白野が子供になってから三日目。
「やっほー、白野、遊びに来たわよ」
「お邪魔します」
縁側に面する和室様式の部屋で、白野とセイバーとアーチャーの三人でまったりとしていた時に
凛とラニが遊びに来た。
「あれ、その子は」
「見慣れぬ子が居ますね」
BB特製の極悪な機能を持つセキュリティで守られている家に知らない子供が居たので、
凛とラニが首を傾げた。
「あれ、なんかこの子、白野に似ていない?」
「確かに、ミス白野と同じ特徴があります」
「そう言えば、そうよね、なんかまるであの娘のこ・・・ども?」
「どういう事です?」
二人の眉が跳ね上がり、険のある目つきでアーチャーとセイバーの方を見る。
「ああ、それは」
アーチャーが事情を説明しようとした時、
「パパ♪」
白野の一言が響いた。
ピシッ
場に鋭く亀裂が入ったような音が響く。
白野はセイバーに言ったのだが、勿論二人はそう取らない。
女性であるセイバーでは無く、横のマッチョメンに向かって言った、そう受け取った。
ゆらりと凛の身体から赤いオーラが立ち上がる。
「あんた・・・・・」
凛の極寒の視線を受け、思わず腰を動かし後ずさるアーチャー。
「ついに、ついに本性をあらわしたわね、このドンファンッッッ」
ドンッと力強く床を踏んで一気に距離を詰めた凛はアーチャーの胸倉を掴む。
「やったのね、手を出したのね、手籠めにしたのね、正直に言いなさい、殺してあげるから!」
ガックンガックンと、前後に揺さぶられたアーチャーは
「ま、待て、君は勘違いしている、その子は私の子供でも何でない、」
「あんた、好き勝手やっておいて認知もしないっていうの、最低、今すぐここでブッチKELL」
ガント発射の態勢を取る凛に、最初の衝撃から立ち直ったラニが声をかけた。
「落ち着いてくさい、ミス遠坂、アーチャーの言う通りでしょう、第一年齢が合いません」
「年齢?」
アーチャーの額に指を付きつけて、今まさに天誅を下そうとしていた凛は、ラニの方へと
振り返る。
「はい、ついこの間会ったとき、ミス白野に妊娠の兆候はありませんでした。なのにいきなり
この年齢の子供が現れるなど、どう考えても有り得ません」
ラニに冷静に言われた凛は少しの間考えていたが、やがて、それもそうかと納得した。
ずっと隠していたという可能性も僅かながらあるが、白野にそんな兆候が表れたのなら、
セイバーとキャスターの二人が大人しくしている筈が無い。
という事で凛の誤解は解けたのだが。
「だとするとこの子は何?」
「そこまでは私にもわかりませんが」
「うむ、なら余が教えてやろう」
今まで白野をあやしていたセイバーが口を挟んだ。
「成程、若返りの薬ねぇ、相変わらず無茶するわね、あの金ピカ王」
セイバーから事のあらましを聞いた凛は溜息をついた。
「信じ難い話ですが、実際子供となったミス白野が居るのでは信じざるを得ないですね」
じっと白野を見るラニの横で凛が考え込む。
(しかし若返りの薬か、この成分を研究して、もし量産、いえ老化を遅らせる薬でも良いわ、
作る事が出来たらそれを売って、ぐふふ)
目が$マークになった凛を、白野が見上げる
「む、なにか凛の様子がおかしいぞ」
「ミス遠坂の悪い癖がまた出始めた気がします」
セイバーは白野を自分の方へと引き寄せ、ラニは溜息をついた。
(でもどうやって? あの金ピカが素直に薬をわけてくれる筈が無いし、サンプル、そうサンプルがあればそれを分析して、どこかにサンプルが・・・・って、居たーーーっ、何よ何よ目の前に
居るじゃない。あの薬を飲んだってことは白野の血液の中にはきっと薬の成分が溶け込んでいる筈)
「くっ悪寒が、マスター気を付けた方が良い、凛の身体から妙な気配が漂い始めた」
(いえ、でも駄目よ、駄目、凛、そんな友達をお金儲けの道具にするなんて、でも・・・)
みんなが警戒する前で、葛藤する凛の心の中では二つの心が争っていた。
悪魔な心の凛は主張する。
「なに言ってやがる、こんな金儲け機会を見逃すなんて極めつけの馬鹿のすることだぜ、
あいつにゃサンプル料として売り上げの1パーセントでも握らしときゃ十分だ」
唆す悪魔な心に対し、天使な心は反論する。
「なんて事を言うんですか、彼女は大切な友達なんですよ、そんな不誠実な態度をとって良い訳がありません」
「てめぇ、良い子ぶりやがって」
「そんな事はありません、悪魔な貴女にもわかっている筈です、彼女がどれほど大切な存在か」
切々と訴える天使な心の説得に、始めは渋っていた悪魔な心も遂に折れた。
「ちっ、分かったよ」
「分かってくれましたか」
決着がついた、こうして天使と悪魔、良心と悪心の争いは・・・
「仕方がねぇ、ここはリベート10%でどうだ」
「いえいえ、お友達としては15%は支払わないと」
無かった、そんなものは無かった。
ここにはアカイアクマしか居なかった。
既にサンプル化は決定事項で、葛藤していたのはリベートの額だけだったらしい。
「「合意完了」」
悪魔と天使?ががっちり手を組む。
「ねぇ、白野ぉー」
凛が猫撫で声で話しかける。
「ちょぉぉっと、血を抜いてみない?」
「ちょっと待てっ、何を考えてる、凛!」
手をワキワキさせて白野に迫る凛に、セイバーが怒り出す。
「大丈夫大丈夫、ちょっと、ほんのちょっとだけだから、ほんのちょっと先っぽだけだから、
ほら注射の針をぷっ刺すだけだから、後はタンクに」
「絶対駄目だっ!」
セイバーはバンッと机を叩く。
「なんでよ、これってただの献血よ、瀉血よ、売血よ」
「ばっ!?」
「ミス遠坂、取り繕えてません、何を考えているかバレバレです」
「ちぃ、しまった」
自分の失言に、凛が盛大に舌打ちをした。
「凛よ、奏者に手を出せば余が許さぬ」
「な、なによセイバー殺気立っちゃって、ちょっとした冗談よ、遠坂ジョーク?」
「ミス遠坂、それは余りにも白々し過ぎます」
「そうだぞ、君が人身売買のたぐいをするとは思わなかったな」
「うっ、わ、悪かったわよ、確かにちょっと自分を見失っていたわ」
みんなに責められてシュンと身体を縮こませる凛。
「いえ、ミス遠坂の場合、自分をさらけ出したというのが正解です」
