【旧】思想強めのカリスマ美少女になって、死後周囲を狂わせたい!   作:k-san

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休日の恋愛相談

 

 夏休み初日は茉莉とふたりきりの旧校舎を堪能したが、その後はほかの三人もレイと会えない一か月に嫌気がさしたようで、ぽつぽつと人数が増えていきけっきょく全員がそろった。

 自分で始めたことだが、俺としては毎日欠かさずこの青空教室を主宰するのはだいぶしんどいので、普段と同じく週末は休日として過ごしている。

 

 というわけで、夏休みに入って二度目の土曜日。

 今日は青空教室は休みだが、それとはべつに約束が入っていた。

 

 

愛好恋慕

 

土曜日に行ってもいい?

  

リリーのお家

 

既読
いいよ~

 

既読
私んち分からんよね どこで待ち合わせる?

 

大丈夫、自分で行けるから

 

既読
ちょっと待て どうして分かる?

 

既読
おーい

 

 

 

 

 とまあそういうわけで、恋慕が家にやってくる。

 

 もちろん事前に親の許可は取っている。

 

「ママぁ。明日家に友達来るけどいいよねー?」

「本当! リリーが友達を呼ぶのって初めてじゃない? ちゃんと部屋の片づけしなさいね」

「あいあいさー」

 

 ばっちりだぜ。

 

 

 当日、俺は髪を後ろに結んで自分の家なのに帽子を被って野暮ったい伊達メガネをかけてという"清水リリーモード"でスタンバイ。

 

 恋慕は十三時過ぎにやってきた。

 インターホンが鳴り、母が出ていこうとするのを制してダッシュで玄関へ向かう。

 ドアを開けると、恋慕が立っていた。いつも通りの制服姿ではなく、フリル付きのキャミソールにショートのデニムパンツという格好である。タイツを履いているので生足は出ていない。肩焼けねーのかな。

 

「あ、リリー。こんにちは」

「よっす。ほら、上がって」

「お邪魔します……」

 

 中へ入れると、恋慕は物珍し気にキョロキョロと周囲を(うかが)った。分かるぞ。他人の家に来てるって、それだけでなんか不思議だよな。まあ俺は友達の家に行った経験など一切ないがな!!

 俺は親とすれ違う前に早足で恋慕を部屋に案内した。

 

「ちょっと散らかってるかもだけど……」

 

 というのはもちろん社交辞令で、整頓は済ませている。そこは自信満々だ。

 入りざま、恋慕は部屋の空気を大きく吸った。

 

「ここがリリーの部屋……」

「鼻を鳴らすな」

 

 もしかして臭うのかな……。

 

「本がいっぱいだね」

 

 恋慕の視線は部屋の壁一面を覆う大型の本棚に注がれていた。

 俺の両親は漫画以外の本なら欲しがればその分だけ与えるタイプだった。といってもしょせんは中学生の蔵書なので、せいぜい三~四百冊ていどしか本はない。

 

「あれ、これ……」

 

 恋慕は本棚の前まで歩き、なかから一冊抜き取った。

 

「どした?」

「レイが読んでたやつだ……」

「ぶはっ!?」

 

 ないお茶を噴いた。

 

「……大丈夫?」

「あ、ああ、うん……」

「これ借りてもいい?」

「え、いいけど。読むの?」

「レイと話を合わせられるかも」

 

 好きな人の趣味を勉強する姿勢はまさしく恋する乙女のそれだが、たぶん成功はしないだろうな……。

 俺は恋慕から『なめらかな社会とその敵』を取り上げて机のうえに置いた。

 

「ここ置いとくから、帰り忘れんなよ」

 

 ついでに椅子を引いて恋慕に勧める。俺はベッドに腰かける。うん、これが正しいだろう。他人を家に招き入れるのは初めてだし他人の家には行ったこともないが、それでも他人んちのベッドのうえなんて遠慮するだろうというのは想像できる。

 

 恋慕は俺の隣に腰かけた。

 

 ホワイ?

 

「あの、椅子……」

 

 戸惑っていると、

 

「ぎゅ」

 

 恋慕が抱きついた。

 

「おわああああ!? ちょっ――離れろお!」

「リリー……ひんやりしてて気持ちいい……」

 

 そう言う恋慕は体温が高くてまるで赤ん坊だ。俺に接するすべてが柔らかく心地いい。

 だがそう長々と安らかな地に安住してはならない。ここは自宅で、しかもふたりきりではないのだ。

 

「頼むから放してくれ! こんなところ親に見られたら――」

 

「リリい。飲み物持ってきた…………けど……」

 

 狙いすましたようなタイミングで母が入ってきた。盆におやつとコップふたつを載せていて、コップにはカルピスが注がれている。わあい。俺、カルピス好きー。

 

 …………。

 

 きゃあああああああ!!!

