転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 原作キャラを書く時は必ずアプリのストーリーを読み直してるんですけど、毎回「くそっ可愛いなコイツら……」となってます。





ガキが……舐めてると足が速くなるぞ

 

 

 

 この世界は、最終的には勝つか負けるかだ。

 レースで競えば、必ず1着と1着以外が生まれる。

 おててを繋いで仲良くゴールなんてのが許されるのは初等部までであり、中等部以上しか入学できないトレセン学園において、そんな八百長は許されないのだ。

 観客が、そして誰より選手自身が求めているのは、互いの技術と肉体を完膚なきまでに使い潰す、血湧き肉躍る死闘なのだから。

 

 ただし、それを見て傷つく者がいないわけではない。

 例えば、それこそ俺のような軟弱者とか。

 全くもって最悪なことに、トレーナーの名家に生まれたくせして、どうやら俺の性格はトレーナーに向いていないらしい。

 

 …………けれど。

 それでも、割り切るべき一線はある。

 俺が堀野のトレーナーに適さないことなど、とうの昔に承知している。

 その弱さを押し殺すためにこそ、俺は仮面を被るのだ。

 

「勝ってこい、ホシノウィルム」

「はい、必ず」

 

 そう言って、俺の担当は外ラチを乗り越え、白線に並ぶ。

 きっと彼女も、彼女自身の感情を押し殺して。

 

 ……俺と彼女は似ているのかもしれない。

 ふと、そんなことを思った。

 

 

「ふーんだ、今日もボクが勝っちゃうもんねー!」

「こうなったからには、やるっきゃないし……!」

「…………寒い」

 

 

 

 そうして、舞台は整った。

 何十人どころか何百人という見物客が見守る中。

 3人の模擬レースが、始まる。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 時は少々遡る。

 

 

 

 そろそろ弥生賞が迫ってきた頃。

 その日の俺は珍しく、ホシノウィルムのトレーニング風景を眺めていた。

 手を付けなければいけない書類は全部処理したし、研究も有用なものは終わっている。

 他にやることもないし、無駄に時間を過ごすくらいなら担当ウマ娘のトレーニングでも観察しておくか、と思っての行動である。

 

 ……とは言っても、トレーニングの観察なんて「アプリ転生」を持つ俺からすればあまり意味のないこと。

 現に今も、ホシノウィルムの残り体力や失敗率、ステータスの上昇具合も見えているわけで。

 コーナーを曲がる彼女を眺めるのは、半ば仕事してますアピールでしかないのだった。

 

 鹿毛を目で追う一方、頭の中ではぼんやりと、これからのことを考える。

 弥生賞、そしてその先にある皐月賞。

 この2つは、去年の年末に出走したホープフルステークスと同じコースを走ることになる。

 ホシノウィルムは既に、出走しなかった者よりも経験を積んでいると言っても差し支えない。

 故に、考えるべきは更なる安定化と……奇策。

 

「……ふむ」

 

 ホシノウィルムは世代二強の片割れ。その注目度は、テイオー以外の誰よりも高い。

 弥生賞皐月賞共に、そこに出走する他のウマ娘たちは、彼女の走りと弱点を研究し尽くして来るだろう。

 G2である弥生賞はともかく、国内で最も注目されるG1レースの1つである皐月賞では、彼女の走りを潰しにくるウマ娘が出てくる可能性が高い。

 

 ホシノウィルムは今まで公式レースで全戦全勝、かつ大差勝ちを続けている。その上今のところは出遅れたことも掛かったこともない。

 一見して隙のないウマ娘。……けれどその実、彼女にも弱点と呼べるものはある。

 

 かつて1度だけ、ホシノウィルムは暴走したことがある。

 ……いや、模擬レースでも抑えることなく走るのはある意味暴走なんだけど、それは置いておくとして。

 ナイスネイチャとの模擬レースで詰め寄られた時、彼女は明らかに無茶なスパートをかけた。

 つまるところ、ホシノウィルムは後方からの圧力に弱く、掛かりやすいのだ。

 そろそろ、その情報を掴んだ陣営が出てきてもおかしくない。そもそもネイチャのトレーナーに口止めもしていないしな。

 

