【旧】思想強めのカリスマ美少女になって、死後周囲を狂わせたい!   作:k-san

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思想強めのカリスマ美少女になりたくない!?
ミステリアスな雰囲気と、意味深な言動で憧れを集めて、大きな影響を与えたところで死にたくない!?
という気持ちになったので衝動的に書き始めました。
どうぞ、よろしくお願いします。


思想強めのカリスマ美少女ごっこがしたい!

 

 思想強めのカリスマ美少女が好きだ。

 儚げで、ミステリアスで、生活感がないと良い。さらに長髪で、表情の変化に乏しくて、全体に色素が薄いとなお素敵だ。

 

 彼女は放課後の図書室のような静謐な雰囲気からは想像もつかない反社会的な思想を有している。

 そして女性ホルモンに振り回される思春期の少女たちを集めて青空教室を主宰(しゅさい)し、独自のアナーキズムを提供する。それは学校から「社会に都合の良い人間になることが人生の目標なのだ」と教えられる少女たちにとって、いささか刺激の強いお話だろう。

 

 そうした反骨精神は、やがて少女たちの憧憬(どうけい)を集める。

 叛逆は憧れへ。憧れは信仰へ。

 

 しかしカリスマ美少女は数人の孤独な少女たちから信仰を集めたのち、失踪するか死んでしまうのが常である。

 その過激な思想・哲学の総決算として、自殺を選択するのだ。

 

 そう、まだ精神的に未成熟な少女たちの人格形成に大きすぎる爪痕を残し、此岸(しがん)とも彼岸(ひがん)ともつかぬ場所へ、無責任にも去ってゆく。

 

 そして数年、あるいは十数年が経ったころ、世界を揺るがす大事件が起き、その背後に失踪した(死んだはずの)カリスマ美少女の影が見え隠れする――。

 

 伊藤計劃『ハーモニー』の御冷(みひえ)ミァハとか最高。もしくはただカリスマ美少女という属性だけを求めるのであれば、京極夏彦『魍魎の匣』の柚木(ゆずき)加菜子(かなこ)が身にまとう雰囲気なども味わい深い。

 

 俺はそういったキャラクターが大好きだ。好きが高じて、そうなりたいと思うようになった。

 なので転生して美少女に生まれ変わったと知ったとき、次のように決めた。

 思想強めのカリスマ美少女になって、死後周囲を狂わせてやる!

 と。

 

 そんな目標を掲げた俺が真っ先に始めたのは、勉強だった。

 なにせこれから俺が相手にするのは進んで孤高を選ぶようなマセた女の子たちである。しかも、そんな彼女らを知識で圧倒し、独自の思想・哲学を啓蒙(けいもう)していかなければならない。

 さいわい俺は転生者なので、最速のスタートダッシュを切ることができる。『十で神童十五で才子、二十過ぎればただの人』とも言うが、ならば大人になってボロが出ないうちに早期の決着をつければ良い。

 

 最善は神童のうち――すなわち15歳になる前に少女を集め、目の前から去ることだ。

 

 思春期女子の人生にデカすぎる爪痕を残してやるぜ! というあまりにも不純すぎる動機を胸に、俺は猛勉強を続けた。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 申し遅れたが、今世での俺の名は清水(しみず)リリーと言う。

 お察しのとおり東西の血が入り交じったハーフである。

 西洋の血を引き継いだことで、ミステリアス美少女に必要不可欠な儚げな美しさを確保。髪の色はホワイトブロンド、陶器(とうき)のようになめらかな肌は雪をもあざむく白である。

 思想強めのカリスマ美少女として、容姿の面は合格と言えるのではないか。

 いや、合格どころか充分満点を与えられる水準だろう。

 

 小学校生活はひたすら孤独だった。

 べつにこのころから「思想強めのカリスマ美少女ごっこ」に興じていたわけではない。たんにその準備としての勉強が忙しく、ほかのことに取り組む時間がなかっただけだ。

 あるいは興味がなかったと言える。

 

 学校にいるあいだは、できるかぎり読書に時間を費やした。

 休み時間は自席で読書。お昼休みには図書室で読書。

 家に帰っても読書――と言うとこれは必ずしもそうではなく、映画などを観て過ごすこともあった。

 前世から映画は好きだったので、家にいるあいだはどちらかというと映画鑑賞がメインだったかもしれない。

 無駄な時間ではなく、これも勉強のうち。

 カリスマ美少女としては、映画も引用できなくてはダメなのだ。

 そんな俺の成長を見守っていた両親は、友達のいない一人娘を心配――するでもなく「いつか大成するぞこの娘は!」と親バカぶりを発揮していた。

 

