しかしそれを認めない者達により少女は復活する。
そとて始まるカーニバル、何故か四人のサーヴァントのマスターになっているわ、
死んだ筈の知り合いは生きてるわで、てんやわんや。
これはそんな世界の物語。
この作品はFate/EXTRAとCCCのキャラを使った短編集です。
月にあるセラフ内で起きた聖杯戦争。
その優勝者として聖杯にアクセスし、聖杯がもたらしていた争いなどを解消し、自身は消滅した少女、名前は岸波白野。
しかしそんな事実認められないと立ち上がった者達の手により、
こまけー事はどうでも良いんだよ。
と、ご都合展開そのままに白野は助け出された。
その結果、気が付けばムーンセルはサクラーズによって掌握されているわ、白野が契約しているサーヴァントが四体となってるわ、地上には白野の知り合い達が聖杯戦争や一連の騒動の記憶を持ったまま全員生還しておるわ、白野オリジナルも元気に毎日を過ごしているわとやりたい放題の状態となる。
これはそんな世界の話である。
「だだいまーです、愛しの妻、タマモちゃんが帰ってきましたよー、ご主人様、すりすりして
下さぁぁぁい」
買い物から自宅に帰宅したキャスターがハートマークを振り撒きつつ、元気よくドアを開けて中に入った。
「待てキャスター、奏者のスヘスベの頬の感触は全て余のものだ」
続いて抗議の声を上げながら、買い物袋を手に持ったセイバーも家の中へと入る
「ふふっーん、誰がそんな事を決めたんですかねー、ナミーは許しても、このタマモは
許しません」
「ふん、誰の許しもいらん、それは絶対真理なのだ」
「おやおやー、なに真理なんて言っちゃってますかね、タマモ切れちゃいそう♪」
「ふん、近頃とんと剣を振るう機会が無かったからな、丁度良い今からキツネ狩りと洒落込んで、手慰みとしようかの」
そんな風にギャイギャイ言い争う二人を出迎えたのは子供だった。
玄関の上り口に立つ子供が不思議そうに見た。
「あれ、この子はどこのお子様ですか?」
自宅に、見た事の無い子供がリスの人形を胸に抱きながら居たので、キャスターは首を傾げた。
「ふむ、どこの童女であろうか」
セイバーも気づき、子供を見る。
基本この家に見知らぬ者が訪ねてくる事は無い、怪しい奴は何人たりとも白野には近づかせねぇと、最高のセキュリティが仕掛けてあるのだ。
招かれない限りは入れない、そんな家の中に見知らぬ子供が居る。
誰かの知り合いかと二人は咄嗟に思った。
しかしジッと良く見ると。
「何故だろうか、どことなく奏者と似ている気がする」
「ええ、なんかご主人様と魂が良く似ているっていうか、これ同じじゃねえの?っていうか」
くりくりとした目でじっと自分達を見る栗色の髪を持った幼女を、セイバーとキャスターも
凝視する。
「ああ、おかえりなさい、セイバーさんキャスターさん」
そんな事を言いながら、家の奥から金髪と赤い瞳を持った少年が現れた。
「む、またもや見知らぬ少年、巫コーン、これは事件の予感がします」
「うむ、アーチャーや桜に聞けば何か事情が解るのだろうか」
二人にとって、幼女の方にはなんの脅威も感じない、むしろ頬をスリスリしたくなるような親しみを感じる。しかし少年の方は、子供の姿を取りながらも、油断しない方が良いとの思いを
起こさせる。
レオとは種類の違う黄金の王気を感じさせる少年を、セイバーとキャスターは警戒するように
見た。
「ああ、それなら僕が説明しますよ」
そんな二人を気にするのでも無く、事情を知っているらしい少年は話す。
「まずここに居る子ですが、これは白野さんです」
少年はぽんと隣の幼女、少年が言う所の白野の頭の上に手を乗せる。
「え?」
「は?」
呆気に取られる二人に、少年は次に自分を指さし。
「僕はギルガメッシュです、あ、ただし子供時代のですけどね」
「「えーーーーーーーーーーーーっ!」」
そんな叫び声がこの騒動の始まりを告げる鐘となった。
「ど、ど、どういう事だ、その愛くるしい童女が奏者だと!?」