 

 

 ……しかし、詰められた時に焦る、か。

 俺は最初、それをホシノウィルムの勝利への執着故の暴走だと思っていたが……。

 最近になって、それは違うのだと感じ始めた。

 

 ホシノウィルムが勝利に執着しているというのなら、レースに勝てば多少なりとも喜ぶはずなのだ。

 それなのに、彼女は勝った時にも特段喜ぶ様子がない。まるでそれが当然のことであるというように、表情すら変えはしない。

 つまるところ、恐らく彼女は勝利を求めているわけではないのだろう。

 そう仮定すれば、あの狂気的なまでの勝利への渇望に見えるモノが何なのか、予想も付くというもの。

 

 

 

 俺の担当する、鹿毛の小さなウマ娘。

 ……ホシノウィルムは、極端に「敗北を恐れている」のだ。

 

 

 

 勝利を求める。敗北を恐れる。

 この2つは、近いようで全然違う。

 勝利をプラスのモチベーションにしているのではない。敗北をマイナスのモチベーションにしている。

 楽しいから走って勝つのではなく、負けたくないから仕方なく走っているのだ。

 そりゃあレースを楽しく思ったことがない、なんて答えるわけだ。

 彼女にとって、レースとは楽しむものではなく、敗北を避けるために仕方なくやるもの。

 人で例えるなら、皆が面白いから勉強してテストに挑む中、1人だけ成績を下げないためにやりたくもない勉強をやっている、とでも言えばいいか。

 

 しかし、それならテストなんて受けなければいい、という思考になりそうなものだが……。

 彼女がそうしていない以上、何かしら、レースに出走する理由があるんだろうな。

 もしかしたら、テストは受けなければ0点になるように、レースに出ないことは論外だと考えているのかもしれない。

 ……今のところ、この辺は憶測の話でしかないが。

 

 堀野の歴史に、そんな精神状態のウマ娘のデータはなかった。

 彼女の情緒発達の最中に何があったかはわからないが、相当に珍しいケースなのだと思う。

 ……だからこそ、難しい。

 

 敗北を恐れること自体は、いい。それが彼女の個性だと受け入れてもいいと思う。

 だが、走りを楽しめないのは、駄目だ。そんなウマ娘は長続き……いや、最悪の言い方をすれば、「長持ち」しない。

 

 何かしら、彼女が走りを楽しめるようになるきっかけが作れればいいのだが……。

 これがなかなかに難しい。少なくとも、俺のトレーナーとしての立場からでは、彼女の深層に手を伸ばすことができない。

 精々、その可能性のある瞬間を作り出すことで精いっぱいだ。

 

 

 

「……また、主題から逸れたか」

「え?」

 

 この話に関しては、既に考え尽くした。現状では打開できないと、結論を出していたんだけどな。

 

 話を戻して、迫りつつある皐月賞の話だ。

 走り方を潰しに来る、弱点を突かれる……そうは言ったが、恐らく今回の皐月賞において、それができるウマ娘は多くないと思う。

 この時期ならば、まだゲームメーカーならぬレースメーカーを警戒する必要はないだろうし。

 今警戒すべきはむしろ、ワンマンアーミー……。

 

「トウカイテイオー……」

「ん、何?」

「いや、独り言だ」

 

 トウカイテイオー。恐るべき相手だ。

 つい先日も偵察に行ったが、やはり以前に比べてステータスの上がり方が良くなっていた。

 まぁ、わからない話じゃないよね。

 今までは自分より弱い相手しかいなくてやる気が出なかったが、ついに自分に比肩する相手が現れた、と。

 そりゃあトレーニングへ臨む気合いも入るという話だ。

 

「えー何だよぅ、突然名前なんて呼んじゃってさ」

「ただ皐月賞のことを考えていただけだ。気にするな」

 

 トウカイテイオーの恐ろしさは、その安定性だ。

 彼女の現在の戦績は、3戦3勝。1月のオープン戦では2バ身以上の差を付けての勝利を飾った。

 常勝無敗。白星の数だけなら、ホシノウィルムに並んだ形である。

 

