転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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1話なので長め。


出会いと始まりと転生チートの季節
ホシノウィルム登場!


 

 

 

 結論から言おう。

 俺は、転生した。それも昔遊んでたソシャゲの世界に。

 

 ……いや、わかる。わかるぞ。イカれてんのかコイツ、と誰もが思うだろう。

 ソシャゲの世界に転生って何だよ、どうやってデータの集合の中に入るんだよ、というか輪廻転生ってホントにあんのかよ、と。

 馬鹿にする気持ちは、すごくよくわかる。何なら俺も未だに夢なんじゃないかと疑うことがあるくらいだ。

 でもとにかく、あった。あったんだよ。輪廻転生は実在した! ソースは俺。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 今から20年以上前のこと。この世界にある堀野という家に、1人の男が生まれた。

 ソイツは子供の頃から前世の記憶をハッキリ覚えていて、それどころか価値観とか人格までそっくり前世のままだった。

 ま、それが俺だったわけだ。

 

 当時はバリバリに混乱し、現状を把握するために家の外に出ようとしたり、夢だと思って自決しようとした。

 まだ1歳の子供が、だ。

 ……思い出すと、ホントに申し訳ない。両親や兄には大いに心配と迷惑をかけてしまった。

 ごめんね、そしてありがとう。これから頑張って孝行するので許してほしい。

 

 で、どうやらこれは転生っぽいぞと確信し、なーんだ来世ってあったんだとほっとするのも束の間。

 ようやく立てるようになって視線が上がり、家に飾ってあった写真立てが目に入った。

 それは、若かりし頃の我が父と、美少女の写真だった。

 美少女は、獣耳と尻尾を生やしていた。

 

 ……いや、え? そういう趣味あったの父さん? 男として理解できなくはないけども。

 あったとしても写真にして飾るものじゃなくない? めちゃくちゃ母さんの視界に入るよこれ。

 い、いや、落ち着け。今はこれが何かじゃなくて、これをどうするか考えよう。 

 これまでたくさん迷惑をかけたんだ、我が父の間違いを正すのも子供の役目だろう。

 たとえそれで、この家から追い出されるとしても……悔いはない。

 

 しかし、そんな悲壮な覚悟は大いに空ぶることになる。

 写真を持って父の書斎の扉を叩いた俺に、あろうことか父は、顎に手を当てこう言い放ったのだ。

 

 

 

「もうウマ娘に興味が出たのか。血は争えないな」

 

 

 

 ウマ娘。

 俺はその名前を憶えていた。憶えていたっていうか、あの時代にソシャゲをやってた人間は誰でも知ってる。

 

 ウマ娘プリティーダービー。とんでもないおバズり方をした、2020年代のキングオブソーシャルゲームだ。

 内容を簡単に言うと、馬を擬人化した美少女を育成するゲーム。プレイヤーはトレーナーとしてウマ娘に指示を出し、二人三脚で3年間を走り抜ける。

 

 かく言う俺も、サービス開始からしばらくの間トレーナーとして奮闘していた。

 具体的に言うと水着マルゼンスキーが来たくらいまで。リアルの忙しさがピークになったこと、そして自慢のセイウンスカイがボコボコにされて涙目になったことにより距離を置いたけど。

 いやー、面白かったな。ウマ娘によってストーリーの毛色は大きく違うが、青春全開スポコン物語って感じが感情移入を誘うのだ。

 初めてURA決勝に勝った時は、不覚にも涙腺が緩んじゃったな。全てが報われたように感じるんだわ。

 

 ……いや、いやいやいや、そうじゃなく。

 ウマ娘? この写真の彼女が? いや、確かにそう思って見ればウマ娘でしかないけど、えー?

 俺の脳裏に、一瞬で色々な可能性がよぎる。

 ドッキリ? それにしては大がかりすぎる。

 夢? いや、そうじゃないことは実感のある年月が証明している。

 父は俺を騙そうとしてる? そんなことにメリットなどないだろう。

 一度瞼を閉じて、深呼吸。

 落ち着け。わからんことがあれば落ち着いて、わかる人に聞く。社会人だった時に身に着けた、大事なスキルだ。

 

「父様。ウマ娘、とは何でしょうか」

「ふむ……そうだな、そろそろ教える頃合いか」

 

 父から教えられた事は全て、俺が本当にウマ娘の世界に転生したことを示していた。

 異なる世界から名と魂を受け継ぐ、人より遥かにスペックの高い少女たち。彼女らはレースを通して覇を競い、人々はその狂騒に酔いしれる。

 それは俺の知るウマ娘、そしてウマ娘がいる世界と相違ない。

 

 ……マジで転生しちゃった。ゲームの世界に。

 俺も男だ、そういう妄想をしないわけではなかった。ゲームの中に入って魔物と戦ったり仲間とかがり火を囲んだりしたい。漫画みたいな肉食べたり、街づくりしたり、牧場経営したり、何でもいいからやってみたい。

 叶うことのないこの願いは、現代に生まれた者の宿痾の1つだろう。

 

 が、なんと。俺はそれを叶えてしまえる立場に来たのだ! いえーい!

