げ・る」

いやいやいや、それ絶対言い間違いにならないから、助けて、ギルガメッシュ。

多分無理だろうと思ったが一縷の望みを賭けて、白野はギルガメッシュを見る。

するとギルガメッシュは何かを耳に詰めている最中だった。

一人だけ助かろうとしてるぅぅぅぅ、狡い狡すぎる。

自分が今座ってる豪華な椅子が、電気イスとしか思えない白野は

もがきにもがくが全ては無駄だった。

 

そして始まる、リサイタル。

 

 

強引んぐ、WAY!!GO歌え!!

張り切って歌いましょう

一際輝く、私になりたい

 

ノンブレーキで歌ってみましょ♪

って思ったら、またみな逃げてる!?!

そんな時も落ち込まないで

チェイテがある、監禁!!

フルボリューム、会場開催♪

って思ったらBB制限!?!

こんな時でもくじけないで

鮮血魔嬢、開帳。

 

だってね、誰もが知らないもの♪

だから誰でも教えてあげる

ヒットチャートには載ってないけど

そんな無理解、吹き飛ばすのよ

さあ歌おう!!

 

強引んぐ、WAY!!GO歌え!!

歌って踊って

この世を全部

ハッピーランドでドリームランド

強引んぐ、WAY!!GO歌え!!

張り切って歌いましょう

一際輝く、私になりたい♪

 

どうよっ

歌い終わった後、エリザは得意げに白野を見る。

 

チーン

 

反応が無い、ただの抜け殻だった。

「ふむ、また見事にぶっちぎったな、マスターはこの通りか」

意識を手放した白野の頬をぺしぺし叩き、様子を窺っていたギルガメッシュは頭を振り、

顔を上げた。

「え?どういう事?もしかしなくても感激のあまり気を失ったの?」

「いや、違うな、意識が過酷な現実に耐えられず、夢の中へと逃避しただけだ」

「えーと、つまり分かり易く三行で言うと?」

「下手

 音痴

 歌(笑い)とか」

「はぁ!?何よそれ、私の歌が酷いって言うの!?」

「まあ今はな、しかしこれで限界値が分かった。

後はいかにうまくコントロールするかだな」

ギルガメッシュが頭ごなしの否定をしなかったので、取り敢えず矛を収めたエリザは

白野を見やる。

「ところで、仔リスはこのままなの?」

エリザが白野を指さす

「なにか問題があるのか?」

「えー、だって仔リスが起きてないと、なんかつまんない」

両手を後ろ手に組み、エリザは足元の小石を蹴る。

「ふむ、見られてないと燃えないか」

「そうよ、私はアイドルなの、みんなに注目されてないといけないの」

絶対的なアイドル像が頭の中にあるエリザは目を輝かして言い、

「まあ、確かに人の目はあった方が良いか、ならば起こすとするか」

エリザの言に一定の道理を認めたギルガメッシュはそう言うと、王の財宝の蔵から

見事な平皿を出す。

そんなものを出して、一体何を始める気?

訝しげな顔をするエリザの前で、ギルガメッシュはわざとらしく、

「おっと、ここにこんなにも美味しい激辛マーボーがあるではないか、

食うか?」

食べるっ!

白野は、シュタッと手を挙げ、跳ね起きた。

「あ、仔リス起きた、でもなんで?」

「ふっ、こやつの業だ」

ギルガメッシュは、少しだけ肩をすくめ、平皿を蔵にしまう。

「あ、あれ、ここは? それにマーボーは?」

周りをきょろきょろ見回していた白野は、ギルガメッシュと目が逢うと首を傾げながら尋ねた。

「お前は何を言ってるのだ? ここは屋外のキャンプ場で、お前はエリザのプロデュースの

手伝いをしているのだろうが」

「あー、そうだったね、ところでマーボーは?」

レンゲを持つ仕草をする白野。

「そんなものは無い」

きっぱりとギルガメッシュが否定すると、白野は動揺を見せる。

え!? だ、だって私しっかりと『食うか?』って、聞いたよ

「やれやれ、マスターの妄想ここに極まれりか、存在せぬ物を有ると言い張るとは、

全く嘆かわしい事よ」

ギルガメッシュは眉間を軽く指でつまみ、ことさら嘆息してみせる。

「え、あれは白昼夢?・・・・・・そうか、そうだったんだ」

ギルガメッシュに完全否定された白野は、がっくりと肩を下ろす。

置いてけぼりになっているエリザは少し苛立ちを見せ、会話に割って入った。

「もうっ、それはいいから、続きよ続き」

続きと聞いて、思わず耳を押さえる白野。

うろたえるなとギルガメッシュは手を一振りし、

「ならば、次はリズム感を得る事にするか」

その言葉に白野は驚き、目を丸くした。

え?じゃ、じゃあ、限界を知っただけで、もうボイストレーニングお終いなの?

なにそれ、何にも効果無いっていうか、わたし気絶し損?

「たわけ、なんという認識の浅さよ、お前は一日で何もかもを変えられると思っているのか?