 アプリ版では露骨だったが、この世界においても、先行や差し、追込のウマ娘は戦績が安定しにくい。

 バ群に周りを塞がれれば、どうしたって前に出ることができないからだ。

 逃げウマ娘のように、ステータスが高ければほぼ確実に勝利できる方が珍しいとも言えるだろう。

 逃げ以外のウマ娘がその不安定性を解決するためには、囲まれた際にバ群の中から脱出する必要がある。

 ……だが、それを実行するのがどれほど難しいことか。

 

 バ群を抜ける方法は2つ。

 1つ目は、最初にホシノウィルムが走った模擬レースで彼女が行っていたように、敢えてレーンの外側に抜けてバ群を脱出し、大外から一気に捲ること。

 が、この方法はデメリットが非常に多い。一時的とはいえ走る方向が変わることで前方との距離は開くし、そもそも大外は走る距離自体が伸びてしまう。

 いちいち説明しなくてもわかる通り、こんなのはステータスの高さに任せたゴリ押しだ。

 ホシノウィルムのように周りから卓越したステータスを持っていない限り、この方法を取ることはできないだろう。

 ……まぁ実のところ、そういうウマ娘も過去にそこそこいたりするのが怖いところだが。

 

 2つ目。こちらがメインの方法……バ群の中に偶発的に生まれる細い細い合間を通り、一瞬の隙を見逃さず前へ脱出すること。

 自分を取り囲むバ群の状況を把握し、常に時速70キロメートル弱で動くそれらの、次の瞬間を思い描く。

 更にはその中から針に糸を通すような隙間を見つけ、一瞬で方向転換と加速を済ませ、そこに飛び込む……。

 1つ目はもはや困難と呼んでもいいレベルだったが、だからと言ってこちらが簡単というわけでもない。

 状況把握と想像力、判断力、加速力に体の柔軟さ。そのすべてを使って行う、芸術と呼んで差し支えない技術だ。

 

 だからこそ。

 ウマ娘は、マークされると弱い。

 矛盾しているようだが、飛び抜けて強いウマ娘ほど、レースでは苦戦を強いられるのだ。

 特に先行から後方の作戦を取る子は、どうしたって前に出ることができず、バ群に沈んでしまう。

 まさしく、最初の模擬レースのホシノウィルムのように。

 

「皐月賞? あー、やっぱりボクのこと意識してるんだ?」

「ん? ああいや、トウカイテイオーがな」

 

 しかし、マークされると弱いというのは、所詮は常識に過ぎない。

 飛びぬけた才能は、時に常識を破壊することがある。

 トウカイテイオーの才能は、まさしくそれだ。

 無意味な仮定にはなるものの、ホシノウィルムがおらず怪我がなければ、彼女は無敗の三冠を取ることだって難しくなかった優駿なのだ。

 

 おこちゃまな言動からは想像もできない、直感的なレースセンス。

 自分の判断を疑わず、それを迷いなく実行できる自信。

 そして何より、彼女のあらゆる無茶を叶える、天性の柔軟さ。

 まさしく才能の怪物。たとえどれだけバ群に囲まれようと、彼女は当たり前という顔でそこを抜けてくる。

 

 

 

 ……そんな彼女だからこそ、ホシノウィルムには勝てないのだが。

 

 レースの面白いところは、相性だ。

 例えば、トウカイテイオーは、他のウマ娘を操るようなレースメーカーに強い。

 いかに他のウマ娘が動こうと、彼女の才能はその突破を容易にするし、自信の高さから他のウマ娘の動向によって掛かることが少ないからだ。

 

 そしてレースメーカーは、ホシノウィルムに強い。

 追いつかれるだけで掛かってしまうホシノウィルムは、他のウマ娘の動向次第では簡単に潰れてしまうからだ。

 今はステータスに差があるから勝てるだけで、いずれホシノウィルムはこういった手合いに苦しむことになると思う。

 ……いや、そうならないようにトレーニングはしていくけどね。

 

 最後に、ホシノウィルムは……残酷な話だが、トウカイテイオーに強い。

 どれだけ才能があるテイオーでも、ホシノウィルムの圧倒的なステータスには勝てない。何の小細工も必要もなく、ただ純粋な速さだけで、蛇は帝王の先を行く。

 故に。

 

「ホシノウィルムがトウカイテイオーに負けることは、そう起こり得ない。

 けれど、やはり警戒するなら彼女だろうからな」

「…………。ふーん、そーなんだ。このボクにそういうこと言っちゃうんだ」

 

 ……ん?

