迷宮狂走曲~RPG要素があるエロゲのRPG部分にドはまりしてエロそっちのけでハクスラするタイプの転生者~【書籍版:迷宮狂走曲~エロゲ世界なのにエロそっちのけでひたすら最強を目指すモブ転生者~】   作:宮迫宗一郎

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40.「文明開化の音」は硬い殻を叩く音

Q.【アントクイーン】は何をトチ狂って【雄々津国】を手中に収めようだなんて思ったんですか?

 

A.

①ダンジョンの宝箱からはドロップせず、【雄々津国】でのみ入手可能なアイテムがある

②【雄々津国】でのみ入手可能なアイテムであっても、宝箱から手に入れたアイテムと同じようにアイテム図鑑に載る(=宝箱から手に入れたアイテムと同等の扱い)

③【雄々津国】でのみ入手可能なアイテムは、ダンジョン下層でも通用する性能を誇り、ネームドキャラが固有ドロップするアイテムはさらに高性能

④世界中から人々が集まって発展してきた【ミニアスケイジ】の技術力をもってしても、宝箱から入手できるアイテムの研究は上手くいっておらず、せいぜいギルドショップで販売しているような低レアの消耗品くらいしか再現・製造に成功していない

⑤ダンジョンからモンスターが少し溢れ出しただけで国が滅びるほどの被害が出る世界にありながら、【雄々津国】はダンジョン下層で独自の文化が発展するくらいの年月を生き抜いてきた

 

見た目が酷いことに目を瞑れば、【アヘ声】の世界において【雄々津国】ほどハイスペックな国家もないでしょう。

【アントクイーン】はそこに目を瞑れるモンスターだったということです(「目を背ける」とも言うかもしれませんが)。

 

――【アヘ声】公式Q&Aより抜粋

 

 

──────────────────────

 

 

《表》

 

その後、ご隠居が手配していた消防隊によって【雄々津之城】の火が消し止められ、【アントクイーン】が引き起こした事件は収束した。

 

【アントクイーン】は尋問の末に処刑される運びとなったため、俺が()()()を買って出た。結果については……まあ、特に有益な情報「は」出なかった、とだけ*1。尋問が終わってからは脱獄などさせないよう警備と監視を徹底し、最後は打首になったのをしっかり見届けた。

 

大将軍は今回の責任を取って切腹すると言い出したが、八雲やご隠居たちと話し合った末に大将軍を続けることになったらしい。そこにどんな政治的思惑があったのかは知らないが、最後に大将軍と会った時はどことなく憑き物が落ちたような雰囲気だったので、まあ悪いようにはならないだろう。

 

八雲は俺の提案により「【アントクイーン】を討ち、この国を救った英雄」ということになった。まあ最初に大将軍を止めようと動いていたのは八雲なので、あながち間違いでもない。八雲本人は俺たちこそが英雄として称えられるべきだと最後まで主張してくれたが、俺はそんな上等な人間じゃないからな……。

 

原作知識に因われて失敗した俺と違ってカルロスたちは称賛されて然るべきなので、「八雲と一緒に堂々と英雄になってこい」と提案したんだが、カルロスたちは「大将が辞退するなら俺たちも辞退する」と言ってくれた。まったく、良い仲間を持てて俺は幸せ者だな。

 

最後に、ご隠居たちは【雄々津之城】の再建まで八雲たちに屋敷を提供しつつ、八雲の教育係として大将軍になるにあたって必要な知識を教えるみたいだ。

 

俺たちへの報酬については、当初要求するつもりだったものをほとんどそのまま用意してもらえることになった。最初は罪悪感から報酬も辞退しようかと思っていたんだが、結局「国を救った英雄にタダ働きさせたとあっては先代大将軍の名折れ」と押し切られてしまった。

 

「それでは皆さま、参りましょうか。本日はよろしくお願いしますね」

 

あと、マップ埋めについても八雲の監視つきという条件付きで許可が下りた。まあ監視というよりかは八雲の社会勉強がメインで、俺たちはその護衛といったところだろうが。

 

「任せてくだせぇ、八雲の姐さん! 姐さんのことも、ハルベルト(春辺流人)のアニキたちのことも、このアントニオが命に代えてでもお守りしやすぜ!」

 

「“Bee” careful……くれぐれも無茶はするな。兄貴も姫様も慈悲深いお方だ、オレたちの死を望まれない」

 

「おい、なんでコイツらがここにいて、しかも舎弟面してやがんだよ」

 

“というか、「慈悲深い」って誰のこと???”

