転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 1時間程お遅刻申し上げました。
 命の火時計壊したり、天皇賞がまさかの展開になったりで、だいぶ進捗が遅れちゃいました。申し訳ない。
 GW中は4日に1度の投稿になっちゃうかもしれません。





はたらく最強

 

 

 

 お仕事。

 

 ……嫌な響きだなぁ、これ。

 

 いや、誤解なきよう言っておくと、お仕事自体はとても良いことだと思うんだよ。

 勤労は日本の三大義務の1つだし、誰かが満たされた生活を送るために必要な価値を生む行動だもの。それはすごく尊いものだと思う。

 

 ……思う、んだけども。

 元半引きこもりのオタクからすると、やっぱり労働って良いイメージないんだよなぁ……。

 

 いやまぁ、偏見が入ってる部分はあると思う。

 私、記憶が正しいなら、前世は大学生の頃に死んだんだと思う。

 だから、正規雇用って意味では、ちゃんと働いたことはないんだ。

 精々、ちょっとコンビニでアルバイトした程度で、それも半年も続かなかったんだけど。

 

 けど、その半年で十分すぎるくらいに痛感した。

 労働は、クソ。

 覚える事多いし、足は張るし、心は辛いし、正直二度とやりたくないね。

 

 

 

 ……とはいっても。

 あのバイトが辛かったのは「ただお金を得るための行動だったから」という側面もある。

 環境が変わり、他にモチベーションが生まれれば、そりゃあ心持ちも変わるというもので。

 

「トレーナー、最近露出少なかったですし、何かファンの皆に届きやすい仕事、ありませんか?」

 

 転生した私は、そんなことを自分から言い出すようになったのだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 競走ウマ娘の言う「お仕事」とは、アスリート的な側面のものではなく、アイドル的な側面でのものを指すことが多い。

 

 私たちは学生でありアスリート、本業はあくまで、学ぶことと走ることの2つだ。

 けれど同時、一様に可愛い容姿をしているプロのアスリートともなれば、当然ながらアイドル的な人気も出て来る。

 それが重賞、特にG1で勝つようなウマ娘ともなるとなおのこと。

 

 そんなわけで、私たちG1ウマ娘の下には、多くのお仕事の依頼が来る。

 その内容は、取材やインタビューの申し込みから、トークショーやらバラエティ番組の出演、何かしらの商品とのタイアップにPRもあれば、ファッションモデルになってほしいとか歌ってほしいとか語ってほしいとかもあるし、時にはURA公式から次回レースやトゥインクルシリーズの広告を撮りたいって話が来ることもある……って聞いた。

 

 正直この辺、私の下まで降りて来る依頼は少ないから、あんまり詳しくはわかんないんだよね。

 

 こういうお仕事の依頼は、まずクライアントがトレセン学園に依頼を入れて、それが事務室で整理された後、対象のウマ娘の契約トレーナーの下に伝達されるシステムらしい。

 この際、筋の通っていないものやあまりにも論外なものは事務室の段階で弾かれるんだけど……私やブルボンちゃんの場合は、更に歩さんの厳しい検閲を通ることになる。

 

 二代目無敗三冠ウマ娘となると、そりゃもうとんでもない量の依頼が来る。

 歩さん曰く、それは「全部引き受けようとすれば君が100人は必要になる」程なんだとか。

 故に、その中でも条件と扱いが良く、なおかつ安全なものを歩さんが厳選し、そのごく一部だけが私の耳に届けられるわけだ。

 

 正直、一時期は「報酬とか待遇で受ける依頼を選ぶのはどうだろ」と思ってたんだけど……。

 それを歩さんに告げると、「気持ちはわかるが、君の時間は有限で貴重な資源だ。自分を安売りするのは良くない」と諭された。

 なんとなく、お金で行動の指針を変えるのは卑しいようなイメージがあったけど、「示された値段は直接的に君の評価に繋がっている。下げていいことはないぞ」と言われてしまうと……確かにそれもそうかと納得してしまった。

 

 

 

 正直、2年前の私からは想像もできないことだけど、今の私はお金には困ってない。

 

