【旧】思想強めのカリスマ美少女になって、死後周囲を狂わせたい!   作:k-san

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※本作品は未成年者の喫煙を推奨・肯定するものではありません。
 主人公の頭がゆるいだけです。


アナーキー・カリスマ美少女なんだぜ

 

 赤城(あかぎ)茉莉(まつり)を引き込んでからひと月が経つころには、旧三年二組の教室に集うメンツも俺を含めて五人となっていた。

 

 まず俺と茉莉のふたり。

 そこに日比谷(ひびや)(あかね)愛好(いとよし)恋慕(れんぼ)鈴代(すずしろ)(りん)の三人が加わった。

 俺と茉莉を中心に、それぞれタイプの違う人間を選んだつもりだ。

 

 おかげでこの教室もすっかり賑やかである。

 まあ茉莉は数人で集まると遠慮するタチだし、恋慕はもともと口数が多いほうではないので、賑やかしは主に茜と鈴ふたりの担当だが。

 

 俺はこの日、黒板前の教卓に腰かけ、人生で初めて手にしたタバコをふかすことで、法律なんてものともしないアナーキー・カリスマ美少女っぷりを見せつけていた。

 ……たかだかタバコひとつでアナーキズムを演出するなんて、なんだか底が浅くてダサいような気もするが。不良のやんちゃ自慢みたいな。

 まあ俺はもともと成人しているしな! べつに小さな非行に走って悦に浸るつもりじゃないから!

 

 つーかこれ、不味いなあ。みなの手前我慢しているが、咳き込みそうだわ、吐き気がするわで、良いことがなにひとつもない。

 タバコはきっと生涯これっきりになるだろう。

 

 さて、ここで問題。俺の喫煙について、最初に反応するのは四人のうち誰だろうか。

 まあだいたい予想はつく。というか、まず間違いなく茜だろう。もしかしたらクラス委員長兼学級委員長の鈴が咎めるかもしれないが、彼女はこのメンバー内でもっとも「信者」という言葉がふさわしいくらいに俺のことを慕ってくれているので、可能性は低い。

 茉莉はいつもどおり教室の隅っこで部屋の出来事を観察するだけで干渉はしてこないだろう。

 恋慕は寝ている。

 

「あーあ、タバコを吸ったらいけないんだよ!」

 

 案の定、声を上げたのは茜だった。俺は「来たきた」と内心ほくそ笑みながら相手をする。

 

「どうして?」

「どうしてって……子供はタバコを吸っちゃダメだって法律があるからだよ」

「なぜそんな法律があるのかしら」

「それは……ええと、健康に悪いから!」

「健康? それって、このあいだ家電屋で売っていたあれのことかしら。ショーウィンドウに飾られていたけれど、それほど高価なものには見えなかったわ」

「意味分かんないんだけど! レイちゃん、肺がんになってもいいの?」

「肺がんになるとどうなるの……?」

「死んじゃうんだよ!」

 

 俺はフーっと煙を吐き出して、

 

「死んでも死ぬだけよ」

 

 と言った。

 からかい半分で適当に煙に巻いていただけなのだが(タバコだけに)、なんか思いのほか良いせりふが出てきたな。

 死んでも死ぬだけ、か……。

 かっこいいので、今後も隙あらば使ってみようと思う。「〇〇しても〇〇するだけ」みたいにパターン化して、レイの口癖にするのもありかもしれない。

 などと思案していたら、先程まで黙っていた鈴がいよいよ茜に食いかかった。

 

「茜、レイは未成年者喫煙禁止法なんてちゃちなことにこだわる人じゃないよ」

「でも、ダメなものはダメでしょ? 鈴は委員長なのに、どうしてそんなことを言うの?」

「ボクのことは関係ないだろう? レイには、きっとなにか高尚な哲学があって……それでタバコを吸っているんだ。そうに違いない」

 

 もちろんそんな哲学などない。

 なんだ、タバコを吸う哲学って。

 

