【旧】思想強めのカリスマ美少女になって、死後周囲を狂わせたい! 作:k-san
翌日、昼休みに恋慕が訪ねてくる。
俺は『パリの住人の日記』を読んでいたところで、恋慕がそれを指し
「レイが読みそう」
と心臓に悪いことを言う。
そして内心ぎくりとしている俺の前の席に腰かけて、向かい合う状態をつくる。
俺は慌てて本をカバンに入れた。緊張を悟られぬよう、努めてさりげなく「でっ、でででっ! なんの用なの!?」と訊く。
すると恋慕は困ったように眉を寄せ、少し
「……用がないと来ちゃダメかな?」
ぐはっ。
おいおいおい、くそ可愛いぞ。
ちょいと恋慕さんや、そんなせりふをどこで憶えてきたんだい? それは反則ってもんだろう。上目遣いでそんなことを言われたら、無下にはできないのが男のサガというものなのだ。こっちの都合など構わず「もういつでも俺んとこ来て!」と言いたくなる。実際はそんなことされると困るが。
そして男たるもの、ただ「一緒にいたい」との一心でなんの用意もなく訪ねてくれた女の子ためには、知的かつスマートな話題を提供し、軽妙でユーモラスな語り調で会話をリードするのが当然の義務ってもんだろう。
俺はにわかに活気づく。
「も、もちろんダメなんかじゃないよ!」
「そう。良かった」
「今日はいい天気だね!」
「うん、そうだね。レイのことで相談に来たんだけど」
用件あるじゃねえか。
俺が振った渾身の話題もスルーされるし。
「あー、うん。どうしたの」
「それがね。昨日、いつもの場所にレイが来なくて……」
「へー、そうなんだ」
そういえばそうだった。
昨日は、恋慕につかまったことで旧校舎への到着が大幅に遅れそうだった。なので顔を出さないことにしたのだ。
こういうドタキャンは申し訳ないが、べつにあそこに集まるのは示し合わせてそうしているわけではないし、ミステリアス美少女としては、いきなりいつもの場所に現れなくなるというシチュエーションも悪くない。
むろん今日は顔を出す予定だが……。
「もしかしたら私の気持ちがバレちゃって、避けられたのかも……だとしたら、悲しいな」
不安そうに、恋慕は心情を吐露した。
気持ちがバレたのはそのとおりだが、避けたという事実はない。
俺は適当に慰める。
「そんなことないよ。たまたま昨日は気分が乗らなかったとか、そんなところじゃないの」
「そうかな……」
「そのいつもの場所って言うのは、普段から約束して合流している感じなの?」
「ううん」
「じゃあ、そんな日があってもおかしくはないんじゃないか」
「うん……」
納得いかなさそうである。
まあ、俺がいくらリリーとして慰めたところで大した効果はないか。俺はレイという人物を直接は知らないことになっているのだから。
「愛好さんは、そのレイって娘のどこが好きなの?」
無意味な慰めを続けても
好きなもののことなら饒舌になるのが人間だ。饒舌になれば、ひとまず憂鬱を忘れることができるだろう。
というわけで先刻の質問とあいなる。
恋慕は一時のあいだ不安を忘れられる。そして俺は恋慕から直に賛美の言葉を聞くことができる。
彼女は俺のことをどう思っているのか。
「好きなとこ、か……」
恋慕の目線が宙へ向かう。真剣に考えている様子。
「えーっと、レイは……まずきれいで、頭が良い」
おおっ。
「それから話し上手で、スタイルが良くて……」
「うんうん」
「ほかの人にはないオーラがあって……」
「それから?」
「クールで、格好良くて。自分の考えを持っていて、余裕があって……」
いかん、ほめ殺しだ。
さすがに恥ずかしくなってきた。
「ついていきたいって雰囲気があって、哲学的で、生活してる感じがなくて……」
「あー、うん。もういいかな」
「謎めいていて、カリスマがあって」
「ちょっとー。聞いてる?」
「不敵で、何者にも屈しなさそうで……犯したくなる」
「え?」
聞き間違いか?
犯すって言ったのか? この娘は。
「無理やりされて、嫌だいやだって泣き叫ぶレイ、絶対可愛いと思う。めちゃくちゃにしたいな」
「おいっ、白昼堂々なに言ってんだ!?」
俺は立ち上がって恋慕から距離をおく。自然と身を竦めて後ずさっていた。
「お前、自分がなにを言ってるか分かってんのか!?」
「分かってるけど……」
「犯罪だってことを理解して言ってたっていうのか!」
「レイは未成年者喫煙禁止法なんてちゃちな法にはこだわらないと言っていた。強制性交等罪も気にしないと思う」
「んなわけねえだろ!」
というか、鈴もそうだったけどなんでこいつら具体的な罪名がすらすらと出てくるんだ。事前に検索してきて会話に臨んでいるのだろうか?