 更に、その上。

 

「我が家は、代々ウマ娘のトレーナーを務めている。お前も殊に異存がないならば、中央トレセン学園でトレーナーを務めることになるだろう」

 

 なんと堀野家は、トレーナーの名門一家だったらしい。

 東条とか桐生院のような超一流というわけではないらしいが、それでも全体で数えても両手の指に入る、と。

 俺はそんな家に生まれた次男で、歳の離れた長男はトレーナー以外の道を選んだらしい。

 だから堀野の家は、俺がトレーナーとしてのハウツーを引き継ぐことを望んでいる。

 

 

 

 これはもう、導かれているだろ。

 なんでこの世界に転生したのか。

 なんでトレーナーの名家に生まれたのか。

 なんで俺はウマ娘の知識を持っているのか。

 それらが繋がる答えは、ただ1つ。

 

 

 

 これはもう、どう考えても、世界が俺にトレーナーになれと言ってるだろ!

 

 

 

 そんなわけで、俺はトレーナーになるために、それはもうめっちゃ頑張った。

 アプリではそんなに語られなかったが、中央トレセンはドチャクソな名門学校だ。

 ウマ娘が入ろうとしても、トレーナーとして入ろうとしても、とんでもなく倍率が高い。

 俺がいかに前世の記憶を持っていたとしても、この倍率を突破するのは決して容易ではない。

 ……というかぶっちゃけ俺は馬鹿だ。前世でも、記憶力も頭の回りも良い方ではなかったと思う。

 全力で挑まなければ、家や世界の期待を裏切ることになりかねない。

 

 そもそも。

 前世の記憶は、社会に出てから5年程で途切れている。つまるところ、俺は大学時代もプラスすれば、少なくとも10年以上高校レベルの勉強から離れていたわけで。

 今や高校時代どころか中学時代の事すら忘れてる。都道府県だって正しく言えるかわからない状態だ。

 あちらの世界とこちらの世界の違いも含めて、しっかり学びなおさなければなるまい。

 

 うむ。自分で言うのもなんだが、俺はこういうところでストイックだ。

 一度目的さえ持てれば一直線。馬鹿だから一歩一歩は小さいが、それでも走り続けることを大して苦にしないタチ。

 

 なので。

 その場で父に「必ずトレーナーになる」と宣言してから、実に20年強。

 俺はひたすら自分磨きを続けて。

 

 

 そして、ついに野望を叶えたのだ。

 

 

 時は3月。そろそろ桜が咲こうとしている中、俺はその学園の門を潜った。

 そう、ここは中央トレセン学園。

 俺は今年から、新人トレーナーとなる。

 

 よーし、ここから頑張るぞ!

 

 

 * * *

 

 

 

 トレセン学園に勤めだして数ヵ月。

 新人研修は終わった。普通に成績優秀でストレートだ。

 さて、本来何の実績もない新人トレーナーは、サブトレーナーとか教官として経験を積んでから、改めて担当を持つことを許されるのだが……。

 どうやら俺の能力は高く評価されたらしく、すぐに担当を持つことを許された。

 ……正直、ちょっと作為を感じなくもない。もしかしたら家の誰かが学園にちょっかいかけたかな。兄さんとか俺に過保護だし、変なことしてないといいけども。

 

 まあとにかく、担当を持つことを許されたということは、いよいよ俺のトレーナーライフが始まるってことだ。

 グラウンドで自主練するウマ娘たちを見て、ぼんやりとした感慨に浸る。

 長かったけど、いよいよここまで来たんだなぁ。

 そしてここが終わりじゃない。ここから全てが始まるんだなぁ、と。

 

 そして、ふと目に入ってきた情報で、現実へと引き戻される。

 

「……ふむ」

 

 あの子、すごいな。めちゃくちゃ距離適性が広い。短距離以外は全部本領じゃん。

 対してあっちの子は仕上がりというか、ぶっちゃけステータスがすごい。スピードなんかDだよD。……ああいや、クラシック級の子かな。ジュニアであのスピードなら、まず間違いなく噂されるだろうし。

 

「…………」

 

 人と違うものが見えるというのは、何とも気味の悪いものだ。

 見えるというかなんというか、なんとなく理解できるって感じだけども。

 

 

