転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 この作品書き始めた頃に前書きで「ブレワイ続編発売日決定!」みたいなこと言った記憶があるんですけど、ついに発売されましたね。
 もはやここはきみの知っているハイラルではない。神ゲーです。本当にありがとうマ・オーヌ。





彼と彼女と大阪の季節
まだ見ぬ強敵たち


 

 

 

 元より俺は、時間の流れを速く感じるタイプだった。

 なにせ人生というのは案外短く、努力を積むにはとかく時間が足りない。

 非才の俺は今を走っているだけで目一杯で、そうすると時間はあっという間に過ぎて行ってしまう。

 

 更に言えば、ウィルと出会ってからは、別の意味で体感が速くなったんだよな。

 以前のように精神的にギチギチになってるからというわけじゃなく……なんというか、毎日が充実しているからこそ、時間が飛ぶように過ぎていってしまう。

 

 それが嬉しいような悲しいような、微妙な心持ちなんだが……それはともかく。

 

 そんなわけで、ウィルがシニア級に入ってからも、時間は飛ぶように過ぎていき……。

 あっと言う間に訪れた、2月下旬。

 

 おおよそ1か月前に開催された予選に続く、URAファイナルズの準決勝が開催された。

 

 

 

 俺たちは予選の時に続いて、マックイーンの参加する長距離部門の見学に赴いた。

 このレースを選んだのは、ウィルがマックイーンと友人関係であり、「せっかくなら見に行きませんか」と誘われたというのもあるけど……実のところ、もう1つ狙いがある。

 

 今回のURAファイナルズの長距離レースの条件は、京都レース場右外周りの3000メートル。

 つまりは、菊花賞と同じコースとなっている。

 

 マックイーンたち出走ウマ娘は本格化も終わるシニア級2年で、ブルボンは始まったばかりのクラシック級だ。

 果たしてここまで年季の違うウマ娘たちのレースが参考になるかは、微妙なところだったが……。

 

「…………」

 

 レース中、恐らくは菊花賞を意識してだろう、ブルボンはじっとその趨勢を見つめていた。

 目の前のレースを楽しむ以上に、目標である三冠達成に少しでも活かすべく、状況を分析しているんだろう。わかってはいたが、やはり真面目な子だ。

 百聞は一見に如かずと言うし、この観戦が少しでも彼女の糧になればいいと思う。

 

 

 

 さて、そんなURAファイナルズ準決勝だったが……。

 結果から言うと、メジロマックイーンやメジロライアンにメジロパーマー、ダイタクヘリオスにアイネスフウジンらネームドは、無事に3着以内に入り、決勝へと駒を進めた。

 

 とはいえ、全てのウマ娘が順調に事を進めたわけではない。

 残念ながら、ネームドの中だとイクノディクタスだけは、初っ端から大きく出遅れてしまった上にレースの展開も悪く、準決勝で脱落してしまった。

 決勝戦で彼女の走りを見られないのは残念だが……これも1つの巡り合わせか。

 

 今回は残念な結果に終わったが、彼女のトゥインクルシリーズはこれで終わりというわけではない。

 というか、イクノディクタスは大阪杯に出走予定なんだよな。何事もなく進めば、1か月半後にはウィルとも対決する予定だ。

 ここで満足な走りをできなかった鬱憤は、次のレースで晴らせばいい。

 ……いや、ウィルの契約トレーナーとして、勿論そんなことはさせないが。

 

 俺の立場上、特別にイクノだけを応援することはできないが、彼女も満足のいくトゥインクルシリーズを歩めればいいな、と思う。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そうして、URAファイナルズの準決勝も終わって、更に数日。

 

 担当たちが2か月レースを走っていないこともあって仕事は落ち着きを見せてきた。

 が、だからと言って業務が減るわけではない。

 手が空いたということは即ち、他にできることが生まれたということでもあるんだ。

 ただでさえやりたいことが多いトレーナーを生業にしている以上、時間を浪費する手はない。

 

 そんなわけで俺は、昌の新人教育を進めると共に、秋に備えて海外のウマ娘の情報を集めたりして時間を過ごした。

 

 ……とはいえ、これがどれだけ意味を成すかは疑問が残るところだが。

 

 凱旋門賞は……というかヨーロッパのレースは、日本のレースに比べると、シニア級よりもクラシック級のウマ娘が多く活躍する傾向にある。

 当地の子たちが早熟なのか、あるいは競り合いが激しくなるが故に勢いのある子が競り勝つのか、考えられる要因は色々ある。

 そこに関しては後日、余裕のある時に改めて考証するとして、だ。

 