 あれ、ネイチャってこんな声だっけ?

 なんかいつの間にか隣にいるから普通に話しちゃったけど……そもそも今日って、合同トレーニングないよね。

 なんか喋り方もガキっぽいというか、なんかこう、どこかで聞いたような自信満々感が。

 

 ……ははは、いや、まさかなぁ。

 そんなギャグ漫画みたいなことを俺がやるわけがないだろう。

 いくら手持無沙汰でぼんやりしていたとはいえ、そんなまさか。

 俺はこれでも真面目な方で、ギャグが似合うようなキャラでもないし。

 いつの間にか隣にいたトウカイテイオーに、それとも気付かずに話しかけていたなんて、そんなこと。

 

 恐る恐る横を見る。

 こちらを睨む、不満げな青い瞳。

 リボンで結んだ、ホシノウィルムより明るい鹿毛に、一房だけ垂れた白色。

 その体躯は俺の担当より僅かに大きいくらいで、細く、けれど引き締まっていて。

 子供のように、ぷくっと頬を膨らませている、見覚えのありすぎる顔。

 

「……トウカイテイオー!? 何故ここにいる!?」

「え、気付いてなかったの? うわ、そんな人ホントにいるんだ……」

 

 ……ホシノウィルムにとっては恐らく最大のライバルとなる、因縁の相手だというのに。

 俺と彼女の出会いは、そんな締まらないものだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ……恥ずかしい動揺を晒しはしたが、それはそれ、これはこれ。

 切り替えよう、うん。彼女もあんまり面白がってる風じゃないし。

 何より、俺がホシノウィルムの契約トレーナーである以上、突然現れたテイオーに聞くことがあるし。

 別にテイオーに引かれるのが思いの外キツくて、ちょっと涙目になったから話題を逸らそうとしたわけではない。断じて。

 

「ん、ん。それで、何をしに来た、トウカイテイオー。視察か?」

「いいや? ボクは帝王だもん、他のウマ娘を視察なんてしないよ。そういうのはトレーナーに任せてるし」

 

 溢れ出る自信。自分というウマ娘の前には、誰もが平民に過ぎないという最強の自負。

 ……なるほど。どうやらテイオーは、今でもホシノウィルムをライバル視していないらしい。

 意識はしているし、こうして見に来たことからも、面白がっているのは間違いない。……けど、同格、あるいは自分以上だとは認めてない、と。

 

 これは良い情報を得た。

 

 今のトウカイテイオーになら、ホシノウィルムは負けない。

 

「今日はオフだから遊びに来たんだよ。僕に挑戦状を叩きつけてくる、身の程知らずのウマ娘がいるって聞いたからね!」

「ほう、オフだから遊びに。それは羨ましいことだな……」

「でしょー! ふふん、テイオー様は一日オフを許されるくらい、メリハリをしっかり付けるウマ娘なのだ!」

 

 いや、羨ましいのはオフの日にしっかり休養してくれるところだが。

 ウチの担当ウマ娘は1日オフって言ってもいつも通り、っていうかいつも以上にトレーニングに精を出しちゃうからなぁ。

 明日はお休みだからしっかり体を休めるように、って言って別れた2日後、俺の前には体力が更に減ったホシノウィルムがいるわけよ。わかる? この気持ち。

 

「それで、あれがホシノウィルム? ……ふーん、確かに強そうじゃん」

 