 

 そう、俺には見えている。

 ウマ娘のステータス、適性、脚質、スキルは勿論、やる気コンディション体力に事故率と、つまるところアプリで見ることのできたデータは全て覗くことができるのだ。

 この謎の力もまた、俺を大いに困惑させた。

 この現実、ⅤRとかじゃないんだよね? そうじゃないならなんでアプリの情報が見えるの? ホントに意味わかんないんだが。

 ま、それは今までいくら考えてもわからなかったし、ひとまず置いておこう。

 

 ウマ娘の情報が見える。これは地味なようで、本当にとんでもない力だ。

 本来結果としてしか出力されない数字を、事前に知ることができる。……それはつまり、次のレースで勝つウマ娘をほぼ正確に言い当てられることを意味するのだから。

 実家では兄や妹に驚かれたものだ。なんかズルしてるとまで言われた。

 まぁ、いくら数字が高くても、負ける時は負けるのがウマ娘世界の残酷さなんだけどね。予想が外れることもあったので、その時は盛大に煽られたものだ。

 

 俺はこの力を、便宜上「アプリ転生」と呼んでいる。

 アプリの能力を引き継いで転生したからだ。ネーミングセンスがないのは前世譲り。

 

 

 

 そんなわけで、俺はズルと呼んで差し支えない超能力を持ち、更にはトレーナー家系の名門エリート。

 知識に関してはトレセンでも上位に立つ自信があるし、サボらずトレーニングを続けてきた結果、身体能力もかなり高い。

 唯一足りないのは経験だけど、新人だしそれは仕方ないとして。

 手前味噌な話だが、トレーナーとしてはかなりの優良物件のはずだ。

 故に、担当が見つかることは疑いもしなかった。

 

 理想としては、やっぱり強いウマ娘がいいな。

 無敗三冠とまでは言わないが、史実で一冠でも達成していれば十分にトップクラスのウマ娘と言えるだろう。担当できれば光栄の至りというところ。

 一番望ましいのは、やっぱりセイウンスカイ。アプリでの俺の推しであり相棒……いや、愛バだった。

 最終コーナーで圧倒的な加速を見せ、ぐんぐんと後続を引き離すセイウンスカイに何度救われたことか。

 この世界でもウンスもといスカイを担当できれば、はちゃめちゃに嬉しいんだけど。

 

 ……まぁ、そんな甘い現実はないだろうな。

 何せセイウンスカイは黄金時代を担う一角。まず間違いなく、有力で経験もあるトレーナーがスカウトするに違いない。

 その上、ウマ娘には世代という概念がある。

 スカイは俺がここに来るより早くデビューしたかもしれないし、あるいは来年以降にデビューすることになるかもしれない。

 今この瞬間に、新入生として入学しているとは限らないのだ。

 更に言えば、スカイにも選ぶ権利がある。気ままな彼女が俺を気に入らなかった場合、その時点で担当になることはありえなくなるだろう。

 

 なので、うん。正直俺としちゃ、誰でもいい。

 この誰でもいいってのは、決して悪いニュアンスの意味じゃなく、むしろ真逆だ。

 そのウマ娘の能力がどうあれ、俺は3年間を添い遂げ、全力で支えると決めている。

 そりゃ勿論原石を磨いてみたいという欲求はある。だが、もし縁があって誰かを担当することになれば、俺はその子に尽くそうと思う。

 それが、俺の憧れたトレーナーというものだから。

 

 そんなスタンスで模擬レースを眺め、きらりと光る一芸持ちを見つけてはスカウトをする毎日。

 それがしばらく過ぎていった。

 

 

 

「……馬鹿な」

 

 どうも、数週間前まで「できれば強いウマ娘がいいなぁ」とかのたまってた雑魚です。

 俺は今、スカウトしては振られ、スカウトしては振られを繰り返しています。

 いつの間にか、同期のトレーナーからは笑われるのを通り越して真面目に慰められるようになりました。

 

 ……あー、これまで培ってきた自信がどんどんなくなるのがわかる。

 なんでなんですかね。俺、結構優良物件だと思うんですけど。

 スペックも高いし、顔もまぁ悪くないと思うよ? なんでみんな「うわぁ……ちょっと……」みたいな顔するの?

 

 あれかな、ウマ娘しか嗅ぎ取れないイヤな匂いとかしてるのかな。香水とか付けた方がいいの?

 それとも、ウマ娘は美醜についての価値観が人と違って、俺みたいな顔をとんでもなく醜悪に感じるとか?