「うるさいわよ、ラニ、人が反省しているんだから、余計な茶々入れないっ」
「なにか随分賑やかですねー」
騒ぎを聞きつけたのか、キャスターと桜が部屋へ入って来た。
「はい、ミス遠坂がいつものやらかしをしたせいで、騒がしくなってしまいました」
「ああ、成程」
また凛さんが隠してないSG2を盛大に披露したんですね、分かります
と、桜が頷く。
「ちょっと頷かないでよ」
「まったく凛さんときたら」
言いながら、キャスターは座布団の上に座る。
桜はお茶を入れてきますねと言って、台所へ向かった。
「しかし、ミス白野がいくら子供状態になったとはいえ、ただ遊ばせておくだけというのは、
本当に良い事なのでしょうか?」
桜が持って来てくれたお茶を啜っていたラニが、そんな事を言い出した。
「と、言うと?」
空になった湯呑にお代わりを煎れてくれたアーチャーに頭を少し下げた後、ラニが続ける。
「はい、ミス白野は私の目から見て、余りにムダが多すぎます、まあそれも魅力に繋がっているのですが、もう少し彼女を矯正したほうが良いと思うのです、それには今の子供の内から教育するのが良いと私は判断します」
「でもラニ、貴女子供に何か教えたって経験あるの?いきなり高等数学なんて教えても理解
出来ないわよ」
凛の疑問にラニは軽く頭を振る。
「大丈夫です、確かに私には初等教育レベルの事を人に教えた経験はありません、しかし私には
このマニュアルがあります、これを使えば、子供の教育の仕方もばっちりです」
ラニが自分の少し前を指でつつく素振りをすると、空中に画面が現れる。
なにか検索していたラニはこれですと、画面を指さした。
「うーん、マニュアル頼りってのはちょっと不安だけど、まあ一般的教養レベルを教えるぐらい
なら問題無いのかな、ちなみにどんなハウツーなの?」
「はい、源氏物語の光源氏オススメの」
「待てぇい、それは教育ちゃう」
「おかしな事を言いますね、子供の頃からちゃんとした教育をし、理想の人物に仕立て上げる為のハウツーなのでは?」
「違うから、それ全然意味が違うから」
「いやいやいや。実に素晴らしいですよ、小さい内からご主人様を自分好みに仕立て上げる、
夢がありますドリームです、ご主人様のイケ魂はこれ以上磨く必要もありませんけど、
ちょっと奥手でシャイな部分を矯正・・・くふふ、って、あ痛っ」
アーチャーはキャスターの頭を平手で叩く。
「それ以上はやめたまえ、だいたい君達はマスターの教育の事で盛り上がっているようだが、
マスターはずっと子供のままと言うわけでは無いぞ、なのに何かを学ばせようとしても殆ど
意味は無いと思うが」
「ホム、ならば学校ごっこというのはどうでしょう?これならミス白野も楽しめますし」
「巫女ーん、ついに来ました魅惑の女教師プレイ、夜の個人授業でご主人様を魅了しちゃうぞ」
「なんだと、けしからん、余にもさせろ」
「あー、もうそんなイメクラみたいなのは良いから、あんた達ほんとに白野の情操教育に悪い事
しか言わないわね」
ラニの提案に非常に良い喰い付きをした二人を凛が窘める。
「酷い侮辱を聞いた」
「余達の、この生き様を見れば良い影響しか与えないだろうが」
「まあ、反面教師にはなるだろうな」
しれっと言うアーチャーにキャスターが噛みつく。
「なんですとっ、なに言いくさりやがりますかこのドンファン、アーチャーさんの奔放過ぎる
女性遍歴の方がよっぽど教育に悪いです」
「まあ、余にはかなわぬがな」
「待て、それこそ事実無根の言いがかりだ、訂正を求める」
「何が言いがかりですか、アーチャーさんの生前の傷の何割かは痴情のもつれでブッスリされた
痕だとか、その筋では有名ですよ」
「どの筋だ、いい加減な事を言うのは止めたまえ!」
「はっはっは、それぐらい躱して見せねば、ナイスボート一直線だぞ」
「セイバー、君も何を言っている」
「まあ、学校ってのを体験するのも面白いかもね」
取り敢えず凛は、ギャイギャイと言い合う三人を放置する。
「はい、私達は月の表側でも裏側でもまともな学校生活などしませんでしたし、この子供になったミス白野に気分だけでも味あわせてあげるのも良い事かと」
「予選もとても学校生活なんて言えるもんじゃ無かったし、やってみますか、あ、言っとくけどさっきの光源氏な教育は駄目だからね」
「分かっています、私なりに考えてやってみます」
「じゃあ、ここでは何ですので、場所を移動しましょう、洋間が良いですね」
五月蠅いここじゃ無理ですとは口に出さなかったが、桜は白野を連れてそそくさと和室を出ようとする。
凛とラニもいまだに言い合いをしてる三人を置いて洋間へと向かった。
洋間へと入ると、桜が取り敢えずそれらしい雰囲気を出す為に黒板を用意する。
「じゃあ、私は算数を教えてあげるわね」
椅子にちょこんと座る白野の前に伊達眼鏡をかけた凛が立つ。
やがてどたどたと足音を立て、セイバー、キャスター、アーチャーの三人も部屋の中に入って
来て、参観者がやたら多い授業が始まる。
「それでは問題ね、山田くんは100円持っていました、ある時太郎くんが売っていた50円の
お菓子が欲しくなりました、そこで山田くんは太郎くんにお金を払い、お菓子を手に入れました、山田くんの手に残ったのは幾らでしょう?」
凛の算数の授業はそんな問題から進められた。
「では次の問題です花子さんはよし子さんから200円借りてました、ある日よし子さんから150円返して欲しいと言われました、さあ返した後の残りは幾ら?」
始めのうちは凛が出す問題を時折指を折って一生懸命考える白野の様子を、ほわほわしながら見ていたセイバー達であったが、その内違和感に気が付く。
「では、次の問題です、一郎くんは300円で株を買いました、そして相場爆上げ、持っていた
株を売ったら500円になって戻って来ました、さて幾らもうけたでしょう?」
「「「「さっきからお金の問題しか出していない・・・・」」」」
アーチャー達が冷や汗を流している前では凛の授業が益々ヒートアップしていた。
「では問題、400円の元手で貨幣相場利用して200円儲けたら元手と合わせて幾ら?