今日の主目的はまず状態の確認だ、それに基づきスケジュールを組んでいくのだ」

あー、なるほど、確かに一朝一夕で上手くなる訳ないか、今後のレッスン内容を決める為にも、

今日はどれだけのレベルか、限界を見極めようとしてるのか、納得納得・・・・

しかけて、白野はある疑問が頭の中に湧く、

あれ?ちょっと待って、じゃあそもそも私の役割って何?

手伝えと言われて連れて来られたが、何をするわけでも無く見学してるだけ、

意味が無いんじゃないか?

何を求められているのかと、考える白野はふと、ここに腕をひっぱられて連れて来られた時の事を思い出した。

あの時ギルガメッシュは、

『よし、行くぞ、ピヨすけ』

と言って白野の腕を取り、キャンプ場まで引き摺って行った。

その時は、某なお人を模してピヨと言われたのかと思ってしまったのだが、

もしあのピヨすけのピヨと言うのが、そのまんま鳥の鳴き声を意味してたら? 

そうやって改めて考えてみると、

鳥が鳴く・・・限界を知りたい・・・求められる役割・・・・・。

ま、まさか・・・。

全てのピースがかちりと嵌る感覚。

白野は恐る恐る自分がさっきまで座っていた椅子を見る。

そして頭に浮かぶ四文字。

 

カ・ナ・リ・ア

 

は、謀ったな、ギルっ

漸く自分に求められていることが分かって、白野は顔面蒼白となった。

白野が顔を上げると、視線の先、腕組みをし、口端を笑みで吊り上げているギルガメッシュが

居る。

白野は思わず尋ねた。

あ、あの、一つきいていいかな?

「なんだ?」

私の事、ピヨすけって言ったのは、もしかしてミスリードさせる為の、わざとなの?

ニヤリ

ギルガメッシュは笑う。

それだけで白野は全てを察した。

くっ、このハクノンもひよっていたか、AUOの無法の量を見誤っておったとは。

白野は脂汗を流し、口元を歪める。

そしてこれから訪れるであろう過酷な運命に立ち竦んだ。

ように見えて、その実、そろりそろりと足を動かし、後ずさっていた。

しかし、そっと逃げ出そうとする白野の頭を、ギルガメッシュはガシッと掴み、

「これこれ何処に行く、そこの奴」

そう言って、ギルガメッシュは、白野をぐいっと自分の元へと引き戻す。

ギルガメッシュの前に立った白野は引き攣った笑顔を顔に浮かべ。

ちょっと頭痛が腹痛したんで、家に帰ろうかと。

「ほう」

ギルガメッシュは目を細めた。

「それはここに居られぬ程、我慢出来ぬ事か?」

論ずるまでも無いでごさる。

 

ギリギリギリ

 

ギルガメッシュは白野の頭を掴んでいる手に力を籠め、白野は悲鳴を上げた。

「貴様の頭の中に巣食った痛みは治ったか?」

御意。

白野は握り拳を掌にあて、承服の態度を取る。

「ならば良し」

鷹揚にギルガメッシュは頷く。

じゃ、そういう事で

白野はさりげなく帰ろうとしたが、ギルガメッシュに通じる筈も無く、

もう一度、ギルガメッシュに引き寄せられた。

「お前、ジョエりたいのか?」

めっそうもございません。

頭を掴まれたまま、ギルガメッシュに凄まれたのでカクカクと白野は頷く、

「ならばよく見ておけ、お前も関係者なのだ」

へー、最近は生贄も関係者っていうんだ。

恨めしげな目付をする白野の頭を、ギルガメッシュは黙れとばかりに、

わしゃわしゃと乱暴に撫でる。

「たわけ、昔も今もメインディッシユだろうが」

最後にぽふっと軽く頭を叩いて、ギルガメッシュは白野の頭を解放した。

なんか嫌な言われ方だよね。

白野が乱れた髪を手で梳いていると、

「だから私を無視しないで!」

二人だけで話していて、また放っておかれたと、エリザは不機嫌な様子を見せる。

「いや、そんなつもりは無い、マスターが小動物っぽく、うろちょろするから、

捕まえておいただけだ、早速次のレッスンに進もう」

仔リスならしょうがないわねと、白野には理解しがたい理由でエリザは納得し、機嫌を直した。

 

「さて、歌い手として、歌が重要なのは言うまでも無いが、それだけではアイドルは務まらん、

曲に合わせてリズム良く踊る必要がある。

その際に求められるのはリズム感と、後は身体の柔軟性も必要だ、油の切れたブリキ人形のようでは、誰が誉めそやそうか」

「それはそうね、大丈夫、この私のしなやかな肢体を見て、どんな踊りでも踊って見せるわ」

エリザは両手を広げて、さあ御覧なさいと自分の身体を披露する。

確かに言うだけあって、エリザの身体は瑞々しさで満ちている。

ある部分は無いが。

シャランと、エリザは手を伸ばし、よく見なさい、そして感嘆の声を漏らしなさいと言う。

自慢するだけあって、肌質も滑らかで、上質の絹を思わせる。

やはりある部分は無いが。

希少価値とステータスを認めるギルガメッシュは頷いた。

「うむ、ならば、始めよう、リンボーダンスをっ!」

え?