「くっ、このタマモ一瞬とは言え、ご主人様のイケタマに気が付かなかったとは、一生の不覚」
子供のギルガメッシュ略して子ギルに教えられても、まだ完全に信じきれなかったセイバーに
比べて、幼女が白野である事を完全に悟ったキャスターは、直ぐに気が付かなかった事に悔しげに表情を歪ませる。
「見た瞬間に気が付けば、出し抜いて拉致ったのに」
歪みの無いキャスターだった。
「いや、そうでは無いだろう、本当にこの童女は奏者なのか?」
「分からないんですか? このイケタマ、まあ子供になって少し変化してますけど、間違いなく
ご主人様のものです、この正妻である私が保証します」
いつもはキャスターの正妻という言葉に反発するセイバーだったが今はその余裕も無く、改めて
白野を見た。
確かにその顔に面影は色濃く有る。小動物的雰囲気を持ちながらも内面にある漢らしさについては自分が知っている程感じられないが、これは子供になっているので仕方が無い面もある。
しかしこの瞳の奥に感じられる魂の輝きはどうか、これは確実に自分の知っている輝きである。
ならばやはりこの子供は。
「うむ、認めよう、これは奏者だ、だがそうなると何故子供の姿になっているのだ?」
「それは知りませんけど」
言いつつ、キャスターは子ギルを見る。つられてセイバーも子ギルを見た。
「あー、大人の僕のせいですね、ほら白野さんって子供時代が無いじゃないですか」
私の子供時代ってどんなだったんだろ?。
「そんな白野さんの呟きを地獄耳で聞いた大人の僕が、『ふはははははははっ、ならばこの我
が体験させてやろう』って言って、無理矢理若返りの薬を飲ませたんです」
なんて金ぴかがやりそうな事、二人は即座に納得した。
「なんて事してくれちゃってんですか、この金ピカさんはっ、こんな美味しそうな、いや、先を
越された、ちっ、いやいや、もう堪んねぇぜ、いやいやいや、素晴らしい事をしでかすとは、
なんてグッジョブです♪」
「あははは、狐のお姉さん、隠す気0ですね、むしろカミングアウトですか?」
子ギルに詰め寄ったキャスターは非難するどころか、親指を立てる。
「うむ、童女な奏者ありだ、実にありだ、一度この腕にすっぽりと抱きかかえた奏者を心ゆくまで愛でてみたいと、余は思っていた。流石にサイズ的に諦めていたがまさかこんな日がこようとは、余は嬉しいっ」
居なかった、常識人はここに居なかった。
哀れ、白野の運命は風前の灯という時に。
「やれやれ、やはりこういう事になったか」
玄関先での騒ぎを聞きつけ、つい先程、子ギルから事情を聞かされたアーチャーが家の奥から出て来た。
目の前で予想通りの事が起きている事に、溜息をつくアーチャー。
白野が子供化すれば、愛が深すぎる二人だ、猛るのは目に見えていた。
しかし、だからといって下手に隠せば、白野が居なくなった事を知った二人は必ず探す。
妖怪アンテナとヤンデレの勘をそれぞれ持つ二人だ、程なく見つけるであろう。
そしてもし、キャスター単独状態の時に子供になった白野が見つかったとしたら。
その先の事は想像したくも無いとアーチャーは頭を振る。
であるならば、全員に情報を流して、互いに牽制し合う方が騒ぎにはなるだろうが白野の安全の事を考えれば一番良い。
だから知られるがままにしていたのだが。
さて、どうしたものかと思う。
ヴェスビィオス火山の大噴火、熱情撒き散らしのセイバー
権能使うも吝かなし、ご主人様を国造り☆なキャスター
こんなの相手にどうしろと?
常識人のアーチャーは頭を抱えた。
「それじゃあ、アーチャーのお兄さん僕は行きますので、後はよろしくお願いします」
悩むアーチャーを余所に、騒動の元である子ギルがさっさとその場を離れようとする。
「待てギルガメッシュ、この騒動の元凶の癖にさっさと自分だけ逃れようとするのか」
嫌だなーと言って朗らかに笑い、アーチャーの敵意の視線を躱す子ギル。
「元凶だからですよ、僕が居たら、お兄さんたち色々気をもむことになるでしょ?