 

ちなみに、吉良兄弟はいつの間にか八雲の家臣になっていた。【アントクイーン】に洗脳されていたとはいえ、警備兵にあれほどの被害を出した奴らが八雲の護衛として受け入れられてるあたり、この国は脳筋思考だなと思う。いやまあ、俺の知らないところで何かしらの軋轢とかあるのかもしれないけどさ*2

 

「結構歩きましたね。そろそろ休憩にいたしましょうか? この近くにワタクシの行きつけの茶屋がございます。きっとモニカ(模似華)さまたちのお口にも合うと思いますわ」

 

「わ〜! そうなんですか! 楽しみですね!」

 

「モニカちゃん、順調に餌付けされていってるね」

 

「八雲の姐さんのこと苦手そうにしてたのに、食い物が絡んだ途端コレだもんな。モニカ(模似華)の姐さんも相当食い意地張ってるよな」

 

「“Bee” quiet……余計なことを言って人の恋路を邪魔するヤツは、カマドウマに蹴られて死んじまうんだぜ」

 

「そこ! 聞こえてますからね!? 違いますから! たしかに私はクモが苦手ですけど、八雲さんは特別なんですっ! 食べ物につられてなんていませんっ!」

 

「まあっ! 特別だなんて……嬉しい……ポッ」

 

「えっ……や〜、あの、今のは友達って意味でですね……」

 

「えぇい……こいつら、最初から味方(こっち)側だったみてーに馴染みやがって……」

 

まあまあ、いいじゃないかカルロス。仲良きことは美しきかな、ってやつだ。なにより、こういうのは見てる分には面白いからな!

 

と、そんな感じで俺たちは数日間【雄々津国】と自宅を行ったり来たりして過ごした。

 

ハルベルト(春辺流人)殿、貴殿に改めて感謝を。此度の恩、ワシらは決して忘れませぬ。貴殿が里の復興(目的)を達成できることを祈っておりますぞ」

 

「ミ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ン゛ッ゛! 拙者らもお主には負けておれん!」

 

「然り! 我々も精進するとしよう!」

 

「ええ、皆さんもお元気で」

 

“何か勘違いされてる気がするなぁ……まっ、二度と会うこともないだろうし、べつにどうでもいいかな”

 

そして、やるべきことをやり終えた俺たちは、次の階層へと進むことにした。

 

「皆さま、モニカ(模似華)さま、いつでも【雄々津国】にいらしてくださいまし」

 

「はい、また食べ歩きに行きましょうね!」

 

「“Ari”vederci! またいつでも来いよ!」

 

「縁があればまた会えるさ、May“bee”」

 

「うん、またね。今度は俺が故郷の料理をご馳走するよ」

 

軽郎(カルロス)よ! 万が一路頭に迷うことがあればワレのもとへ来い! いつでもワレの家臣に迎え入れてやろう!」

 

「おう、なんでアンタは俺ンとこに来たんだ大将軍。アンタとの間には大した絡みもなかったはずだろ」

 

力強い応援の言葉をくれるご隠居たち、着実にモニカの攻略(餌付け)を進める八雲、いつの間にか料理を通じてチャーリーと仲良くなっていた吉良兄弟、そして最もカルロスが会話(ツッコミ)していたためかカルロスへの好感度が1番高いらしい大将軍……といった錚々たるメンバーに見送られ、俺たちは【雄々津国】を後にした。

 

「なんというか、終わってみればあっと言う間でしたね」

 

「最初は『またヤバい所に連れてこられたなぁ』とか思ってたけど、しばらく過ごしてみると意外といい国だったね」

 

「……いい国……? いい国だったか……? ひょっとして俺がおかしいのか……???」

 

“ゴリラ1号は間違ってないよ。いくら人間の世界に疎いボクでも、さすがにこの国がブッ飛んでることくらい分かるからね”

 

それぞれがこの国で過ごした日々に思いを馳せつつ、俺たちはダンジョンの最奥を目指して旅立つのだった。

 

 

──────────────────────

 

 

《裏》

 

「っしゃっせぇー! っりあとうござっしたー!」

 