 本格的に重賞……グレードレースが始まるのがクラシック級の春からという事情は、日本もヨーロッパも大きく変わらない。

 だから、今年クラシック級になる当地のウマ娘たちに関しては、まだ公式レースのデータが多く残っていないんだ。なんなら未デビューの子すらいるかもしれない。

 現時点で取ったデータだけでは、全てのライバルを絞り出すことはできない。今年の海外レースは注目していかなきゃいけないだろう。

 

 特に、三冠(トリプルクラウン)やティアラに相当するレースには注目しなければ。

 2000ギニーステークスを筆頭としたイギリスクラシック三冠、1000ギニーステークス他イギリスティアラ、プール・デッセ・デ・プーラン他フランスクラシック三冠及びティアラ、芝の本場ではないがケンタッキーダービー他アメリカクラシック三冠……。

 それに加えて、いわゆる変則三冠と言われるものにも注意しなければならないだろうな。

 

 芝の世界最強決定戦、凱旋門賞で脅威になるウマ娘は、G1に勝利したり好走を見せていることが多い。

 この辺りに注目し、なおかつしっかりと耳をそばだてていれば、情報を逃すことはないだろう。

 

 ……とはいえ、それは未来の話になる。

 現時点でできる分、凱旋門賞の有力候補について考察しておこう。

 

 ひとまず現クラシック級を除いて考えると、ウィルを脅かしうる強さを持ち、調子が良好で、なおかつ凱旋門賞へ出走する意思のある、有力候補と言えば……。

 

 去年ウィルとジャパンカップを競った、鹿毛のフランスのウマ娘、ウィッチイブニング。

 それと去年G1パリ大賞を制した、同じく鹿毛のフランスのウマ娘、ネディリカ。

 

 この2人が目玉になるだろう。

 

 彼女たちは、かなり強いウマ娘だ。

 ウィッチイブニングは現状14戦して1度しか掲示板を外したことがなく、調子の乗った時は必ず2着以内に収まってきた実力者。

 対してネディリカは現状9戦、1度として掲示板を外したことがない安定性を誇る。

 

 去年のジャパンカップでは、ウィルとマックイーンが大きく差を付けてワンツーだったが、それはあくまでホームグラウンドである日本のバ場であったからこそ。

 彼女たちの本場であるフランスのロンシャンレース場では、あのウィルとは言えど、少なからず苦戦を強いられることになるだろう。

 

 ……まぁ、だからと言って、あの子が負けるとは思わないが。

 無敗の三冠ウマ娘であり、俺の担当ウマ娘、ホシノウィルム。

 彼女は強い。そりゃあもう、少なくとも素質という側面においては、俺が知り得るどのウマ娘よりも優れている。

 

 だからこそ、たとえそこに海外のレースというデバフがかかろうが……。

 きっと彼女なら、何の支障もなく勝ってしまうだろう。

 

 

 

 ……そう、きっと。

 

 それこそ、彼女と同じ、無敗三冠級のウマ娘でも現れない限りは。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そうして充実した毎日を過ごす内に、2月も終盤に入り……。

 いよいよ次のレースを見据え、作戦会議を開かなきゃいけない時期になった。

 

 ウィルと契約して以来続いている、レースの1か月前の対策会議。

 ブルボンが入ったことで正確に1か月前ではなくなってしまったが、それでもこの習慣はしっかり根付いたまま。

 

 そんなわけで、まだまだ寒気の残る2月の昼過ぎ。

 万が一がないようにしっかりと暖房を効かせたトレーナー室に、俺たちは集まっていた。

 

 そうして口を開き、会議を始めたのは、俺……ではなく。

 

「それでは、次走レースへの作戦会議を始めたいと思います。

 本日の前半、ブルボンさんのスプリングステークスへの対策は、私こと堀野昌が担当させていただきます。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします」

 

 何枚かの資料を配り、ホワイトボードの前でペコリと頭を下げたのは、俺の妹であり彼女たちのサブトレーナーでもある、昌だ。

 

 今回の作戦会議、その内のブルボンに関する部分は、昌が取り仕切る。

 ひとえにトレーナーとしての経験を積み、早く独り立ちできるだけのスキルを身に付けるためだ。

 

 

 

 サブトレーナーという仕事は、何かと激務になりがちなトレーナーの補佐という側面もあるけど、同時に新人研修的な意味合いも兼ねている。

 まだウマ娘と契約する前の新人トレーナーは、サブトレーナーとして雑務をこなしながら経験豊富なトレーナーの姿をすぐ傍で見ることで、「ウマ娘の何をどう見ればいいのか」「どんな時にどんな判断をするのか」「担当ウマ娘とどういう距離感を保つのか」を学んでいくのだ。

