転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 前回のあらすじ
 ・ウィルとブルボンの次走対策会議
 ・ブルボンの対策はサブトレの昌が担当、現在発表後の堀野君による批評中
 ・尺の調整をド派手にミスって前後編





転生チートウマ娘(二重表現)

 

 

 

「少し話が逸れてしまったが、話を戻すと、だ。

 昌のライバルウマ娘の分析におけるミスは2つ。大雑把に言えば、コンテストライバルを過大評価し、ライスシャワーを過小評価している」

 

 俺は椅子の上で腕を組み、少し悔し気な昌を見据えて、彼女の解析の間違いを挙げた。

 

「昨日様子を窺ってきたが、コンテストライバルは共同通信杯以降も調子を崩し続けている。ドツボにハマってしまったと見ていいだろう。

 あと1か月で持ち直すのは厳しいと思われるし、仮に持ち直したとしてもギリギリのことになるはず。レース直前のトレーニングが身にならないとなると、ミホノブルボンの成長に付いては来れない」

 

 まぁぶっちゃけると、この辺のミスは仕方ない部分もあると思うけどね。

 

 ウマ娘の調子を見るってのは、簡単なようでいて案外難しい。

 特に、直接的に話をするのではなく、たまに走りを見る程度の関係でしかない他陣営の子となればなおさらだ。

 

 俺は「アプリ転生」のおかげで絶不調から絶好調までの5段階で見分けられるけど、なんならこれだって絶対的なものじゃないしね。

 前世のアプリゲームだった時ならばともかく、実際のウマ娘の調子なんてものは、1つの区分の中でもピンからキリまである。

 ギリギリ絶好調で実質的には好調な時もあれば、バリバリに覚醒している場合もあるわけだ。

 

 そしてそういうところになると、ぶっちゃけ俺でも「今日のネイチャはヤバい」とか、「絶好調という割には入れ込んでる」とか、その程度にしか判断できない。

 生まれてこの方トレーナーとしての勉強をしてきた俺ではあるが、だからって経験値があるわけではないんだ。

 分析や予測ではなく、センスとか経験値の求められるジャンルにおいては、ただのクソ雑魚トレーナーに過ぎない。

 

 一応契約トレーナー歴3年目の俺でもそんな感じなんだ。

 俺より経験の浅い、というかまだ1年目の昌に判断できないのは、ある意味当然のことだろう。

 

 ……が。

 そういうことは、この子に言ってはいけない。

 

 昌は良い意味でプライドの高い子だ。

 こういう客観的な視点からの分析も慰めだと受け取ってしまい、傷つけられた誇りの分無茶をしてしまいかねない。

 そんなわけで、こういう時の昌には下手にフォローなど入れず、ズバズバと物を言った方がマシだったりするんだよね。

 

 正直、俺は女性(競走ウマ娘除く)の心理には疎い自覚があるんだけど……この辺りはやはり、長年共同生活を送った家族が故だろう、ある程度察しが付く。

 

 今の昌が欲しているのは、精神的な安寧などではない。少しでも前に進み、成長するためのきっかけなのだ。

 であれば俺は、せめて彼女にできる限りのアドバイスを送るだけである。

 

 ……まぁお兄ちゃんとしては、そういう危ういレベルのストイックさが時々心配になったりもするんだけどね。

 

 

 

 さて、話を戻して。

 もう1人のウマ娘についても語っておこう。

 

「一方でライスシャワーだが、先述の通り非常に強力と言っていい。スペックで言えばミホノブルボンに比肩する……とまでは言えないが、間違いなく二番手に当たる。

 とはいえ、昌も言っていた通り、距離の短さが大きく響いてくることも事実。

 ライスシャワーのマイルへの適性は、評価を付けるならCといったところだろう。加えて瞬発力に欠ける彼女の脚は、1800メートルでは真価を発揮し得ない。

 総評としては、俺から見て今回唯一ミホノブルボンに対して勝機のある存在……といったところか」

 

