【書籍版二巻発売中】迷宮狂走曲~RPG要素があるエロゲのRPG部分にドはまりしてエロそっちのけでハクスラするタイプの転生者~ 作:宮迫宗一郎
「せっかくなので地元の収穫祭に参加してからそちらに行きたいと思います。おいしいご飯が私を待ってるんです」
「はよ来い(※意訳)」
――兄妹の手紙でのやり取りより抜粋
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《表》
「『【王国】の落日、モンスターの脅威』……か」
“今朝の新聞の話? ボクは人間の文字が読めないからよく分からなかったけど、なにか面白い話でも書いてあったの?”
ある日の朝、新聞を読んでいた俺は、「とある国がモンスターによって滅びた」という一面記事によって【アへ声】のストーリー開始がいつなのかを知った。この世界に来てからあと数ヶ月で1年が経つ、といった段になってようやくだ。
結論から言うと、今は原作開始の2年前くらいだ。【アへ声】で【王国】が滅びたのがだいたいそのくらいの頃だったからな。
この【王国】というのは、【アへ声】ではあまり詳しく語られなかった存在だ。俺が覚えていることといえば、「メインヒロインの1人が亡国の王女で、モンスターのせいで国が滅びてからの2年間で紆余曲折を経て奴隷に落とされてしまい、事情があって売れ残っていたところを主人公に買われた」ということくらいだな。
【アへ声】だと【王国】そのものはすでに滅んでいるということもあってストーリーにはあまり絡んでこなかった。どちらかというとヒロインが主人公と共にダンジョンへ潜ることの動機付けと、あとヒロインの
一方、この世界においては、「勇者がダンジョンに施した封印の綻びが大きくなっている」「いよいよ世界の終わりが近づいている」といった感じでかなりの大事件として騒がれているな。ギルドへ行く途中で聞こえてきた会話もそういった内容のものばかりだった。
ダンジョンはギルドの地下にあるのにどうして別の国に繋がったのか? と思うかもしれないが、実を言うとギルドの地下にある扉は「ワープゲート」みたいなもので、ダンジョン自体はギルドの地下ではなくどこか別の空間に存在しているらしい。
あくまでギルドの地下にある扉はダンジョンのメインゲートであり、遥か昔はダンジョンの至るところに他のゲートがたくさんあったものの、勇者が封印によってそれら全てを閉じたようだ。
で、勇者の封印が綻んだことによって完全に開いてしまったメインゲート以外にも、数時間だけ開いてしまったゲートがあるようで、そこからモンスターが溢れ出て【王国】を滅ぼしてしまった……というのが事の真相という訳だ。原作でもチラッとそんな設定が語られていた記憶がある。
「つっても、俺たちにはあんまり関係ないんだけどな」
“つまりダンジョンについての記事じゃなかったんだね”
前世で「【王国】はどの階層と繋がってしまったのか」という考察がなされてたんだが、ヒロインの回想シーンで表示されたスチルに描かれていたモンスターを根拠に「下層のさらに奥、深層と繋がってしまったのではないか?」という説が有力だったからな。
【アへ声】だと深層は終盤も終盤のステージだし、この世界では前人未到の領域だ。さすがに俺でも現状で深層到達は無理だ。仮に到達できたとしても、どうすれば【王国】滅亡を阻止できたのか分からん。
さすがに深層のモンスターを皆殺しにすれば阻止できたんだろうが、そのためにはダンジョン攻略
この世界のどこかにいるであろうヒロインは、きっと2年後にやってくる主人公に助けてもらえるはずだ。彼女には悪いが、俺は俺でやりたいことがあるので、そちらに専念させてもらうとしよう。
「さあて、今日からダンジョン攻略再開だぜ!」
“『レムス』の御披露目だね! レベル上げは終わってるんでしょ? 楽しみだなぁ!”
