転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

115 / 253
 書きたい内容多すぎて全然追い付かず、結果として一部キャラがあんまり登場しないという憂き目に遭ったりしてるのが最近の悩み。
 本当はミーク先輩との会話とかもっと書きたいんだけど、尺が……。





いわゆるサポカ完走イベント

 

 

 

 これはもうファンの皆にすらバレてる秘密なんだけど、私は自主トレが好きだ。

 

 何事もそうだけど、準備期間が一番楽しいじゃん?

 遠足で言えば前日の夜。文化祭で言えば設営中。TCGで言えばデッキ構築。ゲームで言えばストーリー進行中。

 目標に向かって1つ1つ課題をこなし、自らの能力やできることを増やしていく。

 それはやっぱり、こう、達成感が満たされる行為なんだ。

 

 で、私にとって自主トレは、そういうのと同じような感覚なんだよね。

 自分を追い詰めて、次回のレースを有利にする。熱いレースをするために、万全の準備を整える。

 それ自体も充実してて楽しいし、やればやる程どんどん自分が強くなる実感があるから、ついつい夢中になってしまう。

 ゲームでレベル上げをしてるような気持ち……と言えば伝わりやすいかな。

 

 とはいえ、現実の筋トレは、ゲームのレベル上げとは違う。

 本質的には自分の体を虐める行為だし、そりゃ当然痛かったり苦しかったりするんだ。

 もうちょっと忌避感があってもおかしくないんだろうけど……。

 

 私の場合、幼少の頃のアレのせいで感覚がおかしくなってるというか、耐性が付いているというか。

 「走る」という事柄に関しては、どれだけ苦しかろうと、特に嫌だと思うことはないんだよね。

 

 

 

 そんな私にとって、歩さんはかなり相性の良いトレーナーなんだと思う。

 なにせ限界ギリギリを見極める、スパルタ寄りで最適なトレーニングプランを立ててくれるからね。

 

 彼の付けるトレーニングの厳しさは、中央のウマ娘の中でも噂になるレベルだ。

 まぁその実際のところは、厳しいっていうか、適切っていうのが感じなんだけどね。まだまだ行けるって思っても「今は休め」って言われることも多いし。

 ただ、精神的にかなり厳しい状態でも体力が残ってたら「まだ行けるぞー」って発破をかけられるのは事実だから、その辺りが注目されがちなんだろうけどさ。

 

 私は実感できないけど、集中力が乱れて怪我をする直前まで追い込まれるのって、普通のウマ娘にとってはかなりキツいんだろうなぁ。

 今年になってから何度か来た、しつこく歩さんに契約を迫る新入生ちゃんたちも、試しにトレーニングしたらすぐ脱落してたし。

 

 私のように苦痛に耐性があるか、あるいはそれを押してでも走りたい理由を持ってないと、歩さんの担当になるのは厳しいかもしれない。

 逆に言えば、その精神的な負荷にさえ耐え切れれば、最高のトレーナーの下でこれ以上なく成長できるチャンスとなるわけだけども。

 

 

 

 さて。

 そんな鬼畜……もといスパルタトレーナーの下で、私ことホシノウィルムはご指導ご鞭撻を受け、更に追加で自主トレまでやっているわけで。

 ちょっとオーバーワークなんじゃないかって気もするけど……。

 

 それはそれ、これはこれ。

 デザートと自主トレは別腹って言うもんね。

 

 今は歩さんも、私が自主トレをする前提でトレーニングメニューを組んでくれてるんだもん。

 もはや自主トレをやめる理由はないと言っていい。私は自由の身なのである。

 

 それに……今は自主トレも、1人きりのものじゃない。

 ここ数か月は、そんな自主トレに付き合ってくれる、健気な後輩ちゃんもいることだしね。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 3月に入って、段々暖かくなってきた夜の闇の中。

 トレセン学園近くの歩道、ウマ娘専用レーンに、2人のウマ娘の足音と声が響く。

 

「はっ、はっ、くうっ……!」

 