 ウマ娘のレースの勝敗を分けるのは、ステータスだけではない。

 距離やバ場、脚質の適性。コンディションやスキル。当日の天気やバ場状態にコース。そして実際のレースでの展開。

 それらが複雑に絡み合うこそ、時にレースは予想も付かない方向に転ぶことがあるんだ。

 

 しかしながら……。

 それらは決して、計算し切れない程の変数ではない。

 

 徹底した事前調査と考証分析をこなせば、レースの展開っていうのは予測できないわけじゃない。

 当日の天気やバ場状態は不確定ではあるが、これまでの歴史を紐解き、あるいは実際に現地に調査に行けば確率を出すことはできる。

 ウマ娘の能力に関しては……まぁ、誇れることでもないな。ただチートで数字として見えてるだけだ。

 

 謂わば、軽量版ラプラスの悪魔戦法とでも言おうか。

 俺は昔からそうやって、理詰めでレースの結果を予測してきた。

 勿論最初の内は失敗続きだったけど、堀野の歴史を紐解いたり、これまでの主要な重賞レースの映像を片端から見たことで、今はある程度の精度で予測することが可能になったわけだ。

 

 その上で、今回のスプリングステークスの結果を考えれば……。

 

「もしも今回ライスシャワーが勝つとすれば……それは、彼女が領域を会得した時だろうな。

 まぁ、皐月賞時点で領域に目覚めるウマ娘なんて、歴史的に見てもそう多くはないんだが」

「領域……」

 

 俺の言葉を受けて、ブルボンはボソリと呟き、視線を落とした。

 

 

 

 領域。

 クラシック級以上のG1レースを語る上では決して外せない、競走ウマ娘の最終奥義とも言えるものだ。

 

 いや、最終奥義って何? スポ根モノの漫画か? なんて思わなくもないが……実のところ、そんな感覚も段々薄れてきつつある。

 アプリゲームが基になった世界なのか、あるいはこの世界を基にしてアプリゲームが作られたのかは知らないが、俺たちが生きる世界は割とスポ根じみてるからな。

 覚醒だとか奥義だとか、そういうこともままあるのである。

 いちいち驚いてちゃ身が持たない……というか、もはやそれが普通なんだし。

 ……なんか、気付けばだいぶこっちの世界に染まっちゃったなぁ、俺。

 

 閑話休題。

 領域の話なんだけど、これを感じ取ることができるのはウマ娘たちだけだ。

 より正確に言えば、同じレースを走るウマ娘であればその領域の中を覗くことができ、そうでなくとも周囲100メートル程度にいる優れたウマ娘は「あ、誰かが領域使ってるなこれ」となんとなくわかるらしい。

 

 が、それはあくまで彼女たちに限った話。

 人間である俺たちからすれば、ぶっちゃけ「領域? 何それ?」といった感じだ。

 

 いかに目を凝らそうと、感受性を上げようと、人間がウマ娘の領域を感知することは不可能。

 彼女たちが如何にその神髄を披露しようとも、目敏い者が「あ、速くなった」と気付く程度にしかならないんだ。

 

 そして、この世界の人間とウマ娘の比率は、前者にかなり重く傾いているわけで……。

 実のところ、一般社会に領域というものはあまり浸透していないんだ。

 

 認知度で言うと「あ、なんかそういうこと言ってるウマ娘もいるよね? オカルト?」みたいな感じ。

 積極的に否定する程でもなく、しかしながら心から信じられるかと言われると微妙な俗説レベル、というわけだ。

 存在を感じ取れるのがウマ娘だけ、それも素質のあるごく一部のみともなれば、その信頼性が高くならないのは当然と言えるだろうね。

 

 そういう事情もあって、基本的に領域の存在は広く周知されてはいない。

 なんなら去年ウィルが知らなかったように、中央の競走ウマ娘であっても、時にはジュニア級王者ですらも、その存在を知らないこともあり得る。

 

