【書籍版二巻発売中】迷宮狂走曲~RPG要素があるエロゲのRPG部分にドはまりしてエロそっちのけでハクスラするタイプの転生者~   作:宮迫宗一郎

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22.「推しキャラとリアルで話す」は転生者の悲願

《裏》

 

その冒険者パーティは、正義感に溢れた3人の少年少女たち――【戦士】の少年、【魔術士】の少年、【狩人】の少女で構成されていた。

 

ただ、【戦士】の少年は何を思ったのか現在はクラスチェンジして【騎士】の少年になっている。理由を聞いても彼は引きつった笑みで言葉を濁すだけだが、パーティメンバーの2人は薄々その理由を察していた。

 

おそらく、かつて彼が1週間ほど引きこもる原因となった「なにか」が影響しているのだろう。その「なにか」はしばらく悪夢として毎日夢に出てきたくらいには強烈な印象を少年に残していたらしかった。

 

そんな彼らであるが、【ダークフロア】で死にかけたところを奇妙なゴーレムに助けられた後、なんだかんだで順調に攻略を進めて中層にまで到達していた。

 

「ここが21階層……なのか?」

 

「うーん……ここには綺麗な花園があったらしいけど……見事に変わり果ててるわね……」

 

そこに広がっていたのは、幻想的で美しい花園などではなかった。

 

色とりどりの花は全て枯れ、小鳥たちの囀りではなく【キラービー】の羽音がどこからか聞こえてくる。遠くの方に見えていた空色の湖は泥で黒ずみ、水を塞き止めていたものがなくなったのか水嵩が減っている。今のところマップ(通行可能な場所)には大きな変化こそないものの、流れ出た水によって花園はちょっとした沼地へと変化しつつあった。

 

「……いや。『変化しつつある』という表現は正しくないな。『元に戻りつつある』というのが正解だろう」

 

「えっ、そうなのか?」

 

【魔術士】の少年の言葉に、【騎士】の少年が驚きの声をあげる。【魔術士】の少年が言うには、「かつて21~25階層は【キラービー】が飛び交う沼地であった」という記述が、ギルドに保管されている文献にはあるらしかった。

 

「ここの環境を無理やり作り変えていた【フェアリークイーン】がいなくなったことで、本来の環境に戻りつつあるのだろうな」

 

「湖が沼に変わるほどの毒を流してフェアリーを絶滅させたんじゃないか、とか。放火して花園ごと【クイーン】を焼き払ったんだろう、とか言われてるけど……」

 

「その程度でモンスターが絶滅するなら勇者も苦労しなかっただろうよ――と、言いたいところだが。そう言いたくなる気持ちは分かる」

 

そりゃあそうだろう。美しい花園が荒れ果てた沼地に早変わりしたら、普通は環境破壊や環境汚染によるものではないかと疑う。人間とは、それがどれほど人為的なものであろうと、美しい自然こそを「本来あるべき姿だ」と思いたがる生き物なのだ。

 

「……どうした、リーダー?」

 

「えっ、なにが?」

 

「僕には、お前が()()()()()()()()()ように見えたが」

 

「仕方ないわよ。リーダーってば【迷宮走者】のファンだもの。あの人が非人道的な手段で中層を【制覇】したんじゃないって分かって安心したんでしょ」

 

「……そんなんじゃ、ないさ」

 

【騎士】の少年は難しい顔をした。少年が【狂人】に対して抱えている感情は複雑なもので、単純な「憧れ」などでは決してなかった。実際、「【狂人】がモンスターを殲滅するために環境を破壊した」という噂を聞いても、「あの人なら必要となればそのくらいはするだろう」と疑いもしなかったのだから。

 

「まぁ、かの御仁は賛否両論だからな」

 

【魔術士】の少年が言うように、今の【狂人】は他の冒険者からは賛否両論だ。

 