金って割と相場が上下するけど、150円儲けたら合わせて幾ら?お買い物するとポイントって
つくじゃない、20円ほどポイント溜まったら幾らの買い物が出来る?このポイント結構馬鹿に
ならないから意識してないと駄目よ、あと働いて賃金を貰って、あ、ただ働きは絶対しちゃ
いけないからね、これ大事、あとあと」
あ、あう・・・お金・・大事?
凛の怒涛のお勉強に晒され、白野はふらふら頭を揺らしながらついそんな事を言う。
「そうよ、そうなのよ、お金は大事って分かってくれて嬉しいわ」
「何が嬉しいのかね」
我が意を得たりと喜んでいた凛の頭を、アーチャーが軽くチョップした。
「ちょっと、何するのよ、アーチャー」
「色々落ち着いて下さいミス遠坂、貴女は算数を教える筈なのに、今までずっとお金の事しか
話していません、経済を教えるのではないのですよ、というか経済でも無い気もしますが」
凛の抗議に、アーチャーの代わりにラニが応じた。
「なによ、お金は大事でしょ、私は算数と一緒にその事も教えてあげてるの、一石二鳥じゃない」
「全く、凛は相変わらずよの」
「そうですよ、あんまりお金お金って言ってると、そのうち膝に乗せた孫よろしく、ご主人さまから、『お姉ちゃん、お金臭ぁい』なんて言われかねないですよ」
「なっ!?」
流石にキャスターの言葉にショックを受けた凛は肩を落とした。
「ではミス遠坂がオチ付いた所で、次は私の授業といきましょう」
言葉の微妙なニュアンスの違いに首を傾げている凛を余所に、ラニが授業を始める。
「私が教えるのは倫理です、これは財布が豊かでも心が貧しくてはより良き人生は送れないから
です、丁度反面教師も居るので分かり易いと思いますが」
ラニの言葉に凛以外の一同が頷く。
「何、さらりと人の事デスってるのよ、それに私は充実した人生送ってるわよ」
「おや、別に私はミス遠坂と言ったわけでは無いのですが、自覚があるのですか?」
「今のさっきで白々しいわよ、と言うか、倫理なんて今の白野には難しすぎるでしょうが」
「ホム、そうかもしれませんね、では道徳で行きましょう」
そうして今度はラニの授業が始まった。
「人は嘘をついてはいけません、その場では良い事が一時的に起きるかもしれません、しかしその先良かったと思っていた事以上の悪い事が起きるのです、結局は自分を苦しめる事になるのです」
凛とは違うのだよ、凛とは
まるで歴戦の教師のような自身に満ちた態度で授業を進めるラニ。
なによ、マニュアル頼みの癖にと僻む凛を無視し、ラニは大きく手を広げ。
「そうです自分を偽わるのはイケナイ事なのです、さあ解放しましょう、貴女を縛り付けている
物を脱ぎ捨て、私と一緒に気持ち良くなってみませんか?」
「「「「おぃぃぃ、何を教えようとしているんだ!」」」」
ラニお前もかっ
と、ローマ帝国風に言うセイバーにラニは意外そうな顔をする。
「おや、セイバー、貴女は同意してくれると思っていましたが」
誰が同意するかと憤るセイバーの元へすすっとラニは近づくと
「解放されたミス白野の姿は実に美しいと思うのですが?」
ピクッとセイバーの眉が動く。
「た、確かにその奏者は実に悩ましい存在となるのは間違いではないが、いや、しかし、
だが・・・」
色々悩むセイバーにアーチャーが咳払いをする。
「こほん、セイバー、君はマスターのパパではなかったのかね?」
アーチャーの指摘に、流されそうになったセイバーは、ハッと我に帰る。
「そうだ、余はそんな、げふっ、奏者の嫌がる事は、がふっ、するわけは、ぐふっ、無い」
「なんか随分心の中で葛藤してるみたいね」
凛がむせ返りまくるセイバーを見て、しみじみ言った。
その後ラニの授業は強制終了となり、次はアーチャーが黒板の前に立った。
「ふむ、では次は私か、では家庭科といくか」
その授業内容にキャスター達は納得する。
「まあ、バトラーなアーチャーさんらしい授業ですね」
「適任ではあるな」
「桜は基本医者だし、キャスターはイメージがアレだし」
「失礼ですね凛さんは、私はご主人様に尽くす良妻狐ですよ」
などと周りの保護者?達が言っている前で、アーチャーがそれではどのような事をしようかと
悩んでいた。
(通常は料理だが、しかし炎と刃物を扱うから危険があるな、裁縫は、駄目だ、マスターの指に
針穴がいくつもあきそうだ)
妙に過保護になって考え込んでいたアーチャーは、ふと思いついた。
「よし、掃除をしよう」
「掃除ですか?それって家庭科なんですか?」
キャスターが首を傾げた。
「家事に含まれるのだ、家庭科と言ってもおかしくは無いだろう、それに何より掃除なら怪我の
心配は無い」
「ああ、まあそうですね」
アーチャーが考えている所を察してキャスターが頷いた。
「でも掃除って、どこを掃除するんですか?」
「ふむ、私はマスターには自分の部屋の片づけをして貰おうと思っている」
「ご主人さまの・・・」
「部屋・・・だと?」
桜の問いに対してのアーチャーの答えを聞いて、キャスターとセイバーがショックを受けた顔を
した。
「やりますねアチャ男さん、授業にかこつけてご主人様の部屋に入り、掃除と称してご主人様の
お宝ゲット☆しようとするとは」