あの金ピカ今度は何をしでかすつもりかって、キャスターさん辺り、ショタ権限使ってお兄ちゃんプレイしようとしても、ぜってぇ許さねーとか言って暴れ出しそうですし」
余裕で想像出来る事態にアーチャーはこめかみを指で揉む。
「うむ、否定出来ないな」
「だから僕は退散するんですよ、でもまあ、大人の僕がしでかした事とはいえ、僕も責任を感じてますし、薬が切れて白野さんが元の姿に戻る時にはちゃんと戻って来ますから、安心してください」
「・・・・・マスターはどれくらいで元に戻るのだ」
「そうですね、薬も一口しか飲んでないですし、明後日ぐらいには戻りますよ」
「記憶の方は、子供になっていた時の事は覚えているのか?」
「はっきりとは憶えていないでしょうね、まあおぼろげに、郷愁のように残るって感じかな、あ、でも物凄いショックを受けたトラウマとかはしっかり残るかもしれませんね」
小悪魔的に笑う子ギルの視線の先に、二人に挟まれた白野の姿があった
「白野さんそろそろまずいかも、お兄さん助けてあげた方が良いですよ」
「・・・・そうしよう」
「じゃあ、頑張ってくださいねー」
手をヒラヒラさせて、軽く言った子ギルはその場から去って行った。
任されたアーチャーは改めて惨状に目をやる。
「ふはははははっ、あげて行くぞっ、奏者、余の溢れんばかりの熱情の全てを受け取るが良い」
「うへへへへへへっ、これはもうじゅるり、ぺろぺろ、うりゃあ、規制がなんぼのもんじゃいっ」
何時の間にか暴君とピンク狐に壁際にまで追い詰められている白野。
涙ぐんで、きゅっと胸のリス人形を抱きしめる、その様子に。
はいっハイッHAI、キマシタワーーーッと、二人はハイテンション。
お前らいい加減にしろと、キレたBBが攻勢防壁を展開する前にアーチャーが二人を止めた。
「そこまでにしておいた方が良い、どう見ても君らは悪者だぞ」
そんな可愛いレベルなのだろうかという疑問を余所に、キャスターは嘯く。
「はんっ、百万の支持よりご主人様の一の愛が私にとっては大問題、そんな正論ムダムダムダァァァァ」
「よくぞ吠えたキャスターよ、善と悪など物の見方でいくらでも変わる、そんなあやふやな基準で評価されても何ほどのモノがあろうか、余は、今、この熱情のまま行く!」
「マスターに口を聞いてもらえなくなってもかね?」
ピタリとセイバーとキャスターの動きが止まる。
ギギギギギッと錆びた機械を無理矢理動かすような音をたてて、二人がアーチャーの方を見た。
「え?」
見事に声がハモる二人に、やれやれ考えてもみたまえとアーチャーは説明した。
「今のマスターは身体もそうだが精神も子供、元の鋼の女であるマスターが耐えられる負荷でも
今の状態では耐えられる筈が無いだろう、君達は心のどこかで酷い目にあっても、マスターは
自分達から離れないでいてくれるだろうと、ある種の甘えがあるようだが果たして今のマスターの様子を見て、そう思う事が出来るかね?」
二人は恐る恐る白野を見ようとするが、
動きの止まった二人の隙をつき、白野は逃げ出し、アーチャーの後ろに隠れる。
「やれやれ、これはトラウマになったかな、元に戻った時に記憶はおぼろげにしか残らないようだが、果たしてここまで来ると、君達を避けるようになるかもしれないぞ」
ニヤリとアーチャーは意地悪く笑う。
セイバーとキャスターはこの世の終わりが来たような顔をする。
「そそそそそそそそそ奏者、余はそんなつもりでは、無かったのだ、ただその、奏者を愛でた
かっただけで、怯えさせるつもりなどこれっぽっちも無く」
「白野さま、わたしく少々取り乱してしまいまして、大変なご無礼を致してしまいました、
どうかお許し下さい」
「おいいいいいいいっっっっ!」
瞬時に猫を被るキャスターにセイバーが吠えた。
「このタマモ、許してもらえるまでこのように何時までも謝り続けさせて頂きます、例えこの身がこのまま朽ちようともかまいません、わたくしにとっては貴女に拒絶される事が何よりも
辛いのです」
涙交じりに切々と訴えながら床に両膝と三つ指をついて、キャスターは白野に深々と頭を下げる。
流石キャスター、猫かぶりにも年季が入ってる、もうやり慣れてるって感じがする。
「くっ、余だって、猫の一枚二枚被れるっ、その、プチ奏者よ、許すが良い、余は少々興奮して
しまったがゆえなっ」
やはり自称名優、セイバーとしては出来るだけ優しく取り繕ったつもりだが、いつもの皇帝様と
大して変わってない、まさしく役者が違った。
「うぷぷ、稀代の迷優(笑)」
頭を下げたままのキャスターが秘かに笑う。
「くっ、このっ、奏者よ、こんな腹黒狐に騙されてはいかんぞ!」
「だから大声を出すのは止めたまえ、怯えさせるだけだ」
窘めるアーチャーに必死に縋りいている白野は、セイバーと目が合うと、さっと隠れてしまう。
「あ、ぐ、ぐうぅぅ」
苦悶の声を上げるセイバー。
「うむ、ここまで来ると少し時間を置いた方が良いな、それにキャスター、子供相手に