 ……というか、変にウマ娘たちが焦ったりしないよう、むしろトレーナーは情報は伏せることが推奨されてたりもするんだよね。

 領域のことを知るのは、それを開く素質を持つか、あるいはそんなウマ娘と対戦する可能性のある子だけでいい。

 素質が欠けているのに領域を得ようと無茶をするような子も、いないわけでもないからな。

 

 なので本来は、まだクラシック級に入ったばかりのブルボンは、領域を知らなくてもおかしくないんだけど……。

 実のところ、ブルボンは既に、領域について知っている。

 

 ウィルと共に作戦会議に参加する以上、その辺りの話を知らなければ付いて来れないこともあるだろう。

 それに、ミホノブルボンというウマ娘は文句なしのネームド。いずれ領域を習得する可能性はかなり高いはずだ。

 そう判断した俺は、ブルボンと契約してしばらくの頃に、彼女に領域について説明したのだ。

 機械的なまでの高い記憶力を持つブルボンのことだ、今もしっかりと、なんなら一字一句違わず記憶していることだろう。

 

 

 

 ……しかし、その存在を知っているから、だろうか。

 ブルボンは心なしか、焦っているように見えた。

 

 彼女はいつも通りの無表情だし、表には感情なんて殆ど出ていない。そういった様子を窺わせる動作を取っているわけでもない。

 ただ、なんというか……そういう雰囲気を纏っていた、というか。

 

 俺とブルボンの付き合いも、なんだかんだ半年以上続いてるからな。

 多少なりとも彼女のことがわかるようになってきた、ということだろうか。

 

「三冠というミッションの達成に、タスク『領域の覚醒』は必須になるものと思われます。

 どうすれば領域を開けるのでしょうか」

 

 ブルボンの苦悩した声を聞いて、少なからず罪悪感を覚える。

 

 領域のことで担当ウマ娘を悩ませるのは2度目だ。

 ……いや、当時の1人目の担当は、苦戦する状況に楽しみを見出しかけていた気もするし、悩んでいたかは不明だけども。

 

 しかし、ブルボンの目標はウィルと違って明確で、クラシックレースでの勝利。

 そこに関して不安を覚えさせてしまったというのは、ひとえに俺の指導力不足だと思う。

 

 ……とはいえ、領域は競走ウマ娘の秘奥。

 中央トレセンに入学するウマ娘の内、平均して100人に1人くらいしか覚醒できないものだ。

 その上、覚醒するにしても、レースが本格化するクラシック級の4月以降の開花となることが多い。

 

 現時点でブルボンが領域を開けないことが、直接的に俺の指導力不足に繋がるかというと……うん、ちょっと微妙なところだけども。

 

 何はともあれ、彼女にそんな不安を味わわせるわけにもいかないよな。

 俺に出せるだけの情報を提示し、少しでも状況を把握してもらうとしよう。

 

 

 

「どうすれば領域を開けるか。言い換えれば、領域を開く条件か。それは……ウィル、わかるか?」

 

 ふと思い立って視線を向けた先、ウィルは申し訳なさそうに俯いた。

 

「すみません……」

「うん、そうだよな。こちらこそ無理を言って悪かった」

 

 覚醒したウマ娘にとって領域を開くのは、謂わば息をするのと同じ感覚なのだという。

 人間だって、どの筋肉を動かし、どういう原理で自分が呼吸をしているのか、説明できる者は少ないだろう。いたとしても、それは先人が暴いた知識を知っているだけなはず。

 ウマ娘の領域はそれと同じで、「できるようになればなんとなくできる」ものなんだ。

 その上、領域がどのようなものなのか、どうすれば開くのかは、未だに解明されていない。

 

 故に、領域に覚醒したウマ娘に、「どうしたら開けるのか」と聞いても、無意味に終わることが多い。

 自分の体について学んだことのない子供に「呼吸ってどうやってするの?」と聞いた時のように、感覚的な答えが返って来て終わりである。

 