 私の隣を走るのは、最近はもう見慣れてきた黒鹿毛のウマ娘、ライスシャワーちゃん。

 将来的にはブルボンちゃんとクラシックレースを競うことになるだろう期待の新鋭で、私にとっては歩さんとの勝負に関わって来る要素の1つでもあり、同時に懐いてくれている可愛い後輩の1人でもある。

 

 私と彼女は今日も今日とて、夜の自主トレに励んでいたのであった。

 

 

 

 ライスちゃんと自主トレを共にするようになって、数か月。

 基本はひたすら走り込み、時々2人で柔軟とか無酸素運動って感じの雑な自主トレだったけど……。

 昼のトレーニングの成果も出てるんだろう、ライスちゃんは結構強くなってきたと思う。

 

「いやしかし、ライスちゃん、どんどんスタミナ付くね。流石ステイヤー気質だ」

「でも、お姉さまには……ふぅ、全然っ」

「そりゃライスちゃんが本格化後1年なのに対して、私は2年だからね。そうそう簡単には負けてあげられないよ」

 

 私の自主トレは、歩さんの組むメニュー程ではないにしても、結構ハードな方だと自負してる。

 そこまでペースを上げることはないにしろ、ずっと走り続けるわけだしね。

 殊にクラシック級の子が付いて来ようと思えば、肉体的・精神的共にかなりの負荷があるはずだ。

 

 そのはずなのに、ライスちゃんはかなり食いついて来る。

 去年自主トレを始めた頃は、ちょっと走ったらバテちゃって休憩してたのに、今じゃそこそこ付いて来れるようになったんだ。

 

 単純にスタミナを付けているってのもそうだけど、私のペースに併せることにどんどん慣れてきてるっぽい。

 やっぱりライスちゃん、歩さんが言っていたように、誰かに併せる才能を持ってるのかな。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ライスちゃんの取るメインの脚質、先行。

 これは、ある意味で最も実力の出しやすい脚質として知られる。

 

 逃げは、自然と前半にハイペースでの走りになるのでスタミナを消耗しやすく、また他のウマ娘が適度に競り合って来なければ闘争心や根性も出にくい。

 差しは、先行集団に進路を塞がれやすく、垂れたウマ娘に影響を受けたりすることも珍しくない。

 追込は、進路の影響やバ場の状態に最も影響を受けやすく、レースの展開に依存した走りになる。

 

 それらの脚質に比べると、先行はあまり運の要素に左右されない走り方と言えるだろう。

 

 だからこそ、自分のスペックに自信のある子……それこそマックイーンさんやテイオーのような、一線級のウマ娘もこれを選ぶことが多いわけだけど……。

 ライスちゃんの場合は、この「付いて行く」才能が故の選出なのかもしれないね。

 

 

 

 先行っていうのは、言ってしまえば「逃げウマ娘に付いて行く」戦法だ。

 突き抜けて独走しレースのペースを作る逃げウマ娘。

 これに対して食い下がり、距離を離され過ぎないように距離をキープする。

 そして終盤、第3コーナーあたりからスパート。逃げウマ娘との距離を詰めて、差し切り、ゴールする。

 

 流石は王道と言われるだけある、非常に隙のない戦法だけど……勿論、弱点がないわけじゃない。

 逃げの次に前めかつハイペースで走る分、スタートダッシュの上手さやスタミナの多さが必要となる。

 王道の脚質だからこそ競合率も高く、その先行集団の中で勝ち切るだけのパワーと根性、機転も必要。

 総合的に、自分のスペックが強く結果に表れる分、求められるものも多くなってくるらしい。

 ……以上、去年入院してた時に、テイオーが自慢気に言ってた内容でした。

 

 しかしその点で言えば、ライスちゃんは結構先行に向いてると思うんだよね。

 なにせ彼女は、ジョギング程度とはいえ私に……逃げウマ娘に付いて来るセンスとガッツがある。

 それに去年から見れば、かなりのペースでスタミナも伸びて来てるわけで。

 

 強いて言えば、機転の良さは……うーん、どうなんだろう。

 彼女と走ってると、時々不幸なハプニングが起こるんだけど、そういう時はわたわたしてる印象が強いんだよな。

 