「うむ、これには余もまいったと言うしかない」
「・・・・・君達の煩悩から掃除しても良いんだぞ」
凄みのある声を出すアーチャーにキャスターは、パタパタと手を振る。
「嫌ですねー、アーチャーさん冗談ですよ、冗談」
「うむ、余も冗談だ。筋金入りのムッツリであるお前がこの程度で馬脚を表す筈が無いからな」
非常に言いたい事があるアーチャーだったが、この二人をまともに相手をしていると、授業が脱線したままで戻らない、咳払いをして場を仕切り直すと。
「では、行こうかマスター」
アーチャーは白野の手を引き、白野の部屋へと向かう、当然の如く後を付いて行くその他の面々。
部屋に入ると、アーチャーは白野にハタキを渡す。
白野は早速、部屋の中の置物などの埃を払い始めた。
その後ろでは
「うふふー、ご主人様の部屋の掃除って少しドキドキしてしまいますねー」
「うむ、奏者のどんなお宝が眠っているか、そう考えるだけでワクワクが止まらん、何せ入った事は何度もあるが、家探しした事はないからな」
「あの二人とも、今からするのは掃除であって何かを漁りにきた訳では」
桜の指摘にセイバーとキャスターは、
「無論分かっている」
「当たり前じゃないですか」
と、のたまう。
「なんて言いつつ、どうして貴女達はタンスを開けようとしてるのよ」
「んもぅ、嫌ですねー、これはこういう時のお約束です」
「うむ、そうだ、そしてもう一つのお約束、それはベットの下に隠されたお宝アイテムをゲット
することだ」
セイバーがビシッとベットを指さす。
その指さす先でアーチャーがベットメイキングしていた。ベット下の埃を払う事も忘れていない。
「なんだと!?くっ、アーチャーに先を越されるとは」
「やっぱあのドンファン油断ならねー、こういうラッキーイベントだと抜群の強さを見せやがる」
「け、けどほら、別に何も無いかも知れませんし、そこまで気にする程じゃ」
ぐぎぎっと、歯軋りして悔しがり、今にもアーチャーへ飛び掛かろうとするキャスターと
セイバーに対し、桜があたふたと場を取り成そうとするが、
「でも、あの娘結構貧乏性っていうか、物を色々貯め込む癖があるのよね」
凛が口に手を当て思い出すように言った。
「ちょっ、凛さん今そんな事言ったら」
「あ、ごめん」
自分の失言に気が付いた凛が素直に謝った。
「そ、そうよね、普通無いわよね、ハムスターじゃあるまいし、そんなベットの下に恥ずかしい物を隠すなんて・・・・」
と、凛が言いかけた時。
「信じられん、まさかこんな物を隠していたとは・・・・」
アーチャーの呟きが聞え、一瞬場が固まる。
「ちょっ、マジで!? まさか本当にイケナイ本があったんですか」
「なんだと!?ならば奏者の嗜好を知る為にも、是が非にでも見なければならぬ」
鼻息を荒くする二人を桜が慌てて止める。
「そ、そんな駄目です、先輩のプライバシーを暴こうとするなんて、絶対駄目です」
そんな桜に、キャスターはニヤーーーリと怪しく笑う。
「あれー、そんな事言っちゃって良いんですか桜さん、もしかしたら貴腐人御用達の本かも
しれませんよ」
「なっ!?」
「ご主人様もあれで乙女な所がありますし、もしかしたら、もしかしたりするかもしれません」
「なっなっなっ」
「ほーら桜さん見たくなってきた、見たくなってきた」
キャスターは桜の顔の前で指をぐるぐると回す。
「・・・・し、仕方がありませんね、キャスターさんに呪術をかけられたら、私では抵抗
出来ませんし、ほんと不本意なんですけど一緒に先輩の秘密を見ちゃいます」
テレッテレとなる桜。
「ふっ、チョロい」
「桜・・・・貴女」
凛がどこか痛ましげに桜を見た。
「ではでは、見ちゃいましょう、覗いちゃいましょう、はい、それではオープン」
そんなにショックだったのか、いまだに手の中の物をじっと見て動かないアーチャーの手元を
キャスターが覗きこむ。
そこにあったのは、
「あれ? なんですこれ、激辛麻婆豆腐パック?」
予想していた物とはかけ離れた物があったので、キャスターが首を傾げる。
「あー、そっちか、そういえば奏者は好きであったな、激辛麻婆豆腐」
期待外れな結果にセイバーは落胆を見せた、その横でセイバーを押し退けるかのように
身を乗り出していた桜も肩を落とす。
「え、そうなんですか?アーチャーさんはご主人様には絶対に麻婆豆腐は出すなって言ってましたけど」
そう言った時のアーチャーの鬼気迫る顔を、キャスターは顎にひとさし指をあて思い出す。
あれは全く有無を言わせない態度だった、余程白野に悪影響を及ぼすものと思っていたのだが、
どうやら違うらしい、とキャスターは思った。
「いやいや、あれで奏者も中々でな、カワイイ顔してやるのだよ」
「そ、それはどんな風にですか、ドキドキします、もしかして激しく?」
「うむ、激辛だ」
「きゃー」
セイバーの頷きにキャスターが黄色い声を上げる。
「あのキャスターさん、何でもそっち方面に持っていくのはやめた方が」
「はい来た、カマトト発言、桜さーん、ご主人様が隠していた物がピー本じゃなかったからって、突然良い子になるんですか?もし隠されてたブツがエルエル本だったら、今頃はイケナイ娘に