 この世界じゃ前世のそれとは違い、レース自体にはお金が発生しない決まりだ。

 でも物販やウイニングライブの出演料は確かに発生するので、競走ウマ娘はかなり儲かる。勿論勝てさえすれば、だけども。

 

 そんなわけで、かなり勝てている私は、ちょっと現実味がないくらいの報酬を受け取っている。

 この前歩さんに通帳見せてもらった時は、いよいよ残高が10桁を超えてて気絶しかけたくらいだった。ちなみに奨学金とか借金を全部返して税を払っても桁は変わらないらしい。どうなってんだこれ。

 現時点でも、そこそこの暮らしをしても一生じゃ使い切れないくらいの貯金だ。日本が破綻でもしない限り、将来はまずまず安泰といったところ。

 

 そういう意味では、今の私、転生チートで人生イージーモードである。

 ありがとう「アニメ転生」。いつも助けられてます。

 

 

 

 さて、そんな私だからこそ、正直に言うとこれらのお仕事に報酬の量を求めてはいない。

 ……というか、依頼されるお仕事を100回受けても、G1に勝った時の収入に勝てないんだもん。

 走って得られる快感も加味すれば、このお仕事っていうのは、とんでもなくコスパが悪いと言っていい。

 

 でも、報酬だけが全てじゃない。公式レースでは得られない大きなアドバンテージもあるんだ。

 私がお仕事に求めているのは、ひとえにファンの皆に姿を見せること。

 いわゆる露出を増やすことである。

 

 競走ウマ娘にとってのお仕事は、数か月に一度出る公式レースや、一部の公開トレーニング、年に2度のファン感謝祭を除けば、公式にファンの前に出ることのできる数少ない機会でもあるんだ。

 去年からファンの皆のありがたさを痛感している私にとって、皆の期待に応えるのはすごく大事なことになっている。

 流石に走ることやレースそのものよりも優先するって程ではないというか、そこまで行くと本末転倒になってしまうと思うけど……それに差し障らない範囲で、できるだけ皆の期待に応えたい。

 

 だから、新年やバレンタインといったイベントが終わったら、改めて皆の前に出られるお仕事にも精を出そうと思ったわけだ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さて、それから1か月弱。

 

 私がオーケーを出したら、とんとん拍子で話が通ったらしく……。

 私は久々のお仕事に取り組むことになった。

 

 本日のお仕事は、URAからの依頼……という形になっている、ネイチャのトレーナーさんが立ち上げた企画への参加。

 

 果たして、その内容は……。

 私史上何度目かの、生配信の出演だった。

 

 

 

「画面の前の皆、おいっす~、ナイスネイチャでーす。元気してたか~? ネイチャさんのお喋りタイム、今週も来てくれてありがとね~」

 

 そう言って、視線の先にいたネイチャは、カメラに向かって笑顔でヒラヒラと手を振る。

 

 ……おぉ、ネイチャってこういう時ちょっと照れがちな印象あるんだけど、今は全然動揺してない。

 流石、慣れてるなー。もう1か月くらい続けてるだけあるよ。

 

 ちらりと手元のスマホに目を落とすと、結構な勢いでだばーっとコメントが流れてる。

 

 

 

『おいっすー』

『おいっすー』

『今週の生きがい』

『おいっすー』

『無理せず毎秒配信しろ』

『おいっすー』

 

 

 

 カメラの横に設置されてるモニターで、自分の映りを確認しつつコメント欄を追っていたネイチャは、すぐにアハハと苦笑した。

 

「お、『無理せず毎秒配信しろ』だって。いやどっちよ。配信って結構疲れるんだからねー?