 正直、ウィルの常識外れなところとか、こう見えて理論派なところに、期待しないでもなかったが……。

 そもそも、彼女の走行能力を理論的に分析することが仕事である俺がわかっていないんだ。彼女に期待を寄せるのは筋違いと言ってもいいだろう。

 

 であれば……うん、残念ながら未確定の情報しか話せなくなるわけだが。

 俺はこちらを見据えてくるブルボンに正面から向き合って、口を開いた。

 

「ミホノブルボン。実のところ領域というものは、明確なメカニズムの判明していない、超能力のようなものなんだ」

「超……能力……?」

 

 あっ駄目だブルボンが宇宙ウマになってしまった。

 これは言い方が悪かったな。……まぁ、実際超能力みたいなものっていうのもあながち間違いではないんだけどさ。

 

「いや、いわゆるサイキックパワーという意味ではなく、超常の力という意味でな。

 現時点において、俺たち人類はウマ娘の領域を観測することに失敗している。マイクロレベルでの観測や遺伝子操作を筆頭とした状況再現なども含め、あらゆる手段が施策されてきたが……その尽くが、1つ残らず失敗している。

 つまるところ、領域は『現代科学では解明できない、未知で未開の力』なんだ」

 

 いやはやまったく、これは恐ろしいことだと思う。

 

 人類の知的好奇心は、易々とは止まらない。

 この世界には善性の人間が多いが、だからと言って悪性の人間が絶無と言うわけではない。

 つまるところ、正直目を背けたくなるような過去というのも、確かに存在していた。ちょっと別の話になるけど、堀野家の過去なんかもその典型だろう。

 

 しかし、そういった仄暗いものも含めた多くの試みが、こと領域に関しては1つたりとも成功していないんだ。

 

 つまるところ、そこから導かれる結論は二者択一。

 1つは、現段階の人類文明では、ウマ娘の領域は観測及び解明ができないということ。

 そしてもう1つは、そもそもウマ娘の領域は科学では解明できないものだということ。

 

 理論派の俺としては、前者であれば嬉しいんだけど……。

 転生だとかチートだとかウマソウルだとか領域だとか、そういうなんともファンタジーな要素が出て来てる以上、後者も否定しきれないのが現実である。

 

「故に現状、俺たちは領域について『憶測』はできても、『推測』はできないというわけだ。

 これから俺が話す内容も、そういうものだと思って聞いて欲しい」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 領域を開く条件。

 これに関して、俺は去年の時点では「ウマ娘が心身共に極まった状態であること」以外にロクに絞り込めなかった。

 

 だがそんな怠慢の結果、ウィルに苦戦を強いてしまい、深く反省。

 トレセン図書館の資料などを漁り、帰省した際に資料庫をひっくり返して、領域を開いたウマ娘の状況を比較・検討し続けた。

 

 その結果、それらしい条件を、4つに絞り込むことに成功したのだ。

 

 

 

 まず1つ目、そのウマ娘が心身共に充足し、完成された状態であること。

 

 これは前回想定していた条件を、過去の記録に即して訂正したものになる。

 

 その子がレース前の追い込みを経て、体と心を一欠片たりとも零さずにレースに向けること。

 当然のことのようにも聞こえるが、まだまだ中等部であるウマ娘たちがそこまでレースに集中できるかと言うと、これがなかなか難しいんだ。

 実際、レース当日に絶好調のウマ娘なんて、18人立てのレースでも4、5人程度しかいない。

 その中でも上辺の、いわゆる覚醒状態にあることが条件となると、この条件を満たすことができるタイミングは相当に限られるわけだ。

 

 

 

 次に2つ目、そのウマ娘が自分に合った走りを実現できていること。

 

 前世アプリの、固有スキルの条件を思い浮かべればわかりやすいだろう。

 領域を開くためには、そのウマ娘固有の走り方を実現しなきゃいけない。

 