大げさだ、顔を上げたまえ」
「いいえ、お構いなく、これは私の気持ちを表すための勝手な行動、許されなくても私は許しを
乞い続けます、それが私の出来る精一杯の誠意ですから」
だからそれは子供には重すぎるとアーチャーは言いたいが、同時に白野を怯えさせた事を本気で
後悔しているキャスターは、いくら言っても聞かないだろうとも思った。
白野に、あの人何してるの?頭がおかしいの?と、それだけでも良い、僅かでも自分に気を留めてくれるなら、それを手向けに笑って逝けると、この純情狐は本気で考えているのだ。
だからどうしてそれを普段見せられないと、アーチャーは思うが。
それがキャスターの業なのだろう。
「う、う、う・・・」
愛に命がけなのを態度で示したキャスターの姿を見て、セイバーは唸り続ける。
理解されないのは慣れているが、その魂を至上の美と自分が認めた白野に拒絶されるのは、
セイバーにとって何よりも辛かった。
だからといってキャスターのように出来るかと言えば。
自分は皇帝、皇帝が無様な真似は出来ないという意識が邪魔をする。
この身はローマの威光。屈せず媚びず、我が在り様そのままを示すだけでそれは示される。
何時もは鼓舞されるその言葉が、今のセイバーには空しいものに感じる。
それは我が在り様をそのままに示す事を最上のものと定めていた自分が
虚栄の為に己を偽る醜さを見せているからだ。
彼女は見せてくれた。
無様であろうが何であろうが躊躇わず、常に自分の生き様を、暗中の空にある道標のような煌めきを示し続けた。
それを美しいと思った、至上の美と判じた。
なのに自分は躊躇うのか?
自分を自分らしく見せる事だけを求めたいなら、ここは無様で良い。
至上の美を見せてくれた者に、偽る自分を見せたくは無い。
この心のままに。
皇帝だと駄目と言うのなら・・・。
「・・・・わたし」
ネロは白野に頭を下げる。
「わたしだって・・・そなたに拒絶されたくない、許してくれ、わたしはもう一度そなたに
名を呼んでもらいたい」
ぽろぽろと涙を流し、セイバーは謝った。
ぎゅっと、強くアーチャーの服を掴んでいた白野の手から次第に力が抜けていく。
恥も外聞もなく無様に泣く、そんなセイバーの頭を、
なでなで
白野が撫でた。
その足を微かに震わせ、まだ怯えを目に残しながらも、自分を守ってくれるアーチャーから離れ、白野はセイバーの頭を撫でてくれたのだ。
子供になろうと白野は白野、したいと思った事を、ついしちゃうのだ。
「うううううっ、奏者よぉーーーーーっ」
セイバーが白野に抱き付く、白野はビクッと身体を震わせるが、それでも逃げ出さずに拙いながら何度も、縋り付いてくるセイバーの背を撫でた。
白野はセイバーの身体越しにキャスターを見る。
「お姉ちゃんも・・・・怖い事しないなら、いいよ」
(!?)
声を聞いたキャスターが顔を上げると、白野が困った顔で自分を見ている。
何が良いのか聞くような真似はしない。
「ありがとう、ございます、とても、嬉しいです」
キャスターは泣き笑いの笑顔を顔に浮かべた。
少し前とは違う意味で、君達は何をしているのだと、
見ていて面映ゆくなったアーチャーはこれ見よがしにやれやれと、溜息をついた。
そして白野に視線を向け。
(君は本当に、厄介だな)
セイバーとキャスターに挟まれている白野に改めてそんな思いを抱いた。
世間一般から言うとあの二人は災厄だ。
なのにあの二人をあそこまで惹きつける。
白野が邪悪であるなら説明はまだ簡単だ。
しかしそうでは無い。
かつて白野は夢で金色白面とかいうでっかい者に、キャスターと共に在れば、その善良な性質は
己を死ぬほど苛むと言われたらしいが、多分その予想は外れる。
夢の出来事を真面目に考察するのもあれだが、白野は善良なだけの存在ではない。
じゃあ、何かと言われると、白野は白野でしか無いとしか答えられない。
自分のボキャブラリーの貧弱さに肩を竦めながら、それでもこの場がなんとか纏まった事に
アーチャーは安堵していた。
何時までも玄関先に居る訳にもいかないので、一同は居間へと移動した。
アーチャーが白野の機嫌を取るように、見た目も華やかな手作りの甘いお菓子をテーブルに置く。
思考がお子様状態の白野は目を輝かし、本当に食べても良いのとアーチャーを見、良いとの許可をうけると、嬉々としてお菓子に手を伸ばした。
もっきゅもっきゅとお菓子を頬張る白野に、なんとか先程の事を引き摺らずにすんだと胸を撫で
下ろすセイバーとキャスター。
慌ててお菓子を食べたせいで汚れた白野の口元を、キャスターがハンカチで拭いて綺麗にする。
元々誰かに奉仕をするのを喜びしているキャスターは、人の世話をするのも堂に入っている。
しきりに美味しいですか、良かったですねと声をかけるキャスターを羨ましげに見ていたセイバーだったが。
「むう、キャスターばかり狡いぞ、余も奏者の世話を焼きたい」
そんな事を言うセイバーをアーチャーが疑わしげに見る。