思いがけない発言を聞かされ、白野が、何で?と疑問を挟む前に、ギルガメッシュは

エリザに火のついた松明を渡す。

そして陸上競技の走高跳のように設置された水平の棒を指さし、

「くぐれ、踊れ、歌え」

と、のたまった。

「はぁ!?なんでそんな事、しなきゃいけないのよ」

エリザは訳が分からないと言うが、もっともな言い分である。

どこの世界に、アイドルのレッスン方法としてリンボーダンスを取り入れる事務所があると

言うのか?

エリザの怒りに白野も頷く。

「だいたい、なんで松明持ちながら踊るのよ、どこかの人食い人種のバーベキュー大会じゃないのよ!」

エリザに詰め寄られても、ギルガメッシュの涼しげな表情は崩れない。

「何を言うか、このダンスはリズム感と柔軟性が両立していなければ、踊りきる事が出来ないのだぞ、それに何処もやった事が無いからこそ初めてやった者が大きな成果を得られるのだろうが。

そもそも松明が変だと言うが、貴様はいつもラブラブファイヤーとかやっているではないか、

炎こそが情熱の証、それを持って踊るのは耳と視覚の双方から訴えるという事。

つまり、このリンボーダンスこそが究極のアイドルのレッスン方法だったんだよ!」

「な、なんだってー」

ギルガメッシュの断言にエリザは両手で握り拳を作り、驚愕の声を上げた。

あの・・・二人とも、ノリが変な方向に・・・。

とんでも理論のギルガメッシュに、反応良く応じるエリザ。

その内、ノストラダムスの予言書にも乗っていたなどと言い出さないか心配になった白野が、

二人を止めようとしたが、

「目からウロコよ、ゴージャス、そういう事なら、私やるわ!」

エリザが感銘の声を上げてしまう。

やっちゃうんだ・・・・。

制止しようとした、白野の手が虚しく空中に泳ぐ。

「さあ、燃え上がるがいい!」

話はまとまったと、ギルガメッシュが号令一発。

「ファイヤーーーーっ!!」

エリザは叫び、周りを取り囲むように設置されたバーベキューセットから炎が吹きあがった。

こんな使い方してるって知ったらアーチャー怒るだろうな・・・

などと思う白野の前で、

「ほっはっ、ほっはっ」

リズムをつけて、エリザが仰け反りながら棒の下をくぐろうとする。

「そしてその状態で歌ってみろ」

そして黄金Pの指示。

「わ、分かったわ、やのーしゅ、さ、さささんで」

松明を回しながら、必死で歌を歌おうとするエリザを見て、

拙い、なんか万国ビックリショーみたくなってきてる。

白野の頬に汗が一筋、伝った。

 