 例えばサイレンススズカなら、最終直線で1位かつ、番手のウマ娘とある程度差を付けていること。

 例えばホシノウィルムなら、恐らくは終盤に自分の後方1バ身以前に他のウマ娘が走っていること。

 そういう条件を満たして初めて、彼女たちは領域を使うことができる。

 領域に覚醒するためにも、そのウマ娘に向いた走り方を確立しなければならない可能性があるわけだ。

 

 ミホノブルボンの場合、固有発動の条件は「『出遅れ』や『掛かり』を発動させず、最終直線で前の方にいること」だったはず。

 彼女の正確無比な体内時計や独走時のペースキープから考えて、彼女の「自分に合った走り」は、決して乱すことなく一定のラップを刻んだ走りをすること、だろう。

 

 ……そう考えると、やはりまた彼女の掛かり癖が問題になってくる。

 素晴らしい体質と優れた素質を持っているブルボンだけど、やはりこの掛かり癖はかなり大きなディスアドバンテージになっているな……。

 

 

 

 そして3つ目、そのウマ娘が走りを楽しむこと。

 

 これは主に昨年のウィルの状態からの類推で、あまり確度の高い情報とは言えない。

 4つの条件の中でも最も眉唾な、でもこれがあれば色々と納得がいくようになるピースだ。

 

 そもそも、領域というものは前の世界の馬の魂、いわゆるウマソウルによって引き起こされる現象だ。

 では、改めて考えると、ウマソウルとは何か?

 

 前世の……つまり競馬という概念が存在する世界から受け継がれた、馬の魂?

 いいや、違う。ただそれだけなら納得のいかないことがたくさんある。ありすぎる。

 

 

 

 さて、それを考える上で……少し話は逸れるが、転生者の話をしよう。

 いわゆる異世界転生は前世でもメジャーな創作のジャンルだった。

 で、そういった創作における「転生者」は大抵の場合、その世界に大きすぎる影響を及ぼす、恐るべき存在だ。

 

 では、彼らの何が真に恐ろしいかと言えば、それは大雑把に分けて2つ。

 「記憶」と「チート」である。

 

 ゲームなんかでもそうだけど、何の知識もない1周目より、そのゲームのシステムやバランスを理解した2周目の方が、遥かにスムーズに事を進められる。

 具体的には、勝てないはずの戦いに勝てたり、最初は難航するはずの経営に成功してしまったり。

 それだけ、色んなことを「知っている」ことは武器になるんだ。

 

 前世の記憶を持つ、いわゆる人生2周目の転生者もそれは同じこと。

 中世から近世の時代に文明の利器を持ち込んだり、子供の頃から天才児って呼ばれたりと、好き放題できるわけ。

 これが、いわゆる「記憶」の恐ろしさである。

 

 そしてもう1つの脅威が「チート」だ。

 転生者は、よくチートをも持って生まれて来る。ソースは俺。

 これはある意味、記憶以上に恐ろしいものだ。

 なにせチート、つまり「その世界のルールを破って自分の有利に事を進めることができる」能力だ。

 大抵の場合、その世界の中にあるものでは対抗できない。チートプレイヤーを倒せるのは余程の実力者(プロ級プレイヤー)か主人公くらいのものだもんね。

 

 

 

 で、こんなことをつらつら並べて何が言いたいかというと、だ。

 じゃあ、あっちの世界から転生してきてるウマソウルの恐ろしさはどちらか、って話だ。

 

 記憶か? ……まぁ、それもあるだろう。 

 「前世の記憶を垣間見て、その絶望を超える」みたいなシナリオ、実際ありそうだし。

 けど、基本的にウマ娘は前世の馬のことを覚えていない。それは前世アプリでも、この世界でも共通していることだ。

 

 つまるところ、ウマソウルの恐ろしさはもう片方、そのチート性なんだ。

 これをその身に宿すことによって明らかに普通の人間を超える不可思議な身体能力を有して、更には領域という不可思議な技で軽々と自分の限界を超える。

 どう考えたって、これは世界の物理法則(ルール)を超えた力。転生したが故に付与されたチートだ。

 