 時には公式レースくらいへとへとになったり? ……いや、それは流石に言い過ぎか、たはは」

 

 

 

 ネイチャさんのお喋りタイム。

 そう題されるこれは、毎週土曜の午後3時に行われている、いわゆる雑談配信だ。

 

 これが始まったのはおおよそ1か月前、ネイチャが脚部不安を起こした少し後。

 人気商売なところもあるウマ娘にとって、長期間公式レースに出走できず、話題性がなくなってしまう……世間から忘れられてしまうのは、時に致命的になり得る。

 だから、ネイチャのトレーナーさんは、ネイチャの露出を増やすための企画を立ち上げた。

 

 ちょっと前にネイチャがゲストに出たラジオ番組や、去年の三星によるPR配信などに着想を得た、週1間隔、2時間の生配信。

 特に何かを話すっていうんじゃなく、ただ最近あったこととかちょっと前のレースの話をしながら、コメントに反応して受け答えする、というもの。

 

 シンプルな企画だけど、ネイチャの人気や人当たりの良さもあって、企画は好調。

 最初こそネイチャの脚部不安を心配する声で若干荒れかけたこともあったんだけど、今はかなり良い雰囲気の配信を作っているのであった。

 

 ちなみに、私も初回から毎週追っかけてたりする。

 そこまで画面を見る必要のない、半分ラジオみたいな配信なので、よく走りながらイヤホンで聞いてる。良い自主トレのお供って感じ。

 

 つまるところ、私はこの配信のリスナーの1人なんだけど……。

 今回はリスナーの立場ではなく、参加する側に回る必要が出てきたわけだ。

 

「うし、それじゃそろそろ呼んじゃおうかな。なんと、今回はゲストがいまーす!」

 

 

 

『ゲスト?』

『これゲストとか呼ぶタイプの企画なんか』

『三星だったりする?』

『むんちゃん!?』

『体調不良で休養中のターボか』

『誰だ? もしかしてトレーナーだったり?』

 

 

 

 ネイチャのコメント欄に、コメントが沸き立つ。

 私はそこまで見て、トレーナーにスマホを渡し、一度まぶたを閉じて深呼吸。

 

 正直、ミスの許されない生配信に緊張してるところはあるけど……。

 大丈夫。これでも、仮面を被るのは得意技だ。

 気合入れて、行こう。

 

 

 

「それじゃ……おーいウィルさんや、こっちおいでー」

 

 あくまで軽いテンションで呼びかけて来るネイチャに、「はーい」と答えて歩み寄る。

 で、彼女の隣に座ると、カメラに向かって軽く頭を下げた。

 

「お邪魔します、皆さん。競走ウマ娘、ホシノウィルムと申します」

「はい、そんなわけで、皆さんご存知灰の龍こと、ウィルに来てもらいましたー。ぱちぱちぱちー」

 

 頭を上げて、カメラの横のモニターを見ると……。

 コメント欄は、とんでもない速さで下から上に流れていた。

 

 

 

『うわマジか!?』

『おおおおおおおおおお』

『龍お前神出鬼没すぎるだろホントお前!』

『私服の龍とか激レアも激レアじゃん! クールでいいね!』

『唐突な無敗三冠登場』

 

 

 

 ……うん、反応は上々かな。

 

 カメラ横のモニターに流れるコメントの勢いは、結構なものだ。

 勿論、困惑する声もないわけではないだろうけど、それを越える圧倒的な量の歓迎の声に押し流されてるって感じ。

 まぁ私、G1ウマ娘の中では露出少ない方らしいからね。サプライズなのもあって、皆結構驚いてくれてるみたいだ。

 

 とはいえ、あんまり調子に乗り過ぎないようにしないとな。

 今回は、3人で放送を作っていた前回の生配信と違って、私がネイチャの作った空間にお邪魔する形だ。

 出しゃばりすぎないように、なおかつちゃんと私の色を出せるよう、うまーく立ち回らないとね。

 

 そんな風に気合を入れていると、ホストであるネイチャは軽く私の方を向いて、視聴者さんに紹介してくれる。

 

「一応知らない人のために解説すると、ウィル……ホシノウィルムは、アタシと同期のウマ娘ね。アタシの友達で、三星って呼ばれてるメンツの1人で……それと、ライバルでもある、かな」

 

 

 

『知らない人……?』

『ネイチャのファンでウィルム知らないヤツっておるんか? ホントにシンザンな人?』

『ライバルだけど直接の対戦経験は少ない』

『三星の友達だけどライバル感ほんとすき』

『早くまた走ってネイチャ』

 

 

 