暫くしてレッスン?が終わり、腰を手で押さえたエリザがふらふらしながら、

白野達の前に戻って来た。

「よくぞ踊りきった、さて、次はといきたい所だが、休憩を挟まねばならん」

次はどんな無茶をさせるつもりなんだろうと、心配顔の白野の前でギルガッシュは意外にも

無理は良くないと言った。

「貴様の声質は最上だ、しかし素質に頼り、酷使すれば涸れもする。

手入れをしなければ名剣とて、欠け、錆びるものだ」

え?エリザの事を真面目に考えてる?じゃあ、あのリンボーも愉悦とか関係なしに本気で考えた

メニューだったんだろうかと考える白野を余所に、ギルガメッシュは続ける。

「常に手入れをしろ、喉に乾きは禁物、だから蒸気を蒸気をあてるのだ。

さあ、この湯けむりがばんばん立ち上る熱湯の湯に入れ、そして吸え、思う存分に」

ギルガメッシュが指し示す先、いつ用意したのか、人が入って優に足を伸ばせる程の大きさの、

アクリル板を組み合わせて出来た湯船が置かれていた。

白野の口の端がヒクッと吊り上る。

よく分からない、判断がつかないと悩む白野、

「ちょっとこれ、煮立ってるじゃない、こんなに入れっていうの?」

入れと言われたエリザも、その湯船を覗き込み、火口のマグマのように泡立つ湯を見て、

抗議の声を上げた。

「無論だ」

「なんでよ、こんなのそれこそアイドル活動に何にも関係無いじゃない!」

その場で足を踏み鳴らして憤るエリザに、ギルガメッシュは肩をすくめた。

「ふっ、貴様知らぬようだな、この熱闘舞絽を!そしてこれを進めた理由を!」

「え、な、なによ、なにを知ってるのゴージャス!?」

「知らぬのならば教えてやろう、熱闘舞絽とは、秦時代末期、時の覇王を嗤い、煮殺された、

琥 馬射琉の故事に由来する、伝統的な自己主張の手法なのだ。

秦時代末期、時の覇王は強大な力をもって、国を統一せんとしようとしていた。

しかしその戦い方は余りに苛烈にして凄惨、全てを焼き、全てを殺し、何十万という投降兵を

穴埋めにしても顔色一つ変えぬ程のもの。

そんな暴虐な覇王に対し、無名の説客であった琥 馬射琉はただ一人、あえて薄手の絽一枚のみ

着て、後は寸鉄も帯びずに覇王の前に出て、その非を鳴らした。

無論、覇王は激怒して部下にこいつを煮殺せと命じ、琥 馬射琉は水を張った大鍋に入れられ

煮られた。

しかし琥 馬射琉はそんな状態でも、大声で覇王の非を鳴らし続けた。

熱き湯の中で、身に着ける物は絽、一枚、しかし舌を存分に舞わせ、

覇王に一人闘いを挑み、最後には熱湯の中に沈んだ。

その壮烈な死に様は、琥 馬射琉ここに在りと、周りに強く強く印象づけ

その名は1000年の後も残ったという。

後に、あえて熱湯に浸かるという苦行を為しながら己の意を主張し、

存在を周囲に誇示しようとする事を熱湯コマーシャルと呼ぶようになったが、

これはこの故事が由来であることは言うまでもないな。」

どうしてだろう、無茶苦茶うさんくさいのに、決してツッコミを入れてはいけない気がする。

ギルガメッシュの説明に、白野は片手で顔を覆う。

「故にだ 数多の売りだし中のアイドルはこの熱闘舞絽を用い、己の存在をアピールし、

スターダムへと上り詰めようとしたのだ」

「そ、そうだったのね、これにそんな由来があったなんて知らなかったわ」

白野とは逆にエリザは素直に感心していた。

「貴様はトップアイドルを目指しているのだろう?いずれこのような事をする必要は出てくる、

その時に数秒も持たぬようでは失笑しか与えられん。それでも良いのか?」

「良いわけないでしょ!」

「ならば浸かれ、そして吸え、これは一石二鳥と心得よ」

「良いわよ、やってやろうじゃないの、いくわよーー」

エリザは水着姿となり、勢いをつけ、ざぶんと熱湯に浸かる。

「あちゃちゃちゃーーーーーーっ、ほあちゃっ」

エ、エリザ・・・なんか世紀末救世主みたくなってる・・・

じたばた暴れるエリザを、白野が痛ましげに見る。

ふははは、喉の潤いを存分に堪能しておるか?」

「してる暇無いわよ!」

 

そしてまた暫くして。

「よし、これで十分喉は潤ったな、次にいくか」

ぜぇぜぇと荒い息を吐くエリザにギルガメッシュは、次行ってみよー、次と、声をかける。

その掛け声に、不安が増す白野。

「な、なかなかハードだったわ」

エリザの方は気にする余裕も無く、ただギルガメッシュの次の指示を待った。

 

「お前は、BBの前で歌を歌った時、一度のつまづきで取り乱し、その後はボロボロだったそうだな」

以前のやらかしを思い出し、エリザは顔を歪ませる。

「メンタルが弱いっ、鍛える必要がある」

そう言ったギルガメッシュはザルと手ぬぐいを取り出した。

なにこれ?と、疑問顔のエリザにギルガメッシュは、

「次はドジョウ掬いをやれ!」

白野は思わず噴き出した。

ゲホゲホとむせる白野を背にエリザは今度こそ納得できないと、

槍を取り出し、返答次第ではと剣呑な様子を見せるが、

「貴様は知らぬのか、この怒城掬いを」

ギルガメッシュは余裕綽々の態度である。

ま、またか・・・

なんとか呼吸を整えた白野の前で、ギルガメッシュは書房的知識を披露する。

「それは漢成立の時代、才能があり大望もあったが、縁に恵まれず、いまだ野に燻っている男が

居た。

その男はある時、町のチンピラに絡まれて、許して欲しければ自分の股をくぐれと言われたのだ。

普通ならば激怒して拒否するだろう、しかしそうするとチンピラ達も暴れる、そんな連中に

下手な怪我を負わされてもつまらないと考えた男は、

まるでドジョウを掬うかのように、下人の股ぐらへと滑り込み、潜り抜けた。

大志を胸に抱いていれば、一時の恥などなんとでも飲み込める。

やがてその男は才能をとある群雄に認められ、大元帥にまで上り詰め、100の城を落とし、

国士無双とまで呼ばれたと言う。

その事を知った者らにより、この怒城掬いは出世踊りとして広く親しまれ、

宴においても縁起の良い物として数多く踊られたのだ。

恥辱を乗り越え、栄光を掴む、正に今の貴様に相応しいではないか」

 

ああ入れたい、それ色んな逸話が混じり過ぎてるとか、そもそも時代が滅茶苦茶とか、

凄くツッコミを入れたい、でも入れられない、これが世界の抑止力?