 つまるところ、極論にはなるが……。

 彼女たちウマ娘の力の源であるウマソウルは、俺の「アプリ転生」と似たようなもの。

 転生チート……と、言えるのかもしれない。

 

 そうである以上、ウマソウル関係のことについて真面目に「どうしてこうなっているのか」などと考えても意味はない。

 転生チートなんて「そういうもの」だ。世界の理の外側にある力を、世界の理で測れるわけもないし。

 

 

 

 さて、そろそろ本題に戻るけども。

 だからこそ、覚醒の条件として「走ることを楽しむ」なんて項目があっても、大して不思議ではないと思う訳だ。

 より正確に言えば、不思議ではあるんだけど、いちいち気にしちゃいられないっていうか。

 

 自分の走りを愛せるか。誰かと競うことを楽しめるか。レースに対して感動を覚えられるか。

 ある意味で1つ目の条件である「心身共に充足すること」にも繋がって来るが、そういった心理的なトリガーがあるのかもしれない。

 

 

 

 ……少し熱が入って長くなってしまったけど、3つ目の条件についてはこれで終わり。

 

 次が最後の4つ目。

 そしてこれが、一番意外に感じるかもしれない項目でもある。

 それは……。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「勝負服だ」

「……勝負服、ですか」

「そう。君も朝日杯で着ていた、あの勝負服。

 あれを着ることも、恐らくは領域会得のための条件の1つだと考えている」

 

 勝負服。

 競走ウマ娘が、G1レースや一部特殊なレースを走る際に身に付ける衣装のことだ。

 

 URAが自らが手掛けるこの服は、どれだけ華美なものであってもウマ娘たちの動きを妨げず、むしろその走りを適切なものへと調整するという、これまた不可思議なチートパワーを持っている。

 そんなチート物体を作れるURA勝負服製作部の技術どうなってんだと思わないでもないけども、今はそれは置いておくとして。

 

 この勝負服、ある程度高い成績を収めたり、あるいはトゥインクルシリーズに大きく貢献したと認められたウマ娘には、URAからそれぞれ1着ずつ贈られる。

 更に特定のイベントに参加するとか、特別な成績を収めるとか、URA賞に選出されるとか、そういうタイミングで2着目以降を貰うことも可能となっている。

 

 俺の担当ウマ娘は2人共、ジュニア級の12月、G1レースに出走する前に1着目を頂いていた。

 更にウィルに至っては、この前のURA賞受賞によって、2着目も貰ったんだが……。

 

 そういう身近なものだからこそ、領域の覚醒とは結び付かなかったのかもしれない。

 ブルボンは軽く頭を捻り、ウィルは素直に疑問を口にした。

 

「えっと……前の3つはわかりますけど、勝負服って領域と何か関係があるんですか?」

「うん、あるっぽい」

「ぽいって……」

「さっきも言った通り、これらはただの当て推量だからな。俺としても、確実と言えるだけの推論を提示できないのは心苦しくはあるんだが……ひとまず今は、勝負服と領域の関係について」

 

 俺が領域と勝負服の関係性を疑い始めたのは、前世アプリが原因だ。

 あっちじゃ勝負服に応じて、領域やスキルなど性能が変わっていた。いわゆる衣装違いってヤツ。

 そういう違いがこの世界にもあるんじゃないかと思って探り始めて……。

 結果として、恐らくはビンゴを引き当てた。

 

 これまでの歴史において、勝負服を受け取らずに領域に覚醒したウマ娘はいない。少なくとも、俺が調べられる範囲では。

 

 勿論、これを「勝負服も受け取れないウマ娘が、領域会得まで昇華できるわけがないから」と切って捨てることは簡単だろう。

 しかし、色々と考えた結果、この2つには繋がりがあると考えた方が納得のいくことが多かったんだ。

 

「俗説だが、領域はウマ娘たちの持つ特殊な『魂』によって起こる現象と言われている。

 つまるところ、君たちが見る領域の景色は、魂に刻まれた原体験、原風景である、という説。

 ……だが、この説には、1つおかしなところがあるんだ」

 

