【書籍版二巻発売中】迷宮狂走曲~RPG要素があるエロゲのRPG部分にドはまりしてエロそっちのけでハクスラするタイプの転生者~   作:宮迫宗一郎

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2.「火力特化」は狂人の発想

《表》

 

とうとうレベル10になった俺は、嬉しさのあまり脳内で【アヘ声】のOPテーマを流しながら、冒険者ギルド内のとある場所へと向かっていた。

 

俺の目的……それはRPGのお約束である「『クラス』の取得」だ。

 

クラスとは、主に「ステータスの上昇傾向」や「習得可能な技能」といったものを決定するシステムだ。他のゲームで言えばジョブとか職業とかそういうのだな。

 

レベル10になった冒険者はクラスチェンジする権利を獲得し、【戦士】や【魔術士】といったクラスを取得する。以降は本人のレベルと平行して「クラスレベル」も上げていくことで、得意な能力を伸ばしていくこととなる。

 

そこからさらにクラスチェンジしたり、第2のクラスを設定して2つ分のクラスの恩恵を受ける「サブクラス」なんてシステムも存在するが……まあそれにはメリットばかりではなくデメリットもあるし、そもそもレベル10になったばかりの俺には関係のない話か。

 

そうしてウキウキ気分でクラスチェンジのための窓口へと向かっていた俺だが、ふと思い付いたことがあったので、その前に寄り道をすることにした。

 

寄った先は【パーティメンバー募集掲示板】だ。クラスチェンジも解禁されたことだし、本格的にダンジョンの攻略に取り掛かろうと思っていた俺は、そろそろ1人くらいはパーティを組んでみようと考えていたのだ。

 

そこで、まずは「現在パーティ参加希望の人間がどんなクラスに就いているか」を見てから自分のクラスを決めようと思い立った。

 

もしも【募集掲示板】に掲載されている冒険者が「遠距離から攻撃することに特化したクラス」しかいなかったとして、それを知らずに俺も同じようなクラスに就いてしまったらどうなるか。こういうのに詳しくない人でも、なんとなく「戦力のバランスが悪そうだな」と想像がつくと思う。

 

ということで、俺は先にどんな冒険者がいるか確認してから自分のクラスを決めようと思い、【募集掲示板】の前までやってきた訳だ。

 

ちなみに、【アヘ声】はエロゲなので、ゲームでは当然の如くパーティメンバーの増員=奴隷の購入だった。なのでこの世界に【募集掲示板】なんてものが存在していることを知った時は驚いたものだ。でもまあよく考えたら「パーティメンバー自分以外全員奴隷」とかゲームでもなければ実現不可能だろうし、そりゃこの世界では普通に他の冒険者とパーティ組むわなって話なのだが。

 

そんなことを考えつつ、さて現在募集中の冒険者にはどんな人がいるだろうかと【募集掲示板】を覗いた俺だっだが――

 

 

 

名前:アラン(レベル13)

メインクラス:【戦士】(クラスレベル1)

サブクラス:【騎士】(クラスレベル1)

 

名前:メイト(レベル10)

メインクラス:【魔術士】(クラスレベル1)

サブクラス:【騎士】(クラスレベル1)

 

名前:ゾーイ(レベル11)

メインクラス:【狩人】(クラスレベル1)

サブクラス:【騎士】(クラスレベル1)

 

 

 

……なんぞこれ??? 思わず目が点になったわ。

 

まず、どいつもこいつもレベルが低いうちからサブクラスを取得しているのがおかしい。サブクラスはもっと後で取得するものだ。

 

普段からRPGをプレイする人なら想像がつくと思うが、サブクラスを取得するとクラスレベルが上がる速度が半分になる。ただでさえパーティを組めば成長速度が遅くなるというのに、そこからサブクラスまで取得するとなると、強くなるのがアホみたいに遅くなるのは言うまでもない。

 

【アヘ声】においては、1つのクラスを集中的に鍛え、さっさとクラスレベルを上げて強力な能力を習得するのが定石だった。

 

獲得経験値が少ない序盤も序盤からサブクラスを取得してしまうと、いつまで経っても成長せずに弱いままだ。そんな有り様ではダンジョン攻略が進まない。サブクラスはさっさと攻略を進めて経験値効率がいい場所までたどり着いてから取得すべきなんだ。

 

そしてサブクラスの選択も意味不明だ。何でどいつもこいつも【騎士】を選んでやがるんだ???

