【書籍版二巻発売中】迷宮狂走曲~RPG要素があるエロゲのRPG部分にドはまりしてエロそっちのけでハクスラするタイプの転生者~   作:宮迫宗一郎

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13.「言語翻訳機能」は転生者のチート能力

《表》

 

あれから数週間が経過した。

 

ノーム畑についてだが、今のところノーム発生を止める方法が分からない。ルカが知っているかと思ったが、首を横に振っていた。まあ奉仕種族に弱点を教えるほど浅慮でもないか。といっても畑に意思があるのかどうかは知らないが……。

 

除草剤的なノリで毒でも撒いてみようかと思ったが、どんな影響があるか分からないし、新種のモンスターが湧いたりしたら面倒なので、やめておいた方がよさそうだ。

 

とりあえず毎日様子を見に行ってノーム(カブ)の首をはねている。最近は生えてくるノーム(カブ)の数が減ってきたので、近いうちに畑の養分が枯渇するだろう。

 

「や、どうもハルベルトの旦那」

 

「あれ、あなたは……」

 

そんな感じで毎日を過ごしていたのだが、ある日、俺が滞在している宿屋を金髪の青年が訪ねてきた。

 

「もしかして、先日の生存者の方ですか?」

 

「おっと、こいつは失礼。そういや名乗ってませんでしたね。俺は『アーロン』。ケチな【狩人】ですぜ」

 

やっぱりそうか。まあ俺には知り合いが全然いないので他に心当たりはないんだけどな。ふむ、お見舞いに行った時はミイラ状態だった*1から分からなかったが、本来は長身痩躯のイケメンだったようだ。

 

“「見た目がノーム」のボクは引っ込んでた方がよさそうだね”

 

胸ポケットから顔を出していたルカが頭を引っ込めた。まさか、人間とは相容れないはずのモンスターが気遣いまでできるようになるとはな。それともルカが特別なんだろうか?*2

 

「いやぁ、お陰さまで無事に退院と相成りましてね。だから改めてご挨拶とお礼を、と思いまして」

 

「ああ、それはご丁寧にどうも」

 

糸目ということもあってか、なんだか飄々としていて掴み所がない印象を受ける人だな。お見舞いに行った時はやたらと畏まった喋り方だったけど、こっちが素だろうか?

 

とはいえ、こうして律儀に挨拶に来るあたり真面目な性格のようだ。ノーム畑でのことは忘れているようだったので、辛い記憶を思い出さないよう1度だけ様子を見に行ったきり会わないようにしていたが、こうして話しているところを見る限りでは大丈夫そうかな?

 

「後遺症とかは大丈夫でしたか?」

 

「ええ、まあ。畑を見るとなぜかブルッちまうのと、右脇腹の皮膚の感覚がなくなったくらいのもんで、日常生活に支障はありませんぜ」

 

「えっ、それ大丈夫なんですか?」

 

「ええ、もちろん。冒険者という職業柄、畑を見ることはめったにないですし、実家も農家ではなく商家ですから。皮膚の感覚にしても、腕とかならまだしも脇腹ですからね。くすぐりに強くなってラッキー、くらいに思っときますよ」

 

アーロンさんはそこまで言ったあたりで急に無言になった。いったいなんだと思ってどうかしたのか尋ねようとすると、その前にアーロンさんがなにやら言いづらそうに口を開く。

 

「あー……それで、ですね。俺はこの恩義にどう報いればいいんですかね?」

 

「恩義と言われましても、べつに人として当たり前のことをしただけですし」

 

“主の中では人間ってのはそんなに慈愛に満ちた存在なの? ボクが見てきた人間なんて、他人をノームの群れに放り込んででも自分だけは助かるって奴らばかりだったよ?”

 

そりゃあゲームをプレイしててNPCが死にかけてるのを見ても「ただの背景だし」としか思わないが、ここは現実世界だ。死にかけてる人を見て「ダンジョン攻略が遅れる」だの「レベリングの方が大事」だの言うのは、元日本人の身としてはさすがにちょっとなあ……。

 

てか、「ダンジョン制覇」はともかく「最強」には時間制限がある訳でもないし。今のところ原作主人公の姿は影も形もないからダンジョン攻略を焦る必要はない。それでもレベリング効率を上げるのは、あくまでゲーム廃人としての本能というか……ぶっちゃけ「趣味」なんだよな。さすがに人命よりも趣味を優先するほど落ちぶれちゃいない。

 

