【コミカライズ連載開始】迷宮狂走曲~RPG要素があるエロゲのRPG部分にドはまりしてエロそっちのけでハクスラするタイプの転生者~   作:宮迫宗一郎

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31.「悪漢に襲われる高貴な女性」はネット小説のお約束

《表》

 

ユニークモンスターどもの殲滅は問題なく終わった。こいつらは固有ドロップがゴミなので、【蘇生薬】マラソンをする必要もないからな。

 

なのでさっさと終わらせて給料を貰い、アイテム購入といきたかったんだが……。

 

「……明らかに足元を見られてたな」

 

この国で1番繁盛しているらしい武器・防具屋に行ってみたはいいものの、これがお手本のような悪徳商人の店だった。なんつーか、悪代官に山吹色のお菓子を渡してそうな商人って感じだ。まあ名前が【握土井(アクドイ)】って聞いた時点で察してはいたけど。

 

「うーん、いったん帰還してアーロンに来てもらうか……?」

 

そんなことを話していた時だ。遠くの方で何やら争うような声と音が聞こえてきたので、俺たちは様子を見に行くことにした。もしかしたらご隠居が把握していないモンスターが潜んでいるのかもしれないからな。

 

「テメッゴラァ! 大人しくしろやクソアマァ!」

 

……と思ったら、音の発生源は路地裏で、蟻頭と蜂頭のコンビが女性の頭に袋を被せて体を縄で縛っていた。どうやら誘拐現場に鉢合わせてしまったらしい。

 

「なんだァ、テメェら!? ちィッ、見られたからには生かしておくワケにゃいかねェなァ!」

 

「“Bee” quiet……落ち着くんだアントニオ」

 

「だ、だがよォビーンの兄貴!」

 

 

「なんだこいつら……クセが強すぎる者を略して『クセ者』かよ」

 

うわっ、よく見たら【吉良兄弟(キラーブラザーズ)】じゃないか。

 

こいつらは【アヘ声】に登場した殺し屋の兄弟であり、蟻頭の方が弟の吉良(キラー)アントニオで、蜂頭の方が兄の吉良(キラー)ビーンだ。【雄々津国】のサブストーリーを進めていく中で、幾度となく原作主人公の前に立ちふさがった中ボスだな。

 

いわゆる「憎めない悪役」というやつで、原作主人公に敗北しては毎回同じ捨て台詞を吐いて逃走していくギャグキャラだった。……いやまあ、ギャグキャラっつっても、【雄々津国】にはギャグキャラ以外存在しないんだけどさ。

 

「よォ、アンタら。オレたちゃ泣く子も黙る殺し屋兄弟だが、無益な殺傷は好きじゃない。このままここで見たことを全て忘れ、日常に戻るというならそれでよし。しかし変な気を起こすとどうなるか……分かるよな?」

 

そう言いながらビーンは俺たちに見せつけるように刀の鯉口を切り、居合の構えを取った。そしてその後ろでアントニオが「カ・エ・レ! カ・エ・レ!」と連呼し始める。うん、色々と台無しだな。

 

「え、え〜っと……いや、誘拐はダメですよ! 犯罪です! 見過ごせません!」

 

「フッ、威勢のいいお嬢さんだ。嫌いじゃないぜ、そういうの。だがオレたちも仕事でな……邪魔をするというのであれば、少々痛い目に遭ってもらおうか!」

 

「てんめェェェ兄貴の厚意を無碍にしやがって! 皆殺しだゴルァ!」

 

「おっと、させないぜ!」

 

アントニオがモニカめがけてバカデカい金棒を振り下ろしてきたので、間に割って入って盾で弾く。

 

「クソッタレ、次から次へとワケの分からん奴が現れやがる!」

 

“…………!”