 いや、全部が全部机上の空論すぎて、ぶっちゃけ頭からつま先までおかしなことだらけなんだけども。

 それでも、この一件だけは、決して見逃せない問題だ。

 

 

 

「領域を開く、一流のウマ娘。

 その中でも更にごく一部、超一流のウマ娘は……領域を、複数保有している」

 

 

 

 俺の言葉に、ウィルは息を呑み、ブルボンもパチパチと瞬きした。

 俺は努めて動揺を見せず、何でもないことかのように話を続ける。

 

「近いところで言うと、ドリームトロフィーリーグのシンボリルドルフとオグリキャップだな。

 少なくともこの2名は、領域を2つ持ち、レースによってそれを使い分けている……らしい」

「らしいって……」

「俺たち人間には観測できないが、過去共に走ったウマ娘たちに聞き回った結果、そういう話だった。

 レースによって使われる領域が変わり、それらの領域の風景は、全く異なるものだったと」

「それは……なんて……」

 

 ウィルも領域持ちのウマ娘だ。その奇想天外さを本能的に理解できるのだろう。

 

 本来領域とは、ウマ娘の秘奥中の秘奥、ごく一部の才気溢れる優駿のみが辿り着く至高の境地だ。

 しかし、彼女たちの強さは青天井。

 至高の中には更なる至高があり、2つ目の境地に脚をかける者もいるわけだ。

 

 ……まぁ、個人的には、ウィルの世代からもそこに手をかける子が出てきそうだとは思っているが。

 なにせ最強の大逃げウマ娘ホシノウィルムと、レースの天才トウカイテイオーがいるんだ。

 そのどちらか、あるいは両方がそこに脚をかけても、おかしいとは思わない。

 

「不安を感じる必要はない。この前シンボリルドルフに聞いた話では、2つ目の領域は1つ目の時に比べて、習得が容易になるらしい。勿論相応の努力や心身の充足は必要だろうがな」

 

 シンボリルドルフの言う「比較的容易」が、果たしてどこまで信用に足る言葉かはわからないが……。

 コンディションで「切れ者◎」とか「一生けん命」とか持ってるウィルが、要領の面で他のウマ娘に負けるとは思えない。案外するっと獲得できたりするんじゃないだろうか。

 

 ……いや、流石にそれは慢心が過ぎるか。

 彼女は確かに世紀の大天才だが、俺は彼女のトレーナーとして、それをしっかりと支え、導かなければならない。

 改めて、これからも油断せず、しっかりと彼女をサポートしよう。

 

 

 

「さて、そろそろ話を戻すが、この2つ目の領域の話について、1つおかしな点がある。わかるか?」

「えーっと……」

「回答します。『1つ目と2つ目の領域の間で、内部の風景が一致しないこと』でしょうか」

「ああ、その通り」

 

 ウィルは2つ目の領域という話のインパクトに持っていかれたようだが、ブルボンは冷静に話を聞けていたらしい。

 領域を持たず、その異常性を理解できないが故の落ち着きか。

 あるいは単に、彼女の性格が故か……。

 どちらかはわからないけど、今は彼女の落ち着きが好都合。話を進めさせてもらおう。

 

「領域が『ウマ娘の原体験、原風景を映すもの』だとすれば、異なる領域でも同じものが見られるはずだ。

 勿論、そういった体験や光景を2つ以上持っている子もいるかもしれないが、それにしては2つ以上の光景が観測された数が多すぎる。

 つまるところ、領域内の光景イコール魂の原風景、とするには疑問が残るわけだ」

「なるほど。そして、話の流れから考察するに、それら2つ目の領域を習得したウマ娘は、皆が2着目以降の勝負服を得ていた、と」

「おぉ……流石だな、ミホノブルボン。

 まさしくその通り、オグリキャップやシンボリルドルフは、2着目の勝負服をもらった後に2つ目の領域に覚醒している。

 そういうこともあって、領域の獲得と勝負服の間には何らかの関係がある、と踏んだわけだ」

 