 おぉ、思いの外知られてるね。

 ここはあくまでネイチャの配信だし、私のこと知らない人多くてもおかしくないな、って思ってたんだけど……それはともかく、ボケにはツッコまなきゃだ。

 

「そんな、ネイチャ……」

「あ、いや、ライバルってのは言い過ぎかもしれないけど……」

「友達じゃなくて、『親友』ですよね?」

「そっち!? ……いやまぁ、確かに親友だと思ってるけどさ」

「ネイチャそういうとこ、結構奥手というか、怖がりですよね。最初から親友って言えばいいのに」

「だ、だって、相手はそう思ってなかったらーって思っちゃうじゃん?」

「気持ちはわかりますけど、そこはしっかり言葉にしないと」

「むぅー……そういうの、なかなか難しくない? 視聴者さんたちもわかるでしょー?」

 

 

 

『芝』

『ネイチャさんさぁ……』

『やっぱ仲良いね君たち』

『ウィル×ネイ……アリだな』

『わかる』

『あるある』

『俺はネイチャのこと彼女だと思ってるけどネイチャはどうかわからんしな』

 

 

 

 流石ネイチャも慣れてるっていうか、私の振った話題を上手く拾い上げて話を続けてくれた。

 

 こういうの、百合営業ではないけども、ある程度仲が良いんだと理解してもらった方がいいからね。

 この配信は、あくまでもネイチャの雑談配信。コメントじゃ「ホシノウィルムのこと知らないヤツおるんか?」なんて言われてるけど、多分何割かは私のことを殆ど知らないはずだ。

 そういう人にとって、「ネイチャと親しい」っていうのは、かなり良いファーストインプレッションになるはず。

 これからの配信の空気とか考えても、そうしてイメージを作っていくのは大事だと思う。

 ……勿論、別に営業でも何でもなく、ネイチャのことは本心から親友だと思ってるんだけどさ。

 

 で、ネイチャはそういうあれこれをしっかり理解した上で私の話題に乗り、自分と視聴者さんの空気感を崩すことなく、自然と話題を繋げたわけだ。

 

 なんというか、流石はネイチャって感じ。

 どうすれば喜んでもらえるか、どうすればもっと人気が出るかをよく考えてるし、しっかり身に付いてるように感じる。

 

 私も足を引っ張らないよう、気を付けないとな。

 ある程度知識はあるし、どう立ち回ればいいか察しは付くとはいえ、私は生放送の経験は何度かしかない素人だもの。

 ネイチャに迷惑をかけないよう、細心の注意を払わなければ。

 

「そんなわけで、今日はウィルと2時間くらい、ゆるーく雑談していきまーす」

「わーぱちぱち」

「ウィルも今日はいい感じに緩いねー。……あ、そうだそうだ。アタシもしゲストさん呼ぶってなったらやろうと思ってたことがあってさ。祝すべき初回ゲストのウィルにも、一緒にやってほしいんだけど」

「ほう、なんでしょう」

「互いに互いを知った経緯とか、最初の印象とか話せたらなーって。その辺ってあんまりファンの人たちにまでは届かないじゃん?」

「あ、確かに。それいいですね」

 

 私たちウマ娘は、普通の……ではないかもしれないけど、学生だ。

 故に普段から、誰かと友達になったり、あるいはちょっと距離が離れたりと、そういった交友関係の変化は枚挙にいとまがない。

 

 ……が、ファンの皆は、私たちのアスリート面やアイドル面しかご存じない。

 そうなると当然、私たちの関係の発端って、なかなかわかんなかったりするんだ。

 

 とはいえ、そういうのを改めて話す機会って、実は結構少ないんだよね。それこそお仕事を受けて、2人で対談する時くらいかな?