 あー、何が問題なのかすらわからん……。改善のしようがないんですけど。

 いやほんとどうしよう、ちびっこ理事長からは1人担当を持つよう仰せつかってるんだよなぁ。

 スカウトに失敗し続けたら職務怠慢ってことになるんだろうか。1年目からそれは、育ててくれた家族たちに申し訳が立たない。

 

「どうしたものか……」

 

 どうにかして担当を見つけたい。これはかなり危急の事態だ。

 しかし、だからといって自己中に無関係のウマ娘を巻き込むのは論外。

 なんとかして「俺がトレーナーでいい」と認めてくれるウマ娘を探す……?

 いや、違うな。俺自身がウマ娘に認めてもらえるようにならなければ!

 

 

 

 ……運命とは果たして、どう巡るのかわからないもので。

 そんなことを思い黄昏ていた次の日、俺はとんでもないものを目にする。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 新入生模擬レース。新入生を実戦形式で走らせ切磋琢磨の場を用意すると同時に、トレーナーにその能力の一端を観察させる、非公式でこそあるがトレーナーウマ娘両方にとって大事なレースで。

 一人のウマ娘が、走っていた。

 鹿毛の髪が風に流され宙を踊る。一房の黒色はまるで残像のように。そう大きくない総身には、しかしそのレースを走る誰よりも力が籠っていた。

 

 正直なところ、俺は彼女の名前すら把握していなかった。

 トレーナー間での情報共有で、今年の有望なウマ娘の名前は全て把握している。つまるところ、鹿毛の彼女はそこに含まれていない、本命にはなり得ない存在。

 ブラッドスポーツと呼ばれるこの業界で、G1を取るには素養の足りない、寒門の出。

 そうである、はずだった。

 

「……何がブラッドスポーツだよ」

 

 知らず、普段から意識して封じていたはずの口の悪さが出るほどに、彼女は俺の目を惹いて離さない。

 

 ゴールラインをウマ娘たちが走り抜ける。

 鹿毛の彼女の着順は、2着。1着との着差は1バ身。

 つまるところ、彼女はそこそこの余裕を持って負けていた。1着の子は確かに強かったが、流石に今年の目玉だったトウカイテイオー程目を惹くものはない。

 故に、レースを見ていたトレーナーたちは見逃してしまうだろう。

 ……なら、俺がそれを拾っても問題ないはずだ。

 

「君。鹿毛の君」

 

 模擬とはいえレースに負けたというのに、表情を変えることもなくストレッチを始める鹿毛のウマ娘。

 俺は彼女が他のトレーナーに囲まれていないことを確認してから、声をかけた。

 

「……はい」

 

 冷たく青白い光が俺を貫く。強烈な意思のこもった視線だ。

 ……なるほど、感情が表に出ないからわかりにくいが、負けん気はむしろ強いのかもしれない。

 

 中央トレセンは、日本一のトレセン。日本各地にいるウマ娘の、とびっきりの上澄みだけがここに入学できる。

 故に、地元では負け知らずだった子が入学してからは一度も入着できず、酷く落ち込んだり荒れたりする、といったことは頻繁に起こるらしい。

 

 だが、少なくともこの子は、自分の感情を乗りこなしているようだ。

 レースで得た怒りや悔しさを、トレーニングへの熱意に昇華する。それはウマ娘が大成するための条件の1つだ。

 もちろん簡単なことじゃない。入学時点でそれができているというのは、かなりのアドバンテージだと思う。

 ……まぁ、瞳に込められた感情までは隠せないあたり、年相応な幼さを感じなくもないけどね。

 僅かな微笑みを仮面の下にしまい込み、改めて口を開く。

 

「名前を聞いてもいいか」

 

「……はい。ホシノウィルムです」

 

 ?

 ホシノウィルム? 聞いたことないな。

 てっきり俺すら知ってるようなドチャクソ人気のある馬が元になってるのかと思ったけど、そんなこともないのか。

 いや、俺は史実の競馬に詳しくない。多分俺の耳にまで届かなかっただけで、とんでもない功績を残した馬だったことは疑いようがない。

 というのも……。

 

 この鹿毛、もといホシノウィルム。

 とてつもない強さだ。

 

 ステータス。

 スピードはクラシックG1で戦える程に高い。

 賢さはそれに少し劣るが、それでもめちゃくちゃだ。この時点で300を超えてるのはちょっとどうかしてるよ。

 スタミナと根性なんて、菊花どころか春天も十分走り切れる程。

 ……パワーに関しては比較的低いが、それも他の高すぎるステータスと比べるからだ。ジュニアの入学したてで200を超えているのは十分というか、なお高すぎると言えるだろう。

 こんなに初期ステータスが高いってどういうこと? 確か多少は上げることはできても、ここまでぶっ飛んだ数値にはならなかったと思うんだけど。

 