「出来るのかね、君に」
「疑うのか、アーチャーよ」
アーチャーの言葉にムッとした顔をするセイバー。
「私は君が子供をあやす所など想像できないのだが、どう見てもそんなタイプとは思えない」
「何を言う、余ほど童女を愛でた者はいない、知らぬのか? 一体余がどれ程の童女を侍らせた
のかを、薔薇の花を浮かべた豪奢なテルマエの中で童女を遊ばせ、楽しませたのかを」
フンスと鼻息荒い皇帝さまの全く見当違いの自慢に、アーチャーは項垂れる。
「・・・・・・君はマスターに近づくな、いいな」
「何故だっ、余は解らん」
「理解しないから、近づくなと言っている」
何気に狐耳でセイバーとアーチャーの会話を聞いていたキャスターも、うんうんと頷く。
寄らば斬るとのアーチャーと、触れれば呪うとのキャスターの二人の無言の圧力にセイバーは、
むむむと唸るが、やがて良い事を思いついたという顔をする。
「よし分かった、奏者に近付けぬとあらば、余はこのままでも奏者を愉しませてみせよう」
スクッとセイバーは立ち上がり、胸を反らす。
「ちょ、セイバーさん、何しでかすつもりなんですか」
嫌な予感がして慌てるキャスターを余所に、セイバーは取り出した薔薇を投げる。
「余の歌を聴くが良い、しかる後に陶酔の世界に落ちるのだ。
わが才を見よ、万雷の喝采を聞け、インペリアムの誉れをここに、咲き誇る花のごとく、
開け――」
「地獄の門を開くなぁーーーーーーっ!!」
瞬息の速さで距離を詰めると、バシンッと、どこからか取り出したハリセンでキャスターは
セイバーの頭を叩いた。
「何をするかキャスターよ、今、余は奏者に歌を贈ろうとしたのだぞ」
お歌、歌ってくれるの?
キャスターが何か言う前に、セイバーの言葉を聞いた白野が振り返り尋ねた。
「聞きたいか奏者よ」
コクコクと白野は頷く。
「ふふん、見たか聞いたかキャスターよ、やはり奏者は余の歌を望んでいるのだ」
「マスター早まるな、くっ、これが無知なる蛮勇という奴か」
悟ってる場合じゃねぇですと、アーチャーを一喝した後、何も知らないで期待している白野を
止めるわけにもいかないので、キャスターはセイバーに詰め寄る。
「ちょいとセイバーさん、貴女何ご主人様の無知に付け込んで、自分の邪な欲望を満たそうと
してるんですか。良い事教えてあげるよ、げへへ、げど後の責任は取らないからなっなんて、
どこの電脳桃色遊戯の鬼畜主人公ですか、セイバーさんがそんな外道とは思っていません
でした。」
「なにを言うか、邪な欲望などある訳ないだろう、余は純粋に奏者に喜んでもらおうとしている
だけだ」
「喜ぶ訳ないでしょう、ひきつけ起こして倒れるのがオチです、あなた生前、歌が終わる前に
スタンディング、はいはいワロスワロス、帰って良いですね?オベーションを受けたのを忘れたんですか?」
「ふっ、忘れたなそんな事、それに余は歌が終わるまで決して帰さぬから、そんな事も起きぬ」
「忘れるんじゃねえです!どんだけジャイアニズムなんですか貴女は!」
しかしセイバーは、キャスターに詰られてもどこ吹く風でちっちっちっと指を動かす。
「キャスターよ、責任を取らぬなどとは思い違いも甚だしい、余は奏者の将来の事もちゃんと
考えているのだ、幼い頃から至高の芸術に触れる、まさに最高の英才教育だろうが」
握り拳でドヤっとセイバーは自慢する。
「どこの何が教育ですか!貴女の場合、制裁狂育なんです!ご主人様がセイバーさんみたいな感性になったらどうするつもりですか!」
「素晴らしい事ではないか」
「どこがだぁぁぁっ!貴女あれですか、まさか、まずはその感性からぶち壊す、
ボエーーーーーーッなんて歌っちゃう人なんですか!それと都合の悪い事はすっぱり記憶喪失なんて、なに元キャラの似た設定まで拾ってるんですか!」
「ふん、なんだそのエリザベートに対する誹謗中傷のような物言いは、所詮芸術を理解出来ぬ者のやっかみ。ふふん、さてはキャスター、奏者が余の虜になる事を恐れているな」
「んなもん恐れる訳ねーっつうの、私が恐れているのはご主人様が洗脳される事です!」
貴女とエリザベートは金星でコンサート開いていたら良いんですっ」
怒涛のツッコミに体力を消耗したキャスターは、ぜぇぜぇと肩で息をする。
「そのセイバー、あまりマスターを苛めないでやってくれないか、君もマスターを泣かせる事は
本意ではあるまい?」
何を言われても、白野の為になると信じて疑わないセイバーと、ご主人様は私が守るとの使命感に燃えるキャスターでは何処まで行っても話が噛み合わない。
この不毛な言い争いを止めるべく、やんわりとアーチャーがセイバーを窘める。
「うむ、感動のしすぎで泣き出した挙句、目を真っ赤に泣き腫らさせるのは確かに良くない、
目をこしこし擦って痛痒い思いをさせるのは余も本意とする所では無い」
顎に指をあて、うんうん頷くセイバー。
「驚く程全然分かってねぇーーーーっ! どこまでポジティブシンキングなんですか貴女はっ!