なってたんじゃありません?」
「そ、そんな事ありませんっ」
桜は顔を赤くして顔を背ける。
「む、それにしても先程からアーチャーはなぜ動かないのだ」
「さあ、期待の物が出なくてショックでも受けてるんじゃ」
「キャスター、お前では無いのだぞ」
「てへ、ぺろ」
キャスター達がそんな事を言っていると、突然アーチャーは激辛麻婆豆腐パックを投げ捨てるようにして、段ボールに入れた。
突然の行動に、何事!?と、驚いたキャスター達の前で、アーチャーは全ての麻婆パックを
段ボールに詰め、ガムテープで何重にも封印処理をした後、産廃のラベルを張った。
「ちょっ、何してるんですか、普段から食べ物を粗末にするなって言ってるアーチャーさんらしく無い行動ですよ、それ」
「食べ物・・・だと?」
ゆらりとアーチャーが振り向いた。
「ひっ」
その迫力に、キャスターは思わず後ずさった。
「これは食べ物では無い、形容しがたい赤いナニかだ」
アーチャーは激辛麻婆豆腐パックを封印したダンボールに、ハザードマークさえ付けた。
「は?形容しがたいって、ただの麻婆なんじゃ」
その余りに大袈裟な対応に、キャスターはやや引き気味となる。
「これには言峰マークがついていた」。
「言峰マーク?なんですそれ?」
「奴が試食し、泰山店基準を満たした物にのみ貼られる悪夢のマークだ、マスターにこれを
食べさせる訳にはいかない」
「し、しかしだな、奏者が知らぬ間に勝手に処分するというのは、拙いのではないか?」
今の白野は何も知らないので、アーチャーの豹変をただポカンとした顔で見ているだけだ。
しかし元に戻った時に仕舞っていた物が全部捨てられていたとなれば、流石に白野も怒るだろうと、セイバーはやんわりアーチャーを窘めるが。
「マスターには常々、常々言っていた、アレにだけは手を出すなと」
アーチャーはこの件に関しては聞く耳を持たないらしく、きっぱりと言い切る。
「私も鬼では無い、個人の味の好みは尊重しよう、辛い物好きというのも構わないし普通の
麻婆豆腐であれば許容もしよう、だがこれは駄目だ、一度手を出せば、味覚は破壊され、
アレ以外何もまともに感じられなくなる、まさに悪夢のブツだ」
「あの、麻薬じゃないんですから」
「同じだっ、ダメ、絶対」
もはやこの拒絶の仕方は、魂に刻まれた生前のトラウマレベルだ、ここに至っては一同にアーチャーを止める術は無かった。
アーチャーの処理が終わり、部屋の掃除も楽しいお宝アイテムが出る事無く完了した後、
今度はセイバーが黒板の前に立つ。
「ふむ、次は余の出番だな、余の授業はずばり美術だ、そして余が描く!」
「あー、はいはい、もういいですから」
すぐさまキャスターが、次の人出て、次の人と他の皆に手招きする。
「待て、なんだその態度は」
「どうせまた心霊写真が出来上がるだけでしょ」
「なんだと!今度は大丈夫だ、ほら三度目の正直と言うではないか」
「みんな二度ある事は三度あるの展開しか予想してません」
「くっ、馬鹿にするなよキャスター」
「だいたいセイバーさんが絵を描くだけなんて、それのどこが美術の授業なんです?」
「ふ、愚問だな、余の美術の授業は優れた美術品に触れる事で奏者の心を豊かにする事なのだ、
そして余の描いた絵画はそのまま優れた美術品となる」
「よく言いますね、いつもご主人差のSAN値を削り取るような絵しか描けないくせに」
「ええい、黙れキャスター、見ているが良い、今度こそ至高の芸術作品を造り上げて魅せよう」
セイバーの気合一発、筆が舞い絵具が飛び散り独自空間がキャンパス上に展開する。
「出来だぞ、見よ!今回は彩り鮮やか、艶やかに化粧を施した麗しき奏者の顔を描いた!」
バンッと出来上がった絵をセイバーは披露する。
「とっても、写楽な絵です。ウホッ、良いネタ☆ですね」
何故だぁぁぁぁぁっと、セイバーは頭を抱え、天を仰ぐ。
「だいたい化粧って、なんで歌舞伎の隈取にするんですか、それ以前にご主人様はこんな瓜長な顔してないでしょうが」
キャスターが絵に描かれている顔の線に沿って指を這わせながら言う。
「まあ、これはこれで美術と言えますけどね、ご主人様の似顔絵なんて言い出さなければ」
キャスターにけちょんけちょんに言われ、拗ね顔になるセイバーを桜がまあまあと宥めた。
「あー、じゃあ、美術はこれで終りね、次の授業に行きましょう」
凛が取り敢えずその場を締め、キャスターが進み出た。
「はいはーい、それでは私の番です、このタマモ魅惑の保険体育を・・・げほっ」
「真面目にやりたまえ」
言い出す事を予想して身構えていたアーチャーが、すかさずキャスターの頭にチョップする。
「分かり易過ぎる」
「ミス遠坂風に言えば鉄板ガチガチ出来レースと言う奴ですね」
次々と突っ込まれたキャスターは不満げな顔をする。
「ぶー、分かりましたよ、なら歴史でいきます」
キャスターは黒板へと向かい、チョークで大きく文字を書く。
萌え
「は?」
その二文字を見て、凛が怪訝な顔をした。
「そもそも萌えという言葉は1980年代後半から成立したというのが一般の説ですけど、
その経緯はよく分かっていません、それと言うのも」
「待てキャスター、なんの歴史だ、なんの」
