【旧】思想強めのカリスマ美少女になって、死後周囲を狂わせたい!   作:k-san

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短め。


ボーナスタイム

 

 例のスマートフォン事件から一週間以上が経過し、夏休みになった。

 

 俺がレイとして旧校舎を訪ねるのはいつも平日の放課後だ。つまり、休日は該当しない。いちど土曜日に旧校舎へ侵入したことがあったが、当然だれもいなかった。

 

 ――が、さすがにひと月以上ものあいだレイと会えない状況を平然と受け入れられるような信者に育てた覚えはない。

 

 夏休みの初日、俺は部活動にいそしむ人々の目を盗んで学校内に侵入し、いつもの旧校舎を目指した。

 

 旧三年二組の教室にはまだ人気がなかったが、だからと言って「誰も来てくれなかった」と判断するには時期尚早だ。

 俺は普段から他のどのメンバーよりも先にこの教室にたどり着き、教卓のうえに座っていちばんかっこいい絵面を探しているのだ。待つのは慣れっこである。

 

 ただ、今日は夏休みということもあり「本当に来てくれるのだろうか?」という不安もある。

 徒労に終わるかもしれないという不安を抱えた状態での待ちぼうけは、思いのほか神経をすり減らすものだ。

 

 それでも――と、俺は気を引き締める。

 そうだ、俺は初めから生半な気持ちでこの場に臨んじゃいない。カリスマとして、俺はいつか信者の曇り顔を引き出させていただく立場にある。その対価として、いまはとにかく彼女らに"カリスマでかっこいいレイ"をめいいっぱいサービスしなくてはならないのだ。

 言ってしまえば、これは義務だ。

 

 手抜きのサービスで思春期真っ盛りな女子中学生を満足させられるか?

 答えは否。

 

 誰かがそこのドアから教室に入ってきたとき、レイがもっとも美しく儚く見える角度を探し、その状態で持参した本を読む。

 

 もちろん、選書にも気を配っている。

 素人はここでドストエフスキーでもチョイスするんだろう。そして『罪と罰』でも読みながら「高尚な本を読む俺かっけー」に浸るのかもしれない。

 

 だがおいお前らよく考えろ! 『罪と罰』だか『失われた時を求めて』だかの古典的名作は、いわば昔から大量の読者を獲得している超有名作品であって目につきやすい作品であって、つまりカリスマが過去に通り過ぎた作品でなくてはいけないのだ。

 ここで意気揚々と『罪と罰』を読んだところで、それはカリスマ的には「いまさら読んでるの?」になっても「読んでる俺かっけー」にはならない。

 

 ミステリマニアという設定のキャラが最近読んだ本が『十角館の殺人』『殺戮にいたる病』『容疑者Xの献身』であってはならないのと同じ意味だ。普段からミステリを読まない人間が「ミステリマニア」という設定のキャラを描こうとするとき、とりあえずキャラの読書遍歴に傑作名作群を描写しておけばそれっぽいだろうとの発想からこの陥穽(かんせい)にはまりがちだが――これはカリスマロールプレイにも当てはまるので、気を付けている。

 

 目の付け所は、マイナー古典作品か新刊あたりだ。そしてレイはどんな本でも手当り次第に読み漁る濫読家(らんどくか)という設定なので、娯楽小説を読んでもいい。

 格式が落ちるかも……と不安になるかもしれないが、通俗娯楽小説を読むことを恐れてはいけない。

 

 ってなわけで俺が読んでいるのは『短篇七芒星』というつい最近出たばっかの短編集だった。

 タイトルどおり七つの短編が収められていて、「奏雨」「狙撃」「落下」を読み終わり「雷撃」に差し掛かったところで、教室のドアが開かれた。

 

「……レイ」

 

 そこにいたのは――。

 

「やっぱり茉莉ね。いちばん早いのはあなただと思っていたわ」

 

 言いながら、俺は読み止しの本を閉じた。

 

 ぶっちゃけ誰がいちばん早いとかは予想していなかったが、これもサービスだ。というか、まさか本当に来てくれるとは思わなくて内心舞い上がっちゃっている。つい喜ばせてあげようと過剰におだててしまう。

 