もうあれですか、肉体言語でオ・ハ・ナ・シ・するしかないんですか?」
うぷぷぷ
語り合いからどつき合いに移行しそうになったその時、セイバー達は吹き出す声を聞いて動きを
止めた。
声の主の方を見てみると。
あはははと、そこではセイバー達のやり取りを見ていた白野が笑っていた。
何を言われてもめげないドヤ顔皇帝と、頭から湯気を出して手足をバタつかせてるお狐様と、
気苦労で生え際が危険領域まで推移しそうなアーチャーの様子がどうにもツボに入ったらしい。
「見よ、あの奏者の屈託の無い笑顔、ふっ、やはり奏者を一番楽しませる事が出来るのは余であるな」
益々ドヤ顔をするセイバー。
「だからどうして、そう無駄にポジティブなんですか、貴女は」
突っ込み疲れしたキャスターは力無く言った。
そこへ突然、
「歌といえば、このアタシよね」
金星の歌姫エリザベートが現れた。
キャスターが巫女―ンと尻尾と耳を逆立たせて飛び上がる。
「どっから、現れやがりましたか、このトカゲはっ」
「ふふん、仔リスが小さくなったって聞いて見に来たのよ」
こんな面白そうな事が起きてるのに、アタシをハブにするなんて許されると思っているの、と胸を張る。
「ちっ、あの小ギルめ余計な事を」
キャスターはここに居ない小ギルに秘かに呪詛の念を送った。
「うわー、本当に小さくなっているじゃない、うふふ、なんてふにふにしてるのよ、転がして
突ついたら、さぞかし良い声で鳴くでしょうね」
エリザベートは、自分を見上げている白野の鼻の頭や頬やらを爪先でツンツンと突く。
「それやったら剥製にするから」
ニッコリ笑顔のキャスター、だが目は全く笑ってない。
尻尾を増やす事も吝かじゃないと言うキャスターに、エリザベートは慌てる。
「べ、別にそんな事はもうしないわよ、そうね私の尻尾で優しく撫でて挙げるくらいかしら」
「それも力余って、ご主人様を床に叩きる結果に終わりそうなんですけど」
言いながら何処からか取り出した箒を逆さに立てるキャスター。
い・い・か・ら・カ・エ・レ
全身から、お前、はよ帰れオーラを出すがエリザベートは気が付かない。
「って、話が逸れたわ、とにかく歌よ歌、歌って言えば、このアタシ、エリザベートでしょ、
仔リスが歌を聴きたいっていうのなら、このアタシが歌ってあげるわ」
「なんつー児童虐待をしようとしてるんですか、この駄竜は」
「うむ、そうだな、おぬしとユニットで奏者を楽しませる趣向も悪くはない、むしろ良い、
ここはひとつ我らのデュエットで奏者を魅了しようぞ」
「乗ったわセイバー、仔リスをメロメロにしてあ・げ・る」
「やめぇい、話がぶり返してるじゃないですか、っていうかユニット?