 ……まぁ、そんなサブトレーナーとか教官を経由することなく専属契約を許される俺のような例外もいるわけだが、それはともかく。

 

 一応インターン扱いで無給で働いている昌もまた、そういった研修中の身。

 たづなさんが彼女を俺に付けたのは、俺の業務の軽減という側面もあるが、やはりそれ以上に昌を一人前のトレーナーにしてくれ、と託された部分が大きいんだと思う。

 

 昌は俺と違ってかなり要領が良い、名手の卵だ。

 トレセン学園はいつだって人材不足、優秀なトレーナーになり得る逸材を腐らせておく手はない。

 彼女の家族であり、その人となりをよく知る俺が教育役として適切だと判断されたんだろう。

 

 そんなわけで、今年の4月からはちゃんとお給料を払われる予定の昌もまた、トレーナー見習いとして頑張ってくれているわけで……。

 そうなれば俺としても、彼女の努力に応えたくなるというもの。

 そんなわけで俺は、彼女がサブトレーナーに付いてくれた去年の10月以来、色んな仕事のやり方やコツを伝授してきた。

 要領の良い昌はそれをスポンジのように吸収し、最近はもう契約トレーナーとしてやっていけるレベルに入ってきたと思う。

 

 

 

 彼女にとって今日は、この数か月の集大成を見せる時だ。

 

 競走相手となるウマ娘たちの分析、レース場やレースに枠番と様々で複雑な要素についての考察、何より担当ウマ娘に対する深い理解……。

 それらが試される、レース前の対策会議の進行。

 

 これは、昌の今の技量を見るためのテストであり、彼女が積んでいくべき経験であり、将来的にウマ娘を担当するための練習でもあるわけだ。

 

 

 

 勿論、ブルボンのスプリングステークスに関する発表が終われば、俺がそれを採点、訂正する予定。

 流石に「昌のミスや勘違いでブルボンの競走人生めちゃくちゃになりました」というのは許容できる話じゃない。

 

 俺は「アプリ転生」のおかげでライバルの子たちやブルボンの実力を数字で見ることができるし、手前味噌な話になるけど、レースについての考証も人一倍進めている自負もある。

 必ずしも正答を出せるとは限らないが、今の昌よりは正しく状況を見ることができているはず。

 

 ブルボンのメインのトレーナーとして、そして昌の兄であり先輩として、責任を持って修正作業を行う予定だ。

 

 ……ま、個人的には、昌がそんなに大きなミスをするとは思ってないけどね。

 

 この子はかなり早熟な方で、トレーナー業務に関してもかなりのスピードでモノにしてる。

 その上、目の前のことを投げ出さず、真面目に取り組める精神性もあるんだ。

 この1か月、今日の対策会議に備えて情報収集に動き回っていたし、俺の下に悔しそうな顔で色々尋ねに来たこともある。

 ああして真面目に取り組んでいる以上、そこまで酷いものが出て来ることはないだろう。

 

 そんな風に思いながら、部屋の隅に寄せた椅子に座り、俺は昌の言葉を聞くことにした。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「それでは早速、今年のスプリングステークスに関して考察を進めたいと思います。

 お手元の資料を確認しながら聞いてくださいね」

 

 俺はひとまず声に従って、配られた資料に目を通した。

 

 ……うん、いいね。

 紙のスペースを適切に使った、読みやすく頭に入りやすいレイアウト。

 特にレース場の勾配やコースについては、恐らく彼女オリジナルだろうイラストでわかりやすくまとめられていて、ここに関しては俺の資料よりも優れていると思う。

 

 情報の内容については……その量は置いておくとして、確度はなかなかに高い。

 レース場の考察も十分進んでるし、ライバルのウマ娘に関しても、過去半年の公式レースを元に精度の高い予測が立てられている。

 

 とはいえ、勿論「アプリ転生」が示す程に正確な情報というわけではない。

 ぱっと見ただけでも、ところどころ俺から見えるステータスやスキルとの食い違いはある。

 ……まぁ、ここまで細かい分析は、チート能力を持っている俺にしかできない芸当だろう。昌にそれを求めるのは酷という話だ。

 