「だから、なんでもかんでも一概に否定するものじゃないよ」

「このこと先生にチクったら、鈴の内申にも響くだろうねー。内申点のために委員長に立候補したのに、これじゃあ意味がなくなっちゃうねえ」

「なっ……! そ、それは――いや、す、好きにしたらいいさ! だがね、ふん! ボクもレイも、そんなことでいちいち怯えたりする人間じゃないよ!」

「ぷくく、冷や汗かいてるし……」

「汗っかきなんだよ! もともとね! あー、暑いなあ!」

 

 やっぱこいつらの絡み面白えわ。これが見たくて、普段吸いもしないタバコをわざわざ持ってきたまである。

 茜は、このメンツのなかでは唯一俺に噛み付いたり物申したりできる人間だ。四人のなかでいちばん無邪気というか、子供っぽいというか。それゆえに、あまり忖度がない。

 対して、鈴は俺の演出するカリスマオーラに心酔しきっている。そのため、俺に忖度しない茜とはことあるごとに衝突している。しかし根が真面目なのだろう、俺がタバコを吸い出してから、いかにもそんなことはやめてほしいとばかりにソワソワし始めた。

 

 ぶっちゃけ俺がタバコを吸うと諍いが起こるのは目に見えていた。というか、それが見たいがために吸ったのだ。

 思ったとおりにことが運んで気持ちがいい。

 あー愉快愉快。

 

 などと、喚くふたりを見てニヤニヤする俺に天罰がくだったのだろうか。

 タバコの先から灰がポロっとこぼれ、俺の太ももに落ちた。

 

 ぅあっっっっっつ!?

 

 叫びこそしなかったが、反射的に身体が飛び跳ねて教卓から落っこちた。

 ドンガラガン! と教卓がひっくり返り、一同の視線が俺に集まる。

 

「だ、大丈夫かい!?」

 

 と、鈴が床にしりもちをつく俺に駆け寄った。

 茜も茉莉も寝ていた恋慕も、俺を心配そうに見守っている。

 心配してくれるのはありがたいが、このままでは酷いイメージの低下だ。タバコの灰にびびって落っこちたなんて、間抜けにもほどがある。

 なんとか弁解しなくてはならない。

 

「ええ……。大丈夫よ。たまに転ぶの」

「たまに転ぶって……座ってただけなのに?」

「いや、眩暈とか、ふらつきとか、そういうことだろう。病気じゃないのかい?」

「え、レイちゃん、病気なの?」

「……たまに転ぶだけよ」

 

 茜が痛いところをついたが、鈴が良いように解釈してくれた。俺はあえて(にご)したが、みなに病弱な印象は根付いただろう。カリスマ美少女的には、それはむしろちょうど良いフレーバーである。儚げでいまにもいなくなりそうな感じが。

 これからたまに転ばなくちゃならなくなったが、今回はとりあえずそれでよしとしよう。

 そして、タバコは二度と吸わない。いまハッキリ決めた。

 

「やっぱりレイちゃん、そんなに身体弱いのにタバコ吸うなんて良くないよ」

「ううむ……。レイにはレイの考えがあるのかもしれないが、ボクも見ていて不安になってきたな」

「……分かったわ。吸うの、やめる。というか、本当はこれが初めてだったのだけどね。大して気に入りもしなかったし、こんなことにリソースは使えないわ」

 

 俺が言うと、茜と鈴は心底嬉しそうな笑顔になった。

 わー、なんか想われてるって感じでほっこりするわ。

 

 俺はタバコの火を消した。

 

「残り、どうする?」

 

 箱を取り出す。なかにはまだたくさんのタバコが残っている。

 

「吸ってみる? 通過儀礼(イニシエーション)よ」

 

 茜と鈴に差し出してみた。

 

「臭いから、ヤ!」

「ボクも遠慮しておこう」

 

 俺は茉莉を見る。茉莉は首を振って断った。恋慕は寝ていた。

 

「そう。良かったわ。通過儀礼なんて戯言よ。人から勧められた非行なんて、野暮だもの。断るべきね」

 

 言って、俺はすべてのタバコに火を点けた。

 近くの適当な机のうえにタバコを立てて並べて、バランスゲームに興じたり、ドミノ倒しの要領で遊んだりした。意味はないが、なんとなく退廃的な感じがして良くない?