今日から新しくパーティに加入した新型ゴーレム、「レムス」を実戦投入する。ちなみに、名前については最初は頭に「ゴ」がついていたのだが、さすがに自重した。「ゴーレムの名前」って言われると某国民的RPGのイメージが強すぎてな……。
さて、レムスのクラスについてだが、いったん【踊り子】を経由して【ダンスマカブル】を覚えさせつつ、メイン【闘士】・サブ【剣士】として運用することにした。
以前にも語ったと思うが、【闘士】は素手での戦闘に特化したクラスだ。最大の特徴はパッシブスキル【格闘連撃】で、レベルが上がれば上がるほど素手による攻撃のヒット数が増加する。
【闘士】を極めることでヒット数はさらに増加し、最終的に他のクラスが【二刀流】込みで最大6ヒットいくかどうかといったレベルなのに対し、【闘士】は15ヒットという全クラストップの攻撃回数を誇る。
さらに【剣士】を極めると【二刀流】の効果が「片手武器を2つ装備可能になる」から「全ての武器を2つ装備可能になる」という効果に進化するのだが、これが素手にも適用されるため、サブを【剣士】にした時の【闘士】は最大30ヒットとかいう圧倒的な攻撃回数を叩き出す。
とはいえ、しょせんは素手であり、武器による火力上昇がないため1発1発の威力が低く、敵のDEFの影響を大きく受けてしまう。硬い敵が相手だとダメージ1×30とかいう悲惨な結果になりやすい。火力だけ見るならば他のクラスに大きく劣っている。
だが、【闘士】の真骨頂は火力ではない。【闘士】が本領を発揮するのは、状態異常を付与するスキルと組み合わせた時だ。
仮に敵が状態異常に耐性を持っていて、状態異常を付与できる確率が5%しかなかったとしよう。しかしそれを30回繰り返せば確率は80%近くまで跳ね上がる。つまり【闘士】が状態異常攻撃を行えば、本来なら状態異常に強いはずの敵に対しても強引に状態異常を付与してしまえる訳だ。
それは即死攻撃にも同じことが言える。【ダンスマカブル】による即死の基本発動率は15%。今のレムスのレベルだと攻撃のヒット数は15回といったところだが、それでも即死成功率は90%を超える。しかも【ダンスマカブル】はパッシブスキルなので他のアクティブスキルと組み合わせて使えるのだ!
「今だ! 殺れ!」
“【参の剣】だぁ!!!”
その結果がコレである!
レムスの腕が残像を生むほどに高速で動き始めて千手観音みたいになったかと思った瞬間、ドンッ! と大きな音を立ててモンスターどもの懐まで踏み込んでいく。
かと思えば次の瞬間にはすでに俺たちの目の前まで戻ってきており、胸の前で合掌するかのようなポーズで残心。
直後、モンスターどもの全身が四方八方から袋叩きにされたかのようにドドドドドッ! と音を立てて凹み、最後にポーンと首が宙を舞う。あれほどたくさんいたモンスターどもがたった数秒のうちにダンジョンへと溶けて消えていった。
「よっしゃあ! いいぞ! 成功だ!」
“おぉ……! ブラボー……! おぉぉぉぉぉ! ブラーボォーーーウッ! (中略)パーフェクトだよ主ィ!”
思わずルカとハイタッチ。ちょっと体格差ありすぎてバレーボールを打ち上げたみたいになってしまったが、ルカは気にせず空中でバンザイしていた。
「つっても、下層からは即死無効持ちがちらほら出てくるから、そのへんは臨機応変にやっていかないとな」
“でも、それまではボクらのレムスが最強最高のゴーレムってことだよね!!!”
ついでに言うと【修道僧】というクラスのパッシブスキルにも【即死無効】があるため、たぶん上位の冒険者ならまあ取得しているだろうから即死は効かないと思っていいだろう。俺もすでに習得しているしな。つっても、人間相手に即死攻撃を仕掛けなきゃいけないような事態に陥ることなんてまずないだろうけども。
“圧倒的だなあ、ボクらのレムスは!”
