【旧】思想強めのカリスマ美少女になって、死後周囲を狂わせたい!   作:k-san

6 / 10
お待たせしました!
今回の話は難産で、エディタツールを前にしても次の一文がまったく浮かばなくてやきもきしました。


イタズラ・クラブ

 

 あーダリい。

 なんで俺がこんなことしなきゃいけないんだ。

 頼むからさっさと満足して帰りの号令をかけてくれ……。

 

 この日、土曜日だというのに俺は朝っぱらから学校に来てバレーの練習をしていた。

 なんでも、全校生徒が親睦を深めるためだとかいう理由で、次の火曜日に球技大会がおこなわれるらしい。で、なにをそんなに張り切っているのか知らないが、うちのクラスは「絶対優勝」のスローガンを掲げていて、その情熱がとうとう休日にクラスメイト全員を呼びつけるまでに至った。

 そんなこんなで一部の熱血バカと白けたナード野郎が交じるなんとも奇妙な摩訶不思議空間が形成されてしまった。体育館はよその部活で使用されていたため、狭い教室に集まり、バレー部員の手ほどきを受けながらフォームを身体に叩き込んでいく。

 さて、問題はそんな体育系のイベントを俺が楽しめるかどうかということだ。

 もちろん答えは断じて否。楽しめるわけがない。適当な口実をつけてサボってしまいたいほどだ。そんな俺が休日をわざわざバレーの練習に取られて、機嫌が良いはずないだろう?

 しかも学校に来てみればクラスメイト全員私服姿で、制服を着用しているのは俺ひとりだけだった。完全に浮いている……。

 

 クラスカースト上位の女子共は、そんな俺を笑いものにした。

 

「てかなんでリリー制服なん? ウケる」

「もしかして私服持ってないの?」

「そんなわけないっしょ! アハハ」

「亜美ひどい~」

 

 うるせえ。黙れ。俺に気安く話しかけるんじゃねえ。

 お前らはクラスカースト上位なのかもしれないが、俺はカリスマなんだぞ。一部の人間からガチの尊敬を集めている、この世界の最重要人物なんだぞ。

 と、言いたいところだが……。

 

「あっ、あっ、あっ、へっ……うぇへへっ……ひひ……」

 

 そう答えるのがいまの俺には精いっぱいだ。

 

 休憩時間になったので、廊下に取り付けられたベンチに腰掛ける。自分の椅子には座れない。教室の空間を広く使うために、席を隅に移動させているのだ。

 俺はLINEを開き、恋慕とトークする。

 

『今日、土曜日なのに学校だよー』

 

『え』

『どうしよう』

『遅刻だ』

 

『いや、登校するのはうちのクラスだけだから』

 

『なにかあるの?』

 

『バレーの練習』

 

『ガンギマリサイコレズ』

『間違った』

『頑張れ~ ))ु˃̶͈̀ω˂̶͈́ ) ੭ु⁾』

 

『お前の予測変換どうなってるんだよ』

 

 可愛い顔文字で誤魔化そうとしているのが怖い。

 なんてやりとりを繰り広げていると、となりに座っていた女子の集団がゲラゲラと笑い出した。なんとなくそちらを見やり、わざとではなかったのだが、つい彼女たちが持っているスマホの画面を覗いてしまう。

 そこに映っていたのは……。

 

『シミズ制服笑』

 

 俺を笑いものにするトーク画面だった。

 俺はあわてて視線を逸らした。心臓がバクバク言っている。

 シミズ……シミズって俺のことだよな?

 クラスのLINEグループと思しき場所で、バカにされていた。しかも俺そのグループに入ってないし。家族とbot以外のともだち、恋慕だけだし。

 うっ……。

 途端にいたたまれなくなり、俺は便所へ駆け込んだ。

 

「ちょっと清水、そこ男子トイレだよ!」

 

 うわ、素で間違えた。

 周囲は爆笑で包まれる。

 俺は場所を女子トイレに移し、個室のなかで鍵をかけた。

 ……いまの間違いもLINEグループで晒されただろうか?

 だとしたら……あああああーー!!