 

名前から想像がつくと思うが、【騎士】は守りに優れた【クラス】だ。だから普通は【騎士】をやるならサブクラス(片手間)でやるのではなくメインクラス(本職)でやる。そうして守りに特化させて、味方を守る「壁役」として運用するのが一般的だった。

 

つまり、敵からの攻撃を一手に引き受けつつ、その攻撃を持ち前の防御力を以てして跳ね返す役割を担うのが【騎士】だ。敵の攻撃を受けるのは【騎士】に任せることで、他のメンバーは安心してそれぞれ攻撃役や回復役、補助役といった別の役割に専念できるようになる。

 

ようするに、【アヘ声】ではメンバーをそれぞれスペシャリストとして育成し、それぞれの得意分野を活かして協力しながら戦うのが1番強いという訳だ。

 

……いやまあ、最終的に俺はパーティメンバー全員のステータスをカンストさせ、かつ全クラスを極めさせて万能の冒険者集団にするつもりではあるんだけど、それはあくまで「最終的にそうする」というだけの話だからな。

 

最初から満遍なく育成したところで器用貧乏にしかならない。だから攻撃が得意な【戦士】や【魔術士】なら同じく攻撃が得意なサブクラスを取得して火力を底上げすべきだし、補助が得意な【狩人】には同様に補助が得意なサブクラスを取得すべきだ。

 

にもかかわらず、【募集掲示板】に書き込まれている情報を見れば、どいつもこいつもサブクラスに【騎士】を取得した器用貧乏ばかり。

 

しかも、よく見ると【騎士】をメインクラスにした冒険者が1人もいない。もしやと思って、すでにある程度の人数でパーティを組んでいる奴らのメンバー構成を見てみると、どいつもこいつも「中途半端に耐えて中途半端に攻撃する」奴らばかりだ。

 

マジでなんなんだこいつらは――って、いや、待てよ?

 

レベルが低いってことは、こいつらは冒険者になったばかりなんだろう。俺は前世の知識があるから色んなことを知ってるが、彼らにはそれがない。どんなクラスを取得すべきなのか、どんなパーティ構成にすべきなのか、まだまだ手探りでやってる途中のはずだ。

 

そんな彼らに対して俺が「物を知らない奴らだ」なんて言うのは筋違いだろう。そもそもの話、前世の記憶によって最初から正解を知っている俺がおかしいのであって、本来なら彼らのように手探りで強くなっていくのが当たり前なんだ。

 

俺は気づいたら転生してたから神様みたいなのには会っておらず、転生特典なんてものもない。だから忘れがちになるけど、前世の記憶だって十分チート(不正)であることを俺は忘れては駄目なんだ。

 

俺は自らをそう戒めると、【募集掲示板】から離れて本来の目的であるクラスチェンジを行うために窓口へと向かった。

 

さすがに俺が初心者のフリをして彼らの中に紛れるのは気が引ける。しばらくはソロを続けるか、戦力的にキツくなってきたら奴隷の購入も検討する必要があるかもしれない。元日本人として奴隷の購入には抵抗があるが、さすがに自分の身の安全と引き換えにはできないからな。

 

……それにしても、俺はこのまま知識を独占していてもいいのだろうか?

 

この世界はハードなエロゲの世界だ。当然ながら殉職率は高い――というか、あっさり死ぬことができればまだ幸運な方で、下手すれば無理やり生かされて死ぬまでモンスターの苗床エンドだ。他の冒険者たちのためにも、俺は前世の知識を広めるべきなのではないだろうか?

 

……うーん。つっても、世間的には俺だってギルドに加入して数ヶ月の新米なんだよなあ……。たぶん最強冒険者の育成論とかパーティ構成とか言っても信じてもらえないぞ。俺の知識を広めるには、今の俺には実績が足りてないんじゃないだろうか。

 

……よし。ひとまずはソロで最強を目指そう。そうすれば、そのうち俺の知識が正しいことが自ずと証明できるだろうし、もしかしたらいつか俺と同じように最強を目指す冒険者がパーティを組んでくれるかもしれない。

 

そうと決まれば早速クラスを取得してダンジョン攻略に取り掛かり、経験値効率がよい狩場まで行かなくては!

