外は明るいというのに喫茶店の中は夜のように暗かった。
カーテンで光を遮断しているとはいえ、ここまで昼間に太陽を感じない喫茶店があるだろうか。まるで店全体に魔法がかけられているかのようだ。
「君、私のこと愛しすぎじゃないかい?」
「これぐらい普通だ」
「いや、異常だね」
カウンターで2人の客が話し合っている。テーブルの上にはランタンが置かれてあり、その淡くも優しい光が2人の姿を照らす。
一人は片目を眼帯で隠し、腕に包帯を巻いている青年。一人は黒いフードを被った白髪の少女だ。少女はランタンの炎を見つめながら話す。
「そりゃあね、私が好きなのはわかるよ。なにせ私は世界中のみんなの憧れであり、愛されている人気者さ。とくに子どもが私を見たら笑顔さ。なんならその子の親よりなつかれる自信があるくらいに私は魅力的さ」
「ああ、俺は貴方のその傲慢な性格も好きだぜ」
「ん? 一体私のどこが傲慢なんだ」
「そういう無自覚なところも好きなんだ」
「さっきから好き好きうるさい。顔が赤くなるからやめろ」
少女は机に顔をべったりとくっつける。青年はそれを見て頭をなでようとしたが、少女に手をぺしっとされる。
「たしかに私は魅力的だ。でも君の愛は異常だよ」
「そんなことはない。純粋な愛だ」
「君が6歳のころに私を見つけてから16歳の今までずっと愛を叫んでいることのどこが正常だ」
「たかが10年ぐらいの一途な恋なら、アニメでわんさかあるぞ」
「現実とアニメをごちゃまぜにするな。この中二病め!」
少女はがばっと起き上がると、青年に拳をふるう。しかし青年はびくともしない。
「魔法職の貴方が、この無限の闇を司るブラッドカオスナイトの俺に勝てるとでも?」
「だからもう中二病やめろって! 見てて辛いんだよっ!」
「俺は一向にかまわない」
「このばかっ!!」
追いかける少女に逃げる青年。椅子や机が全部倒れるぐらい暴れ続けると、やがて息を切らした2人はカウンターに戻る。
しばらくして息を整えると少女は青年を見つめる。その目は笑っていなかった。
「私を好きでいることに関しては別にいいのさ。私もうれしいしさ。でもね、恋をしてはだめだ。私のことを真剣に手に入れようなんて叫ぶのは狂人だよ。周りが笑って許してくれるのは子供までで、もう大人である君は許されない。それが現実さ」
「……周りが俺をどう思おうと問題はない」
「本当にそうかい? ならその眼帯と包帯はどうしたのさ?」
「……」
「今まで、そんなのつけてなかっただろう?」
少女は青年の腕を悲しそうな表情で見つめる。それに対して青年は表情を変えない。
「私を探そうとするな。私を信じるな。私が存在すると叫ぶな。私を真剣に愛するから君はいじめられるんだ。」
「……」
「…君は器用な人間だから、いままでの分も簡単に取り返せるさ。普通の人になれるよ」
そう言うと少女はフードを深くかぶって、出口に歩く。そして少女がドアノブに手をかけた時、青年は口を開いた。
「いやだ。俺は信じる」
「……何言ってるの?」
「俺はあなたを信じるし、いずれ貴方を必ず見つける」
その言葉に少女は目を大きく開いて驚く、そして乾いた笑みを浮かべた。
「…なにいってるのさ。私は現実には存在しない。私が生きているのは絵本や小説の中だけさ」
「それは貴方とその他大勢の考えに過ぎない。数が多いだけでそれが正しいみたいに言うほうがおかしいんだ。事実は人の数に左右されない。俺は貴方がこの世にいることを信じて探す」
青年と少女は互いを見つめあう。
しばらくの沈黙の中、少女は満面の笑みを浮かべた。
「本当に君は中二病だね。いいさ、もう気が済むまで私を探せばいい。探して探して探しつくして私がいないことを知ればいい。でも―――」
少女は扉を開き、青年に顔を見せずに答える。
「もし君が私を見つけたら、その時は死ぬまで君を離さないからね」
扉が閉まる。
夜のように暗かった喫茶店は先程よりも明るくなり、ランプの光が意味をなさなくなった。
喫茶店には青年が一人、魔法はもうどこにもいない。