【書籍版二巻発売中】迷宮狂走曲~RPG要素があるエロゲのRPG部分にドはまりしてエロそっちのけでハクスラするタイプの転生者~ 作:宮迫宗一郎
「最近、【あの
「【アヘ声】はオッサンだろうとオークに掘られるしジジイすらも触手プレイで○まされるゲームだぞ」
「男女平等どころか老若男女平等な素晴らしいゲームなんだよなあ……」
「素人が【アヘ声】をプレイする場合はニューゲームを選ぶ前に設定画面で【男性キャラクターのシーンをスキップする】にチェックを入れろ。いいか? 絶対にそのままプレイするなよ? フリじゃないからな? このゲームはオープニングからブッ飛んでるぞ」
――とあるSNSの書き込み
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《表》
「ハハハハハ! なんだ、やっぱり隠れてるだけじゃないか! おらおら首と経験値と金と宝箱おいてけ!」
“なぜ主は戦闘になるとテンションおかしくなるのだ?”
相変わらず無言で何を考えているか分からないノームを連れ、今日も今日とてレベリングだ。
最近モンスターどもが自分から姿を見せることが減ってきたので、もしや全滅してしまったのか? と思ったこともあったが、こうして【匂い袋】で炙り出せばどこからともなく湧いてくる。そりゃあこの程度でモンスターが絶滅するなら誰も苦労しないわなって話なんだが。
ダンジョンのさらに奥にある最大の狩場と比べれば、やはりスライム狩りは劣るため、経験値効率が最高という訳ではないんだが……順調に上がっていく【クラスレベル】を見ていると、ついつい楽しくてモンスターどもを狩るモチベーションが上がるんだよな。
それにほら、あれだよ。本来なら苦戦するようなボスとかを、レベルを上げまくってあっさり倒してしまうのって爽快だと思わないか?
ストーリー上では強敵扱いされてる奴が戦闘でワンパンされて、そのあとも強者ムーブかましてるのを見て、こいつ足ガクガクさせながらこんなこと言ってんだろうなあとか想像するのって面白いよな。もうすぐダンジョン上層のボスと戦う予定なので、今から楽しみだ。
……まあ、そうやって強がらないと
普段はそんなことないのに、戦闘中だけは深夜ハイテンションみたいなノリになるのは、なんかそういう理由なのかもしれない。自覚はないけど。
……うん、まあ、このことについて深く考えるとダンジョンを進むのが怖くなりそうなのでやめとくか! ようするに負けなければいいんだよ! 負けなければ! だから負けた時のことを考えるのは無意味だな!
ていうかダンジョンの中にいる時間の方が長いから、実質いつもこんなテンションってことだしな! それにほら、あれだよ、綺麗に
よし、この話は封印しよう。何か別のことを考えるとするか。
「ところで、ふと思ったんだが」
“うわあ!? 急に冷静になるな!”
「君って名前とかあるのか?」
“えっ、今さらすぎないか???”
いつも「ノーム」って呼んでるが、ぶっちゃけそれって種族名だよな。俺たちで言えば「人間!」って呼ばれてるようなもんだし。
だからノーム個人に名前はあるのかと聞いてみれば……首を横に振ったか。
「やっぱりそうなのか。まあ、ぶっちゃけノームって種族は『働き蟻』みたいなもんだしなあ……」
“偉大なる大地の使者、我らノームが……蟻……だと……?”
【アヘ声】のノームって名前こそ「ノーム」だけど、実は蟻がモチーフらしいんだよな。「女王蟻」に該当するのはノーム畑の方で、ノーム自体はせっせとノーム畑に
つまりノーム畑によって労働力として使い潰すために大量生産された種族であるため、「個」を識別する必要がないのだろう。
“ああ、そうか……あくまで偉大なのは大地であって、我らノームはしょせん奉仕種族にすぎない……か。皮肉なものだな。人間の奴隷になったことで、己が『生まれながらの奴隷』であったことに初めて気づくとは……”
「おおっと! モンスターだ! はい首チョンパァ!!!」
“温度差ァ!!!”
「ん? どうした?」
ふと気づくと、ノームが俺のことを見上げ、何か言いたげにジッと見つめていた。……ふむ。これはもしかして、二次小説とかでよくある「アレ」か?
「なんだ、俺に名前をつけて欲しいのか?」
“温度差が酷くて風邪引きそうになってただけだ! って、いや、待てよ? そうか、名前か! その手があったか!”
ノームはしばらくの間、まるで何かを躊躇するように停止したが、やがて俺の問いにコクリと頷いて肯定を返した。
うーん、まさかモンスターがそんなことを考えるとは、驚いたな。「個」を持たない種族であるがゆえに、「個」を持つ人間の存在を知ったことで、「自分だけの名前」というものに興味を持ったのだろうか?
「しかし、名前か……」
最近のノームはこちらの話に相槌を打ったりして、それなりに友好的な態度を見せるようになってきたが……しょせんは人間とは根本的に相容れないモンスターだ。
だから完全に心を許した訳ではないんだけど……。
「んー、まあいいか」
“よし、勝ったな”
まあ名前がないと不便だしな。別に名前を付けるくらいはいいか。
うーん、ノーム……ノームねぇ……。俺たち【アヘ声】ファンは【ノム吉】とか呼んでたな。つってもこれは公式Q&Aに突如現れた【ノーム
さすがにそんな渾名で呼ぶのは気が引けるので、モンスターどもの断末魔を作業用BGMとしながら真面目に名前を考えてみることにする。
「じゃあ『ルカ』で」
“えっ、存外にまともだな……ノム男とかノム子くらいは覚悟していたのだが……”
ちょっと悩んだが、【アヘ声】をプレイしていた時にパーティメンバーにつけてた名前をそのまま流用することにした。ちなみに「外国人 格好いい名前」で検索したら出てきた名前だ。意味は「光」らしい。キャラメイクで名前付ける時って、なんかこだわっちゃうよね。
「改めてよろしく頼むよ、ルカ」
“知っているぞ。人間は名前をつけたものに愛着が湧く生き物なのだろう? つまり名前をつければ主は我に愛着が湧き、我の待遇がよくなるという完璧な策だ!”