 まぁ日常生活とレースの時で、全く違う姿を見せる子はいる。私とかもその気はあるし。

 前世アニメでそうだったように、レース中にだけ覚醒して、目から青い炎まき散らしながら万難を跳ねのけて突っ走る強キャラに覚醒する可能性はある。

 

 そうなるとやっぱり、ライスちゃんはかなりの難敵になるかもしれないな。

 マックイーンさんに似て長い脚が使えて、ガッチリとこちらをマークして離さない、刺客のようなウマ娘……か。

 

 いやぁ、未来のライスちゃんと走るのが今から楽しみだわ。

 どこまで私に迫ってくれるんだろう、どこまで私を追い詰めてくれるんだろう。

 あぁ……その日のことを考えると、今からゾクゾクするね。

 

 

 

 ……さて。

 そんな明るい未来を待つためにも、そして歩さんに勝つためにも、ブルボンちゃんに皐月賞を楽しんでもらうためにも……。

 ライスちゃん強化計画、始動だ。

 

「ライスちゃんライスちゃん、スタートダッシュの練習はしてる?」

「はっ、はっ……へ? あ、おわっ!?」

「おっと」

 

 咄嗟に「アニメ転生」、スイッチオン。

 

 ゆっくりと進む……というか、思考が加速しすぎて止まったに等しい世界の中で、視覚と聴覚から状況を把握する。

 

 ライスちゃんは……あぁ、体勢崩してる。

 疲労でちょっと意識が朦朧としてたところに声をかけちゃったからか、何かに足を取られて転びかけてるみたいだ。

 

 軽くジョギングしてる程度の速度だ、仮に転んでも足を擦りむくとかその程度で終わると思うけど……。

 まぁ、万一のこともあるし、アクシデントは防ぐに限るね。

 

 状況整理と体の動かし方を脳内でしっかり整え、無事ライスちゃんの体を支えることに成功。

 

 「アニメ転生」、チートって言うにはちょっと地味な能力だけど、便利さではピカイチだよね。何かあったらひとまず使っとけば、慌てる必要なくなるし。

 

 1回使ったら数時間使用不可になるとはいえ、使用するごとに何かが擦り減るってこともなさそうだし、使わずに腐らせるよりは使った方がお得だろう。

 発動条件に「走ってること」があるとはいえ、やろうと思えば走ること以外にも使えちゃう便利系チート能力だ。なんかグリッチみたいで申し訳ないけど、ガンガン使わせてもらおう。

 

 

 

 ……と、思考が逸れちゃった。今はライスちゃんのことだ。

 足首を捻ったり、変に体を捻ったりしないように気を付けて、腕の中にあった彼女の体を下ろす。

 

「大丈夫? ごめんね、急に声かけて」

「あ、いっ、いえっ! こっちこそごめんなさい……じゃなくて、ありがとうございますっ!」

「いーよいーよ、怪我なんてされたら寝覚めが悪いし。

 ちょうどいい、ここらでいったん休憩しようか。いい加減ライスちゃんも限界近いでしょ?」

 

 そう言われて改めて疲労を感じたのか、ライスちゃんは力なく頷く。

 ……あー、脚ちょっとカクカクしてら。こりゃ歩かせない方がいいかな。

 

「よし、じっとしててね」

「え? あっ、え!?」

 

 改めて、ライスちゃんの背中と膝に手を回して持ち上げ、お姫様抱っこの体勢。

 

 人間だった頃なら結構腕に負担かかっただろうけど、ウマ娘の筋力は人間より遥かに強く、そのくせ体重は人間とそこまで変わらない。

 その上、私はアスリートとして、脚と同時にちゃんと上半身も鍛えてるからね。

 だからこそ、こうしてお姫様抱っこもできるってワケよ。

 

「え、ふぁ、えぇ~っ!?」

「あ、こらこら暴れない。ほら、ベンチ座って」

 

 なんかわちゃわちゃしだしたライスちゃんを抑え、近くのベンチに持ち運ぶ。

 まったく、想定外の悪運が起こった時にわたわたしちゃうのは、ライスちゃんの悪い癖だと思うよ?