「言っとくけど、それやったら絶対に嫌われるからな」
「え……」
この世の終わりでも見たかのような絶望顔。なんでだよ。
「じゃあ、しない」
「それが当たり前なんだよ」
言いながら、俺は再び席につく。
危なかった。俺がリリーとして話をしていなければ、いつ襲われていたかも分からない。
しかしこの娘には今後も注意が必要だろう。なんというか、あまりにも世間知らずだ。なにを考えていて、どんな行動を取るのか、まったく予想ができない。
彼女は旧校舎では寝てばかりいることが多かったから、てっきり大人しいやつだと思っていた。しかし蓋を開けてみれば、実態はこのとおり。とんでもない娘であった。
人というのは分からないもんだ。
・・・・
レイが旧校舎にやってこない日は何度かあった。そういう日はしばらく四人で無言の時間を過ごしたのち、自然と解散する。
だが、レイが初めて不在となったその日は違った。誰もが落ち着かない様子で教室を歩き回り、せわしなく「レイはいつ来るかな?」と言い合っていた。
誰もが、今日を境に二度とレイは来ないんじゃないかと怖がっていた。
レイはどこか儚げだ。手を伸ばしてもつかめやしない霧のように、存在がかすんでいる。
目を離したらいつの間にか去ってしまいそうで――あたしはいつか〝その日〟が来るんじゃないかとつねに怯えていた。
しかしまだ〝その日〟ではなかったようだ。
翌日、レイはいつもどおりに旧三年二組の教室で待っていた。
教室について、レイの姿を見とめた瞬間、心の底から安堵して小さく息をついた。「良かった」と言いかけて、それをこらえる。もしそれを口にしていたら、きっと声は震えていただろう。すでに手には汗をかいていて、膝が笑っている。
でもそういった動揺は隠す。
そういう弱みやレイへの執着を少しでも見せたら、彼女は本当に去って二度と現れないような気がしていたのだ。
レイに失望されたくなかった。
それでも、不安材料は取り除こうとつい考えてしまうのが人情だ。気づけば「昨日はどうしたの」なんていつになく積極的な言葉が口をついていた。
「どうしたのって?」
「昨日、ここにいなかったでしょ。どうしてかなって」
「面白いことを言うのね」
レイは薄く笑った。
「約束なんてしていたかしら」
そうだ。べつに取り決めや約束があったわけではない。あたしたちはただ暗黙の了解でここに集っているに過ぎないのだ。約束があったとすれば、それは最初の一日のみである。
「そうだね。変なことを言ったね」
あたしは素直に引き下がる。しつこく食い下がって、面倒な女と思われたくない。
「あー、レイちゃん! なんで昨日は来なかったのー?」
茜がやってきた。
「ああ、レイじゃないか。良かった。今日は来てくれたんだね」
ついで鈴が到着した。それから恋慕も。
こうして室内は賑やかになっていく。無邪気な茜は、レイにどうして昨日来なかったのか質問攻めをする。あたしにはできない振る舞いで、少し羨ましい気もする。
「大した理由はないわ。ただの野暮用よ」
それを聞いて今度こそ安心した。おそらく、ほかのみんなも。レイに愛想をつかされたんじゃないかという不安がどこかに残っていたのだろう。
それから、いつもどおりにレイの取り留めのない話が始まった。
その日のテーマは「
「情欲を抱いて女を見る者は、信仰を否定するのであり、御霊を受けることはない。もしも悔い改めなければ、彼は追い出されなければならない。
あなたは姦淫をしてはならない。姦淫をして悔い改めない者は、追い出されなければならない」
レイによれば、それは『教義と聖約』と呼ばれる聖典の一節であるという。レイはいろんな引き出しを持っているが、その日そのテーマで話をしたのはなんだか急なことのような気がした。
話を聞きながら、ふと恋慕のことを思った。ちらりと様子を窺ってみると、机に突っ伏して寝たふりを決めこんでいたが、明らかに動揺しているようで、足をバタバタさせていた。
次にちゃんとした一枚絵を描いて欲しい子は?
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清水リリー
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レイ
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赤城茉莉
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日比谷茜
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鈴代鈴
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愛好恋慕