 

 恥ずかしい。

 消え入りたい。

 誰か殺してくれないか。

 

 胃のなかのものがせり上げてきて、俺はトイレのなかにげえげえと吐いた。

 すると吐き終えるころには冷静になっていた

 落ち着いてくると、だんだん羞恥は怒りへ変わっていく。

 あんにゃろー。よくも俺を晒し者にしてくれやがったな。休日に呼び出したあげく、笑いものにするなんて。

 絶対に許さねえ。必ず仕返ししてやる。

 俺は暗い炎を胸のなかで揺らめかせながら、連中への嫌がらせを計画した。

 

 

 ・・・・

 

 

 本格的な〝活動〟が始まったのは七月の中ごろだった。その日から、レイは自らの思想の実践を始めた。

 〝活動〟のなかには法に触れるおこないもあったが、あたしたちはそれでも彼女に付き従った。

 

 球技大会を翌日に控えるなか、旧三年二組の教室でレイがこんなことを言い出した。

 

「明日の球技大会だけれど――わたしたちは欠席しましょう」

 

 彼女の口から「球技大会」だなんて、違和感がある。「球技大会」という言葉が世界一似合わない中学生なんじゃないだろうか、レイは。

 

 鈴が立ち上がり、教卓に腰掛けるレイに歩み寄った。

 

「いいけど……どうしてだい?」

 

 理由を訊くより先に了承するのが鈴らしい。

 

「ほかにやることがあるからよ」

「ええー、やることって? なにかな、なにかな」

「いまから説明するわ」

 

 レイは教卓から降り、黒板に板書を始めた。

 

「茉莉、茜、恋慕の三人にはそれぞれ一年生の教室を担当してもらう。茉莉は一組と二組、茜は三組と四組、恋慕は五組」

 

 黒板に「1、2」「3、4」「5」が書き込まれていく。その下に、あたしたちの名前が並ぶ。

 

「ボクはなにをするんだい?」

「それはあと」

「分かった」

 

 鈴は不安そうだが素直に引き下がった。

 

「三人にやってもらうのは――」

 

 言って、レイがあたしたちの顔を見回す。じれったく次の言葉を溜めるせいで、場に緊張が生じる。

 

「やってもらうのは?」

 

 しびれを切らした茜が訊き返した。

 

「――窃盗よ」

「窃盗!?」

 

 茜と鈴の声が揃う。

 慌てふためいたふたりがなにかを言おうと口を開きかけた。放っておくとややこしくなりそうなので、あたしがふたりを制し、話が円滑に進むよう続きを促す。

 

「窃盗って、なにを盗むの?」

 

 レイはあたしを出来の良い生徒を見るような目で見た。その視線があたしには心地良く、誇らしい。そのために、あたしは多くの言葉を飲み込んできた。

 あたしはじっとレイを見つめて、彼女の返事を待つ。

 彼女は実に端的に答えてくれた。

 

「スマートフォン」

 

 そのとき、あたしはレイとの出逢いを思い出した。

 レイと出逢ったのはあたしが歩きスマホをしているときだった。恥ずべきことだが、レイとあたしを繋ぎとめた行為でもあるのだから複雑だ。

 

 レイが簡単に計画を説明する。

 

「球技大会がおこなわれるあいだ、生徒はみな体育館に集まる。その隙に校舎に残されたバッグからスマートフォンを盗み出すの。鈴は廊下で立ち番をお願い。終わったらいったんここに集合。できる?」

 

 すると案の定茜が吠えた。

 

「なんで泥棒しないといけないの? 盗んだスマホを売っちゃうの?」

「いや、盗品を売ったら簡単に足がつくだろう。それに、一学年分のスマホをどうやって捌くんだい? その量なら、たんに持ち込んだだけで通報されるだろうな」

「それはレイに言ってよ! 茜が盗もうって言ってるわけじゃないもん!」

「それは……むう……」

「――できるよ」

 

 言い争うふたりをしり目に、あたしは言った。

 

「あたしは――やる」

 

 なぜレイがそんなことを言い出したかは分からない。しかし、レイが言うからにはちゃんとした理由があるのだろう。単なる嫌がらせではない、思想的裏付けが。

 

「ええっ。茉莉ちゃん、本気? 泥棒だよ泥棒!」

「私も。やるよ」

「恋慕ちゃんまで!」

 

 そこでみなの顔色を窺っていた鈴が、おずおずと手を挙げた。

 

「も、もちろん、ボクはレイの言うことに従うよ」

「うう……」

 

 結果、茜ひとりが取り残されたかたちとなる。

 

「分かったよう! 茜もやる! やるから! ……でも、ちゃんと分かるように説明してほしいな!」

「それはボクからもお願いしたい」

 

 正直なところあたしもそうだ。ふたりの言うことには大きく共感する。しかしあえて言葉にはしなかった。レイにとって「話の理解(わか)る子」でありたかったのだ、あたしは。

 レイはよどみなく滔々(とうとう)と自分の考えを述べた。

 