 次に、距離と脚質の適性。

 こっちはステータスに比べればだいぶマイルドというか、一般的なものに見える。……うん、これも「比べれば」、だ。

 芝SダートC、短距離DマイルC中距離A長距離S、逃げS先行B差しD追込G。

 ……えーと、まずはかなり適性が広いことを指摘するべきか。まぁでもそういうウマ娘が他にいないわけではないから、ひとまずそこはいいとして。

 一番ヤバいのは、この時点で適性Sがあること。

 アプリでは、適性を伸ばすには因子継承する必要があった。更に適性Sを作るには、3年間で2回しかない想いの継承で、上げたい適性を引き当てなければいけなかった。

 ……うん、当時はチャンミに出すためにめっちゃ苦労した覚えがある。どれだけステータスが高くても、適性がSに伸びなかった時点でダメだったなあ。

 

 スキル……は、覚えてないっぽいな。

 この世界のスキルは、整った環境でトレーナーの導きの元、その習得に集中してようやく覚えられる代物っぽい。スキルっていうか、特殊な技術と捉えるのがいいかな。

 トレーナーの付かない自主練を繰り返しても覚えられるものじゃない。

 流石にこの子も、そこまで常識外れじゃなかったらしい。……いや、これまでで十分に常識外れではあるんだけども。

 

 最後にコンディション。

 切れ者、愛嬌×、そして……命がけ。

 まず、切れ者は……確か、スキルを得るために必要なスキルポイントが10%減少、だったっけ。これはかなり強いコンディションだった気がする。なんで入学時点で覚えてるの? ……今更か、うん。

 愛嬌×。×は見たことない。もしかしたら俺が離れていた間に追加されたのかな。〇はサポートカードのウマ娘との絆が上がりやすくなる効果だったから、×はその逆かな。この化け物みたいな子にも短所があるのは、ちょっとホッとする。

 そして、命がけ。……こんなコンディションあったか? 俺が覚えてないだけか? 字面からして、あまり良い感じがしないな。効果までは見ることができないのが残念だ。

 

 ……うん。

 総じて、ホシノウィルムは化け物だ。

 高すぎるステータス、広く強い脚質、入学時点で習得しているコンディション。

 はっきり言って、全てのステータスがGからFの新入生たちと走れば、負けようがないと言える。

 

 しかし、直前の模擬レースでの着順は、2着。

 だからこそ、結果しか数値を見ることのできない他のトレーナーは、彼女の超抜的な能力に気付くことができない。

 では何故、模擬レースに負けたのか。

 俺には、というか俺にだけは、その理由がわかる。

 

「ホシノウィルム。何故マイルで、それも差しで走った」

 

 そう、この鹿毛。

 よりにもよってマイルのレースに出て、差しで走ったのだ。

 ホシノウィルムのマイル適性はC、差し適性はD。

 その上、彼女には唯一、パワーが欠けている。後方から追い上げるための末脚、その加速を担う部分が足りていない。

 ただでさえ短距離からマイルは、差しや追い込みが十全に力を発揮するには距離が短すぎるのだ。

 その上後半からスパートをかけようにも加速力が足りず、囲まれたバ群を抜け出すだけのパワーもない。これ以上ない程に負け戦だ。

 それでもなおステータスの暴力で抜け出して、何人ものウマ娘を追い抜いて。

 適性外の距離と脚質で、この鹿毛は、2着までのし上がったのである。

 

 ……いやなんだその負け筋だらけの作戦!?

 

 模擬レースは、非常に大事なイベントだ。

 現に今、1着を取ったウマ娘は何人かのトレーナーにスカウトを受けている。3着の子にも1人トレーナーが付いているようだ。

 一方ホシノウィルムは、差しで走ってステータスのごり押しで入着。早熟ではあるものの、末脚に光るものがないと判断されたのだろう、俺以外のトレーナーは近寄って来なかった。

 トレーナーが付かなければ、基本的に公式のレースには出走できない。名前だけ借りるといった抜け道もあるが、それはそれとして。

 ウマ娘にとって、トレーナーからスカウトを受けるというのは、それはもうスーパーデカデカアドバンテージなのだ。

 彼女は、ホシノウィルムはそれをなげうった。苦手な距離、苦手な脚質で走ることによって、負けて。

 

 何故だ? レースで勝ちたい、というのはウマ娘共通の本能だろう。彼女はその衝動が薄いのだろうか。

 

 興味深く思い観察する俺に対し、彼女は臆することもなく冷たい視線を投げ返してくる。

 そして、少しだけ黙り込んだ後、答えた。

 

「マイルの時間が、一番近かったので」

 

 …………??

 時間が一番近い? ってなんだ?