「何って、萌えとオタクの文化史ですよ、これも立派な歴史です」
セイバーの疑問の声に、キャスターがさも当然に答える。
「別に構わないでしょ?個人の裁量に任された授業なんですから」
「で、でも、キャスターさん、幾ら何でもそれは・・・・ここは普通に世界史とかやれば
良いんじゃないですか?」
そんな事を言う桜に、キャスターはチョークを手の中で玩びながら意味ありげに笑いかける。
「あら、桜さん、この後は乙女の×算の変遷の話でもしようと思ってたんですけどね」
「・・・・・・・・別に、学校ごっこだから何でも良いですよね」
「桜・・・・貴女」
凛はやはりどこか痛ましげに桜を見た。
一部で批判の声が出たが、キャスターは気にせずそのまま歴史の授業を進めた。
聖地アキバの事、絶対領域の黄金比率の事、愛でるOK・NOタッチな事。どれそれ上下どっち
論争な事を話す。
そして手をパンパンと打ち、知識はここで終わりと言って、すすっと白野に近づいた。
「はい、ではでは次に実践とまいりましょう、ここに取り出した狐耳、ご主人様に着けちゃい
ます」
素早く白野の頭に狐の耳飾りを着けるキャスター。
「あぁーん、らぶらぶらぶりー」
狐の耳飾りをつけた白野を見て、キャスターは嬌声を上げる。
「では次に尻尾、いやーん、もう尻尾がある者同士モフり合いましょう モフり愛ありがとう、
そして狐な二人はお互いお尻をくんくんして仲間の確認を・・・」
「させん!」
今までケモモ白野にほわんとなっていたセイバーが、キャスターを止めた。
「まったく好きあらばピンク展開に持っていこうとして」
「むう、凛さんも黙って見てた癖に」
「貴女はやり過ぎなのっ」
凛は気恥ずかしさに頬を赤く染め、強い口調で言った。
「えーと、それでは最後に私の授業ですね」
キャスターがセイバーに引き摺られて下がり、桜が代わりに白野の前に立つと、ぺこりとお辞儀をした。
「それでは私は保健の授業をしたいと思います」
「ふむ、桜にぴったりだ」
「そうですね、適任と言えます」
「それじゃあ、ちゃっちゃと始めちゃって」
「ちょっと待てぇい!」
みんなあっさり、桜が保健の授業をする事に納得したので、キャスターが荒ぶる。
「私の時はみんな一斉にパッシングした癖に、桜さんだと何でそんなにあっさりと認められるん
ですか」
「キャスター、これを見よ」
セイバーがキャスターに鏡を見せる。
「この鏡が何か?」
「インラン狐が写ってるだろう?それが理由だ」
「ほほぅ、淫蕩皇帝が良く言ってくれちゃいましたね」
セイバーとキャスターがお互いの視線をぶつけ合って火花を散らしているのを余所に、桜が授業を進める。
「病気になるのは身体の中に悪い菌が入るのが主な原因です、なので外から帰ったら、うがい手洗いをしっかりして下さいね、あと身体を清潔にしておく事も大事ですよ」
桜はBBが持っているような指揮棒を軽く回しながら、授業を進めて行く。
白野の先生役をするというのが、桜にとってはかなり楽しい事らしく。
「私の事はブロッサム先生と呼んでくださいね」
と、ノリノリだった。
桜は白野に健康について色々噛み砕きながら説明する。
食事は健康な身体を作る上で大切な事だと話した後。
「それと、食事の前には必ず手を洗いましょうね、でないと身体にバイキンが入っちゃいますから」
ここ要チェックですよと、桜は指揮棒を上下に揺らす。
「特にキャスターを触った後にはな」
フッと腕組みしたセイバーが笑った。
「ほほほ、セイバーさんを触った日にはもう、防護服を着ての除染作業並みに完全滅菌処理しないと駄目ですよねー」
尻尾をことさら左右に振り、口に手をあてキャスターが笑う。
「くくくく」
「ふふふふ」
「なんかあの二人変な笑い声上げて、睨み合ってるけど良いの?」
「ま、まあ、暴れ出す事はあるまい、多分な」
一時危険な状況にもなったが、なんとか学校ごっこも無事に終わり、みんなで和室へと戻る。
「それで、白野は何時までこのままなの?」
バリっと煎餅を齧り、凛が尋ねた。
「うむ、ギルガメッシュが言う事を信じれば、今日にも元に戻る筈だ」
「へー、そうなんだ」
「まあ、ご主人様もずっとこのままという訳にもいきませんしね」
キャスターが、桜から受け取ったお茶をすする。
「今のご主人様、非常に愛らしいのですが、元の姿に戻らないと、あーんな事や、こーんな事や、うへへ大人しくしろやな事、出来ませんものね♪」
キャスターは身体をくねらしていつものピンクな事を言うが、どことなく言葉にキレが無い。
「少しだけ名残惜しいと言うか、あ、先輩がこのままで良いなんてそんな事思っているわけじゃ
無いんですよ」
お盆を胸に抱いていた桜が、思わず漏らした気持ちを慌てて自分で否定した。
「いや、桜君の気持ちも解らないでも無い、私にもそうした気持ちが無い訳では無いのでね」
「うむ、そうだな」
手はかかったし、気も使った、始めは白野の為にと思っていたのだが、
何時の間にかこの状況を楽しんでいた。
皆は複雑な顔をする。
「なら写真でも撮ってみたら?」
なんとなく場がしんみりした所へ凛が提案した。
「写真か」