 いや、急に抱き上げたのは確かに距離感バグというか、マナー違反だとは思うけどさ。

 

 しかしライスちゃん、改めて抱え上げると……すっごく軽いな。

 体格は、相変わらず成長を見せない私と同じくらいなんだけど、予想よりも全然重さを感じない。

 人間だった頃の感覚で例えると、5キロくらいのお米の袋持ったくらいだ。

 ライスだけに。

 

 ……ライスだけに、ね!

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ライスちゃんをベンチに座らせ、近くの自販機で買ってきたスポドリを渡した。

 私も買ってきたヤツを飲みながら、彼女の状態を観察。

 

 時折スポドリを飲みながら、なんとか息を落ち着かせようとするライスちゃん。

 まだ脚は震えてるし……いや、なんなら手もプルプルしてる。

 焦点は……ギリギリ定まってるけど、視線自体がちょっと揺れてるか。

 

 ……うーん、思ったより疲れてるな。というか、本当に限界ギリギリだった感じ?

 この子、前世アニメでもどちゃくそストイックな描写あったし、もしかしなくとも歩さんと同じ、努力の鬼というか、やりすぎちゃうタイプなのかね。

 

「ライスちゃん、そんなにフラフラになるまで走るのは駄目だよ。キツかったらちゃんと言ってね」

「で、でも、お姉さまに、迷惑が……」

「可愛い後輩に併せるなんて、全然迷惑に感じないよ。

 ……っていうか、ちょっと言葉が強くなっちゃうけど、万が一それで怪我なんかされたら、ホントに迷惑になっちゃうからさ」

「う、そう……ですね。ごめんなさい、気を付けます」

「うん、そうして。あんまり言うこと聞かないなら怒っちゃうからね?」

 

 軽く釘を刺してから、さっきも出した本題に入る。

 

「さて、改めて。ライスちゃんはスタートダッシュの練習はしてるかな?」

「えっと、それは……あう、言っていいのかな……」

 

 「言っていいのかな」……か。

 あぁ、そうか。そりゃそうだよね。

 

「あー、ごめん、不躾なこと聞いちゃった。今のはなかったことにして」

 

 私は一応、ライスちゃんのライバルになり得るブルボンちゃんと同じ陣営に属しているわけで。

 この聞き方じゃ、まんま情報を抜こうとするスパイだよね。

 

 私としては、むしろライスちゃんを勝たせようと……いや、ブルボンちゃんの本意が叶わないのも悲しいので「勝たせよう」までは行かなくとも、「良い勝負をさせよう」と思ってるんだけどね。

 

 

 

 ぶっちゃけると今のところ、ブルボンちゃんとライスちゃんの間には、埋めがたいスペックの差がある。

 

 歩さんも作戦会議で言ってたけど、今度のスプリングステークスだと「ブルボンちゃんが領域に目覚めず、なおかつライスちゃんが領域に目覚めた」場合に、初めて勝てるレベル。

 更に言えば、あの作戦会議ではちょっとぼかした言い方してたけど、歩さんが言ってた「勝てる」っていうのは「勝機が発生する」って意味だ。

 実際には、ブルボンちゃんが掛かってスタミナをロスしてしまい、更にライスちゃんにとって理想的な展開でレースが進み、その上で領域を開けば勝てるだろう……といった感じか。

 

 勿論、今回のレースはマイル距離。ブルボンちゃんに有利で、ライスちゃんに不利な条件だってこともあって、ここまでの格差が発生するわけだけど……。

 

 ぶっちゃけブルボンちゃん、伸びがヤバいからなぁ。

 

 歩さん曰く、彼女は「君程ではないが、すごく素直に成長する体」だそう。

 更にその上であのストイックなトレーニング姿勢を見せてるんだもの。

 ブルボンちゃんは成長性の才能と努力の才能を両方持ってるわけだ。心技体の内、心と体の面では天性の才を持ってると言っていい。

 

 それに比べてライスちゃんは、心と技には素質があると思うんだけど、体の才能は頭1つ劣ってる。

 私がライスちゃんに色々教えて、それでようやく互角……に近付く、くらいじゃなかろうか。

 