 俺は1つ頷き、持論を展開する。

 

「何故勝負服がウマ娘の領域覚醒のキーになっているのかは、正直なところ妄想の領域を出ないが……思うに勝負服は、領域を一枚の絵とした時、形を作っているのではないだろうか」

「形……」

「ウマ娘の魂は、色だ。形がないから現実に何の影響ももたらさない。

 しかしここに勝負服……言ってしまえば、ファンやURAの思い描くウマ娘の走る姿、夢の形(イメージ)が与えられることによって、初めて現象となって現れる。

 異なる勝負服になれば、与えられる形や模様が変わって、本質()は同一だが全く別に見える光景()が広がる、というわけだ。

 ミホノブルボン、君にも伝わりやすい言い方を選ぶとすれば……そうだな、領域をコンピューターに例えれば、勝負服はプログラミング言語で、魂がその指定内容と言ったところだろうか」

 

 伝わりやすい例えかはわからないが、正直俺の表現力だとこの辺りが限界だ。

 もう少し、日本語の勉強もしておくべきだったかな……。

 

 

 

 少し長くなってしまった話を終え、全員で一息吐く。

 ウィルは複数の領域という事実を受け止めるために、ブルボンは言われたことを整理して記憶するためだろう、ぼんやりと何かを考えていた。

 

 一方昌は……何かメモってるな。なんだろ。

 あ、そう言えば領域の発現条件に関しては情報共有し忘れてた。あーこれ、あとで「事前共有してよ!」って怒られちゃうな、多分……。

 諦めよう、昌の叱責からは逃げられない。せめて素早く済ませるためにじっと聞くのが吉。

 

 ……さて、それはそれとして。

 

 時間は無限ではない。

 そろそろ次の話題に進まなくては。

 

「さぁ、そろそろ次の話題に移ろうか」

「えっと、次の……あ、そういえば次走の作戦会議でしたよね」

「脇道に逸れまくってしまったがな。ブルボンの話は終わったから、次は君の番だ。

 それでは、君の次走、4月5日の大阪杯のことだが……」

 

 改めて話を続けようとした俺の言葉を、ウィルの手が止める。

 

「その前に、いいですか、歩さん」

「なんだ?」

「正直ちょっと理解が追い付いてないんですけど、つまり……2つ目の領域を得るためには、2着目の勝負服を着なきゃいけないってことでいいんですかね」

「多分、おおむねその理解で間違っていない……と思う。その可能性が高い、と言えるはずだ」

「うわ、今まで聞いた兄さんの言葉の中で一番自信なさげ」

「ほっといてよ、俺は本来、こういうの苦手なんだから……」

 

 俺が多少なりとも得意にしているのは、蓄積されたデータと理論に基づく、推測と演算。

 こういうファンタジーでメルヘンな超常的サムシングなんて管轄外にも程があるんだよ。

 

 昌の茶々に対して、俺がちょっとだけ辟易とした気分になっていると……。

 ウィルはその拳をぐっと握りしめて、その身を俺の方に乗り出してきた。

 

「2つ目の領域、すっごく興味あります! 身に付けてやりましょう、私と歩さんの2人で!

 そのためにも、大阪杯は新しい勝負服で出ましょう。URA賞の時にもらったヤツのお披露目です!」

 

 

 







 前後編にしたのに尺が収まり切らず、ウィルの対策パートが入りませんでした。
 なんで??? 2万文字書いてるのになんでたどり着けなかったの??? はい、領域の話ばっかりやりすぎでした、反省します……。
 大阪杯のライバルたちのことや、ウィルがどういう走りをするかは、後々のお楽しみということで、よしなに。



 次回は3、4日後。ホシノウィルム視点で、ライスとスタートダッシュの話。



(追記)
 誤字報告をいただき、わざとでない部分は訂正させていただきました。ありがとうございました!
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