 

「ばっ、ババアノックしやがれ!!」

「取り込み中ごめんねえ」

「取り込んでねえからな、何も!」

「はいはーい分かってますよー」

「分かってねえだろ!」

「リリー。お母さんに向かってババアって言っちゃだめ……」

「お前は放せよぉ!」

「リリー。パートナーにお前って言っちゃだめよ」

「違うからあ!」

 

 恋慕を力づくで引き離し、椅子に座る。

 母は俺の机にオレオとカルピスを置いて出て行った。

 

 いまの一瞬ですげー疲れた……。

 どんくらい疲れたかって言うと、一生無縁と思っていた反抗期が突然やって来るほど。

 ババアノックしろってこういうときに言うんだな。

 

「リリー。ジュース飲みたい」

 

 分かっていたが、恋慕の神経はそうとう太いようだ。

 先ほどのやりとりを何ひとつ気にしてはいないらしい。

 

「ああ、ほら」

 

 コップを恋慕に渡す。ついでに皿も差し出す。

 恋慕はオレオを小さくかじると、ぽつりとつぶやいた。

 

「私、母娘丼も好き……」

「俺も好きだよ」

 

 なか卯行きたくなってきたな……。

 

「リリーも? なんか意外」

「そうか? 老若男女問わずみんな好きなモンだろ。嫌いな人間探すほうが難しそうだぜ」

「そ、そうなんだ……」

「次会うときにどっか店行くか?」

「え。お店のは単にそういう設定というか……嘘にならない……?」

「手厳しいな」

 

 嘘ってほどでもないと思うが。

 

「じゃあ、こないだテレビで観たとことかはどうだ」

「て、テレビ!? 地上波!?」

「ゴールデンタイムだぜ」

 

 俺は胸を張る。

 

 地上波かつゴールデンタイムの番組で紹介されていた店が近くにあるのだ。つまり、味はテレビのお墨付き。

 恋慕はどうも親子丼に対して強いこだわりがあるようだが、そこならきっと満足してくれるだろう。

 

 恋慕は誘いに乗ってくれて、今度一緒に親子丼を食べに行くことになった。

 

 こうして会っているときに次の約束を取りつける感じ、ちゃんと"友達"してるみたいでいいな……。

 

 それからは俺と恋慕でYouTubeを観たり、SNSか何かに上げるとかで動画を撮られたり(猫の手をつくって猫なで声で猫語を喋れと無茶を言うので拒んだがあっちの押しが強くて結局撮られた)で時間をつぶした。

 おい! SNSは可処分時間を泥棒する悪しきメディアだって、レイのときに言ったはずだが?

 意外と聞き分けのないやつだ。まあ恋慕の場合、レイを尊敬しているというよりは恋愛対象としてしか見てないから、言うこと全部受け入れるみたいな姿勢じゃないのだろう。

 こんど旧三年二組の教室であったとき、お灸をすえなくちゃな。

 まあ俺はTwitterとかめっちゃ見るけど……。

 

 そのレイのことで、恋慕は相談を持ち掛けてきた。

 

「レイのこと好きな人は私だけじゃなくて、ほかに三人いるんだけど」

「うん」

「たぶん、レイは私よりもそのうちのひとりを気に入ってるんじゃないかって思う」

「へえ。なんでそう思うんだ?」

「いつも落ち着いていて、レイのこと、たぶんいちばんに理解してるから。なにか通じ合っているみたい」

 

 たぶん茉莉のことだろう。

 

「レイってのは、みんなに平等に接してるんだろ? ひとりだけ特別扱いしないんじゃないか?」

「夏休みもレイと会ってるけど、一日だけその子とレイがふたりっきりになった日があるみたい。そもそも、レイといちばん最初に知り合ったのもその子だし……」

 

 この子は強引に見えて意外と繊細というかネガティブというか……。

 とりあえず俺は「まあでも恋慕ならなんとかなるよ」とか「もっと自信もっていいんじゃないの?」とか当たり障りのない慰めを口にした。

 その裏で、ちょっと茉莉のことを特別扱いしすぎたかなーと反省する。そういう態度って表に出さなくてもなんだかんだで匂い立ってくるものだし、そうやって発生する順位みたいなのが集団をぶち壊す。

 

 気を付けよう。カリスマをもう少し続けていたいのなら。

 

 

 

 恋慕は十七時に家を出た。

 

「今日は楽しかった。またこんどね」

「おう。わたしも楽しかったよ」

 

 俺は恋慕を玄関先まで見送った。

 

「気をつけろよー」

「うん」

 

 恋慕は俺に手を振って帰路についた。その背中に俺も手を振り返した。




あと一話まったり夏休み回が続きます。
その次から話を進めて行きたいと思います。
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