 というか、このままブルボンちゃんが歩さんプロデュースで育っていけば、下手すると無敗のまま三冠とか取れちゃうレベルに成長するかもしれないんだよね。

 そしたら自然、彼女も今年のジャパンカップなり有記念なりに出走することになって、私とも戦うことになるわけで……。

 更にそこに、ブルボンちゃんと同等に()れるライスちゃん、蜘蛛の巣のような策謀を巡らすネイチャ、シンプルに激強なテイオーにマックイーンさんも加わって来るわけで……。

 

 うへへ、楽しみだな。

 今年最後の祭典、絶対最高のレースになる。

 というか、私がそういう舞台にしてやるぜ。

 

 

 

 ……あ、ちょっと思考が逸れちゃった。

 そういう今年の最終目標のためにも、今はとにかくライスちゃんを鍛えなきゃだ。

 

「ライスちゃんから情報を抜こうって意図はないよ。というか、こうして一緒に自主トレしてくれる仲だもん、少しでも力になれたらって思うんだ」

「お、お姉さま……でも、ブルボンさんは……」

 

 おぉ、心優しい。

 ライスちゃん、私の立場を気にしてくれてるんだ。

 

 でも大丈夫、そこに関してはトレーナーにも許可取って勝負ってことになったし……。

 その後、ちゃんとご本人にも確認を取ってるんだ。

 

「大丈夫。ライスちゃんに手を貸していいかって訊いたら、『問題ありません。私はマスターと共に勝利を目指すだけです』ってさ」

 

 ライスちゃんには言わないけど、むしろ「マスターと出会えたのはウィルム先輩のおかげでした。その時点で、先輩からは十分以上に助けられています。どうか私のことは気にせず、先輩のしたいと思うことをなさってください」って言われてしまった。

 

 私の後輩が良い子すぎて泣ける。

 こんなこと言われたら、ブルボンちゃんの方にも手を貸したくなっちゃうよ。

 ま、歩さんがいるし、私の助けなんて不要かもしれないけどさ。

 

 私にできるのは、精々ブルボンちゃんがライスちゃんとのレースを楽しめるよう、ゲームバランスを調整するくらいです。

 

「そんなわけで、ちょこっとだけ手助けさせてほしいんだ。ライスちゃんのこと。

 私の勝手なエゴで、もしかしたら迷惑になるかもしれないけど……駄目かな」

 

 私がそう言うと、ライスちゃんは……嬉しそうに微笑んでくれた。

 

「お姉さま……やっぱり、お姉さまだ」

 

 いや、お姉さまじゃないけども。

 ……いい加減、聞いちゃおうかな、こういうとこ。

 

「そういえばライスちゃん、なんで私のことお姉さまって呼ぶの?」

「あっ、その……駄目、ですか……?」

「いや駄目じゃないけど。え、血縁とかないよね?」

 

 え、流石にそんな展開ないよね?

 せっかく両親への想いを纏め終わったのに、ここから隠し子とか腹違いとか出てきたら、ちょっと心の整理が付かないよ?

 

 困惑する私に対して、ライスちゃんは……疲労で上気する頬に手を当てて、口を開く。

 

「その……『お姉さま』っていうのは、ライスの……憧れなんです」

 

 

 

 ライスちゃんは少し恥ずかしそうに、彼女の過去を語ってくれた。

 

 彼女は昔から酷い不幸体質で、自分が不幸を起こした結果「誰かを不幸にしてしまうこと」を極端に恐れていた。

 そんな彼女にとっての心の支えが、「しあわせの青いバラ」という絵本だったのだという。

 

 庭園の中で1本だけ咲いた、珍しい青いバラ。

 しかしそのバラは、物珍しさから「不幸を引き起こす」と避けられ、恐れられてしまう。

 青いバラ自身もその状況に耐えられず、果てには萎れ、枯れかけて……。

 

 しかしその時、「お姉さま」が青いバラを引き取りに来る。

 青いバラを恐れず、むしろその美しさを評価してくれる女性。

 青いバラは彼女の愛を受けて煌びやかに咲き誇り、その家の窓辺に飾られて、たくさんの道行く人を幸せにしたのでした。

 めでたし、めでたし。

 

 ……と、そんなお話らしい。

 

 多分ライスちゃんは、その青いバラと自身を重ねてしまったのだろう。

 そこにいるだけで、誰かを不幸にしてしまう。

 ライスちゃんの中では、自分はそういう存在なんだ。

 

 だからこそ、そんな青いバラが救われる物語に、救いを覚えた。

 自分が救われたような気持ちになったんだ。

 

 

 

 ライスちゃんの過去語りがいち段落したところで、私はふと首を捻った。

 

「……あれ」

 

 いや、待てよ?