ぽんぽんモンスターどもの首を飛ばしていくレムスを尻目にマップを埋める作業をしつつ、俺たちのダンジョン攻略は続いていく。
たまにレムスが討ち漏らした敵が出てきた時は俺の【シールドアサルト】やルカの弓で瞬殺していくと、やがて俺たちは20階層へとたどり着いた。
「ん? ここには確か【
【アへ声】だと20階層は何もないただの開けた場所であり、真ん中に鋼鉄製のゴーレムが鎮座してるっていう、実質的なボス部屋として機能してた階層だったはずだけど。
“んー、相変わらず謎の情報網を持ってるみたいだけど、それも万能ではないのかな? あいつなら冒険者に一刀両断されちゃったよ”
「
ルカが首をちょんぎるジェスチャーをしたので、どうやらここのボスはすでに他の冒険者に倒されてしまった後らしい。そりゃあそうか。下層に到達した冒険者が存在してるってことは、その人たちがここを突破したってことだしな。
まあ【アイアンゴーレム】は中ボスといえど【門番】ではないから、ゲームと違って1度倒されたらそれっきりか。
“いや、ここに【アイアンゴーレム】を配置しとけば畑の肥やしを探す手間が省けるってことで、修理して再配備する計画自体はあったんだけどね”
ん? えーっと、ルカが自分と俺を交互に指差して、続いて【魔術拡張鞄】から【火炎ビン】を取り出して……。
「あー、【アイアンゴーレム】を修理する
コクンと頷くルカ。なるほど、そういうことか。ノームは俺たちが絶滅させてしまったもんな。だから本来ならそのうち復活してたであろう【アイアンゴーレム】は、もう2度と復活しないのか。
「ルカが【アイアンゴーレム】を修理することは――できるけど嫌なのか?」
首肯してから腕で「✕」印をつくり、続いてレムスを指差しながらマッスルポーズを取るルカ。なんとなく言わんとしていることは分かる。確かに、すでに【アイアンゴーレム】より強いレムスがいるんだから、今さら修理する必要なんてないよな。
“当時はノームが総力を挙げて創造したゴーレムということで自信作だと思ってたんだけどやっぱり『巨大ゴーレム』というのは当時のノームには早すぎた概念で(中略)結局ボクらのレムスが1番だよ!”
「じゃあ今日は21階層を偵察して帰るとするか」
鬱蒼とした樹海の奥地は、色とりどりの花が咲き乱れる花園だった。木々の間から漏れる光、小鳥たちの囀り、遠くの方に見える空色の湖など、前世でもここまで美しい場所はそうそうないだろうといった幻想的な光景が広がっている。
そして、花園の中には一際きれいで大きな花が点在していた。そこには美しい蝶がキラキラと光を反射しながら舞っており、その鮮やかな色のコントラストがより花の美しさを際立てている。
「オラッ死ね!」
“くたばれ羽虫の手先が!!!”
“ギャアアアアア!?!?!?”
もちろん罠である。
この花は【食人植物】という歴としたモンスターで、ただの背景だと思って通過しようとしたプレイヤーに拘束攻撃の厄介さを教えてくれるとてもありがたいモンスターだ。
こいつの上を不用意に通過しようとすると、不意討ちを食らってパーティメンバーの誰かがランダムで【拘束状態】になったまま戦闘が始まってしまう。もちろん放っておくとどんどん装備品を剥かれていってズドン!(意味深)だ。
しかもこれは浮遊状態でも防げない。ただし、パーティに【狩人】がいればあらかじめ対処することが可能で、逆にこちらが先手を取ることもできる。
……なのだが、2周目以降をプレイ中で
“どうせここのマップも埋めるんでしょ? うぇー……面倒だなぁ。いっそ花園ごと燃やしちゃわない? ここはフェアリーどもの温床だよ?”
「気持ちは分かるが、さすがに燃やすのはダメだぞ」
【火炎ビン】をチラチラ見せてくるルカに思わず苦笑が漏れる。そういえばここはフェアリー系のモンスターが出現する場所だったな。ルカはフェアリーが嫌いみたいなんだが、どうやら花園ごと燃やしたくなるほど大嫌いだったらしい。
その気持ちは分からんでもない。【アへ声】のフェアリー系モンスターってどいつもこいつもクソ野郎だしなあ。「この花園が美しさを保っていられる理由の全てが胸糞悪い」「フェアリーの
「燃やすのはフェアリーから得られるもの全て毟り取ってからだ」
“さっすが主! 話が分かるぅ!”
そういう訳で、俺はさっさとダンジョン中層を