 いや、解釈しようと思えばできなくはないよ?

 今日の模擬レースは、芝の短距離から中距離に、順番に開かれている。

 午前は短距離、正午あたりにマイル、そして昼下がりに中距離といった具合。

 コースの調整とか整備を行う必要があるので、何時間か間隔があるわけだ。

 

 つまるところ、彼女の言葉を素直に解釈するとすれば、こういうことになる。

 「正直どの距離に出るとかどうでもよかったけど、マイルレースの時間が一番都合が良かったので出た」。

 ……えっと、そんな雑に決めることある?

 一応ウマ娘としての将来をかけた最初の一歩だよ?

 

 いや……あるいは。

 もしかしたら、彼女は負けることを想定していなかったのかもしれない。

 彼女ほどの力を持つウマ娘だ、きっと地元では負けなしだっただろう。

 だから自分が敗北することなど想定もせず、てきとうな距離を選んだ、とか。

 だとすれば、井の中の蛙だ。……それも、だいぶ無知な。

 

 この天賦の才を持つウマ娘、どうにも測りかねるな。

 むむ、と考え込んでいた俺に、彼女は更に告げた。

 

「作戦は、これ以外、したことがなかったので」

 

 いやそんなことある???

 こんな純正の逃げウマ娘が、差ししかしたことない?

 確か、ウマ娘は自身に宿ったウマソウルなるものに基づいて、自然と最適な走り方を身に付けるという話じゃなかったか。いや、あれは走法の話だったか?

 そうじゃなくても、後方からでは足が伸びないと気付けなかったのか?

 個人差……? 例外……? どういうことなんだ?

 

 いや、待て。何のために彼女に声をかけたんだ俺は。

 困惑は、今は置いておこう。後で解決すればいいんだそんなもの。

 この学園のトレーナーである俺が、将来有望なウマ娘に対して、今やるべきことは1つだ。

 そして模擬レースに出た以上、彼女が望むこともただ1つ。

 

 ある意味。

 全ては運命だったのかもしれない。

 ウマ娘のステータスを覗くことのできる「アプリ転生」を持つ俺と、自分の真価を理解していない大輪の蕾。

 これ以上完璧な組み合わせもない。

 俺とホシノウィルムは、出会うべくして出会い、そしてこれから、トゥウィンクルシリーズを駆け抜けるのだ。

 

 

 

「ホシノウィルム。俺をトレーナーにしてみないか。俺が君を、トゥインクルの舞台へ連れて行こう」

「すみません、お断りします」

 

 なんで?????????

 

 

 

 * * *

 

 

 

 その日の夜。

 俺は一人で散歩しながら、肩を落としていた。

 ……なんでこんなにスカウト失敗するんだろうか。やっぱりなんか、ウマ娘から見て嫌すぎる何かがあるのだろうか。

 取り敢えず制汗剤と香水は買ったから、届き次第使ってみよう。それでもフラれたら、ちょっと立ち直れないかもしれないけども。

 

「……経験、か」

 

 あるいは、経験不足をウマ娘たちに悟られているのかもしれない。

 俺には担当を持った経験がない。それどころか、サブトレーナーや教官としての経験もない。

 やはり、しっかりとそこを踏んでから来るべきだったか。

 

 

 

 ……俺が落ち込んでいるのは、理想と現実に落差があったから。

 早く担当を持ちたい、というか早く持って父を安心させたいという想いと……ぶっちゃけ「アプリ転生」があればどうとでもなるという慢心があったのだ。

 

 「アプリ転生」はとんでもない力だ。

 並みの経験あるトレーナーより、あるいは俺の方が上手くウマ娘を導けるかもしれない程に。

 けれど、それは万能というわけじゃない。現にこうして、育成すら始められずに詰まってしまっている。

 今一度、気を引き締めないとな。

 

 

 

「……ん?」

 

 この世界の道は、歩道と車道、それからウマ娘専用レーンに分けられている。

 俺の目は、向かいのウマ娘レーンから走って来る人影を捉えた。

 思わず眉をひそめる。

 もう夜は更けつつある。とてもじゃないが、学生が出歩く時間帯ではない。

 もしかすると特別に許可を取っている可能性はあるが、一応教職員として声をかけた方がいいか。

 

「おい、君……君ッ、止まれ!」

 

 声が荒れるのがわかった。

 でも、それも仕方がないと思う。

 何故なら、彼女が近づくにつれ、俺の目には1つの情報が映ったからだ。

 

 【失敗率:59%】

 

 それは、彼女がこれからアクシデントを起こし、あるいは……故障するかもしれない可能性を示している。

 

 

 