 その話の流れだと……私のことを「お姉さま」って呼ぶのは……。

 

 襲い来る嫌な予感に冷や汗をかく私を前に、ライスちゃんは少しばかり照れながら、しかしキラキラと輝く瞳で私の方を見て来くる。

 

「それでライス、皐月賞を見て、お姉さまのことを知って!

 最初は期待されてなくて、それでも走り続けて、皆を笑顔にしてたお姉さまが、すごく格好良く見えて……ライスも、ライスもああなりたいって思ったんです!」

「あ、そ、そうなんだ」

 

 そ……そういう感じ?

 確かに私、ホープフルステークスに勝つまでは殆ど人気なかったし、なんなら皐月賞の時には悪役扱いされてたけどさ。

 

 そっか、ライスちゃんの境遇的に、ちょっと感情移入しちゃったかー……。

 

「……それにウィルム先輩は、『ライスも変われる』『自分の力で変わるんだ』って言ってくれた。

 その先で待ってるって、そう言ってくれたんです。

 だから先輩は、ライスにとっての目標で、ライスを導いてくれたウマ娘。

 庭園から窓辺へ、ライスが走るべき方向を示してくれた……ライスにとっての『お姉さま』なんです!」

 

 ……え、っと。

 

 お、おう。

 

 いや、なんだろうな、思ってたより全然重いぞこれ。

 私、いつの間にか想定以上にライスちゃんに好かれちゃってるんだが?

 

 正直、当時の私としちゃ、ライスちゃんを助けるのは「アニメでもカッコ良かったし、強くなってくれると嬉しいなぁ。もっともっと楽しいレースしたいなぁ」くらいの気持ちだった。

 しかし、当時割と追い詰められてたらしいライスちゃんには、そんな私の言葉がクリティカルヒットしてしまったらしい。

 

 対人コミュニケーションって難しいものだ。

 意図しない言葉で相手を傷つけてしまうこともあれば、その逆もまた然りで、何気ない言葉に救われるようなこともある。

 私だって歩さんの言葉に救われたから、その気持ちはよくわかる。

 

 わかる、んだけども!

 

 実際に当事者になると、すごい動揺しちゃうよこれ!

 べっ、別にライスちゃんを救おうと思って言ったんじゃないんだから!

 ただお互い楽しく走れたらいいなって思っただけなんだからね!

 

 というか私じゃなくてブルボンちゃん! ブルボンちゃんの方に行ってほしかったんだけどなぁ!

 ミホライには需要があってもホシライなんか誰も求めてないんだって!

 

 

 

 内心の動揺を押し殺し、懸命に落ち着こうとしていると……。

 

「だから、その、先輩がよければ、これからもお姉さまって呼んでいいですか……?」

 

 ライスちゃんは、恐る恐るといった感じで訊いて来た。

 

 正直、私に「お姉さま」は重すぎると思う。

 だって私、スパダリならぬスパハニではないもん。いつだってライスちゃんの望んだ答えを返せるとは限らない。

 私は私、ホシノウィルムだ。青いバラを救うお姉さまとは、少なからずイメージの差異もあると思う。

 

 ……でも、この子のお願いを拒めるか?

 

 体格は自分と同じくらいなんだけど、前世で大学生まで成長したってこともあって、ライスちゃんはどうしても年下の女の子っぽく思えてしまう。

 そんな子が、不安そうにうるうるとその瞳を潤ませて、ゴリゴリに保護欲を刺激して来るんだ。

 

 拒めるか、これ??