「人生がモラトリアムという話を前にしたわね。わたしたちは猶予期間を生きている。でも、長いはずの人生も、いずれすべての持ち時間を失うときがくる。その日は50年先かもしれないし、明日かもしれない。ぼんやり生きてはいられないの。

 そんなわたしたちが自分の人生を主体的に生きるのに、スマートフォンは大きな障害となっている。とくにSNS。あれは人間の興味関心――つまり個々人の持つリソースをできる限り奪うようにデザインされているわ」

 

 レイはよくリソースという言葉を使った。彼女が言うリソースとは、主に人間ひとりひとりの持つ可処分時間や処理能力、また、対象へ向ける興味・関心のことを指す。

 一生のうちで消費できるリソースは限られている。

 というより、一生がリソースなのだ。

 

「あなたたちも気を付けて。わたしたちのリソースは、常に他者から狙われている。わたしたちの時間をマネタイズする人々がいるの。彼らはわたしたちから積極的生を取り上げ、広告が生み出した〝理想像〟を押し付けようとする。

 いい? わたしたちは明日、盗みを犯す。けれど、それはただの窃盗ではない。むしろ、盗まれたものを取り返すために行動するのよ」

 

 いまにしても思う。これが12歳の考えることだろうか?

 あたしたちの誰もレイの考えについていけなかった。それが普通の12歳というものだ。しかし、それでも彼女の言うことには従った。彼女は絶対なのだ。彼女についていけば間違いない。彼女の語りにはそういう凄味があった

 

 

 

 球技大会の当日、あたしたちは午前七時から旧校舎に集まった。

 レイはいなかったので、いまから予定を再確認することはできない。まあ、レイが事前に指示したとおりことを運べば問題ないだろう。

 八時半、朝のホームルームが始まる。それから全校生徒が体育館へ向かう。九時には校舎から人が()けるだろうが、遅刻した生徒が遅れて校舎にやって来る可能性も否定できない。よって、万全を期して九時半から行動開始とする。

 それまでの二時間半は適当に過ごした。八時ごろからそれぞれ学校に電話をかけて、思い付きの理由で欠席する旨を伝える。

 

「はい。すみません。昨夜から体調が優れなくて……はい……熱は少しですが……はい。すみません。よろしくお願いします」

 

「申し訳ありません。全校生徒が親睦を深めるために設けてくださった大事な日に、学級委員長である私が欠席するなんて。自己の体調管理も満足にこなせないとは。不徳の致すところです」

 

「えーっと……ごほっ、そのー、んんっ、今日は……無理っぽい……です……ごほごほ」

 

「先生あのねっ、今日、お母さんが天国へ行きました!」

 

 茜はふざけているのだろうか?

 

 それぞれ電話が終わると、珍しく鈴があたしに向けて話しかけてきた。

 

「はあ。緊張するものだね。仮病なぞ初めてだよ」

 

 緊張、か――。

 あたしは全然感じなかったが、まあ人によりけりだろう。

 鈴のほうは、たしかにばつが悪いのを誤魔化しているみたいな笑みを浮かべていて、顔もほんのり赤い。

 

「あたしもだよ。仮病なんてしたことない。みんなそうじゃない?」

 

 あたしの場合は、そもそも休日なんてものをありがたがったりしないから、というのもある。家にいても学校にいても変わらない。だから嘘をついてまで学校を休もうなんて発想が起こらない。みんな、どうして休日なんてものをありがたがるのだろう? たいして有意義に過ごすわけでもないのに。

 

「だけど、茉莉は堂々としているね。恋慕も、茜も。ボクはまだドキドキしているよ」

「そう? まあ、ただの性格でしょ」

「そう。性格なんだ」

 

 鈴の顔に陰がさした。うつむいて、深刻そうに、だけど口もとにだけ自虐的な笑みを貼り付けて、ぽつりぽつりと語りだした。

 

「そういう性格に育てられてきたんだ。物心つく前から、そういう教育方針だったんだ。なにしろ、ボクの家系は警察官とか検事とか、そういう人間ばかり輩出しているからね。みんな真面目なんだよ。ボクも真面目だ。このあいだレイがタバコを吸っていたときも、正直やめてほしいと思っていたくらいさ」

「見ていてすぐに分かったよ」

「あはっ。そうなのかい? そうか……。だから……なのかな……。やっぱりね。ほら、今日の作戦だって、ボクが見張りで、重要な仕事はキミたちに振られている。真面目なボクには、盗みなんて任せられないんだ。つまり、レイに信用されていないんだよ、ボクは」