 

自問自答に決着が付いてスッキリした俺は、まだ見ぬ同志に思いを馳せながら、クラスチェンジのために受付へと向かうのだった。

 

 

──────────────────────

 

 

《裏》

 

「――では、ありがとうございました。またいずれお世話になるかと思いますが、その時はよろしくお願いいたします」

 

クラスチェンジを済ませて即座にダンジョンへと向かって行った男を見送ると、受付を担当した中年職員は「これでよかったのだろうか」と眉間に皺を寄せた。

 

中年職員も【黒き狂人】の噂は聞いてはいたものの、実際に見た男は中年職員にとって想像以上にぶっちぎりでイカれた奴だった。

 

 

名前:ハルベルト(レベル10)

メインクラス:【剣士】(クラスレベル1)

サブクラス:なし

 

 

「……ううーむ……」

 

すでに2度見どころか5度見くらいしているが、何度見ても手元の書類に記載された内容に変化はない。「マジでイカれてやがんなコイツ」というのが中年職員の素直な感想である。

 

なぜなら、【剣士】とは完全に防御を捨てた清々しいまでの火力特化クラスだからだ。

 

何度も言うが、この世界においては「HP0」=「尊厳破壊の後に死亡」である。なので、冒険者は防御を固めてなるべくHPが減らないように立ち回るのが普通なのだ。

 

そんな世界で「防御を捨てて攻撃に特化する」などというのは、やはり「イカれてんのか」と言われても仕方がない。

 

中年職員は、必要以上に冒険者へ肩入れするのは良くないと思いつつ――いやさすがにこれは「必要以上」どころの話ではないだろ、と瞬時に思い直し、当然ながらサブクラスに【騎士】を取得するよう勧めた。

 

何故この世界ではサブクラスに【騎士】を取得することが推奨されているのか。

 

順を追って説明すると、まずこの世界ではクラスによって装備できる武器・防具が違う。より正確に言うなら、クラスごとに使用許可が下りる武器・防具の種類が違うのだ。

 

例えば、【魔術士】は読んで字の如く「魔術」を使って戦うクラスであり、基本的にはモンスターと近距離で殴り合ったりはしない非力なクラスだ。そんな非力な奴にバカでかい武器を持たせたところで、味方を巻き込まないように振るえるか? という話である。

 

その規制をある程度緩和してくれるのがサブクラスである。ようするに、メインのクラスで重装備が禁止されていたとしても、サブクラスが重装備可能なクラスであれば、ある程度の重装備が許可されるという訳だ。

 

つまりはその重装備が可能なクラス、とりわけ「防具の扱いに優れたクラス」の筆頭が【騎士】であり、故にこの世界の人間はとりあえずサブクラスとして【騎士】を取得することで、可能な限り防御力の高い装備品を身に纏って自身の命と尊厳を守ろうとするのが普通なのだが――

 

「いえ、火力特化の【剣士】といえどダンジョン上層に生息するモンスターの攻撃程度なら5発は確定で耐えますし、厄介な状態異常(バッドステータス)攻撃をしてくる敵もいませんから」

 

男の返答がこれである。しかもこの男、内心では「サブクラスで装備可能になる装備品なんざ、性能が中途半端な産廃ばっかりだし……」みたいな、もっと失礼なことを考えていたりする。

 

「なにより、火力特化【剣士】なら上層のモンスター程度殺られる前に殺れますので」

 

挙げ句の果てにはそんなことを言い出す始末。

 

「何でそんなに出現するモンスターに詳しいんだよ」、とか。「つまり1発食らっただけでHPが2割近く消し飛ぶんじゃねーか」、とか。なんかもう言いたいことが多すぎて逆に何を言ったらいいのか分からなくなってしまった中年職員であったが――

 

「まあ効率のいい狩場までたどり着いたら(【剣士】を極めた後で)すぐにクラスチェンジするので!」

 

という男の言葉を受け、結局は「何があっても自己責任ですからね」と忠告するに留めたのだった。


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