 

 

 

「……私、ライスちゃんが思ってる程、立派なウマ娘じゃないよ。ただ運良く最高のトレーナーに巡り会えて、最高の機会が与えられた、ラッキーなウマ娘ってだけ。

 それでもいいなら……うん、自由に呼んでいいよ」

「あ、ありがとうございますっ!」

 

 ……あー、弱い。私弱すぎる。

 

 でも仕方なくない? ライスちゃんだよ? 前世アニメで見た、とんでもなく頑張り屋さんで、逆境の中でも懸命にひた走るライスちゃん。

 この子から、こんな風に求められて、断ることなんてできないでしょ。

 できるヤツがいたとしたら多分、人の心がない。あるいはウマの心がない。

 

 

 

 私は「えへへ」と可愛らしく笑うライスちゃんを見ながら、内心でこっそりとため息を吐いた。

 

 おかしい。

 私、ミホライが見たかっただけなんだけどなぁ……。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さて、お姉さま呼びとかお姉さま扱いは、もう受け入れるとして、だ。

 そろそろ本題に戻らねばならない。

 

「それじゃ、改めて。私としてはライスちゃんを手伝いたいなぁと思ってる。どうかな」

「はいっ、是非! お姉さまに教えてもらえるなら百人力です!」

 

 ライスちゃんは腕をまくり、ぐっと力こぶを作ってみせた。可愛い。

 懐いてくれた子犬を幻視して全力で撫でまくってあげたくなったものの、渾身の自制心でそれを押しとどめる。

 くっ、魔性の黒鹿毛ちゃんめ……! 私を誘惑しようったってそうはいかないぞ!

 

「ありがとう。それで、教えるならまずはやっぱり、スタートダッシュかなと思うわけだよ」

「スタートダッシュ、ですか?」

 

 ベンチに座ったライスちゃんの横で、私はぴっと人差し指を立てた。

 

「ほら、ライスちゃんのトレーナーさんって、トレーナーとしての経験が浅いじゃん?

 歩さんと同期ってことは、ぶっちゃけ差しウマ娘であるネイチャしか経験してないわけで。

 そうなると、先行ウマ娘のライスちゃんにとって大事になるだろうスタートダッシュの肝要さも、知識では知ってても体感できてない可能性がある……と、私は愚考するわけよ」

「トレーナーさんは……」

 

 弁解するように口を開きかけたライスちゃんを、慌てて手で制する。

 

「あ、待って待って。さっきも言った通り、ライスちゃんから情報を貰おうとは思ってないよ。

 だから教えないでオッケー。これも、私の独り言みたいなものだと思ってもらえば大丈夫」

 

 私、嘘を吐いたり仮面を被るのはすごく上手い自信あるけど、もし歩さんに「頼むから教えてほしい」って言われたら断りきれる気がしない。いわゆる惚れた弱みってヤツだ。

 ライスちゃんの情報アドバンテージを守ることを考えると、そもそも秘密を知らないのが一番ってわけ。

 ……まぁ、歩さんがそんなことを求めるかと言えば、多分そんなことはしないんだけどさ。

 

「まぁ実際、ライスちゃんのトレーナーさんがスタートダッシュをちゃんと教えてるかはわかんないんだけどさ、もし仮に教わってたとしても、追加で私から体感的なところを学ぶのも悪くはないでしょ?

 そんなわけで、私は勝手にライスちゃんに教えちゃおうと思います。

 私が一番最初に歩さんに教わったこと。最近、改めて練習してること。逃げとか先行を取るウマ娘が覚えるべき、ゲートの中での集中力……。

 歩さんの言葉を使えば、『コンセントレーション』ってヤツをね」

 

 

 







 「コンセントレーション」のヒントLvが5上がった

 そんなわけで、ライス強化パッチでした。
 無敗三冠ウマ娘による理論解説&見取り稽古なわけで、ヒントレベルが急上昇するのも多少はね。
 というか本作では、ヒントレベルは基本的に他のウマ娘の技を見て盗む感じ。目の前でご丁寧に何度も見せてくれれば、そりゃ一気に上がります。



 次回は3、4日後。トレーナー視点で、釣りと対策の話。



(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。