 俺には、尊敬する父が2人いる。

 前世の、豪放磊落でどんな間違いも拳骨1発で許してくれた父。

 そして今世の、質実剛健でトレーナーとしての道を示してくれた父。

 

『いいか、G1で勝てとは言わん。重賞で勝てとも言わん。

 お前はただ、ウマ娘に寄り添う人間であれ。

 そして同時、彼女を導く灯であれ。

 それが堀野家の、理想とするトレーナーである』

 

 今世の父の言葉は、今でも俺の心に焼き付いている。

 

『勝てなくてもいい。ただ担当の思うように走れればそれでいい。

 名誉も金銭も不要。ただいつの日か、担当が現役時代を思い出して笑えるようにあれ。

 ……そして同時に、それらを最優先にしながら、勝たせろ』

 

 俺のトレーナーとしての基礎を築いた、いくつもの金言。

 人生2回目だからわかる。あの人がどれだけすごい人で、どれだけ俺に期待を寄せてくれているのか。

 そしてそれらが、どれだけ得難いものであるか。

 

 だから、俺は堀野の家に恥じないトレーナーであり続ける。

 

 

 

「君、トレーナーは付いているのか! 自主練とすれば度が過ぎているぞ! 今すぐ走るのをやめて寮に戻れ!」

 

 怒鳴るように言って、夜の暗闇の中で立ち止まったウマ娘に駆け寄る。

 

 ……正直なところ。

 俺が彼女の正体に気付かなかったのは、夜の視認性の悪さもあるが、何より不注意だった。

 自分のことばかり考えて、前すらよく見れていなかった。

 担当も付かないようじゃ父を不安にするだけだ、とか。そんな自分の都合ばかりに振り回される俺は、やはりまだ未熟なのだろう。

 

 ……そして、今、目の前に。

 もう一人の未熟者がいる。

 

 びっしょりと汗に濡れて垂れ下がった鹿毛。一房だけの、涙を流すかのような黒鹿毛。小さな体からは、立ち止まった今もなお、汗と湯気が止まらない。

 その姿は、今日の午前中に見たそれと同じとは思えないほど、憔悴していた。

 

「……ホシノウィルム」

「…………」

 

 名前を呼んでも、答えない。

 肩が上下する。足が震えている。そして視線は縫い付けられたように足元に。

 ……今日の午前中は、はっきりと俺を見つめ返してきたのに。

 

 彼女は、明らかに平静ではない。

 今日の結果がショックだったのだろうか。あるいはその後何かあったか。

 いや、違う。今考えるべきはそこではない。

 深呼吸しろ。正しい堀野のトレーナーであれ。

 まだ担当トレーナーのいない落ち込んだウマ娘に、トレーナーとしてかけるべき言葉は。

 

「ホシノウィルム、既に寮の門限は過ぎている。更に言えば、学生がこの時間に出歩くことは風紀的な問題もある。

 何より、今、君は既に限界を超えている。これ以上は事故の危険性もある。

 寮まで送るので、付いて来るように。処罰は寮長に任せるとしよう」

 

 理路整然。あるいは人の心を考慮しない冷たい言い方。

 今はとにかく、彼女の中の熱を冷まさなければならない。それが俺への怒気という形で発散されたとしても、それならそれでいい。

 怒れ、ホシノウィルム。大事な事情を見ない大人に、怒りをぶつけろ。

 怒りは隙でもある。心を閉ざした状態よりも、よほど説得は楽になる。

 

 しかし。

 俺の予想に反して、彼女は怒らなかった。

 

「……ごめんなさい、帰ることは、できません。まだ、私、速くならなきゃ、いけないので」

 

 自分が悪いことをしているという自覚はあるな。そして感情のままに当たり散らさない分別もあるらしい。

 けれど、そこには理屈が通っていない。

 

「今の君が走っても、徒に体力と健康を害するだけだ。

 速くなりたいのなら、君の走り方を見つけろ。そして何より、君の真価を理解できるトレーナーを見つけろ」

 

 事故率59%。

 勿論、成功すれば……つまり何も事故が起こらなければ、それでいい。

 けれどそんなものは結果論だ。彼女の足は10回に6回の確率で事故を起こし、下手をすれば選手生命を縮めることになる。

 

 アプリで、ゲームとしてなら、もしかしたら59%を踏むこともあったかもしれない。

 友情トレーニングが3つとか発生するのなら、41%で引ける上振れを目指すこともあるかもしれない。

 

 でも、ここはもう、俺にとっての現実だ。

 尊敬できる父と、信頼できる母。少し過保護だが親しくしてくれた兄と、ぶっきらぼうながら後を追うと言ってくれた妹。

 俺は大事な家族のいるこの世界に根付いて、確かに生きている。

 そんな世界の中の、俺の手の届く範囲で、故障して絶望するウマ娘なんてものはあってはならない。

 