 

“誰だか知らないけど、とりあえずHPを0にしてから考えればいいや”

 

金棒を弾いた直後、俺の左右からカルロスとレムスが飛び出してアントニオへと攻撃を仕掛け、さらにルカが弓を引き絞りながら跳躍し、俺の頭越しに追撃を放った。

 

「甘ェ、Honeyより甘ェよ」

 

「なんだと……!?」

 

だが、それら全てがビーンに防がれてしまった。ビーンが抜刀したかと思うと、次の瞬間にはカルロスのハンマーとレムスの拳が弾き飛ばされ、ルカが放った矢も斬り捨てられていた。

 

今のはビーンの得意技である【打ち払い】というスキルだ。その効果は「反撃しない代わりに成功率が非常に高い【打ち落とし】」といった感じだな。

 

しかも、ビーンのTEC(技量のステータス)は変態じみた高さだ。どれぐらい高いかというと、こちらのTECがカンストしていてもなお物理攻撃が一切通用しないくらいにはTECが高い。TECだけならラスボスどころか裏ボスすら上回っている。

 

「……フッ。TEC(技量)が足りんな」

 

 

「マジでなんだコイツ!? ふざけた野郎のクセして強い……!?」

 

「そろそろ理解したか? オレとアンタらの間に広がる、絶対的な力の差というものを」

 

 

 

 

 

「【ライトニング】!!!」

 

「シbeeeeeレルゥゥゥゥゥ!?!?!?」

 

「あ、兄貴ィィィィィ!?!?!?」

 

まあ【打ち落とし】同様、魔術による攻撃には無力なわけだが。

 

「え、えぇ〜……? 牽制目的で放った下級の魔術なんですけど……【ブーストスペル(魔術の効果を2倍に)】も使ってませんよ……?」

 

ついでに言うとビーンのMDF(魔術防御力)は全ボスの中でも最下位で、しかも全ての属性が弱点となっているとかいう紙耐久っぷりである。今のモニカのMAT(魔術攻撃力)なら下級の魔術でも確殺範囲内だ。

 

「……フッ、お嬢さんだと思って油断したか」

 

「『油断した』では言い訳できないくらい大ダメージ受けてんじゃねーか」

 

そんなことを思っていると、派手に地面を転がって痙攣していたビーンが突然むくりと起き上がった。どうやら運良くHPがギリギリ残って即死は免れたらしい。

 

「ここは潔く退くとしよう。だが――I'll “Bee” back!

 

「これで勝ったと思うなよ! “Ari”vederci!

 

そして次の瞬間にはアントニオと共に屋根の上へと跳び上がり、絶妙にダサいポーズをキメると、背中の翅をはばたかせてゴキブリのようにカサカサと逃げて行った。

 

「いや、飛ばないのかよ……」

 

「う、う〜ん……なんというか、すごく個性的な人たちでした……」

 

“君たちも人のこと言えないんだよなぁ”

 

「でも、あのスピードは目で追えなかったよ。意外と強い……のかなぁ?」

 

俺は【吉良兄弟】の捨て台詞を生で聞けて満足だったが、これが初見であるカルロスたちは宇宙を背負った猫みたいな表情になっていた。この国に来てから、もはや何度カルロスたちがこの表情になったか分からねえな。

 

「……あっ。そういえば、誘拐されそうになってた人――人? は大丈夫でしょうか?」

 

モニカがようやく再起動し、誘拐されそうになっていた女性を介抱しに向かった。

 

「ピィィィィィ!?」

 

そして頭に被せられていた袋を取った瞬間、黒い宝石のような8つの瞳に見つめられて腰を抜かした。女性の頭はフサフサとした毛に覆われており、側頭部からは虫の脚のようなものが8本飛び出ている。

 

「く、蜘蛛〜〜〜!?!?!?」

 

まぁ、なんだ。ぶっちゃけハエトリグモだった。

 

ハエトリグモ頭は尻餅をついたモニカを見てコテンと首を傾げると、なにやら納得したような様子で頷いた。

 

「アナタ方がワタクシを助けてくださったのですね。ありがとうございました」

 

「あっ、声カワイイ……」

 

チャーリーが思わずといった様子で呟いたように、ハエトリグモ頭は妙に可愛らしい声をしていた。こういうのをアニメ声と言うのだろうか? とにかく、見た目とのギャップが凄まじいことになっている。

 

「だぁぁぁもう……次から次へと……この国にはこんなのしかいねぇのか……」

 