両手で顔を覆う白野。

「貴様のメンタルを鍛えると共に、トップアイドルへと上り詰められるように縁起を担ぐのだ、

踊れ、今すぐに」

力強く断言するギルガメッシュの勢いに押し切られ、エリザは首を縦に振った。

「わ、わかったわ、もう覚悟完了よ」

(ちゃ、着実に芸人の道をひた走ってる・・・・)

目の前の光景を見ている白野の額に汗が滲む。

「こ、これは結構くるわね、心が折れそうになるわ」

「だからこそ価値があるのだ、この踊りを完璧に踊り切った暁には、貴様はどんなハプニングにも笑ってこなせる程の鋼の精神を手に入れる事が出来る」

ギルガメッシュの励まし?を受けながらも、エリザは踊り続けた。

 

そしてまたまた暫くして。

エリザはドジョウを掬いきって、踊り終える。

「うー、なにか今更だけど、アイドルとは真逆の道に進んでいる気がするわ」

本当に今更ながらだが、何か釈然としないものがあると言うエリザに、ギルガメッシュは

首を横に振って否定する。

「なにを言うか、これもアイドルの一つの形、この世界にはな、バラドルというものがあるのだ、貴様は立派にアイドルの道を進んでいる」

待て待て待てぃ

白野が今度こそツッコミを入れようとしたが、直ぐ傍に居たギルガメッシュに頭を押さえられて、発言のタイミングを失する。

「なんですって!?」

エリザが声を上げた。

(あ、バラエティーアイドルなんて言われて、エリザが怒り出した、でも当たり前だよね)

ギルガメッシュのあんまりなレッスン内容に、エリザの怒りは当然だと白野は思うと同時に、

BBにコメディアンとしてなら有望と評価されて、キレかかった時の様子を思い出し、

きっと手の付けられない程の癇癪をおこすんだろうなと、溜息をついた。

「薔薇ドル、なんか高貴っぽくていいかも」

なっ!? エ、エリザ!?

そっちか、そっちに解釈しちゃたのかと、白野が心の中でツッコむ中、

エリザはぐっと握り拳を作り。

「なんか全然関係ないと思ってたけど、そういう事ならまだ続けても良いわ」

気合の入ったエリザだが、ギルガメッシュが制する。

「いや、今日はこのぐらいにしておこう、初日から飛ばしていても後が続かん」

「むぅ、私はまだまだやれるけど、そうね、少し疲れた気もするし、バスにでも入りたいわ」

「ならば、ここで今日は解散だ、ではな」

立ち去ろうとしたギルガメッシュの後ろ姿を見ていたエリザは、ハッと大事な事を忘れていたと、慌ててギルガメッシュを呼び止めた。

「ちょっと待ってよ、カラオケ会場の使用禁止を解く話はどうなったのよ?」

「む、どうなったも何も、それはこれからの成果次第であろうが、今は無理だぞ」

「え!? 冗談じゃないわよ、その為に私はこんな事までしてたのよ」

エリザはザルを掲げ、いかに自分は努力したかを説明するが、ギルガメッシュは軽く聞き流す。

「別に練習なら、あの会場を使わずとも出来るだろうが」

「嫌よ、私はあそこを使いたいの、じゃないとやる気が保てないわ」

「ふむ、仕方が無い、ならばこれでも使うか」

エリザが引き下がらないと見るや、ギルガメッシュはUSBメモリを取り出す。

それで何をするのと白野が尋ねると、

「いやなに、これで加工した録音データーを渡したら、一発で合格だろう」

ちょっと!? それって今までのレッスン、全否定ですよね!?

目を丸くして白野は驚きの声を上げた。

「何を言うか、お前は今のあやつの実力でまともに歌って、BBを納得させる事が出来ると

思うのか?」

ギルガメッシュはエリザを指さして言い、白野は口ごもってしまう。

確かにその通りだが、それでも納得出来ない白野は食い下がる。

で、出来ないと思うけど、だから練習して。

「たわけ、あやつがそんな長い時間我慢できるか、途中でキレるのがオチだ。」

それはそうかもしれないけど、いきなりそんな手段に出るだなんて。

それにあからさまに加工してあるんじゃ、どう考えてもBBが納得する筈が無いし。

正論を言う白野に、ギルガメッシュは余裕の笑みを浮かべる。

「そこは抜かりはない、ちゃんと対BB用の音楽映像も入れてある」

え?対BB用って何?

キョトンとした顔をする白野。

クククッと、ギルガメッシュは悪い顔で笑う。

「いやなに、大したものではない、ちょっとお前が風呂場でご機嫌に歌って、はしゃいでいる映像が入っているだけだ、これならば奴も受け取らざるを得まい」

なっ!?

それって賄賂!?不正!?付け届け!?芸能界の闇!?

というより、なんで私の映像が贈答物になってるの!?

さらに付け加えると、そもそも私はそんな独演会おっぱじめた覚えは無い!