 

「ちなみに茜が言っていたタバコと肺がんの関係だけれど、実は大して因果関係があるわけではないの」

「えっ、そうなの?」

「完全なデマゴギーというわけでもないけれど。みなが『なんとなくそうだとしている』知識なんて、しょせんこんなものよ」

 

 それっぽいことを言って今日のまとめとする。

 

 帰り際。

 

「うえー、これ、絶対においが移ったよお」

「確かにな。家に帰ったら、どう誤魔化そうか……」

 

 ふたりが制服のにおいを嗅ぎながら不平を言う。

 

 すると突然、恋慕がむくりと頭を起こした。

 

「消臭剤、あるよ」

 

 全員、なぜか恋慕が持っていた消臭剤のお世話になった。

 

 ちなみにタバコの吸い殻は、廊下を北へ端まで進んだところにある教室の窓から投げ捨てた。そこの真下には漫研部がある。先輩はおらず、新入生の男女ふたりのみ在籍しているため、不純異性交遊に耽っていると噂に聞く。天誅だ。恥を知れ恥を。

 

 

 ・・・・

 

 

 あたしとレイのふたりっきりの時間は、それほど長くは続かなかった。

 出逢いから一週間もしないうちに、彼女は茜という少女を引き連れたのだ。次に恋慕。その次に鈴。

 次から次へと、いったいどこから連れてくるのだろう。まるで犬や猫でも拾うみたいに。

 

 そういえばレイはこう言っていた。

 

『孤独に慣れておきなさい。孤独に慣れるいちばんの方法は、集団のなかで自分を俯瞰することよ』

 

 言いえて妙だ。人は、誰かと時間を共にしているときこそ、どこまでも独りきりなのを悟る。

 ならばこれは、レイがあたしに課した試練なのだろうか。

 

 あたしはレイに言われた言葉を胸に留めて、日々を観察に徹した。

 すると見えてくるものがある。

 あたしのあとにやってきた三人だが、実は案外食わせ者だということ。

 

 茜は良い。あの子は良くも悪くも裏表がないから。

 

 しかし鈴と来たらどうだろう。彼女のレイへの尊敬は、少々度が過ぎているのではないか。彼女はレイの発言をボイスレコーダーで逐一録音し、家にいるあいだ繰り返し再生しているのだと語っていた。寝るときも、レイの声を聴きながら心地良い睡魔に身をゆだねるという。いつか精神に異常をきたしたりしないだろうか? 心配だ。

 

 もっと心配なのは恋慕だ。彼女はレイといるあいだは寝てばかりいるので、一見して無害に見える。だがその実態は……とんでもない色狂い。

 

 旧校舎へ向かう最中、恋慕と一緒になったことがある。

 

「このあいだ、レイとえっちする夢を見たんだ」

「は?」

 

 突然のことに面食らった。

 なんの前置きもなくこんなことを言われたら、誰だって返答に(きゅう)してしまうだろう。

 

「レイのこと犯したいな。レイって、シたことあるのかな」

「…………」

「レイってそういうの全然想像できないよね」

 

 このせいで、放課後の旧校舎で恋慕が机に突っ伏しているとき、「いまこの子は淫らな夢を見ているんだろうか」と下種(げす)勘繰(かんぐ)り染みた下卑(げび)た想像をするようになってしまった。

 レイはなんというか、そういう愛だの性だのと言った動物的な原理を超越したところがあるから、恋慕と恋仲になるのは想像できない。しかしそうだとしても、貞操を奪われる危険は充分に存在する。

 

 恋慕には注意が必要だ。むろん、鈴も、行き過ぎた信仰がいつどのように暴走するか予測がつかない。

 

 レイは、ただ天衣無縫(てんいむほう)に振る舞うだけである。世俗の意思とは切り離されたところに、たゆたうように在り続けるだけ。

 俗世間の悪意がレイに忍び寄るのであれば、それを防ぐのはあたしの役目。レイを守ることができるのはあたしだけだ。

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