 テイオーは、今もなおひたすら走り続けるホシノウィルムを見て、腕を組んで言った。

 今のホシノウィルムは、練習ということで大して速度を出していない。……ウマ娘基準の話だけど。

 それなのに強いって判断ができるんだな。

 やはり強いウマ娘は、ある程度相手の強さを伺えるものなのか。なんかこう、オーラというか、そういうのがあるのかね。

 それとも、とんでも動体視力でトモを見たとか? だったらすごいな、ある意味。

 

「よし、じゃあ模擬レースしようよ模擬レース! テイオー様はいつだって挑戦を受けるのだ!」

「どうしてそうなる。無理だ」

「えーっ何で!? そっちからケンカ売ってきたんじゃん!」

 

 あーこのキンキンきて癖になる声、前世から変わんないなー。

 やはりトウカイテイオーはトウカイテイオー、彼女は俺の知る通りのウマ娘なのだろう。

 

 ……だからこそ、彼女を破らなければならないことが辛いんけどさ。

 

「喧嘩を売ったことは……まぁ、否定はしない。

 だが、今のホシノウィルムに必要なのはレースではなく練習だ。残念だが、皐月賞まで待ってくれ」

「えーっやだやだやだー! 君あの子のトレーナーでしょ? お願いだからさー!」

「諦めてくれ、トウカイテイオー」

 

 テイオーはこんな感じの子だ。

 歳はホシノウィルムと変わらない中等部2年でありながら、甘え上手というかなんというか、こういう時に駄々をこねたり、話を聞かなかったり、精神的に幼い部分がある。

 そして中等部2年のウマ娘にこんな感じに泣きつかれると、当然、世間体が悪い。テイオーのトレーナーは大変だろうな……。

 

 さて、どう説得したものか。何か物で釣るのが楽かな……と、そう思っていたが。

 続くテイオーの言葉を聞いて、俺は少し考えこむことになる。

 

「やだよ、久しぶりに楽しめそうな子見つけたんだもん!

 ね、ね、いいでしょー? 模擬レースしようよー!

 そっちも皐月賞出るんでしょ? その試運転ってことで!

 このテイオー様と模擬レースできるなんて、滅多にないことなんだからさー!」

「む……」

 

 ……楽しそう、か。

 

 

 

 テイオーの挑戦……いや、彼女の視点だとホシノウィルムが挑戦した形だろうが。

 とにかく、彼女との模擬レースを受け入れない理由はいくつかある。

 その中でも一番大きいのは、「テイオーの覚醒が怖い」ってこと。

 

 ウマ娘は稀に、その精神が肉体を超える。ライスで言うところの、鬼が宿った状態だ。

 鬼が宿るだとちょっと長いし、俺はこれを「覚醒」と呼んでいた。

 この状態になると、ウマ娘はステータスを大幅に超えたヤバい走りを見せる。不可能と思うようなことすら起こったりする。

 隠しパラメータとして、やる気が絶好調の上にもう一段階あるようなイメージって言えば伝わりやすいか。

 

 堀野のこれまでの歩みを見るに、これは滅多になる状態じゃない。多くのウマ娘が体験せず現役を終えるくらいだ。

 ただし、一度覚醒してしまったウマ娘は、これ以上ない程の脅威となる。

 

 この前のパンパグランデが良い例だ。

 ステータスはそう飛びぬけていないのに、序盤から明らかにペースキープと位置の調整が頭1つ抜けていた。

 更にバ群を早めに抜け出して仕掛け準備に入る判断力、ホシノウィルムに勝つためにはロングスパートをかけて潰すしかないという理解力、そしてもちろん、それを叶えるのに必要な走力。

 その全てが、パンパグランデの本来のステータスを超えたものだった。

 

 ……ステータスを数値化して見ることのできる俺が言うのは何だが、やはりウマ娘というのは数値では測れないものがあるのだろう。

 幸いなことがあるとすれば、覚醒したウマ娘は明らかにそれとわかることだ。なんかもう、明らかに強そうな雰囲気出てるんだよね。

 

 あれをテイオーに出されたら、下手すりゃ勝てない可能性が生じる。

 それは困る。超絶困る。

 ホシノウィルムが敗北するのは、彼女の目標とか「命がけ」とか、どの側面で見ても避けるべき事態だろうし。

 