「はいよー、またのお越しをお待ちしてますぜ」

 

【狂人】たちが【雄々津国】で過ごしている間、アーロンはフランクリンと共に【H&S商会】を切り盛りしていた。

 

「おっと、今日は鍛冶師のおやっさんの工房(トコ)と、それから【ギルド】に行かなきゃならねーんだった。悪ィが少しの間だけ外すぜ」

 

「あー、修繕依頼出してた備品の受け取りと、【蘇生薬】の増産についての話をするんだっけか。しゃあねぇな、寄り道(サボったり)せずさっさと帰ってこいよ」

 

「やー、分かってる分かってる」

 

「……ホントだろーな?」

 

そんなやり取りをしつつ、アーロンは店を出て【ミニアスケイジ】の商業区画へと向かった。

 

「(さて……明日からカルロスたちはしばらくパーティから外れて、俺がダンジョン攻略に加わるのか)」

 

その道中、アーロンは心の中で独りごちつつ、げんなりした表情のカルロスたちを思い出して忍び笑いを漏らす。この男、かつて下層で活躍していた冒険者として実は【雄々津国】のことを知っていたが、カルロスたちのリアクションが見たくて黙っていたのである。

 

「(……まっ、言ったところで信じたかどうかは怪しいけどな)」

 

むしろそっちの方が面白い反応が見られたか? などと自分の信用のなさまで利用してカルロスたちをからかおうとするあたり、相変わらず性格の悪い男であった。

 

とはいえ、アーロンの「言ったところで信じたかどうかは怪しい」という考えは、あながち間違いとも言えなかったりする。

 

というのも、過去に【雄々津国】の存在を【冒険者ギルド】に報告した冒険者もいるにはいたのだが、その際ギルド職員から「あぁ、ダンジョン下層という過酷な環境で戦ってるせいで疲れてるんだなこの人」という反応が返ってきたからだ。

 

ギルド職員を責めてはいけない。そもそもここはモンスターが少し溢れ出しただけで一国が滅ぶような世界である。そんな危険なモンスターが蔓延るダンジョンの中に人が住んでいるどころか国を形成しているというだけでも信じがたいのに、その頭部が虫であるなどと言ったところで「それはいったい何の冗談だ」と笑われるのがオチである。

 

また、そもそも下層まで到達できるような凄腕の冒険者がそう多くないうえ、【雄々津国】が鎖国状態だったためろくにマップ埋めもできず、その存在を証明できる証拠に乏しかったこともあり、いつしか下層で活動する冒険者は【雄々津国】のことを話題にするのをやめてしまったのである。

 

「おーい、おやっさん! 依頼してた備品を取りに来たぜ!」

 

そんなことを考えつつ、顔馴染みの鍛冶師の工房に到着したアーロンは彼に声を掛け――

 

 

 

 

 

「ブゥゥゥン!!! 遅いぞアーロン!!! このおチョウし者めが、毎度毎度時間ギリギリに来よって! 時間に余裕を持てといつも言っておるだろうが!!!」

 

――そのまま石像のように全身を硬直させた。

 

それはそうだろう。ある日突然知り合いの頭がカブトムシになっていたら誰だってそうなる。

 

「なんだ!? 人の顔をジロジロと見おってからに! ワシの顔に何かついておるとでも!?」

 

「(何かついてるどころか硬い殻に覆われてんじゃねーか)」

 

普段ならそんな突っ込みを入れているところだが、頭が混乱しているせいかアーロンは上手いこと口が動かず、もごもごと言葉にならない声を出すばかりだ。

 

「あ、いや、その、奥さんはどうした……? 今日は姿が見えねーみたいだが……」

 

「あぁ!? アイツなら実家にキセイチュウだ! それがどうかしたか!?」

 

「(それはどっちの意味でだ???)」

 

ようやく口から出たのはそんな誤魔化すような台詞だったが、余計な情報が追加されてしまいアーロンはさらに混乱するハメになってしまった。

 

「いってぇーな! 天井が低くなったか!?」

 

「(………………うん、いつも通りのおやっさんだな!!!)*3

 

そして部屋の奥に行くためにドアを潜ろうとした鍛冶師(?)がドア上枠にツノをぶつけたあたりで、アーロンは考えるのをやめた。

 