 俺の言葉に高揚しているのか、茉莉の頬がほんのりと上気して、教室の入り口で立ち尽くしてしまった。

 

 ふっふっふ、こんな言葉ひとつでそう喜んでもらえると、こっちとしてもカリスマ冥利に尽きるってもんだぜ。

 

「こっちにおいで」

「え?」

 

 呆けている茉莉に、俺は声をかけた。

 

 茉莉は言われるままに前の席に座って、俺と対面する。

 

「思えば、こうして茉莉とふたりきりでいる時間は久しぶりね」

「うん……」

 

 茉莉は相槌のあとに何かを言いかけて、やめた。

 俺はあえて指摘しない。

 茉莉はどうも俺の前では利口であろうとしている節がある。腹の中に言いたいことがあっても「聞き分けが良い子」を演じるために黙ってしまうような。そういうところが本当に可愛くて、いじらしい。俺は急に嗜虐的な気持ちに襲われた。

 

「ほかの三人とはどう?」

 

 茉莉以外のメンバーの話をすると、予想どおり、露骨ではないものの表情に影が差した。

 

「べつに……。普通だけど」

「わたしがいないとき、みんなとはどんな話をするの?」

「何も。レイがいないと顔を合わせる意味もないから」

「どうして?」

「どうしてって……。だって……みんなレイに会いに来てるだけだし……」

「同じ空間にいて同じ目的を共有しているのに、お互いに興味がないのね」

「あの……」言いかけて、やはりやめる。「ううん、なんでもない」

 

 すんでのところで飲み込んだようだが、これ以上は不満が爆発してしまうかもしれない。

 このへんが潮時か……。

 そう判断した俺は一転、茉莉をおだてる方向にシフトする。

 

「ねえ、わたし、あなたのことを買っているのよ」

「え」

「あなたは――とっても賢い」

「そ、そうかな……」

「茉莉はいつも、一歩引いたところからわたしたちを観察してるよね。傍観者として自分を殺して」

「レイが集団のなかで俯瞰しろって……」

 

 俺は「ふ」と笑う。

 

「わたしが言ったことを憶えていたのね」

 

 俺は完璧に忘れていたが。

 

「うん……」

「いつか、わたしのことを真に理解してくれる人が現れたとしたら……それはたぶん、あなた」

 

 どうだ!

 このキラーフレーズは!?

 

 とっておきの殺し文句に、茉莉は俯いて応えた。髪の毛から出ている耳の先がほんのり赤い。

 ふふっ、噛み締めてる噛み締めてる。

 でも、まだ手を引いてはやらない。

 

 まだ浸っているであろう茉莉に、俺は旺盛なサービス精神で言葉を投げ続けた。

 

 

 

 ・・・・

 

 

 

 レイに関していまだによく分かっていないことがある。

 

 それは、あたしを含めた四人の少女を(ひと)(ところ)に集めた目的だ。

 

 単に啓蒙(けいもう)が目的だったのだろうか?

 レイは、宗教をつくろうとしていたのだろうか?

 

 それはたぶん、違う。

 

 夏休みの初日、レイにこんなことを言われた。

 

「いつか、わたしのことを真に理解してくれる人が現れたとしたら……それはたぶん、あなた」

 

 いまにして思えば、それこそがレイの目的だったのではないだろうか?

 

 つまり――自分の理解者を見つけること。いや、理解者をつくること、と言ったほうがいいだろうか。

 とにかくそれがレイの目的だった。

 でもそれは、自分に共感してくれる他者を求めてのこと、とかではなくて。レイは孤独に耐えかねたり、ましてや他人に飢えたりするような人間ではない。

 

 ではどうしてレイは自分の理解者を求めるのか……それは分からない。

 

 そう、けっきょくのところ、わたしはレイの理解者にはなり得なかった。

 わたしはレイの期待に応えることができなかった。

 それが悔しくてたまらない。

 

 あの日のわたしは、たぶん人生でもっとも幸せだった。

 レイの言葉に浮かれ、その言葉に隠された目的、願いを読み取ることができなかった。

 

 もういちどチャンスがあれば――。

 きっと、こんどは上手く。

 

 いや。たぶん、同じか。




投稿頻度を上げるためにも今後は一話につきこれくらいのボリュームが普通になるかもです…。
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