いきなり当事者になるという急展開に、白野は狼狽える。

「へー、仔リスったらそんな事してたの?」

漏れ聞こえてくる二人の会話を聞きつけ、興味津々な様子でエリザまでもが顔を覗かせる。

してない、私はそんな事してない。

必死に否定する白野にエリザが肩を竦め、頭を軽く振る。

「やってる奴ほど、そう言うのよ」

「ちなみにこんな映像だ」

白野が反論する前に、畳み掛けるようにギルガメッシュが記録映像を再生した。

「うわー、仔リスったらノリノリじゃない」

ポータブルAVプレイヤーで再生された映像を見て、エリザが意外よねーと、感心した声を出す。

「ふむ、『ラップラブアップでうっうっうー♪』か、ほほぅ、中々のはじけっぷりだな

おおっ、イエィなどとポーズまで取るか」

ば、馬鹿なっ、そんな歌、私は一デジベルだって歌ってない、それにあんなポーズだってしていないっ

「いや、だって、ねぇ」

違う違うと全身で否定する白野だが、エリザには生暖かい目で見られ、全く信じられていない。

わ、わたしはやってないと、ぐずり出した白野の肩にギルガメッシュはポンと手を置き。

「まあ、確かにこれは地上の駄肉がコラとやらで作ったものだから、お前が知らぬのも

当然でもあろうがな」

 

こらぁぁぁぁーーっ!!

 

思わず白野は大きな声を出していた。

「なに、仔リスだじゃれ?」

ちっがぁぁうっ!

「ふっ、愉悦」

この愉悦クラブの会員め。

睨みつけてくる白野をギルガメッシュは軽くいなした。

「そういうわけだ、これを渡せば見事合格に」

ならないから、っていうか、させないから、私が全部暴露して、絶対認めさせないから。

「ちっ、このわがままマスターめ」

わがままでも何でも無い!むしろ冤罪の名誉棄損で訴えても良いレベルだよ

憤りを見せる白野の額をギルガメッシュはツンッと指で突く。

「ではどうしろと言うのだ、お前に何か良い手でもあるのか?」

良い手・・・・

キルガメッシュに言われ、白野は顎に手をあて、考え込んだ。

エリザは歌声自体は良いんだよね?

「ああ、それについては我も認めてはいる、

しかし、自分だけで楽しんでいるから、音程やらなにやらが滅茶苦茶になっている。

なまじ歌声が良いだけにその不協和音は破壊レベルだな」

「な、なによ」

不満そうな顔を見せるエリザをチラリと横目で見たギルガメッシュは、白野に視線を戻し、

「己を押さえて、誰かの為に歌う、そんな心構えでも出来ればまともになるのだが。

そうだな、我のマスターにでも歌を捧げて見たらどうだ?少しはマシなものになるかもしれぬぞ」

ギルガメッシュはニヤリとエリザに笑いかけ、エリザは顔を茹で上がらせた。

「な、ななな、なにいってるのよ、わたしはアイドルなのよ、誰か一人のものになんて

ならないのよ、さ、さ、ささ捧げるなんて、そんなの恥ずかしい真似出来ないわ」

おもいっきり動揺した様子を見せるエリザに、ギルガメッシュはニヤニヤと笑みを顔に

浮かべ続けた。

そっか

白野が呟く。

ギルガメッシュの発言はエリザをからかったものだが、白野にとって打開策を思いつく

切っ掛けとなった。

誰かの為に、誰かと共に、自分本位でなく歌う。

そんな事が出来れば、BBも納得させられる歌が歌えるかもしれない。

白野は自分が思いついた事をエリザへと提案した。

 

 

そして次の日、エリザは再びBBを呼び出した。

「それで、センパイはまたエリザさんと一緒に来て、今度はどんなコントでも披露して

くれるんですか?」

連日に渡って呼び出されたBBは、不機嫌な様子を隠そうともしていない。

こんな茶番はもうたくさんですと口を尖らすBBの前で、白野が持って来たCDプレイヤーのスイッチを入れる。

 

(この曲は?)

流れて来た曲にBBが意外そうな顔をした。

それは激しいリズムでは無く、穏やかなリズム。

誰もが思わず口ずさむ事が出来る、どこかで聴いたような曲。

なんで?と思うBBの前で、白野とエリザが互いに向き合い手を合わせる。

パンッと子気味良い音がして、二人はくるりと回り、

白野と繋いだ手を振り、エリザが歌い出す。

(童謡・・・ですか、これ?)

エリザが歌い出したのは子供の為に作られた歌。

美しい空想や純な情緒を傷つけず、これを見守り優しく育む事を目的とした歌。

そんな歌を歌って、踊る。

(って、お遊戯じゃないですか!?何やってるんですか!?)

