【旧】思想強めのカリスマ美少女になって、死後周囲を狂わせたい! 作:k-san
曇らせ回まで巻きで行こうと思います。
あと、本作についての報告が可能なようユーザページを開放します。今後は活動報告などを更新していく予定です。
長いようで短い夏休みが終わり憂鬱な九月が来た。
夏休み中も散々忍び込んできた場所なので久しぶりの学校だーなんて感慨もあるはずなく、俺は無感動に眠い目をこすりながら校舎に入る。どでかいあくびを一発かますと、口の端によだれが垂れた。
やべ、きたね。
俺はマスクを外して口元を手のひらで拭う。
と。
「きゃうっ」
前方不注意で歩いていたのが災いし、誰かの背中にぶつかった。体格の差で押し負け、しりもちをつく。さらにその拍子に帽子が脱げ、普段は隠している俺の素顔があらわになった。
「ちっ、んだよ……」
ぶつくさ言いながら俺に追突された人物が振り返り、視線を低くした。
目が合う。
「あ、ああ……清水……か……」
「あー……」
名前は憶えていないが、同じクラスの男子だった。
イケメンってほどでもないが、まあ対外的にクラスでいちばんイケてるって評価されてるやつなんじゃないか? カーストトップで、意味の分からんイジリ以外では俺みたいな陰キャと関わりのないタイプ。
「大丈夫か? 立てるか?」
「あ、うん。どうも……」
最初はいら立ちを隠しもしないぶっきらぼうな口調だったが、俺と顔を合わせたとたん、妙に親切になった。それに、ちょっと緊張もしているようだ。女子と話慣れてないのか? なんてな。こいつはたしかクラスの女子と普通に会話してたはずだ。
まったく話したことのないクラスメイト、という微妙な立ち位置がそうさせるのだろう。知らない相手ならとりあえず丁寧に話しとけ、でなんとかなるが、クラスメイト相手に敬語はおかしいし、かと言って話したこともない女子に軽口を叩くのも違うし……みたいな。
クラスメイトは俺に手を差し伸べた。が、先ほどよだれをぬぐった手で握り返すわけにもいかず、俺は自分の力で立ち上がった。
マスクをつけ、帽子を被る。
「あ、あの……ちゃ、ちゃんと前見てなくて……気を付ける」
「ああ、うん。気にすんなよ」
めちゃくちゃ気まずい空気だ。一刻も早くこいつから離れたかったが、そういえばクラスメイトだったので教室まで一緒に向かう羽目になる。
その間、カーストトップの
だがまあ彼にも世間体みたいなのがあるのだろう。クラスの陰キャ女子と肩を並べて教室に入る、だなんてお仲間に見られたら囃し立てられるのが明らかな真似はできないようで、四階についたところで「俺、トイレ」という唐突な自己紹介のあと解放される。
はあ~~。
ったく、やっと肩の荷が下りたぜ……。
教室に入り、自席につく。
大きく息をつき、頭を抱える。
夏休み明け早々やらかしたー!
前方不注意で顔面晒すって……間抜けすぎんだろ、俺!
が、まだクラスメイトなだけマシか。ぶつかっていたのがもしあの四人だったら――まあ恋慕なら天然だから大丈夫だろうが――素顔を見られたことでレイとバレてしまっていたかもしれない。
マジでただのクラスメイトでよかった……。
◇◆◇◆
全然よくなかった。
クラスメイト――名は高橋というのだが、あのできごと以来ことあるごとに俺に話しかけるようになった。
登校中さり気ないふうを装って話しかけ隣に並んだり、清掃中俺から仕事を奪って手持無沙汰にさせたり。
しかもLINEとか訊いてくるのだ。やってないと嘘をついたが。
なんだこいつ、俺に気でもあるのか……?