「適切な配役じゃない? 担当のクラスを均等に割り振って、あまったひとりが廊下で見張り役。まあ、見張り役に鈴が選ばれたのは、たまたまかもしれないけど」

「そーだよ、なにネガティブになってるの? 鈴らしくない!」

 

 鈴の胸中は充分に察することができる。

 要するにレイという少女があまりにも規格外の存在だから、普通の感性を持つ自分は、いずれ彼女に見捨てられてしまうのではないか、どうしてレイは仲間に入れてくれたのか、不安で仕方がないのだろう。多かれ少なかれ、そういう不安を周囲に抱かせる才能を彼女は有している。

 そう、「不安にさせる才能」だ。自分で書いておいてなんだが、言いえて妙な表現だと思う。彼女は人を不安にさせる天才だった。

 

 不安を吐露した鈴は、困ったように笑った。

 

「あはは、ふたりとも、ありがとう。そうだね、ボクらしくなかったね」

 

 勢いよく立ち上がり、自分の両頬をバチンと叩く。

 

「痛っ! ……さあ、レイに恥じない仕事をしようじゃないか!」

 

 

 ・・・・

 

 

 九時半になったのを確認してから、あたしたちは動きだした。時刻は各自持参のスマホで確認。なんというか、皮肉な話だ。

 一年生の教室は四階――現校舎の最上階にある。上から一年生、二年生、三年生と進級するごとにフロアが下りていく仕組みになっているのだ。「年長者には敬意を払い、階段の上り下りについて楽をさせよ」ということだろうか? だとしたら馬鹿げているなと思う。むろん、最上階だからといって不平を言うつもりはないが。

 人払いが済んだ校舎は、朝の日差しが差し込んでいるにもかかわらず静かで、なんとなく気味が悪かった。まるで異世界に迷い込んだみたいだった。

 

「じゃあ、それぞれ持ち場についたね?」

 

 鈴の言葉に、あたしを含めた三人が頷いた。

 あたしが一組、茜が三組、恋慕が五組のドアの前に立ち、鈴が東昇降口のあたり(一組側)であたしたちを待っているという配置だった。

 

「じゃあ、健闘を祈る」

 

 ささやき声と共に親指を立てる鈴。みながそれぞれの持ち場に入っていった。

 

 さて。

 一年一組にはだいたい三十前後の席がある。二組~五組もだいたい同様の数だろう。三十の机の脇にはかばん掛けとなる突起があり、そこにバッグが無防備にぶら下がっている。

 まずは引き出しを(あらた)めた。ついでバッグの中身。スマートフォンを発見。手持ちの袋に入れる。

 一連の流れはおよそ十五秒ほどで済んだ。

 レイが言うには、スマホを探す際は、ひとつの席に一分以上の時間をかけてはいけないとのことだった。それでいてふた組の教室あわせて三十分以内に作業を終わらせて欲しいのだという。

 

『三十分が過ぎたら、全部の席を見ていなくてもいいからとりあえず撤収して。いい? わたしは完璧は求めない。完璧なんて要らないから、与えられた時間内に、求められた要件を満たして』

 

 社会を知るいまのあたしにしてみれば、レイの姿勢は確かに『仕事』だった。下手な完璧主義には走らず、肝心要の条件さえそろえばそれ以上は時間との相談。

 

 次の席に移る。

 スマホを取る。

 さらに次の席。

 三回に一回くらいはスマホがなかなか見つからなくて手こずるし、結局見つからず仕舞いということもなんどかあったが、最終的にだいたい二十個ほどのスマホを回収できた。

 時間にして十五分ほど。ちょうどいいタイムではないだろうか。一組のドアから顔を出し、廊下の様子を確認する。鈴が手持ち無沙汰にしていて、問題はなさそうだった。

 

 二組にさっと移動した。

 先刻と同じようにスマホを回収していく。慣れたのか、はたまた雑になったのか、ひとつの席にかける時間が縮まっていた。順調だ。このままなにごともなく作業は終了するだろう。

 などとたかをくくっていると、六列あるうちの五列目の席に差し掛かったとき、持ってるスマホが振動して取り落としてしまった。

 

「うわっ」

 

 さすがにこれは驚く。誰にも見つからないよう息を殺し、緊張のなかで作業しているところへの着信は心臓に悪い。

 着信が止まるまで待って拾い上げると、画面にヒビが入っていた。

 申し訳ないことをした……という気持ちは全然ない。むしろ「こんなことで驚かせるなよ」という理不尽な怒りを覚えたくらいだ。あたしはスマホを袋に入れた。

 