 つまるところ、ホシノウィルムの勝率を上げるための道は2つ。

 1つ、ホシノウィルム自体の足りないステータスやスキルを補完する。

 2つ、テイオーのステータス上昇と覚醒を観察し、可能な限り防ぐ。

 ……後者はあんまり取りたくない手段だけどね。フェアとは言い辛いし。

 

 

 

 で、だ。

 覚醒がどんな条件で起こるのかは、正直判然としない。

 でも……多分、事前に限界ギリギリにトレーニングを積んでおくこと、精神をレースただ1点に集中すること、この2点は必須だと思う。

 

 トウカイテイオーは現在、この2つのどちらも満たせていない。

 壊れるギリギリのトレーニングなんてしなくても、彼女はレースに勝てる。

 他のことを考えられない程目の前のレースに集中しなくても、彼女はレースに勝てる。

 あまりにも才能があるが故に、彼女は自分に相応しいライバルを得られず、覚醒できないのだ。

 

 ……そう。これは、彼女がホシノウィルムと正しく向き合うことがなければ、の話だ。

 

 トウカイテイオーのライバルは何かと訊けば、恐らくはメジロマックイーンと答える人が多いだろう。

 だが俺は、テイオーの最大のライバルは別にあると思う。

 それは、彼女自身の怪我だ。

 ……まぁ俺はテイオー引けなかったから、アプリの彼女がどういうストーリーを描くのかはわかんないんだけど。

 ちょっと調べた史実を見るに、トウカイテイオーは何度も骨折し、その度に再起してきたんだろう。

 そして毎度の怪我による成長の停滞と衰退で、周りのウマ娘との差が埋まり、結果としてテイオーは疑似的にライバルを得ていった……。

 というのが、俺の見立てだ。

 正しいとは限らないけど、少なくともウマ娘としてのトウカイテイオーは、今のところその底力を振るうことも鍛えることもしていないからな。一部は当たってるんじゃないか。

 

 ……再起すら難しい骨折を何度も経験して、それでようやく他の名馬といい勝負するあたり、前世史実のトウカイテイオーはとんでもない最強の馬だったんだろうな。

 そしてそのとんでもなさは、目の前のガキもといウマ娘にも引き継がれているわけで。

 だからこそ、彼女が最初に骨折をするレース……確か、日本ダービー。少なくともそこまでは、彼女が覚醒することはないはずだった。

 だがどうだ、今彼女の目の前には、帝王を超えるかもしれない蛇がいる。

 下手にその実力を認識されては、テイオーが覚醒してしまいかねないのだ。

 

 と、そんなことを馬鹿真面目にテイオーに語るわけにもいかないので、無理、と言ったのだが……。

 

 

 

「楽しそう。……トウカイテイオー、君はホシノウィルムとのレースを楽しそうだと思うか?」

「え、そりゃあ楽しそうじゃない? だってあの子速いんでしょ? 速いウマ娘よりもっと速くゴールしてみんなに褒めてもらうの、すっごく気持ち良いし!」

 

 まぁ、褒めてもらう……承認欲求を満たすことが、果たして「楽しい」なのかはわからんが。

 そうか、確かに……自分に近い力を持つ子と戦うことは、ウマ娘の根本にある闘争本能を満たす。

 それなら、あるいは……。

 

 ……だが。どうなんだ。どうする。俺はどうすればいい。ホシノウィルムの勝率が下がってもいいのか。彼女のトレーナーとしてそれでいいのか。信頼を裏切る行為では。

 俺は、一体……。

 

 

『いいか、G1で勝てとは言わん。重賞で勝てとも言わん。

 お前はただ、ウマ娘に寄り添う人間であれ。

 そして同時、彼女を導く灯であれ。

 それが堀野家の、理想とするトレーナーである』

 

 

 

 ……あぁ、そうだ。

 悩む必要はなかったな。

 

 ホシノウィルムがどうあれ、トウカイテイオーがどうあれ。

 俺は堀野に相応しいトレーナーであり続ける。

 それだけだ。

 