 なので、こういうちょっと緩い場で話しとくっていうのは、ファンサービスとしてはかなり良いかもしれない。

 

 ……ネイチャ、「やりたいと思ってた」なんて言うけど、実際は色々考えてたんだろうな。

 流石は星の世代の軍師殿。こういう作戦を考えることにおいては超一級だ。

 

 

 

『気になる!』

『割と初期から仲良かったよね』

『そういえば聞いたことないか』

『尊みエピソード追加ありがとうございます』

 

 

 

 コメントの方でも、多くの声がこの話題を歓迎してくれてる。

 うん、ネイチャの話題選びは正しい。

 

 ……問題は、私がこれにどう答えるか、だな。

 

 まさか「ネイチャのことは前世から知ってました」なんて赤裸々に語るわけにもいかない。

 いきなりそんなこと言い出したらとんだ電波キャラだもの。また歩さんの頭を悩ませてしまう。

 

 となると……どう答えるのがいいだろう。

 嘘を吐かないよう、けれど真実を伝え過ぎないよう、気を付けなければ。

 

 そう考えていた私の横で、「じゃ、まずはアタシから」とネイチャが語り出す。

 

「アタシがウィルのことをちゃんと知ったのは、それこそウィルが選抜レースを走った頃かな。

 ウィルは知らないかもしれないけどさ、あの頃は『もしかしたらテイオー一強を崩せるかもしれないウマ娘が現れた』って、トレセンでも結構噂になってたんだよ?」

「え、そうなんですか。知りませんでしたね」

「ま、そうだろうね。あの頃のアンタ、評価とか気にしてなさそうだったし」

「で、どんな印象だったんです?」

「……すごい子だな、って思ったよ。とてもじゃないけどアタシじゃ勝てない、とんでもない天才なんだろうな、って」

「へぇ……そんな風に見えてたんですね」

 

 

 

『まだウィルムもあんまり話題になってなかった頃ね』

『ネイチャ、親友だしライバルだし最古参のファンでもあるのか』

『俺より古参じゃん』

『すごい子(メイクデビュー17バ身差の圧勝)』

『ネイチャも大概すごいと思うんですけどそれは……』

『まぁ、そうなるな』

 

 

 

「ま、付き合っていくうちに『あれ? この子なんか……ちょっと……』ってなったんだけどさ」

「ちょっとって何ですかちょっとって」

「ちょっとポンコツ」

「ひどい」

 

 

 

『芝』

『芝』

『ち ょ っ と ポ ン コ ツ』

『灰の龍をポンコツ呼ばわりできるのネイチャくらいでは?』

 

 

 

 私、そんなポンコツかなぁ……。正直、何事もそつなくこなせるタイプだと思うんだけど。

 ……あぁ、いや、走りへの自制心って意味なら、ちょっとばかし問題があるかもしれないけども。

 

「ウィルの方は? いつアタシのこと知ったの?」

 

 そう訊かれて、私は脳内で整理してたことを、ゆっくりと語り出す。

 

「うーん……私の場合は、知った、というか……。

 ネイチャ、覚えてます? 一番最初に、私たち2人で模擬レースした時」

「勿論。アタシのトレーナーさんがそっちに話付けてくれたヤツね。最初に会ったのってあの時だよね?」

「そう、あの時です。……実は私、あの時まで、同期の子の顔とか全然覚えてなかったんですよ」

「えぇ……嘘でしょ」

「それが本当なんですねぇ。あの頃はまだ、ちょっと外に目を向ける余裕がなくて」

 

 

 

『今日有用な情報落ち過ぎでしょ』

『これアーカイブ残る? 残して♡』

『この2人のジュニア級の頃の模擬レースか、見たかったなぁ』

『灰の龍、まさかのコミュ障……?』

『あぁ……ご家族の件』

『事情が重いって』

 

 

 

 あ、やば、ちょっと重い話を連想させちゃった。

 急いで方向転換しなきゃだ。

 

「まぁそんな調子で、1人で走ってた私なんですけど、ネイチャを見て『この子だ!』って思いまして。

 ネイチャなら私と一緒に走ってくれる、ネイチャなら私とライバルになってくれる……って。今思うと、そう感じたのかもしれないですね」

「え、えぇ……? いや、アタシが……?」

「実際、ネイチャは私のライバルに、親友になってくれたじゃないですか。やっぱりあの直感は正しかったんですよ。

 その後ネイチャとの合同トレーニングを切り出したのは、我ながら良い判断でした」

「あぅ……うん、まぁ、お気に召しましたら何よりなんだけどさ……」

 