 廊下へ出ると、茜がすでに鈴と合流していた。手にパンパンの袋をふたつ提げている。ひとクラスしか担当していないはずの恋慕は、まだ回収が終わっていないようだった。レイが彼女の担当をひとクラスに絞ったのは、英断だったと言える。

 

「これ、けっこう重いねー」

「どれ、ちょっと持ってみてもいいかい? ――ああっ、本当だ」

 

 なんてやり取りを眺めていると、恋慕が来た。

 あたしたちは顔を見合わせ、旧校舎へと戻る。

 旧三年二組の教室に入るとレイが待っていた。

 

「お疲れ。釣果は?」

「大量」

 

 あたしは言って、教卓のうえにどすんと袋を置いた。

 レイは袋をつまむようにして中身を乱暴に出す。袋の口からガシャガシャと溢れ出るスマホなんて、なかなか拝む機会のない光景だ。

 もうひとつの袋からも取り出して、ちょっとしたスマホの山が築かれた。レイはそこから一機のスマホを取り「これは今度使うから」と鈴に手渡す。

 

「いずれ鈴にお願いすることがある。預かっておいて」

「ああ……いいけど。これ、いったい誰のだい?」

「さあ?」

 

 さらに茜と恋慕が回収したスマホもすべて教卓に載せると、手近にあった五つの机を寄せて、そのうえにスマホを並べだした。

 

「みんなも手伝って、それぞれの机にスマホを均等に並べるのよ」

 

 あたしたちはレイの言われるがまま机上にスマホを置いていく。五分ほどで教卓のうえの山は消えて、代わりに五つの机が、まるでソーラーパネルを設置したように様変わりした。

 

「ねーねー、これいったいなんなの? そろそろ教えてほしいんだけどー」

「スマホを返してあげるのよ」

「え?」

 

 茜が素っ頓狂な声をあげる。鈴も呆気にとられた様子だ。

 たしかに、スマホを返すのでは、なぜ四人で手分けしてまでわざわざ回収したのか分からない。

 不思議なのは、どうしてこういうときにいつも恋慕は反応しないのかということだ。話に関わっているのに、興味がないのだろうか。

 

「うん? 返すといったって、みんなどのスマホをどの机から回収したかなんて憶えていないよね?」

「適当に配ればいいじゃない」

 

 言いながら机上のスマホを袋のなかに詰め込んでいく。

 

「さあ、もうひと仕事お願い。次はこのスマホをみんなのバッグに戻してあげて。ただし、それがもとの持ち主であるかどうかは不問とするわ」

 

 それではただのシャッフルだ。

 あるいは、最初からそのつもりで今回の作戦を立ち上げたのだろうか。

 いずれにせよあたしたちは従うだけだ。

 

 十時十五分。あたしたちはふたたび現校舎へ赴き、スマホを返していった。担当する教室は回収時と同じ。回収のさいは、途中でスマホが見つからなかった席もあり虫食い状態だったが、返却のさいは気にせずバッグに入れた。列の途中でスマホが尽き、次の教室へ移る。ふたつの教室をあわせて十分ほどで作業は終わった。

 今度は恋慕が最速だった。いくら恋慕がマイペースでも、バッグにスマホを入れていく作業でタイムに大きな差が出るとは思えない。だからひとクラスしか担当していない恋慕が真っ先に作業を完了するのは道理だ。

 茜と合流し、旧校舎へ向かう。

 

 レイはいったいなにを考えていたのだろう?

 レイは言った。

 

『きっと学年中が混乱するでしょうね。生徒のスマホが交換されたことで、クラス間を多くの人間が行き来することになる。彼らはスマホなしでは生きていけないのだから』

 

『もしかしたらこの事件を契機にあらたな出会いがあるかもしれない。あらたな人間関係が築かれるかもしれない。あらたなトラブルに発展していくかもしれない』

 

『〝小さな個室〟に閉じこもっている彼らが、鍵のかかった部屋の外に出るときが来るのよ』

 

 小さな個室とはなんだろうか?

 鍵のかかった部屋とは?

 

 レイの考えは、まるで霧がかかったように分からなかった。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 球技大会の終了後、一学年中が騒然とした。

 仕舞っていたはずのスマホが消えたり別人のスマホにすげ替わっていたりで、四階中を探し回るはめになったからだ。おかげさまでうちのクラスもてんやわんやの大騒ぎ。

 クラスのLINEグループで俺を笑いものにした連中が、困った顔であたりを行ったり来たりしている。

 ざまあみろってもんだ。これに懲りたら二度とLINEで人をバカにするんじゃねえぞ!




一部実話に基づくエピソードがあるらしいです。
制服笑……うっ……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。