ステレオな上にあのチェイテ城で威力増大なんて、ご主人様を殺す気ですか!?」
カッカするキャスターの横で、眉間を指で揉むアーチャー。
「何を言うか、音楽の女神ミューズの化身たる我らが歌うのだ、万が一にもそんな事は無い」
セイバーはエリザベートと片手を合わせてポーズを取り、ビシリとキャスターを指さす。
「万が一にも生き残る事は無いの間違いでしょうが、だいたい貴女達のどこが音楽女神のミューズなんです、せいぜい手洗いミューズです」
「キャスター貴様、先程から聞いていれば言いたい放題、許せぬぞ」
そうだそうだ、とエリザベートもセイバーに追従して抗議の声を上げた。
「私だって許せません、こっちはご主人様の命がかかっているんですから」
三人は暫く唸り声を上げながら睨み合っていたが、やがてキャスターが諦めたように溜息をついた。
「分かりました、貴女達がそんなに歌に拘るのなら良いでしょう、歌で勝負しましょう、勝った方がご主人様に歌を聴かせる、これでいきましょう」
意外な言葉が飛び出て、セイバーとエリザベートはおろか、成り行きを見守っていたアーチャーも驚いた顔をする。
「歌だと?まさかお前が余らと歌勝負をすると言うのか?」
そうですとキャスターが答えると、エリザベートは肩を竦めて呆れた様子を見せる。
「勝負になるの?私達はアイドル、仔リスや子豚達に愛を振り撒くプロよ」
お前らが振り撒くのは哀しかねぇだろう、そんな言葉が喉まで出かかるが、キャスターはなんとか飲み込む。
「なら勝負は受けるという事で宜しいですね、まさかそこまで自信満々なのに、尻尾を巻いて
逃げるなんて事はしないですわよねぇ」
キャスターの挑発に二人はあっさりと乗る。
「巻くわけないでしょ、アタシの尻尾はこう、フリフリ可愛く動くの!」
「そうだ、余には尻尾は無いが、こう、くせっ毛がひょこひょこ動く」
ズレた事を言い出す二人に、ハイハイ分かりました、と手を動かし、
「じゃあ、勝負は受けるという事で良いですね」
「無論だ」
「核の違いを見せてやるわ」
「・・・・何か今、凄い発音の違いを聞いた気が・・・・いや意味は合ってますか」
ぶつぶつ呟くキャスターに、エリザベートは意味が解って無いようで首を傾げた。
とにかく歌勝負をする事が決まった事で、セイバーとエリザベートとキャスター、後はアーチャーと白野は邸宅の敷地内に設置してあるカラオケ会場へと向かった。
「大丈夫なのかね、勝敗は勿論だが、歌勝負という事は、一度は聴かなければならないという事になるが」
意気揚々と歩いて行くセイバーとエリザベートの後ろ、白野の手を引いているアーチャーが、
キャスターに向かって不安げに囁く。
「ああ、それなら心配ないですよ、私に策ありです、それにこうでもしないとあの二人、諦めそうにないですから」
そう言いながらキャスターは、ズンズン先へ行く二人の背中を見た。
よくもまあ、あそこまで根拠不明な自信を持てるものだと呆れるキャスターの横、アーチャーの
眉間に皺が寄る。
アーチャーと手を繋いでいる白野は何も分かっていない、単純にお歌を歌うと楽しげな様子を
見せている。
だがそれは仕方が無い、子供に戻って記憶が無いのだから。
だからこそ周りの者がしっかりと守らないといけない、知らず握っていた手に力が入ったようで、どうしたの?と、白野がアーチャーを見上げた。
そのあどけない顔と握っている小さな手の感触に、普段以上に過保護になってしまうアーチャーは、キャスターに安心して任せろと言われても、分かりましたと素直に頷けない。
「まあ、結果を御覧じろですけど、ま、駄目だったら最悪逃げちゃえば良いんだし」
余りにあっけかんと言うキャスターに、アーチャーは二の句が継げなくなる。
勝てば約束は守らせる、負けたら約束を守らないと、なんの躊躇もなく言い切るキャスターを
頼もしいと見るべきがどうか、アーチャーが悩んでいるうちにカラオケ会場へと一同は着いた。
カラオケ会場と言っても、そこは部屋の一室を改造したカラオケルームなどというチャチな物では無い。
この我の住む所に作る物だ、それ相応の物でなくてはならない。
と、ギルガメッシュ主導で造った結果、そこは最早コンサート会場といって良い程の規模を誇る
施設となっている。
「それではまずは、私が先に歌わせてもらいます」
ステージへと向かうキャスターの背中へ向かってセイバー達が悪態をつく。
「ふん、お前に余とエリザベートよりアイドルらしく歌えるとは思えん」
「そうよ、どうせあんたなんか、ドロッドロの怨歌しか歌えないんでしょ」
そんな二人にキャスターは振り向き、鼻で笑う
「私を何時までも呪殺系だと思ったら痛い目に遭いますよ」
「ほほぅ、なら見せて貰おうか」
「良いでしょ、女子三千世界で会わざれば、刮目して見よ」
「どんだけ会わないと変わらないのよ」
エリザベートの突っ込みを無視し、キャスターはジャンプして三回転、ハッとポーズを取る。
軽快な音楽が流れ出してキャスターは踊り出した。
ザビザビ言うのもおっけーおっけー、奇行するのもおっけーおっけー♪
モヤモヤするなら、すっきりしっぽり、タマモちゃんに任せなさい♪
もきゅもきゅする顔、らぶりらぶりー、セイバー見るのはバッテンバッテン♪
是?それとも激しく是?getピンクタイム!!