「……ふむ。こちらは模擬レースを受けてもいい」

「ホント!? よーし、やるぞー!」

「待て、ただし条件が2つある。

 1つは、一度きりということだ。ホシノウィルムの現状の負荷を考えても、2回以上走らせることは許可できない。

 そしてもう1つは……トウカイテイオー、お前のトレーナーに許可を取ってからだ。どうせ何も言わず来たんだろう」

「げっ、なんでわかるのさ……」

「そりゃあ、俺はお前のことをよく知っているからな」

 

 あ、ヤベ。変なこと言っちゃった。

 

「ふーん、君もボクのファンなの? ま、無敵のテイオー様に憧れる気持ちはわかるけど、君は君の担当を見てあげなよ?」

 

 ちょっと気を使われてしまった……このガキめ、なんだかんだ優しいのが最高に良いキャラしてるぜ……。

 テイオーが自意識過剰で助かった。……いや、ファンってのは一面の真実ではあるんだけども。

 どうかこれからも、そんな感じのお調子者でいてくれよな。

 ……間違ってもスポ根全開で覚醒したりしないでね?

 

「それじゃ、トレーナーに許可取ってくればいいんだね! もうダメって言っても聞かないからね!」

「熟考の末の結論だ、今更覆しはしないさ」

「わかった、じゃあすぐ許可取ってくるから、また後でね~!」

 

 テイオーは走り去った。

 いやまぁ急いだとしても、グラウンドの貸し出しとか体のセッティングとか色々あるし、今日中にはまずできないんだが。

 ……あの楽しそうな笑顔を見れば、野暮なことは言えなくなるな。

 

「さて、ホシノウィルムは……」

 

 振り向いた先、俺の担当バは……。

 いつの間にか、走ることをやめて、ターフの上からこちらを見ていた。

 その表情は、いつも通りの無表情……ではない。

 驚きと、呆然と、恐怖と、焦りの混ざった……マイナスの表情。

 

 

 

 ……え、なんでそんなびっくりしてるの?

 

 

 

 * * *

 

 

 

 流石にあんな顔をされれば「大丈夫か?」と訊いてしまうんだけど……。

 「大丈夫です」と返されれば、それ以上の追及はできなくなる。

 ホシノウィルムがテイオーの何にあそこまで感情を動かしたのかはわからないけど、とにかく。

 

 話は纏まった。

 ベテランであるあちらの主導で模擬レースが組まれることになった。

 勝負の日は3日後。

 ホシノウィルムと、トウカイテイオーと、俺の友人によって「貸しがあるよね?」と怖い笑顔でねじ込まれたナイスネイチャの、3人による模擬レース。

 コースは右回りの2000メートル。

 つまりは、皐月賞に近い条件で、皐月賞に出る世代二強が走る。

 

 ……そんなわけで、観客の数がエグいことになってしまった。

 クラシック三冠を目指すウマ娘たちは勿論、学校に所属するトレーナーも半数以上いるのではないかという量だ。

 

 

 

 あー、この数のウマ娘やトレーナーを前に、手札を晒してしまうんだなぁと。

 俺は内心で頭を抱えるのだった。

 

 

 







 ホシノウィルムは走るのを楽しまないビビリだし、堀野君は勝利より楽しむことを優先させるエンジョイ勢。
 こんなでいいのか主人公ズ。



 次回は3、4日後。ホシノウィルム視点で、恐るべき敵との戦い。



(お知らせ)
 感想で疑問をいただき、活動報告の小ネタに以下追記を行いました。
「(11話)なんでホシノウィルムは「蛇」って呼ばれてるの?」
 ホシノウィルムのあだ名がどこから来たのか、なんで付けられたのか。それと彼女が世間からどう見られているのか、について書いてます。
 もしご興味があれば、ご一読ください。


(お詫び)
 また操作ミスで間違った時間に投稿しちゃいました。ごめんなさい。
 次話からはまた18時投稿になりますので、よろしくお願いします!


(追記)
 誤字報告をいただき、わざとでない部分は訂正しました! ありがとうございました!
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