はっ、まさかな。
俺は自分の思い付きを一笑に付す。
だが実際のとこなんなんだろう。
ぶっちゃけて言うと会話に思考リソースの多くを割かれて面倒だ。まだ起こってはいないが、放課後につかまったら青空教室にも影響する。
こないだなんか高橋に話しかけられているところを教室を訪ねてきた恋慕に見られてしまった。無言で立ち去る彼女を見てなぜか後ろめたさに襲われ、昼休みに恋慕をつかまえて自分でもよく分からない浮気の弁解じみた言い訳を口走る。
「違うんだよ、さっきのは」
「え、なにが?」
「さっきのあいつは恋人とかじゃなくてえ……」
それからしどろもどろの言い訳をたらたら。対する恋慕は困り顔。知らんぷりで冷たく突き放されているのかと思ったが、恋慕は途中で合点がいったように、
「……もしかして、私が
「え、違うのか?」
「うん、リリーが男子と仲良くしてても、いちいち嫉妬したりしないよ」
まあ恋慕にとってはレイが本命なわけだから、俺が誰と恋仲になろうが関係ないのかもしれない。
それはそれで正しいし俺としても楽だが、しかし人間心理のなんと微妙なことか、普段からこう真っ直ぐな好意をぶつけられていると、こうした割り切りに接したとき寂しさにも似た感情が湧き出てくる。
「そ、そうか……ならよかった……」
「負ける気がしないもん」
ああ、そっち。
すげー自信だな……。
まあそんなことがあり、このところ俺は学園生活の忙しさに振り回されっぱなしなのだった。それでもカリスマとして四人の信者が求めるレイを演じないといけない。いつもどおり、旧三年二組の教室で四人を迎えないといけない。疲れなどは一切見せず。
放課後、帰りのホームルームが終わりそそくさと教室を出たところで――。
「おーい、清水」
高橋から声がかかる。
はい、本日の青空教室は無し。
俺はムカムカしながら振り返った。高橋がカーストトップの自信たっぷりな薄ら笑いを浮かべて俺を見下ろしている。
「なんでいつもそんなに急いでんの?」
「べ、べつに……」
「家の用事か?」
テキトーにうなずいとけ。
「うん……」
「今日も?」
「ううん」あいにくあんたのせいで用事はなくなったよ。
そんなやりとりを階段を降りながらおこなう。ゆっくり歩いていると、茜が俺の横を通り過ぎてドキッとした。ふたりして茜の背中を見送る謎の時間。
すまん、茜、そしてみんな。今日は隣のこいつのせいでそちらに行けません。
茜の姿がなくなると、仕切り直すように咳払いして高橋が切り出した。
「なあ、清水っていつもひとりで寂しくないか?」
失礼なやつだな。ほっとけよ。こっちには俺を尊敬どころか崇拝してくれる同級生が四人もついてんだぞ。お前は崇拝された経験があるのか?
俺が困惑を目で訴えると、高橋はあわてて取り繕う。
「ああ、いつもひとりは余計だったな」寂しくないかも余計だけどな。「でもさ、俺、清水が誰かと話してるとこほとんど見たことなくて」
「……」
「なあ、清水」
なんだよ。
「俺と付き合わない?」
誰がてめーと付き合うか。
……って。
「……え?」
時が静止した。
いくら鈍感な俺でも、そうはっきり言葉にされたら分かる。付き合うって、俺と? なんで!?
え、てことはだ。いままでのも全部俺へのアピールだったってわけ?
……マジ?
「え、ええと……」
「いいだろ? 清水、相手もいないじゃんか。俺にしとけよ」
いいわけないだろっ。こっちにだって都合があるのだ。なんで「相手もいないんだから俺で満足しとけ」って俺のためみたいな面で実際のとこはそっちの都合が100パーセントな告白を俺が受けると思ってんだ!?
だいたい、野郎なんて恋愛対象外だ。TSして出直せ!
と、言いたいところだがパニックのあまり声が出ない。目を白黒させると高橋が詰め寄って腕を取り壁際に追いやられそうになる。「いや!」俺はハッとして、反射的に高橋の腕を振りほどこうとした。が、なかなか離れず全身を使ってようやく解放される。女になって初めて気づく男の力の強さ。
「ご、ごめんだけど、俺、高橋のこと全然好きじゃないっ」
叫んで、俺は走り出した。
「おいっ、清水っ」
「ごめんっ!」
走って逃げる。家にたどり着く。
自室に駆け込んでベッドに飛び込む。
まだ心臓がドキドキしていやがる。
と言ってもこのドキドキは恋がどうとかのロマンチックなそれじゃなく、運動による不整脈とか、リアルな人間関係のなかで他人をはっきりと拒絶したことによる恐怖のため。そしてなにより俺に迫る高橋の大きさ――。
明日、どんな顔して学校に行ったらいいんだ?
頭に浮かぶのは最悪な想定ばかり。
もしこのことをプライドを傷つけられた高橋が自分を被害者に仕立てたうえで吹聴したら。もしさっきのやり取りを誰かに目撃されていたら――。
ああああ、もうめんどくさい!
なんだよ、好きとか恋とか付き合うとかどいつもこいつもさあ! 頼むから勝手にやっててくれよ! 俺を巻き込むんじゃねえよ!
次回以降の内容とはまったく関係のないカミングアウトですが、作者は主人公の周囲が曇るよりも主人公自身の精神がボロ雑巾のように痛めつけられ曇りまくる展開が好みだったりします。
嫌われ系のSSでも、好感度が元に戻って周囲の精神が崩壊するよりも、前半の主人公がボロボロになっているパートを読んでる方が楽しく、後半はおまけというかまあついでみたいなものだと感じてしまいます。次回以降の内容とは関係ないですが……。