【回復薬】だって、レベリングしてたらいつの間にか集まってるイメージしかない。追加の【回復薬】集めに関しても、ちょっと遠いコンビニを何回か往復したくらいの労力しか払ってないからな。スライムは【打ち落とし】を発動すれば勝手に死んでいくし、今の俺ならワンパンできるしな。

 

“弱い冒険者はスライムと戦うのだって命がけだし、かといって強い冒険者は今さらスライムなんて狩りに行かないんだけどね……”

 

「そういう訳ですので、お礼ならどうか病院の方々に。あなたの傷を治したのは医師の方々であって私ではないですからね」

 

俺もこの前知ったばかりだが、どうやらHPを回復する魔術と傷を治す魔術は別物らしいんだよな。まあHP0=人生終了であることは変わらないから俺にとってはどうでもいいが、医師の世話になったアーロンさんは話が別だ。

 

俺はアーロンさんのHPを回復しただけであって、傷の回復は全て医者のお陰なんだから、アーロンさんが感謝すべきは医者なんだよな。

 

「やー、まぁそう言っていただけるのはありがたいんですがね。この際ぶっちゃけますけど、それじゃあ俺の気が済まないんですよ。だからこのとーり! 俺を助けると思って!」

 

アーロンさんはパン! と掌を合わせると、「助けてもらっといてまた助けてくれ、なんて変な話ですけどね」と苦笑しながら言った。

 

うーん、まあ救急車呼んでくれた人に対する感謝みたいなもんか。ここまで言ってくれてるんだし、ちょっと手伝ってもらおうかな。

 

「えーっと、アーロンさんはパーティを組んでおられるんですか?」

 

「実はつい最近パーティを追放されたところでしてね……。恥ずかしながら、下層でやってくには俺では実力不足だったというか……」

 

聞けば、アーロンさんはもともと下層で活動する上位の冒険者パーティに所属していたらしいのだが、他のパーティメンバーと比べ実力が低いことを理由に追放されてしまったらしい。

 

だから仕方なくソロで中層に潜って金稼ぎをすることにしたようだが、その矢先にノームに襲われてしまい、あえなく病院送りになってしまったようだ。うーん、追放されて死にかけてもいきなり超強力なスキルに目覚めたりはせず、そのまま死んでいくあたりが【アへ声】らしいというかなんというか……。

 

「まっ、利害の一致で組んでただけですからそれ自体はいいんですけどね。問題は俺の実力で旦那の助けになれるかどうか……」

 

まあウチには【狩人】を極めたルカがいるから、【狩人】が2人いてもなあ。

 

“ボクとしては、ボクの代わりに毒ガス浴びたり爆発したりしてくれる人が加入してくれるのは大歓迎なんだけど?”

 

いや、待てよ? 実家は商家って言ってたな。商人か……よし。

 

「じゃあまずはレベリングですね!」

 

「…………うん???」

 

“ようこそこちら側へ”

 

俺は、思い付いたことを実行すべく、さっそくダンジョンへ行く準備を始めたのだった。

 

 

──────────────────────

 

 

《裏》

 

アーロンが退院してから真っ先にしたこと……それは【狂人】に礼を言いに行くことと、それと並行して【狂人】の本心を探ることだった。

 

そこそこ裕福な商家に生まれたアーロンは、幼い頃から人間の汚い部分を見てきた。それに嫌気が差して実家を飛び出してはみたものの、結局どこへ行っても人間は自分のことしか考えない生き物だった。

 

それは冒険者でも変わらない。口では「勇者の遺志を継ぐ」などと聞こえのいいことを言っている奴でも、いざ自分に危険が迫るとあっさり他人を犠牲にする。だからアーロンは基本的に他人というものを信用していない。

 

事実、冒険者になったアーロンの背中を追い、同じ様に冒険者になった妹は、そういう輩に殺されかけたのだから。

 

「(……ま、『一緒に世界を救おう』とかほざいてアイツ()を誑かした挙げ句、結局は自分が助かるためにアイツに【匂い袋】をブチ撒けて囮にしやがった『勇者様』には、たっぷり()()()()()()()けどな)」

 

その1件が原因で、アーロンはパーティを追放になった。いや、実力不足を理由に追放されたというのは嘘ではない。追放理由の半分はそれだったからだ。ただし元から戦闘以外の能力を買われてパーティに入ったので、今まで追放されていなかったのだ。

 

彼は基本的に嘘は言わない。ただ、()()()()()()()()()()()()なのだ。

 

「(もちろん、人間がそんな奴らばかりではないということは分かっているんだけどな……)」

 