「行くぞ、ホシノウィルム」

 

 彼女に背を向けて歩き出す。

 ……けれど、続く足音がない。

 彼女は逃げることもしないけれど、付いて来ることもない。

 ひとまず逃げられるという最悪の未来は来なかったことに安堵しつつ、少し怖い顔を作って振り向いた。

 

「どうした」

「……私は、勝たなきゃいけないんです」

「理解している。その上で、君を担当しているわけではないとしても、トレーナーとして言おう。

 勝ちたいのなら、帰れ」

 

 彼女は一瞬、視線を下に落とす。

 そして再び見えた彼女の色素の薄い目は、強い意思を宿していた。

 

「言って、いましたよね。私を連れていく、と。

 あなたなら、私を勝たせてくれますか」

「勝たせる。君にはそれだけの力がある」

 

 即答。

 疑うべくもない。彼女には重賞どころかG1、あるいはクラシック三冠を取るだけの……いいや、それよりもなお、遥かに余りある素養がある。

 迷いなく逃げを選ばせる俺なら、彼女を勝たせることは簡単だろう。

 ……もちろん、彼女が担当になっていれば、の話なのだが。

 

 彼女は、視線を俺から離さず、ゆっくりとその右手を胸に当てた。

 

「私は、勝つためなら命を懸けます。私の命を使う覚悟は、あなたにありますか」

 

 それが、「命がけ」か。

 彼女の体力は、ほぼ完全に削れ切っている。午前中に会った時にはそう減ってもいなかったのに。

 あれからずっと自主トレを続けていたのだろう。

 ……舐めていたな。彼女の負けん気は想定以上だ。

 自分を苛め抜く克己心と、敗北を次に繋げる根性。

 その飛びぬけた素養も合わせ、やはり彼女は頂点に立つべきウマ娘だ。

 

 そして俺は、相手がどのようなウマ娘であれ、変わらない。

 堀野のトレーナーとして、自らを全うするのみ。

 

「君の望みなら。

 ……勿論、浪費させはしないが」

 

 それを聞いて、彼女は一歩踏み出し、手を差し出す。

 

 白く大きな月が見降ろす中。

 見上げてくる瞳を、俺は一生忘れることができないだろう。

 

 

 

「あなたに私の命を差し上げます。

 ……よろしくお願いします、私の、トレーナー」

 

 

 

 冷たい瞳は、今、確かな熱を帯びていた。

 

 

 

 

 

 

 ……め、めっちゃカッコいい……!

 それは思わずシリアスが吹っ飛ぶほどの衝撃だった。

 『あなたに私の命を差し上げます』……なんてカッコいい言葉なんだ……!

 ホシノウィルムは比較的小柄でありながら、温度の低い反応や表情が変わらないこともあり、どこか幻想的な美しさを保っている。

 そんな美少女が、『あなたに私の命を差し上げます』……!

 くうぅ、シビれるぜオイ!

 

「……トレーナー?」

「あ、あぁ、悪い。どうにも話の流れが読めないものだから、少し驚いてしまった」

 

 危ない危ない、思わず素が出てしまうところだった。

 俺は生来抜けているところがあり、父や兄にもよく指摘されていた。妹には馬鹿にされていた。

 堀野のトレーナーとして相応しくないから、いつもは仮面を被っているのだが……彼女のカッコいい台詞を前に、剝がれかけてしまった。

 仮面が剥げかけたのは、先週クレープを食べて衝撃を受けた時以来だ。あれ、めっちゃ美味しかったなぁ。

 

 よし、俺も何か言い返さなければ!

 こんなカッコいい言葉をもらったからには、こちらもお返しするのが礼儀というもの。

 雰囲気を壊さない、そして同時に彼女への返答になる、何よりカッコいい言葉……!

 考える時間はない。必死に頭を回しながら口を開いた。

 

 

 

「……いいだろう。君の魂を、誰よりも速く、誰よりも輝かしく導こう。

 よろしく頼む、俺の、担当ウマ娘」

 

 

 

 ……うーん、やっぱ俺、こういうセンスないんだよな。

 『命を差し上げます』ほどの、短くまとまりながらパワーのある言葉は作れなかった。

 だから精一杯、頑張って支えるという想いを込めて。

 

 

 

 差し出された手を握る。

 冷たく、けれどその芯は熱く、何より小さい子供の手だった。

 

 

 




堀野君は元々かなりライトなオタクなので、転生とか信じられないって感じ。

3、4日くらいで次話投稿予定。
次回はホシノウィルム視点になります。


(追記)
 誤字報告をいただきました。ありがとうございます!
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