「な、こ、これは!?」
きゃぴってるスイーツ英霊にセイバーは驚愕に目を見開く。
歌声、ノリ、振り付け、ポーズ、その全てが自分達がしたいと思っていたもの。
パチンとウインクするキャスターにセイバーは仰け反った。
仔リスって言える、上目使いはお手のもの♪
嬉しすぎる、萌え過ぐるって言葉で胸の中、ゾクゾクするの♪
大事なシーン、ヘタレないで、今だ!ってモフッフかけてよ♪
ヘイ! タマモ何時でも バッチコーイ!
ザビ子の選択肢はマッパで駆ける、キャストオフのように自由で♪
いつもムチャで漢で、なのに部屋じゃシャイで♪
手におえない少女♪
ねぇ、タマモちゃんと恋しようよ!♪
キミの魂も、時にザビるヘンなクセも♪
丸ごとほら、尻尾でモッフてあげるよ、いぇい♪
「そんな、こんな愛ドルらしい歌が歌えるなんて」
手を前に出して、パチッとウインクして決めポーズをするキャスターに、
エリザベートはおろおろとする。
時に甘えて、すっごいすっごい、たまにイケモン、どっきりうっとり♪
婚姻届で、やたっねやったね、タマモちゃんは好きですか?
えっちな目付で、ハッテンハッテン いたずらしゃうぞ、しっぽりいっちゃえ♪
是?それとも激しく是?getピンクタイム!!
仔リスぽいって隙を見せたら負けちゃうかも・・・・貴女モフる♪
一目ぼれしたら狐はか弱いの♪
猫被りしそこねたなら、スイーツ英霊、ほら急上昇、ぎゅいーーーん♪
キミのイケタマ、ヤンデレホイホイ、記憶戻って、モフッフしてくれて♪
私何故か純で一途、なのにヤンで、九尾に戻っていく、うっそぉー♪
ねぇ、タマモ抱きしめてよ♪
何気ない笑顔も、不意のイケ台詞も熱くなるの♪
四畳半は本気の愛の証し♪
歌い終わったキャスターは最後の締めポーズのまま、歌の余韻に浸った後、目を開けて、
二人を見てフッと笑う。
ぱちぱちぱちと無邪気に喜び拍手をする白野の横で、
「ば、馬鹿な・・・負けただと」
がっくりとセイバーは両膝をついた。
「嘘よ、嘘よ、あんなピンク狐に負けたなんて」
エリザベートも涙目で何度も否定する。
しかし結果は明白だった。
「私がいつまでも貴方たちの後塵を拝すると思っていたんですか?」
勝利を確信した者の余裕綽々な態度でゆっくり近づいてくる。
「うう、く、来るな」
「い、嫌よ、私は認めない」
格の違いを見せつけられ、二人は後ずさる。
「これに懲りたら、那由多の彼方に至るまで修行し直してこーーーいっ」
「「うわーーーん」」
キャスターの一喝に二人は泣きながら飛び出して行った。
「さあ、ご主人様、音波怪獣達は追い払いましたよ」
カラオケ会場から逃げした二人を不思議そうな顔をして見送った白野を、キャスターは抱き抱える。
そのまま白野をステージに立たせ。
「では今度は二人で歌に合わせて踊ってみましょう、ほらこの曲なんてどうです?
見て見てザンスの『針千本飲ます』テンポの良い曲ですよ、アーチャーさん手拍子ちゃんとして
くださいね」
「それはいいが、一体君はどこであんな歌を覚えたんだ?」
両手を上げてやる気満々の白野を見て目尻を下げているキャスターに、アーチャーは尋ねた。
「それは勿論、ヒ・ミ・ツ☆です、きゃっ」
くるっと振り返り、一転桃色狐に変身して言うキャスターに、アーチャーはまともな回答を受けるのは無理と悟り、元々どうでも良い疑問だったので、それ以上何も追及しなかった。
その後、白野とキャスターは邪魔者の居なくなったカラオケ会場で心ゆくまで楽しんだ。