 それ以外に引っかかる部分としては、単純に情報量が足りないかなぁとは思う。

 俺がいつも纏めている資料では、ここ40年分の天気の記録とレース場の芝の状態から考察するレース当日のバ場状態とか、相手のウマ娘の性格と契約トレーナーのやり方から予測した戦略とか、当日の来場者数の予想とか内ラチの傷みとか、その辺りも纏めてあった。

 それに比べると、昌の纏めた資料は、少々情報量が少ない気がする。

 ……というか、優先度の低い情報を削っている、と見るべきだろうか。

 

 それらも全て加味して、この資料を総合的に採点すれば……。

 今の昌の状態からすると、厳しめに見て85点かな。

 

 ボーダーラインには十分に届いているが、完璧とは言い辛い。

 担当ウマ娘の大事なレースを支える資料としては、不安が残らないわけじゃない。

 

 よし、後で俺が情報を補完しておこう。ちゃんと俺の方でも資料作っておいてよかったよ。

 

 

 

 さて、俺が資料のマエストロとしてそれを品評している間に、昌はその口を開いた。

 

「3月29日、G2スプリングステークス。中山レース場の芝、右内回り、1800メートルのレース。

 今年のこれは、G2レースとしては破格のメンバーでのレースになると思われます」

 

 昌はそう言ってマーカーの蓋を取り、ホワイトボードにブルボンのライバルになるウマ娘の名前を書き連ねた。

 

「まず、私から見た最大の障害はこの2人……ライスシャワーさん、そしてコンテストライバルさんです」

 

 ライスシャワーは、ブルボンもよく知るところだろう。俺の同期のトレーナーが担当する、黒鹿毛の先行ウマ娘だ。

 莫大なスタミナと非常に長く使える脚を持つ、生粋のステイヤーであり、何事もなければこれからブルボンとクラシックレースを競うことになる。

 

 一方でコンテストライバルは、栗毛の差しウマ娘。前世アプリには彼女の姿はなかったので、恐らくはネームドウマ娘ではないんだろうな。

 去年、脚部不安であまり成績を残せなかったライスに対し、彼女はこれまでに5戦3勝、連対率80%という安定した好成績を収めている。

 既に重賞レースも経験済みで、経験値という意味ではブルボンにも優っているかもしれない。

 

 ……と、俺はトレーナーなので当然覚えているが、ウィルやブルボンは後者の名前を聞いたことがなかったのか、じっと資料に目を落としている。

 昌は2人がある程度資料に目を通すのを待って、それから話を続ける。

 

「ライスシャワーさんは、合同トレーニングの様子を見るに、誰かを徹底的にマークし、ペースを合わせるのが非常に上手です。逃げウマ娘であるミホノブルボンさんは、彼女のペースメイクに利用されてしまうかもしれません。

 一方でコンテストライバルさんは、非常に安定した走りを見せています。かなり早熟な気配もあり、恐らくは今回も、真正面から向かってくるでしょう」

 

 ですが……とそう言って、昌はホワイトボードに書いた2人の名前の前に、黒塗りの三角の印を付ける。

 

「潜在的なステイヤーであるライスシャワーさんにとって、1800という距離は短すぎます。

 そしてコンテストライバルさんは、先日のG3共同通信杯で不調の気配を見せていました。

 今回は2人共に、全力を出せない状況が整っています。

 この状況下においてならば、ミホノブルボンさん、あなたの勝率は高いと推測できます」

「はい。マスターのオーダーに従い、必ず勝ちます」

「うーん……そうですね、今はそれで大丈夫です」

 

 ブルボンのそれは信頼と呼ぶべきか、あるいは妄信と呼ぶべきか……。

 まぁ、どちらにしろ俺のすることは変わらない。彼女の期待に添うよう、全力で応えるだけだ。

 

「次いで問題になり得るのは、サクラバクシンオーさんやマチカネタンホイザさんでしょう。

 しかし、サクラバクシンオーさんは瞬発力のある逃げウマ娘ではありますが、スタミナ面で難があり、現時点で1800メートル持つとは思い辛い。

 マチカネタンホイザさんは、他のようにマイナスがあるわけではありませんが、単純なスペックでミホノブルボンさんが一回り上回っています。

 ……強いて言えば、サクラバクシンオーさんと先行争いになり、ミホノブルボンさんが掛かってしまうのが、このレースの最大の敗北要因と言えるでしょうね。

 兄さんの言葉を借りるわけではありませんが、ミホノブルボンさん、あなたはとにかく自分らしく、何があってもあなたの走りを貫くよう心がけてください」

 

 昌にそう言われ、ブルボンは胸に手を当てた。

 