 

 

『運命……ってコト!?』

『やっぱウィル×ネイなんだよなぁ……』

『ウィルム、案外ガンガンいこうぜなんだ』

『かわいい』

『照れてるネイチャ可愛い』

『契約トレーナーの次くらいにネイチャの素質見抜いてそう』

 

 

 

「お、『トレーナーの次に素質見抜いてそう』ですって。私、ネイチャのファンとしてはかなり古参な自信ありますからね。メイクデビュー前から見てますし」

「い、いや、ウィル、もうその辺りでいいから……」

「お、照れちゃってるんですかネイチャ? 可愛いですねぇ」

「……ウィル」

「え? あの、ネイチャ、ちょっと顔怖いですよ?」

「アンタさぁ……この前の誕生日……」

「ちょっとネイチャそれはズルですよ!?」

 

 

 

『マジの最古参じゃん』

『ライバルで親友で最古参ファン、尊すぎか……?』

『かわいい』

『照れてるねーちゃんが一番かわいい』

『ん?』

『誕生日?』

『その話詳しく』

『誕生日、一体何があったんだ……!?』

 

 

 

 

 

 

 ……その後も私とネイチャは、過去を振り返ったり、この前やっちゃったたわいない失敗だとか、学校の成績だとか、最近気に入っているスイーツだとか、色んなことを話して……。

 そうこうしている内に、2時間という時間は、飛ぶように過ぎて行った。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「それじゃみんな、今週もだらーっとした雑談に付き合ってくれてありがとー。来週も来てくれたらネイチャさん嬉しいですよーってことで。

 それじゃここらで、またねー」

「またねー」

 

 

 

 そう言って、2人でぷらぷらとカメラに向かって手を振る。

 

 ……すぐにカメラの裏側にいたネイチャのトレーナーさんが動いてくれて、しっかりと画面を確認した後、両手で大きく「(まる)」のマークを作った。

 確かに配信が終わったことを意味する動作。それを見て、私は肩の力を抜いた。

 

「ふぅ……楽しかったけど、疲れましたね……」

 

 いやぁ、いつもと違う集中してたから、ちょっとへとへとだ……。

 やっぱ生配信って体力使うよね。こうしてやる側に回ってみると、前世で声優さんがやってた公式生放送とか、どれだけ頑張ってたかが骨身に沁みてわかるよ。

 あと、長時間配信やってる人はちょっとおかしいんじゃないかな。どんなスタミナしてんの? あ、もしかしてスプリンターの子がステイヤー見る時ってこんな気分なのかなぁ。

 

 疲労で思わず俯いちゃった私に、横にいたネイチャが声をかけてくれる。

 

「あはは、お疲れ、ウィル。今日はウィルがいたおかげでだいぶ楽だったよ」

「そうですか……? 正直、ところどころミスしたなーって、ちょっと申し訳なかったんですが」

「え、失敗?」

「ちょっと声が上ずっちゃったり、気持ちが入りきらなかったり、あとちょっと雰囲気重くなりかけたりしちゃって」

「いやいやいや、そんなの普通だからね?! ウィル、ちゃんとすぐにカバーできてたじゃん! アタシから見ても十分以上によくできてたって!」

「そうですかね……」

 

 いや、実際のところどうだろう。自信ないなぁ……。

 頑張ってはいたけど、今回の仕事は完璧とは言えなかったと思う。反省すべき部分はたくさんあった。

 まぁクライアントには満足いただけてるわけだし、仕事としては成功かもしれないけど。

 

「ウィル、改めて今日はありがとね」

「いいんですよ、ネイチャの力になれるんなら全然。それに、私もちょっと露出増やしたいって思ってましたし、グッドタイミングです」

「そっか……うん、それなら良かったかな」

 

 ……ん?