【正道】の冒険者たちからは、「モンスターに対して容赦のない姿勢は評価できる。奴らなど滅ぼしてしまえばよいのだ」と肯定的な意見もあれば、「笑いながら虐殺を繰り返す危険人物だ」と否定的な意見もあり。

 

【中道】の冒険者たちからは、「放っておけば勝手に利益と安全をもたらしてくれる」と肯定的な意見もあれば、「必要だと思ったら何でもやりそうな人間はやっぱり恐ろしい」と否定的な意見もあり。

 

【外道】の冒険者たちからは、「いけ好かない【正道】の偽善者にできなかったことを【外道】の人間がやってのけ、奴らの鼻を明かした」と肯定的な意見もあれば、「何度も()()の邪魔をされて不愉快だ」と否定的な意見もある。

 

そのため、もともとの異名である【狂人】は蔑称として使われるようになり、本来は隠語として使われていたはずの【迷宮走者】の方が男の新しい異名として定着しつつあった。

 

「かの御仁には、『【英雄】殿』のように全ての冒険者の規範となれるような華々しさはないが……彼らですら為せなかった偉業を為し遂げたからな」

 

「かといって真似したいとは思わないし、真似できるとも思えないのよね」

 

ただ、【狂人】に対して肯定的な意見を持つ者も、否定的な意見を持つ者も、結局のところ「関わりたくない」という部分だけは意見が一致しているのだった。

 

「なんて言うのかな……上手く言えねーけど、俺たちが『目指すべき姿』は【英雄】の人たちなんだろうけど。俺たちが『為したかったこと』を為してるのは【迷宮走者】なんじゃないか、って思ってさ。いや、あの人のやり方はかなりアレだけど……」

 

事実として、【狂人】の行動によって結果的に助かった人間はかなりの数になる。上層でゴーレム軍団が助けた新米冒険者の人数に加え、本来であればフェアリーや【背信の騎士】の手によって死ぬはずだった人間の数を含めるのであれば、【英雄】と称される最上位の冒険者たちが今まで助けてきた人数を超えるかもしれなかった。

 

「……ふん。お前がそう決めたなら、僕に文句はない。だが、そんな大口を叩くには僕らでは力不足だということを忘れるなよ」

 

「ぐっ……わ、分かってるよ……」

 

「まぁまぁ、いいじゃない! 私たちは私たちらしく、私たちのペースでいきましょ?」

 

そんなことを話しながら少年たちは今日も今日とて修行(レベリング)を行い、その日の目標を達成してギルドへと帰還したのだが。

 

「……ん?」

 

「(うっ!? め、【迷宮走者】……!?)」

 

噂をすれば影がさす、とはよくいったもので、少年たちは【狂人】とバッタリ出くわしてしまった。しかも運が悪いことに、【狂人】とバッチリ目が合ってしまう。

 

少年たちは慌てて会釈してから目を逸らし、小走りで男の横を通りすぎようとして――

 

 

 

 

 

「…………先輩?」

 

「えっ?」

 

ぽつり、と。そんな【狂人】の呟きを聞き、思わず立ち止まってしまった。

 

「わ、私?」

 

「……君、名前は?」

 

「あ、アリシア……です、けど……」

 

【狂人】の視線を真正面から受け、【狩人】の少女が狼狽える。そのため、頭がうまく回らず名前を聞かれて反射的に名乗ってしまった。

 

「……そうか、君が……」

 

そして少女の名前を聞いた途端、なぜか【狂人】は嬉しそうに笑った。その真意は全く分からない。そのせいでどこか不気味さすら感じてしまい、少女は無意識のうちに後ずさった。

 

「――あ、いや、すまない。急に名前を聞いてしまって。君は……ええと、なんていうか……そう、()()()()()()()()()()

 

そんな少女の様子を見て、「しまった、これではただの不審者じゃないか」とでも思ったのか、【狂人】は何度も頭を下げて早足で去っていった。しかしその足取りはどこか軽やかで、見様によっては喜びを隠しきれていないようにも感じられる。

 

「な、なんだったんだ今の……?」

 