白野とエリザがしている事を把握したBBは当惑する。

 

てっきり、またデスメタルの極改悪版のような歌を聞かされると思って身構えていたのに、

いきなり二人がお遊戯を、しかも嫌々でなく楽しそうにやり始めた。

当初、ピリピリした雰囲気を纏い、険しい顔をしていたBBだったが、

二人を見ている内に、すっかり毒気の抜けた顔をするようになっていた。

(まさか、こんな手で来るなんて)

意表をつかれた形のBBは、エリザと共に踊っている白野を見た。

この選曲は白野の入れ知恵であると考えて間違いない、あの目立ちたがり屋のエリザが

こんな歌を歌う事を思いつく筈が無いのだ。

童謡を選んだのは奇抜な思いつきのようで、そうでは無い、

ちゃんとエリザの状態を考えて選んでいる。

確かに童謡もプロレベルの物を要求するのであれば、かえって歌唱力が必要とされるのだが、

今回求められているのはそういう類のものでは無い、要は騒音にならない事を示せば良いのだ。

そういう意味では童謡は悪い選択では無い、とっつき易く、歌い易い。

聴いている方も、大抵は歌が上手い下手かでは無く、

楽しそうか、そうでないかで良し悪しを判断する。

しかも、暴走しがちなエリザを押さえる為に、二人でお遊戯という形にしたのだ。

これでは益々歌唱レベルで判断するという意識が霞む。

子供が楽しく遊んでいる所を見せられる事程、年長者の心を和ませるものは、そう無い。

(相変わらず、センパイは変な所で気が回りますね)

BBにとって悔しい事に、その思惑は当たっている。

別に誰かの協力を仰ぐことを禁止したわけでは無い。

BBは、エリザがまた勘違いをしてセイバー辺りに協力を仰ぎ、二人でデュエットして、

自らトドメをさす展開は予想していたが、白野と二人でお遊戯をやり始めるのは

流石に予想外だった。

楽しげに歌って踊っている二人を見ていると、

よくそんなに無邪になれますよねと、呆れはするが悪印象は持ちづらい。

小細工なしで、歌う楽しさを見せられれば、認めない自分はただ意固地になっているだけの

分からず屋に思えてくる。

一つ問題があるとすれば、あのエリザにどうやってそんな事をさせるかだが

何をどう言いくるめたのか、エリザは不貞腐れる事もなく、楽しげに歌い踊っている。

 

最初、エリザも白野の提案に難色を示していた。

アイドルらしくないと言うエリザに、

私はファンクラブ会員一号なんでしょ?

と、白野が尋ね。 エリザがなんで突然と、やや怪訝な顔をしながら頷くと、

最初のファンと一緒に歌う最初のコンサートをやろう。

白野はそう言って、手をさしだしてエリザに笑いかけた。

月の裏側でエリザと一緒に駆けたあの時に聴かせてくれたように、また聴かせて欲しい。

今度は剣戟でなく、その歌声を。

少しの間、もじもじとスカートの裾を掴み、逡巡したエリザではあったが、

結局は差し出される白野の手を取った。

 

それがこの結果。

(まったくセンパイ、貴女という人は)

一緒になって楽しげに踊る白野を見て、BBはそっと溜息をついた。

毎度碌な目に遭わないのに、どうしてそこに楽しみを見出してしまうのか。

素知らぬ風を取れば、酷い目に遭う事も減るだろうに、

賢く生きるより、馬鹿みたいに手を取り合って共にはしゃぐ事を選ぶ。

ほんと馬鹿なんですから、だから貴女はクラスで三番目なんですよ。

色々と文句を言いたくもなるBBだが、そんな白野だからこそ、

今自分も他の癖のある面々と同様にここに居るのだろう。

 

BBは白野の作戦勝ちを認めた。

「貴女達は、よくそんなお遊戯なんか出来ますね、恥かしくないんですか?」

歌い終わった二人に、BBは負け惜しみじみた事を言う。

それが今出来る事の精一杯で、その事実にBBは少し拗ねた顔をした。

かわいいは正義!BBも一緒にやろう

しかし白野はそんなBBに向かって、楽しかったよと上気させた顔を向けて、

躊躇いなくそんな事を言ってのける。

「なっ!? ば、バッカじゃないですか、センパイは」

不覚にも顔を赤らめてしまったBBは、顔を背けて悪態をつく。

にやにや

にやにや

二人に笑われ、BBは不機嫌な顔をつくり、

「合格、取り消しますよ」

ジト目で言った。

ちょっと、まってそれはナシ・・・って合格?

慌てた白野だが、直ぐにBBの言葉の意味する事に気が付き、本当なの?と、聞き返す。

「ええ、特別上手かったとは言いませんが、少なくとも騒音レベルではなかったですから」

「やったわ、仔リス、オーディションは合格よ」

うんうん、良かったねー

手を取り合って喜ぶ二人に、やれやれ、そんな大げさな物でも無いでしょうと、

BBは肩を竦めた。

「でも、エリザさんはよくこんな事をする気になりましたね。

いつもとは方向性が逆でしょ?」

どんな風にエリザを納得させたのかが少し気になったBBが尋ねると、

エリザは、ふふんと得意げに笑い、

「これもファンサービスの一環よ」

そう言って胸を反らした。

(ファンね・・・・)