 ネイチャ、よく見ると、何か引っかかってるような表情だ。

 あんまり表に出ないよう抑えてるみたいだけど……多分、生配信の疲れで、少しだけそれが表に出て来てる。

 

 彼女が何に悩んでいるのか、考えて……。

 ……今日の生放送を振り返って、察しが付いた。

 

「嘘じゃないですよ」

「え?」

「親友って言ったことも、ライバルって言ったことも、『この子だ』って思ったのも。……言ってないことはあると言えばあるんですけど、本当に嘘じゃないです」

 

 一番最初、彼女に出会った頃。

 私はネイチャのことを、まだ1人のアニメのキャラとしてしか見れていなかった。

 

 でも、それはすぐに変わった。

 彼女の決して諦めない負けん気とか、私に勝ってやろうというガッツ……そういう熱を感じ取って、私は彼女を「自分に抗し得るライバル」だと認識できた。

 

 それは、彼女と出会ってから、少し先のことになってしまうんだけど……。

 それでも、最初に走った模擬レースの時から、その片鱗は感じていた。

 

「あなたの脚の強さは、誰より私が、ホシノウィルムが知ってる。

 ……だから、今は走れなくても、またネイチャと走れるのを楽しみにしてます。

 親友としても、ライバルとしても……あなたのファンとしても。期待していいですよね?」

 

 その脚に、慢性的な故障を抱えていても……ナイスネイチャは、きっと復活する。

 

 そんな私の、半ば自分勝手な欲望を聞いて。

 ネイチャは少し驚いたような表情を見せた後、苦笑した。

 

「前から思ってたけどさ、ウィル、そういうのどこで覚えてくるの?」

「さぁ? 生まれた時から知ってたような気がしますね」

「ったく、この子は……。

 ま、ありがと。アタシもアンタのこと、本当に親友だし、ライバルだと思ってるよ。それに……」

 

 ネイチャは、気持ちすっきりした顔で椅子を立ち上がって……。

 にやっと笑って、言った。

 

「最初のあの時から、ずっとアンタの走りに夢中だよ、ウィル」

 

 ……あー。

 確かに、こういうの、真正面から言われると、ちょっと恥ずかしいかもしれない。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さて、そんなこんなで私は仕事を終えて。

 ずっと部屋の隅で見守ってくれてた歩さんから、タオルとスポドリをいただいた。

 ただ座って喋ってただけだけど、喉はカラカラだし、脂汗も出たからありがたい。

 

 ……こういうとこは気が利くんだよなぁ、この人。

 やっぱり堀野の教えに、お仕事を終えたウマ娘にはこうしろ、みたいなものがあるんだろうか。

 

「お疲れ様、ウィル。今日もそつなく素晴らしい仕事っぷりだったぞ」

「ありがとうございます」

 

 そう言ってもらえるのは嬉しいんだけど、今は疲れちゃって、ちゃんと反応する余裕がない。

 ぼそっと吐き捨てるようになってしまった返事に対し、歩さんは膝を付けて、私の顔を覗き込んでくる。

 

「……流石の君とはいえ、やはり疲労が見えるな」

「あ、すみません。……精神的な疲労ですから、肉体的な疲労とはまた別の辛さがありますね」

「今日はトレーニング、やめておくか?」

「いや、やります。走った方がすっきりしますし」

「だと思った」

 

 トレーニングと聞いて一気にやる気になった私を見て、歩さんはにやりと笑った。

 最近じゃ、そこまで珍しくもなくなってきた笑顔だけど……やっぱり見るたび、ドキッとしちゃうな。

 

 ……あ、そうだ、ドキッとすると言えば。

 

「歩さん、どうでした? 私、可愛かったですか?」

 

 何気なく、ちゃんと可愛く映っていたか、と聞いたつもりだった私に対して……。

 

 

 

「ん……うん、ああ、可愛かった……と思う、ぞ」

 

 

 

 歩さんは……とんでもなく、口ごもって答えた。

 

 

 

 んん?

 あれ、なんだ、この感じ……?

 

 

 







 次回は掲示板回、その次は別視点回。
 それが終われば、いよいよ新章突入です。
 砂糖漬けの毎日は一旦ここまで。ここからは再び、戦いの日々が戻って来ますよ。



 次回は3、4日後。掲示板回です。



(追記)
 誤字報告をいただき、わざとでない部分は訂正させていただきました。ありがとうございました!
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