「そ、みんなで撮った思い出の写真を残すなんて悪くないんじゃない?白野は子供時代の写真
なんて持ってるわけ無いし」
「ふむ、良いかもしれぬな」
何時の間にか取り出した薔薇をセイバーが手でくるくる回す。
「変に倒錯した写真撮らないでよ」
何を想像しているのか含み笑いをしているセイバーに、凛が釘を刺す。
当たり前だと慌てるセイバーの横、キャスターが手を挙げ身体を乗り出した。
「はいー、それはナイスですよ、早速私とご主人様のエンゲージメントフォトを撮らないと」
「待て、いつお前と奏者が婚約した」
キャスターの四畳半計画を聞かされたセイバーがすぐさま噛みつく。
「ま、なんでも良いわよ、みんなが笑ってられる写真が撮れれば」
「悪くはないか、とはいえ、マスターは色々と揉みくちゃにされそうだ」
「写真という記録保存の方法も記憶の保存には良いでしょう」
「それでは、私カメラ用意しますね」
「じゃ、そんな記念写真撮ろうか、今この時が確かにあった事を残すために」
凛が白野の手を取り、優しい顔になって言う。
桜は少し照れて、ラニは自分の表情を隠すように指で眼鏡を上げて、アーチャーはやれやれ君も
大変だと少し呆れた顔をして、口喧嘩を止めたセイバーは何時もの様にドヤ顔で、
キャスターは慈しむように。
最高の思い出を残しましょう。
そんなみんなに、
白野は華のような笑顔を浮かべた。
写真はまずはみんなの集合写真を撮った。
その後は個別に白野と写真を撮る。
セイバーは白野を抱きしめて、頬をスリスリとしながら。
キャスターは膝の上に乗せた白野の胸の辺りで両手を組み。
凛は白野を引っ張るように手を引き、ピースサインで。
ラニは白野に眼鏡をかけさせ、一緒に指で眼鏡を上げる仕草をして。
アーチャーは二人で正座し、その前にぶっとい杭を打った激辛麻婆豆腐パックの空箱を置いて。
桜はお揃いのリボンを頭につけて。
それぞれが、それぞれの想いのまま写真を撮る。
最後にみんなで肩を抱き合い、じゃれつき合い、笑い合う集合写真を撮って終わった。
そしてこの短くも賑やかな時間の終わりを告げる者が姿を現す。
「白野さんも子供時代を満喫したようですね」
みんなで白野が子供になった後に起きた出来事を語り合っていた場に、子ギルが姿を現した。
「そろそろ元に戻る頃なので様子を見に来たんですけど」
「ふむ、そうか」
白野の頭を撫でながら、この賑やかな騒動も遂に終わりかと寂しげな声を出すセイバー。
「あれ、もしかしてこの子供ってギルガメッシュ?」
「ああ、そうだ」
アーチャーが答えると凛が驚きで目を丸くする、ラニも驚いていた。
「うそ、この子供がどうやったらアレになるのよ、どんな突然変異よ」
「あはは、また随分とハッキリ言いますね、まあ確かにそう言う気持ちは分かり過ぎる程
分かりますけど、ほんとに大人の僕はどうしてああなっちゃうのかな」
「それでマスターは、後どれ位の時間で元に戻るのだ?」
アーチャーが尋ねると、
「今ですよ」
即座に子ギルが答えた。
その言葉を聞いて、皆それぞれ想いにふける。
「夢は醒めるか」
「マスターにとってこの時間が有意義なものであったなら、良いのだがな」
「どうしたんです皆さん? まるで白野さんとお別れするような顔をして、元に戻るだけですよ
彼女は」
子ギルの言葉にキャスターが明るい声を出す。
「そうですよ、ご主人様は帰って来るんですよ、みんなで熱烈に歓迎しちゃいましょう」
「歓迎ねぇ、白野にとっては訳の分からない歓迎になりそうだけど」
「まあ、ミス白野ならいつもの奇行の如く、なんなく対応しそうですけど」
「あはは、先輩ならそうしそうですね」
違いないと、皆の顔に笑みが浮かぶ。
そんな時。
「あ、まずい」
子ギルが突然呟く。皆がどうしたのかと見る中で子ギルが、あははと笑う。
「いやー、もう元に戻るんですけどね、若返りの薬には一つ問題があるんですよ」
「問題だと?」
セイバーが、聞いてないぞそんな事はと、眉を顰める。
「前に、身体に負担はかからないと聞いていたのだが」
返答次第ではと剣呑な雰囲気を出すアーチャー、キャスターも目を細めた。
「いえいえ、身体に悪影響が出るとか、そういう事では無いんです。
この若返りの薬、身体も精神も若返って、身体に負担もかけず後遺症も何も無いんですけど」
なら問題は無いのではと、弛緩しかけた空気が次の言葉で一気に張り詰めた。
「服のサイズまでは変わらないんですよね、当たり前ですよね」
あはははっと笑う子ギルに、一同の表情が凍りつく。
「服って、ま、まさかっ!?」
一斉に皆が子ギルを見る。
その時、子ギルの身体が輝きだした。
「ぬわっ」
と、セイバーが妙な声を上げる中、子ギルの身体は光に包まれ、シルエットだけとなる。
これはつまりギルガメッシュが元に戻るという事。
馬鹿止めろ、誰か止めろと、そんな声も空しく、
シルエットがどんどん、どんどん大きくなる。
なってしまう。
「ふははははははははははははははははははははははははははははははっ
我さま、ここに爆誕っ、雑種ども伏して仰ぎ見よっ!」
げぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ、A・U・O!?