カルロスが頭痛を堪えるように頭を抱えるが……まだキャラが濃いのが複数残ってるというのは、色んな意味で言わない方が良さそうだな。

 

「申し遅れました。ワタクシ、八雲(ヤクモ)と申します。この国の姫でございますわ」

 

あー、やっぱりそうなのか。ハエトリグモ頭改め、八雲は【アヘ声】に登場した原作キャラ……それも、【雄々津国】で発生する一連のサブストーリーにおけるヒロインポジションと言っても過言ではない重要人物だ。

 

【アヘ声】においても、彼女との出会いは彼女が誘拐されそうになっていたところに原作主人公が居合わせたところから始まる。

 

なんでそんな都合よく一国の姫が誘拐される現場に居合わせるんだよ、と思うかもしれないが、八雲はしょっちゅう誘拐されては自力で脱出しているという設定らしい。それはそれでどうなんだと思うが……。

 

「それにしても……皆様、お強いのですね。……ぽっ」

 

「『ぽっ』とか口で言う奴、初めて見たぞ……」

 

あと、八雲は非常に惚れっぽい。たとえ原作主人公の【善行値】がマイナスに振り切れていようが必ず原作主人公に惚れる。理由は、八雲が他人に魅力を感じる部分が「強さ」であるためだ。相手が強ければ、人格を問わず惚れてしまうらしい。

 

そんな設定であるためか、【アヘ声】プレイヤーたちから付けられた渾名は【脳内ピーチ色姫】。一部のプレイヤーたちからカルト的人気を誇る、【アヘ声】屈指の人気キャラだった。どれくらい人気かと言うと、ヒロインを対象とした人気投票で2位に輝いたほどだ。*1

 

中には「よく見ると可愛い」「愛嬌がある」などと(のたま)うガチな奴までいたらしいが……それに関してはどうでもいいか。

 

とにかく、いま重要なのは八雲が【雄々津国】のサブストーリーにおける重要人物の1人だという点だ。これで一気にサブストーリーへ絡むことができそうだ。

 

今回のサブストーリーでは一点物のレアアイテムがいくつか手に入るため、どうにかしてサブストーリーに絡みたかったからな。ここで八雲と出会えたのは幸運だった。……まあ、マジでしょっちゅう誘拐されてるらしいので、このへんをうろついてたらそのうち出会えてただろうけども。

 

「助けていただいたお礼をさせていただきたいのですが、生憎と今のワタクシにそこまでの持ち合わせはございません。そこで提案なのですが、皆様を城にお招きし、歓待させていただきたいのです」

 

「ぴぃっ!? そ、そんな、恐れ多いですよ! それに私たちは先を急いでますから! ねっ、そうですよね大将さん!」

 

「いや、べつに急いではいないが。ってか、こういうのは断る方が失礼に当たるんじゃないか?」

 

「知らんな。俺たち兄弟は田舎の農村出身だ。礼儀作法だのなんだのってのには疎い。大将の好きにしてくれ」

 

「オレはこの国の王族に出されるような料理がどんなものか興味あるから賛成だけど、判断は大将に任せるよ」

 

“ボクは主についていくよ。ぶっちゃけどっちでもいいし”

 

「了解だ。そういうわけですので、歓待の件、謹んでお受けいたします」

 

「そ、そんな〜!」

 

「そこまで蜘蛛が苦手なのか……」

 

八雲にビビり散らかすモニカには悪いことをしたが、これもレアアイテムのためだ。すまないが我慢してもらおう。

 

たぶんモニカは、姫が蜘蛛人間ということで王族も蜘蛛人間、つまりこれから蜘蛛人間の巣窟に連れて行かれるんじゃないかと懸念してるんだろう。でも【アヘ声】に登場した蜘蛛人間は八雲だけだったし、きっと大丈夫だ。

 

「ごめんな。埋め合わせはいつかするからさ」

 

「う〜……分かりましたよ……」

 

こうして、俺たちは八雲に連れられ、【雄々津城】へと向かうのだった。

*1
なお、そもそも人気投票にエントリーされてなかったうえ、一部のプレイヤーたちの悪ノリによる組織票だったため、無事に無効票となった模様

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