 転生して12年が経ち、小学校を卒業。

 本番はいよいよここからである。

 中学校に入学してからの俺は、まずたまり場になりそうなところを探した。できるだけ学校に近く、人気のない退廃的な舞台がいい。

 校内に良さげな場所を見つけた。そこは旧校舎の三階。旧校舎の一階は文化部の部室に使われているが、二階以上の部屋は誰にも使われていないという。そんなの、誰かが有効的に利用してやらないともったいないと思わないか? それに舞台としての雰囲気が満点だったのだ。老朽化していて、なんとも退廃のかおりが漂っているではないか。

 青空教室と言っていたわりに屋内だが、青空教室というのはあくまでもたとえだからな。

 

 次に設定を考える。

 清水リリーという名、これは使えない。俺がカリスマ美少女として振る舞うのは、あくまでも信者の前でのみだ。四六時中背伸びをしていてはさすがにボロが出てしまうだろうから、普段の時間はただの少女として過ごすつもりである。

 かといって普段どおりに振る舞う姿を信者に目撃されてはいけない。しかし、同じ学校に通っているのだから、そういう機会は何度も訪れるだろう。

 だから清水リリーとしての姿を見られたとき、それがカリスマ美少女と結びつくことがないようにしなくてはならないのだ。そのために、清水リリーとはべつの、新たな名前が必要になる。

 そこで考えたのがレイ。

 命名理由は安直なものだ。学校に存在しない、幽霊としてのレイ。あるいは零でもいい。断っておくが、断じて綾波(あやなみ)レイとは関係ない。

 清水リリー≠レイを強化するため、俺は普段から黒縁メガネとマスクをかけ、あえて野暮ったく髪の毛を結ぶことにした。

 レイとして振る舞うときのみ、髪の毛を解きメガネもマスクも外す。

 

 これで思想強めのカリスマ美少女、レイが誕生した。

 

 それらの準備が整うと、次はいかにも「私孤独ですよ」といった顔をしている同級生を見つけ出すことに注力した。

 いい感じの女の子を発見できれば、即「思想強めのカリスマ美少女ごっこ」を開始するつもりで過ごす。

 

 そして周囲の人間に注意を張り巡らせること、およそ二ヶ月。

 

 ついに見つけた! 適任者!

 

 六月某日のことだ。先月の下旬に実施された中間テストの席次が張り出された。

 人混みのなか、掲示板に張り出された席次表を上から眺めて自分の名前を探しているとき、俺はピンと来た。

 世を()ねている孤高なマセガキ中学生なら、中間テストの点数だって良いに違いないと。

 ちなみに俺はと言えば、あえて好成績を収めたりはしていない。なぜなら思想強めのカリスマ美少女とは、あくまで自分が認めた少女たちのあいだでのみ神格化される存在であって、べつに目立つ存在というわけではないからだ。

 

 成績上位者の名前とクラスを控えた俺は、あらかじめターゲットを数人に絞って調査を開始した。

 頭から順に調査していったが、幸先の良いことに、学年トップの成績を残した赤城(あかぎ)茉莉(まつり)という少女が目に留まる。

 一日かけた俺の調査によると、彼女は帰宅部で放課後は自宅まで一直線。友達がいる様子はなくて、休み時間はなにをするでもなく俯いているが、クラスカースト最下位だったり、舐められたりしている感じはない。

 おまけにクールビューティ。今世での俺に負けずとも劣らない美少女っぷり。

 まさにザ・孤高と言える。

 俺の求める人材としてうってつけ。

 

 俺は、彼女を青空教室の最初の生徒とするべく動き出した。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 放課後、帰りのあいさつを済ませるとダッシュで校門まで向かった。そして清水リリーモードで校門付近を監視する。

 赤城茉莉は帰宅部だ。もたもたしていたらさっさと帰宅し声をかけられなくなってしまう。

 校門をくぐる人ごみのなかに茉莉の姿を見つけると、その背を追って俺も歩き出した。

 茉莉は携帯を見ていた。いかにも他人に興味はないというオーラを醸し出している。やはり、彼女こそがカリスマ美少女と愉快な仲間たち1号にふさわしい。

 

 どうにかして彼女に自然に話しかけなければいけない。あるいは目に留まらなければならない。とは言うものの、そう簡単にチャンスが巡ってくるわけでもなく。

 自然な流れが必要なのだ。いきなり話しかけて、いきなり仲良くなるなんてことはありえない。どうすればいい?