裂けた服が舞い散る中で元の姿に戻ったギルガメッシュに、全員の間に戦慄が走る。
早く服を着ろぉぉぉっとの声をギルガメッシュは足下に拒絶する。
「たわけ!王の復活に目を逸らすとは何事か!さあ雑種共、我がこの完璧な肢体、存分にその目に焼き付けよ、しかる後に拝し、己が矮小さを脳髄の一滴までに刻み込むが良いっ、
我が宝具大・開・帳!」
AUO キャストオフッ フルオープンッッッ!!
両手を思いっきり広げ、常識という世界を真っ二つに切り裂く最悪の一撃が今放たれた。
その真正面に居たのは。
ハ・ク・ノ☆
「ナニ晒しとるっ、おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
尾を八尾まで増やした怒りのタマモの玉天崩がAUOに炸裂する。
一瞬で白野の視界から消え去るAUO。
スクッとセイバーが立ち上がった。
その目は限りなく冷たい。
生前は数多くの裁判を取扱い、名裁判官としても知られていたネロがこの事態をジャッジする。
「被告っ、ギルガメッシュ、罪状っ、キャストオフ、
判決は死刑!死刑だ!! 死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑!!
そこを蹴れ!!あそこを蹴れ!!我とか言う奴のソレを根絶やしにせよ!!
目標!!ゴールデン!!死刑執行!!」
よっしゃぁぁぁぁぁぁぁと、応じたキャスターの練りに練った一撃の連続打撃。
「まずは金的っ! 次も金的っ! 往生しやがれ、これがドトメの金的だぁっ!
砕けろやぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
「む、むごい・・・」
いくら自業自得とはいえ、その処刑執行は流石に男として同情して良いレベルだと、
アーチャーは思わず目を背けた。
「セセセセセセセンパイを早くここから非難させないと」
我に帰った桜が、あわあわあわあわと珍しく取り乱す。
「そうね、色々修羅場すぎるわねこれは、こんな所に居たら白野の教育上、拙すぎるわ」
「私は有りだと思うのです」
ラニはクイッと指で眼鏡を押し上げる。
「ラニ、なにを言っているの?」
「このままいけば、ミス白野もまたキャストオフする、それはつまり人の解放という真理への
到達・・・・」
その特殊すぎる真理に至ったラニはギルガメッシュの行為を肯定しようとするが、
「ラニ自重しなさい、でないと、あれよ」
凛は、スッと処刑実行現場を指さす。
そこは凄惨な屠殺場、執行人たる彼女達には躊躇いの文字は、無い。
「・・・・・・・・・・・自重します」
「ええ、それが良いわね」
ラニは素直に引き下がった。
「しかしまあ、最後までこれなんてね、落ち込んでる暇も無いじゃない」
凛はクスリと笑った。
最後の最後で阿鼻叫喚の地獄絵図な展開となったこの騒動も、
修羅な現場から避難した白野が元の姿に戻った事で終了する。
「お帰りなさい」
「お待ちしてましたよー、ご主人様」
「うむ、健やかそうで何よりだ」
「どこか具合の悪い所は無いかね?」
「もし何かあれば、服を脱いでください、観察します」
「あのラニさん観察では無く診察です、それにそれは私がしますから、
とにかくお帰りなさい先輩」
それぞれがそれぞれの表現方法で白野を迎える。
子供から大人になった白野は目をぱちくりさせるが、
みんなの顔を見回し、やがて顔を綻ばす。
「うん、みんな、また逢えたね」
そう言って、白野は華のような笑顔を浮かべた。
その笑顔は、今はもう見る事が出来ないと思っていた笑顔。
え、まさか憶えてる!?
と、驚く一同に、白野は悪戯っぽく
なんとなくね
と言って身を翻し、家の奥へと駆けて行く。
待って下さいー、待つのだーとキャスターとセイバーが後を追う。
その様子を凛が呆れたように見る。
桜は少し困った顔をしていた。
ラニはさもありなんと頷き。
アーチャーは縁側に出て、空を見上げる。
「やれやれ、賑やかなのは変わらないか、少しは落ち着いてもらいたいものだが」
そう言いつつ、その口元は笑っていた。
スーパーゴージャス・パクスローマナ・二人の愛の巣マイルーム邸は今日も通常運転、
事もなし、岸波白野の時間は流れ続けていく。
ちなみにあの光り輝くAUOをまともに見てしまい、後の影響が心配された白野だったが、
身体ともに精神も幼くなっていたのが幸いし、特にショックも受けずトラウマにもならずに
済んだ。
良かったね、はくのん。
え?ギルガメッシュはどうなったかって?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・TS化?
感想有難うございました、これを励みにこれからも作品を作っていきたいと思います。
今回の反省点はBBを全く出せなかった事。
どうも桜もそうですけど、BBも基本待ちタイプだとイメージしてますので、助けを求められれば即参上、そうでなければ見守る事に徹する、そんな感じになってしまってます。
子供白野にはみんな優しかったので出番を作れませんでした。
まあ、裏で子供白野の仕草に悶えてたり、一緒に写真撮れなくて落ち込んでたりしてるんでしょうけど。