実際、アーロンから見ても鍛冶師(?)の態度はいつもと変わらないように見える。いつも通り気難しくて口煩い、アーロンにしては珍しくちょっぴり苦手意識を持っている頑固オヤジのまま変化はない。

 

ただ「ブゥゥゥン」とかいう珍妙な口癖が追加されていたり、妙に声がデカくなっていたり、そして頭部がカブトムシになっているだけで、それ以外はいつも通りである。

 

……彼に対するアーロンの苦手意識が激増したのは言うまでもない。

 

「【冒険者ギルド】へようこそ!!!」

 

さらに、虚無顔で工房を出て【冒険者ギルド】にやってきたアーロンは、そこにやたらと声がデカい頭部が虫の職員の姿がいくつかあったのを見て、再び絶句した。

 

「おいおい、とうとうこの世の終わりがやってきたのか???」

 

「安心してください、まだ世界は滅びてませんよ」

 

アーロンの疑問に苦笑いで答えたのは、冒険者のダンジョン入場記録を取っているベテランの受付嬢だった。

 

「いや、あいつら【武士(ムシ)】とかいうヤツらじゃねーか! なんでギルドで職員なんかやってんだよ!」

 

「あー……やはりアーロンさんも知っておられましたか。いえ、我々も上位の冒険者の方々からいくつか報告は受けていたのですが、まさか実在するとは思ってもみなくてですね……」

 

聞けば、彼(?)らはある日突然冒険者パーティに紛れてダンジョンの中から出てきたらしい。どうやら以前から外の世界に興味を持っていた【武士】がそこそこいたらしく、その中でも【雄々津国】の鎖国が解かれた瞬間に国を飛び出した行動力の化身みたいなのがさっそく野に放たれてしまったのだという。

 

当然ながらいきなり新種のモンスターみたいな奴らが現れたことでギルド内は騒然となったが、幸いその場は彼(?)らが紛れていた冒険者パーティのリーダーの執り成しによって事なきを得たらしい。

 

また、【狂人】によってもたらされた【雄々津国】の詳細なマップデータによって【雄々津国】の実在が証明され、ダンジョン下層で活動する他の冒険者パーティからも「彼(?)らは少なくとも知的生命体であるようだ」との証言が得られたこともあり、ひとまず彼(?)らは【ギルド】から「モンスターではない」と認められたのだ*4

 

最終的にこの件は【冒険者ギルド】が彼(?)らを雇うということで決着。一般人が暮らす場所に出られるよりは、【ギルド】内に押し留めておく方がまだマシだろう、という判断によるものである。

 

「やー、それにしても、言っちゃ悪ィがよくあんなのをギルド職員として受け入れる気になったな」

 

「その、アーロンさんの前でこんなことを言うのもなんですが……彼ら(?)が紛れていたというのが、アーロンさんが現在所属しておられるパーティでして……」

 

「あー……また大将の仕業かー……」

 

アーロンの脳裏に、善意で【武士】のことを無害だと主張する【狂人】の姿と、それを見て「またこいつか」と頭を抱えるギルド職員の姿がありありと浮かんだ。「モンスター絶対拷問して殺すマン」として有名な【狂人】が【武士】のことを人間扱いしたことでその場の混乱は収まっただろうが、ギルドの上層部は【武士】の扱いをどうするかさぞ判断に困ったことだろう、とアーロンは彼ら彼女らの苦労を心の中で労った。

 

「(んー……まっ、そういうことなら納得か。相変わらず大将が関わると事態が斜め上にカッとんでいくな)」

 

【狂人】が関わっていると知ったことで「なんだいつものことか」と謎の安心を得たアーロンは、用事を済ませてギルドから帰る頃には「カルロスたちが帰ってきたら、このことを教えて反応を楽しむか」とすっかりいつもの調子を取り戻していた。

 

 

 

 

 

「(………………ん? それはそれとして、おやっさんの頭がカブトムシになってたのはなんだったんだ???)」

 

そうして、就寝時間になってベッドに潜ったあたりで、顔馴染みの鍛冶師の頭がカブトムシになっていた理由は謎のままであることに気づいてしまい、その日アーロンは一睡もできなかったのだった……。

*1
なお、得るものは得た模様。というかそっちが尋問官を買って出たメインの目的である。

*2
ない。脳筋である。

*3
白目

*4
「モンスターじゃなかったら何なの?」という疑問は藪蛇を避けるために棚上げされた


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