 考えていると、彼女は携帯を見つめたまま赤信号の横断歩道に向かうところだった。

 

 これだ!

 

 俺は帽子とマスク、黒縁メガネをカバンにしまうと、あえて野暮ったく結んでいた髪の毛を解いた。

 綺麗な長髪を惜しみなく晒したカリスマ美少女モードである。

 

 俺は小走りで彼女との距離を詰め、その手首をつかんだ。

 茉莉は振り向いて、怪訝そうに俺を見た。そりゃそうか。なにせ突然のボディタッチだ。怪訝に思わないほうがおかしい。

 そこで俺は目で信号のほうを指し、不審者ではないことをアピールした。さらに一言付け加える。

 

「危ないよ」

「ああ……。ありがとう」

 

 礼を言われて安堵。これで不審者の疑念は晴れたはず。

 しかしどうしたものか、会話が完了してしまった。

 おう……困った。これでは歩きスマホをする女子中学生に注意を促しただけじゃないか。完全にただの良い人である。カリスマ美少女は反社会的人物でなくてはならないのに。

 

 俺は視線をさまよわせ、話のネタになりそうなアイテムを探した。そしてなにも見つけられず、スマホの話題を続けることにする。

 

「そんなに面白いの?」

「え?」

「それ。歩いているときもずっと眺めて」

「ああ、これ? うーん、べつに面白くはないけど。持ってないの?」

「ええ、だって要らないもの」

 

 本当はバリバリ持っているし、バリバリお世話になっているが、嘘も方便だ。カリスマ美少女はスマホを必要としない。

 ていうかこれ、テレビ観てない自慢みたいになってないかな……。大丈夫かな……。

 不安に思うが、こちらから切り出した話題だ。続行するしかない。

 

「家に帰ってもずっとそれを見ているの?」

「ううん。家に帰ったら……そりゃスマホを見る時間もあるけれど、まあだいたいは勉強に時間を()てるかな」

「そう。真面目なんだ」

「真面目と言うか……暇なんだよ」

 

 そこで信号が青になったので、俺たちは並んで横断歩道を渡った。

 

「暇、ね」

 

 意味深な間を持たせる。演出の一環でもあるが、実際は次の話題を考えるまでのあいだ、彼女の注意を引きたいだけだった。

 さーて、なにを話そうか。なにも考えていなかった。

 

「モラトリアムという言葉を知っている?」

 

 よし、これで行こう。

 適当にモラトリアムの意味でも教えてやり過ごす。そのあいだに次の話題を考える。

 

「猶予期間ってことでしょ? 社会に出るまでの、学生でいる時間」

 

 などと計画していたのに、満点の回答を出されてしまう。知識をひけらかして感心されたかったのだが、このままでは知識マウントに失敗した痛い中学生だ。それは嫌なので、一般論への反証を唱えることで軌道修正する。

 

「そう。よく学生時代はモラトリアムと言われる。……でも、これは間違いなの。本当は、人生のすべてがモラトリアムなんだとわたしは思う」

「なんか、のんびりしてるんだね」

 

 言われてしまった。俺は内心顔真っ赤になりながら、焦って言葉を紡ぐ。

 

「逆よ。学生時代がモラトリアムだと本気で信じているのなら、少なくとも卒業間近まではのんびりと構えていられるでしょうね。でも、人生は違う。だって、明日死ぬかもしれないでしょう?」

「ああ、確かに」

「だから、人生がモラトリアムだと自覚している人間は、必然的に生き急ぐことになるの。ねえ、」

 

 なんかもうボロボロになってきたので、ここで切り上げることにした。相手が俺をどう思ってるのか想像すると……うう、吐き気がする。立ち止まって、無理やり会話を終わらせた。

 

「わたしの名前はレイ。もしあなたが暇を持て余しているというのなら、明日の放課後、旧校舎三階にある旧三年二組の教室までやって来て」

 

 そこまで言うと、俺は茉莉に背を向けて去った。うう、彼女からの視線が痛い。「なんだこいつ、ここまでついてきて結局家が逆方向じゃねえか」とか思われてないかな……。

 

 これで明日、旧校舎に来てくれなかったらお笑い種である。まあそのときはべつの女の子に声をかければいいか……。

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