BBは、白野がどうやってエリザを説得したのかを察した。

「まあ、スーパーアイドルのエリザちゃんも、一番のファンの要望には少しは答えてあげなきゃ

いけないしね」

仕方が無いのよ、ほんとはやりたく無いんだけどね、などと言うが、

尻尾をぶんぶん振りながらなので、嫌がってないのは明白だ。

「はぁー、全くほんとに、どうしてそう地雷原の地雷を自分で増やしていくのか、

BBちゃんには理解できません」

いやー。

照れる白野に、

「全然感心してませんから、呆れ果ててるんです私は」

白野にピシャリと言ったBBは、エリザの方へと向き直り。

「エリザさん、一応使用再開許可は出しましたけど、また前のようにやらかしたら、

直ぐに許可を取り消しますからね」

「わ、分かってるわよ、少しは自重するわ」

「思いっっっっきり、自重してくださいね」

エリザはBBに、今度やったらこんなものじゃ済ませませんよと、ぶっとい釘を刺された。

 

こうしてエリザは再びカラオケ会場の舞台に立てる事になる。

そこで歌われる歌のレベルはお察しだが、少なくとも以前の音響結界を突破する

ソニックウェーブを出す事は無くなった。

今のところだが。

 

ギルガメッシユ改め黄金Pによるレッスンも続けて受けているようで、

稀に美しいハミングが聞えてくるようになった。

しかしその声に釣られて赴けば、そこに待ち受けているのは、

「あら、私の歌を聴きにきたの? 良い心がけじゃない」

スーパーじゃいあんリサイタル。

この為、新たにエリザに付いたあだ名は【セラフのセイレーン】。

美しい声に釣られて吸い寄せられれば

残念、エリザちゃんでした

ジャーン、ジャーン、げぇ、エリザっ!?

と、地獄を見る事から付けられた。

 

正直、エリザの歌唱レベルは大して変わって無いが、それでも最底辺をぶち抜き続けていたのが

少しでも上向き加減になったのは大きく、白野の心労も少しばかりに軽減されたのだった。

 

 

 

 

おまけ

 

ぷちストラ劇場 

ある日の白野、お前は既に詰んでいる。

 

白野達が地上へと遊びに行くようになって暫く後、音ゲーPLAYと称して、

セイバーが地上でリサイタルを開いている事を知ったエリザ。

「私も誘いなさいよ」

と、自分も白野達について行く事を決める。

一人でも大変なのにステレオで多重放送事故なんてとんでもないと、キャスターは反対するが、

エリザは秘かにぷちコレでアバターを作り上げてしまう。

ちなみそのアバターはこれ

 

【挿絵表示】

 

名前 エリリン

鳴き声 ~♪ ぷひー

特殊能力 熱くなり易く、勝とうと思えば力が入って負け、

勝とうと思わなければ勝つというトリッキーな実力の持ち主。

殺人音波や殺人料理など、とにかく多彩な攻撃方法を持つ、

多分、人を殺す技を108は持っていると思われる。

 

そして気が付けば、エリザは地上に降りていた。

何故ここに居ると、皆が呆気に取られている中、セイバーが、

「うむ、折角の機会だ、余とユニットを組むか」

と、誘いをかけ、

「良いわね、セイバー、私達の歌声を地上に響かせましょう」

と、エリザもノリノリで受けた事により、

自らを完璧と嘯く鬼核害ユニット、

その名もヘル・ミッショネルズが結成される事になった。

私がナンバーワーンッの一号。

 

【挿絵表示】

 

称えるが良い、余は歌キングであるの二号。

 

【挿絵表示】

 

勿論決め技は二人で犠牲者を前後に挟んでの熱唱、意識が吹っ飛ぶコラボンバー

 

荒野(にしてしまった)大地に響く歌声。

 

お前たちは私達の鼓膜を破ったのだぞ(感情値-10)

 

これが某文明発展ゲームなら、『お前の首は柱に吊るされるのがお似合いだ』と即宣戦布告と

なるであろう、その傍若無人な行為。

しかし止められる者もおらず

「私達の歌をきけーーーっ」

「余達は、最後まで、聞いて、くれなきゃ、歌うのはやめないっ」

と、逃げ惑う者達を捕えては次々と屠っていき、その所業は留まることをしらず、

最早、文化的破滅を達成してしまうかと思われたその時、

迫りくる脅威を止める為、白野が立ち上がる。

「何をする気ですか」

「正気ですか、馬鹿な事は止めてください」

との制止の声を振り切り。

白野は真っ赤な招待チケットの半券をもぎって、放ると

「この世には完璧にコラボしちゃいけないものが、ただ一つだけある、

それは黄金劇場と鮮血魔嬢だっ!」

と、言い残し、自ら犠牲となって二人の侵攻を食い止めた。

 

【挿絵表示】

 

その壮絶な爆死っぷりに、みんな涙し、

「奏者よ、見事な散りざまであった」

「仔リス、貴女の残してくれた思い出は忘れないわ」

感慨深げにしている二人に、お前らのせいだと、物理的ツッコを入れた。

 

ちなみに、白野はこの一件でセラフへと強制送還、体調不良で三日間寝込むことになった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。