かつては妹がまさにそうだった。今でこそ冒険者を辞めて実家に帰ってしまったが、当初は彼女が本気で勇者を目指していたことを兄であるアーロンは知っている。だから自分は出会いに恵まれなかっただけなのだろうということは頭では理解していた。

 

だが、今さら他人を信じるには、アーロンの心は擦りきれすぎていた。ゆえに、アーロンは何を考えているのか分からない奴に借りを作ったままである現状を打破するために、内心ではかなりビビりながらも【狂人】のもとを訪ねたのだ。

 

「(まさかこの俺が、相手が何を考えているのか全く分からないなんてな……)」

 

アーロンは今まで様々な人間を見てきたため、観察眼には自信があった。相手の視線、表情、声色、仕草、その他わずかな挙動も見逃さず、そこから「そいつが何を考えているのか」を読み取る。そういった技術をアーロンは高いレベルで有しているのだ。

 

「いやぁ、お陰さまで無事に退院と相成りましてね。だから改めてご挨拶とお礼を、と思いまして」

 

「ああ、それはご丁寧にどうも」

 

だが、そのアーロンの観察眼をもってしても、【狂人】が何を考えているのか全く分からないのである。視線、表情、声色、仕草……どれ1つ取っても、過去に相対した人間と微妙に違っていて完全一致するものが全くない。言葉は通じるのに、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を相手にしているかのようだ。

 

いや、たとえ異邦人であっても、アーロンの対人経験をもってすればある程度の推測は可能なはずである。だから、【狂人】から何の情報も読み取れないことには何か別の理由があるはずだ。

 

「恩義と言われましても、べつに人として当たり前のことをしただけですし」

 

「(これは……)」

 

すると、アーロンは【狂人】の考えを読み取ろうとした時に、何か強烈な違和感がそれを邪魔することに気づく。

 

アーロン自身、上手く説明できないのだが……例えるなら、そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()かのような――

 

「そういう訳ですので、お礼ならどうか病院の方々に」

 

「(……っと、いかんいかん。探りを入れるのに集中しすぎた。このままじゃ会話が終わっちまう)」

 

そこまで考えて、アーロンは思考を打ち切った。考察なら後でできる。ひとまずは【狂人】との会話が続くようにすることが先決だろう。

 

「(なんかアイツ()も【狂人】の世話になったっぽいし、これ以上借りを残したままでいるのはさすがにこえーんだよ……)」

 

しょせんは俺もクソ野郎(冒険者)の1人だ、と開き直って【狂人】が何も要求してこないうちにさっさと夜逃げして借りなどなかったことにするのが1番なのだが……すでにそれを実行してしまったのが身内にいるので、同じ事をするのは悪手だ。自分だけならともかく、いつの間にか妹まで一緒に奴隷落ちしていた、なんてことになるのはごめんである。

 

ならば次善策として、【狂人】が言葉の上は遠慮しているうちに簡単な用事を済ませてしまって、「借りは返した」という既成事実を作るのだ。また、それをギルド職員といった公平な立場の人間の前でアピールしておくことが望ましい。

 

「じゃあまずはクラスレベル上げですね!」

 

「……うん???」

 

 

 

 

 

「【シールドアサルト】! 【シールドアサルト】! 【シールドアサルト】! オラッ! もっと! 熟練度を! よこせ!」

 

“(    )”

 

「あががががが」

 

「「「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!!」」」

 

“なにこの地獄絵図???”

 

……もっとも、優れた観察眼を持っていようがそうでなかろうが、この世界の人間が【狂人】の思考回路を理解するのは恐らく不可能だろうが。

 

その結果、高笑いしながら【門番】をしばき倒す【狂人】、棒立ちのままサンドバッグになる【背信の騎士】、トラウマ映像がフラッシュバックして白目を剥くアーロン、アーロンが連れてきた(道連れにした)知人のチンピラ3人組、という惨状が生み出された。

 

「アーロンてめぇ! 何が『楽して稼げる手段がある』だよ! いや嘘ではなかったけども!」

 

「ダメだ、こいつ気絶してやがる! お前もよく分かってなかったのかよ!」

 

「ハ、ハルベルトの旦那ぁ……もう勘弁してやってくだせぇ……! さっきから【門番】がピクリとも動いてないぞ……!」

 

“ここからじゃ聞こえないと思うよ。というか、なんか君たち見覚えあるね???”

 

部屋の隅に固まって震える3人をよそに、今日も【狂人】の高笑いがダンジョンに響いたのだった……。

*1
頭頂部の怪我もそこそこ酷かった

*2
モンスターみたいに振る舞ったら首をはねるつもりでしょ?


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