「よし! じゃあ名前もついて心機一転、ということで新しい戦法を試してみようぜ! たとえば【湿布】とか!」
“しまった! 主は人間じゃなかった! 助けて!”
「あ、ちなみに俺は『ハルベルト』な」
“えっ、【狂人】じゃなかったのか……”
これは俺が【アヘ声】の主人公につけていた名前だ。俺が自分からそう名乗り始めた訳じゃなくて、気づいたらこの名前で冒険者登録されてたから仕方ない。
俺はいつも主人公キャラには「アルバート」って名前を使い回すんだが、【アヘ声】では名前入力画面で「同名のNPCがいますが、構いませんか?」って出たからやめたんだよな。
で、「アルバート」の別読みである「アルベルト」にしたうえで、さらに「ア」を「ハ」に変えて「ハルベルト」にしたという経緯がある。
ちなみに「アルバート」は俺が前世で好きだった別ゲームのキャラの名前だ。主人公が日本人だった場合は「上須賀」って名前をつけることにしてる。
あ、それと「ハルベルト」は俺が【アヘ声】の主人公につけてた名前ではあるが、「今の俺」がいわゆる「原作主人公」と同一人物かと言うと、別にそんなことはないみたいだな。そもそも今は「原作開始前」にあたる時期ってのは確認済みだ。主人公はまだ冒険者にすらなっていないはず。
「よし、じゃあ帰ったらさっそくスキル構成を変えるか!」
“やめろぉ! ノームは群れで行動するモンスターで個々の力はそんなに強くないのだぞ!”
「なんだよー、そんなに首を振っちゃってさー。1回くらい試してみようぜ! マジで爽快なんだって!」
“イヤだぁ! 死にたくないぃぃぃぃぃ!”
そんな一幕があったりしながらも、俺たちは順調にレベルアップを重ねていったのだった。
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《裏》
「ハハハハハ! レベルアップの音が気持ちいいぜえええええ!(脳内でセルフSE)」
“くそ! ノームめ!”
無惨にも首と胴体が泣き別れしていく同族たちを見て、生き残りのモンスターは物陰に避難しつつ、【化物】の後ろで高みの見物をしている「ノーム」に対して忌々しげな視線を向けた。
“新たに製造したゴーレムの試運転のためだけに、またしても我らを殺すのか!?”
モンスターは利害の一致で一時的に協力することはあれど、基本的に仲間意識というものがない。ノームのように同じ種族で群れを為して
そのノームですらも「
“浅ましくも『大地の使者』を自称する矮小な種族が! 単独では何も為せぬくせに、いつもいつも我らを見下しおって!”
“やめてよね、ボクはもうそういう恥ずかしいのは卒業したんだ。今のボクは『ノーム』じゃなくて『ルカ』。ていうか彼はボクの主で(書類上は)人間だよ”
「ノーム」あらため「ルカ」は、モンスターたちの罵倒で
“なんだ、人間の奴隷となったのか? これは傑作だ! 生まれながらの奴隷にはお似合いの末路だな!”
“ハッ、それがなんだよ。そうだよボクは彼の命令には絶対服従の忠実なる下僕だよちくしょう”
“……こやつ、本当にノームか?”
モンスターたちは戸惑った。そこにいたのは自分たちの知っている「いけ好かないノーム」ではなく、まるで「
“ねぇ主ー! まだそっちにモンスターがいるよー!”
「ん? どうした? おおっ、まだモンスターどもがいるじゃねえか!」
“あっノーム貴様ぁ! くそ、殺ってやる! せめて貴様だけでも殺ってやるぞ!”
“やれるものならお好きにどうぞ。まっ、主を突破できればの話だけどね”
自分は変わったと言うルカであったが、こういう「正面切っての戦闘は
「あっやっべ。クズ運引いて【バンガード】発動しなかったわ」
“ぎゃわわーーー!?”
“あっ……”
だが、【バンガード】は発動率100%ではないことを忘れていたルカは、モンスターの攻撃をくらってゴルフボールみたいに吹っ飛んで壁に激突し、べしゃりと顔から地面に落下した。
あまりにもあっさり復讐を達成できてしまったので、成し遂げたモンスターの方が困惑している。
“……ぶはぁっ! ちょっと!? 今の絶対わざとだろ!? なんだよ、もぉ! なんかボクに恨みでもあんのかよぅ! それともなに? 定期的に忠誠心とか試してる? そんなことしなくても従うよ!”
“本当に何があったんだ貴様”
小さな身体で器用に瓶の蓋を開け、【回復薬】をイッキ飲みしてHPを回復させる姿は、「自宅で上司の悪口を言いながら酒を呷る部下」を想起させる。あまりにも「あんまりな光景」を見たことで、思わず戦場であることを忘れてモンスターたちは真顔になってしまった。
「なんか知らんが隙だらけだな! 【弐の剣】!」
“あっ、しまっ――ぎゃあああああ!!!”
そして、モンスターの言葉が分からないので何も知らない【狂人】だけが唯一平常運転なのだった……。