「統計的データを参照するに、私の掛かり癖は改善の徴を見せていると推測できます。公式レースで十全に走ることで、マスターと昌さんに、私の成長をお見せできればと思います」

 

 

 

 ブルボンの言葉に1つ頷いた後、昌はこちらをちらりと見てくる。

 

「……どう、兄さん」

「うん……そうだね、よくできてたと思うよ。流石は昌だ」

 

 今回の作戦会議は、そこまで難易度の高いものじゃない。

 ブルボンの作戦は「一定ペースでの疾走」。他のウマ娘がどうであれ、そこは揺るがない。

 

 だからこそ今回の会議は、作戦立案というよりは、収集した情報の発表って形になる。

 割と臨機応変に走るウィルに比べて、判断しなければいけないことは少なくなり、難易度は格段に落ちるわけだ。

 

 とはいえ、初めてこの手の資料を作ったり発表したと考えれば、昌はよくやったと思う。

 流石と言うべきか、淀みなくわかりやすいものだったし、その内容もそつがない。

 

 ……まぁ、間違いが全くないわけではなかったけれども。

 

「ただ、2点だけ訂正」

「訂正……」

「大丈夫、十分合格点は越えてたから、これは次回に向けた勉強と思って。……ミホノブルボンも、よく聞いてくれ」

 

 俺は昌からマーカーを受け取り、ホワイトボードの前に立つ。

 そして、ライスとコンテストライバルの名前の横にある三角のマークを消して、ライスの横には丸を、コンテストライバルの横にただの三角のマークを描いた。

 

「ライスシャワーは公式レースに出ていないから過小評価されがちだが、今の彼女はかなりの実力を持っている。……どこぞの大逃げウマ娘がマンツーマンで鍛えているという話だしな」

「うっ」

 

 件の大逃げウマ娘は「痛いところを突かれた」と言わんばかりに胸を押さえた。

 

 ……彼女の立場からすると、なかなかに難しい問題だよね。

 

 ホシノウィルムにとってライスシャワーは、1人の可愛い後輩なんだろう。

 先輩としてその望みは叶えてあげたいし、困ったことがあったら助けてあげたい。

 

 しかしここで難しいのが、契約トレーナーである俺が同時に担当しているミホノブルボンの存在だ。

 ブルボンはウィルにとって、謂わば妹弟子的な存在になるわけだけど、そうなれば当然彼女に気を遣わざるを得なくなる。

 

 競走ウマ娘ライスシャワーを助けることは、即ちクラシックレースを競う競走ウマ娘ミホノブルボンの妨害となってしまいかねない。

 だからこそ、彼女はライスと共にトレーニングすることに、ジレンマを感じているんだ。

 

 まぁ、実のところ、そこは心配無用なんだけども。

 

「……少し嫌味な言い方になってしまったが、ホシノウィルム、俺としては君の行動を止める気はない。

 君がライスシャワーを育てたいと思うのなら、そうすればいいさ」

「で、でも……自分で言うのもなんですが、ブルボンちゃんの目標に差し障りますよね……?」

「いや? そんなことはない。

 要は、ライスシャワーを君が伸ばすよりも速い速度で、俺がミホノブルボンを伸ばせばいいだけだ。

 あくまで学生に過ぎない君に、指導力で負けるつもりはないぞ。……いや、ウマ娘特有のフシギパワーとか使われたら流石にアレだが」

 

 俺はこれでも20年以上、ウマ娘を育てる訓練をしてきた男だ。

 一回り若く、またトレーナーとして勉強してきたわけでもないホシノウィルムに後塵を拝するようではトレーナー失格。もはや失格どころか死刑。

 いや、死んだらウィルの担当はできなくなるので、死ぬ気で学び直しといったところだ。

 

「そうですか? じゃあ……ある意味、これもトレーナーとの勝負ですね。

 私、しっかりライスちゃんを鍛えますから、トレーナーも全力でブルボンちゃんを鍛えてあげてくださいね!」

 

 ……え、これ代理戦争?

 いや負けないよね? 流石にね?

 去年、ネイチャがウィルに勝ちかけた時みたいな思いをするのは勘弁だぞ……。

 

 

 







 多分本作では初めて尺の調整をミスったので、前後編分割です。
 本当はウィルの対策会議まで行く予定だったんだけどなぁ。

 GW明けて3日に1回投稿になった直後で申し訳ないんですが、ティアキンが神ゲーすぎて4日に1回投稿に戻るかもです。
 さて、ゾナニウム採掘作業に戻るか……。


 次回は3、4日後。トレーナー視点で対策会議の話・後編。



(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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