「ど、どうしよう……名前を覚えられちゃった……」

 

【騎士】の少年の声で我に返ったのか、【狩人】の少女が顔を真っ青にして震えだす。今の彼女の心境は、例えるなら「札付きの不良の先輩に目をつけられて名前と所属クラスを覚えられてしまった下級生」といったところだろうか。今後の冒険者ライフはお先真っ暗である。

 

「いや、案ずるな。おそらく、そう悪いことにはならんだろうよ」

 

そんな彼女に半ば確信めいた言葉をかけたのは、【魔術士】の少年だった。

 

「……どういうこと?」

 

「最初、かの御仁はお前のことを『先輩』と呼んだだろう? これはどう考えてもお前と誰かを見間違えた時の反応だ」

 

「まぁ確かにそんな感じだったような……」

 

「かの御仁は冒険者なのだから、『先輩』というのは『冒険者の先輩』と考えるのが自然だ。さらに、かの御仁は()()()()()()()()()()()()()()()ような反応だった。恐らく、その『先輩』からお前のことを聞いたことがあるのだろう」

 

「……えっと、それってつまり……?」

 

「『お前と容姿が瓜二つで』『冒険者で』『お前のことをよく知っている』。そんな人物に、僕たちは心当たりがあるはずだ」

 

【魔術士】の少年の推理に、2人はハッと息を呑んだ。そう、彼らにはそんな人物に本当に心当たりがあったのだ。

 

「……嘘だろ!? そんな、まさか……!?」

 

「あの人、死んだ()()()の知り合いなの……!?」

 

もちろん不正解である。

 

が、これに関して【魔術士】の少年は悪くない。全ては【狂人】が原因である。この男、急に【アヘ声】の推しキャラである【先輩(過去のすがた)】に出会ったことで挙動不審になったのだ。

 

しかもこの男、周回プレイ前提の討伐難易度である【フェアリークイーン】をなんとか1周目で倒して【先輩】を救おうと躍起になって【アヘ声】をプレイしていたクチであり、そのせいで何度も【先輩】の死亡シーンを見ている。

 

そういう事情もあって、【先輩】が仲間と一緒に元気にやっているとかいう多くの【アヘ声】プレイヤーたちが夢見た光景を目の当たりにした瞬間、思わず色んな感情が噴出して不審者ムーブをかましてしまったのだ。

 

つまり【狂人】の言う【先輩】とは、【狩人】の少女そのものを指す言葉なのだが……何の因果か、「少女の姉(故人)」とかいう()()()()()()()が本当に存在してしまっていたのだから、始末に負えない。

 

「覚えているか? 子供の頃、アリシアが流行り病に罹ってしまったことがあっただろう」

 

「あぁ、あったなそんなの。たしか、薬がすっげぇ高額で、『薬を買うと家族の負担になるから』なんて言い出して、俺たちに『病気になったこと家族に言わないで』とかって口止めしたあげく体調を悪化させたんだったよな」

 

「ちょっ、なによいきなり!?」

 

「いいから黙って聞け。その時に何と言われて怒られたか覚えているか?」

 

「……覚えてるわよ。『お金を惜しむな、命を惜しめ』って――」

 

*アイテムの購入費をケチってはいけません*

*お金を惜しむな、命を惜しめ、です*

*また、冒険に慣れてきたら我々H&S商会をご利用ください!*

 

「――あっ」

 

しかも、その「姉」は少女の人格形成に多大な影響を与えた人物であった。「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それこそ、もしも少女が数年後もダンジョンに潜り続けてベテラン冒険者となった暁には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そんな……じゃあ、本当に……?」

 

「断定は出来ん。だが、もしかの御仁があの人の教えを受けたことがあるとすれば、色々と腑に落ちる点が多いのも事実だ。あの人は……自己犠牲が過ぎる人だったからな……」

 

こうして、【狂人】と少年少女たちのファーストコンタクトは、様々な疑惑を残して終了したのだった……。


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